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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十、天衣無縫! キグルミオン!
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十 天衣無縫! キグルミオン! 11

「宇宙怪獣の群れ! 個体数を確認! その数、残り三十七!」

 美佳の珍しく緊迫した声がヒトミのキャラスーツの中で再生された。

 それも当然だった。宇宙怪獣の()れは、その小型の体にもかかわらずヒトミの位置からでももうその姿が捉えられている。

 後は(むか)()つだけという位置に、宇宙怪獣は文字通り()れをなして迫ってきていた。

「三十七! オッケー! 全部任せて!」

 ヒトミはその声に身構えたまま(こた)える。

「来なさい!」

 宇宙ではやはり距離感がつかみづらい。小型の宇宙怪獣だと聞いていなければ、もっと遠くに居るように見えただろう。

 だがやはり宇宙怪獣は、今まさに襲いかからんまでの位置に迫ってきていた。その証拠にか、(はさ)み撃ちせんと、宇宙怪獣の()れが二手に分かれた。

「せこい!」

 最後は二手に分かれて雪崩を打つように襲い来る宇宙怪獣。多少大小の個体差があるが皆が恐竜めいた(あぎと)を開き、唾液(だえき)にぬめる牙を見せつけて襲いきた。

 宇宙怪獣はやはり今までの個体に比べて一つ一つは小柄だった。

「ちっちゃいくせに!」

 そのことがキグルミオンの全身に(むら)がることで、ようやく実感として確認できたようだ。ヒトミが両の拳を握りしめ(ねら)い定めるよう腰を引いた。

 一匹一匹の宇宙怪獣は仮に地面に立っていたとすれば、キグルミオンのアクトスーツの半分程の背丈程しかない。

 だが前傾姿勢で移動するその体は前に長い首を突き出し、後ろに細長い尾を引いていた。その前後の全長だけはキグルミオンに匹敵する。

 多少の大小の違いはあるが同種と思しきその小型の宇宙怪獣が、牙を()いて一斉にキグルミオンに襲いかかった。

「どおぉぉりゃああぁぁぁぁっ!」

 ヒトミが最初に牙を向けて肩口を狙ってきた宇宙怪獣に右の拳を叩きつけた。

 ヒトミのキグルミオンのふわふわでもこもこの拳が、宇宙怪獣のアゴを迎え撃つように叩き付けられた。

「おとととっ!」

 キグルミオンの拳が宇宙怪獣を吹き飛ばすが、その反動でヒトミの体もぐるんと肩から宇宙で回ってしまう。

 だが同時にヒトミの背中で小さな炎が火を()いた。ヒトミが回転していく方向の逆に火を噴いた炎。それはバックパックが姿勢を制御する為のノズルからのものだった。

 ヒトミの体はその力で強引にその場にとどまる。

「そりゃ!」

 だが無理矢理体を()さぶられたヒトミは、そんなことにかまっていられないようだ。

 まずは退(しりぞ)けた一匹の目の宇宙怪獣が、()れの向こうに()まれて消えていく。その行方(ゆくえ)を確認する暇もなく、ヒトミは次の宇宙怪獣に襲いかかられた。

「おりゃ! そりゃ! この! おっと!」

 ヒトミが次々と拳やつま先を繰り出して、まとわりつくように襲い来る宇宙怪獣を退(しりぞ)ける。

 その度にヒトミの体は反動で繰り出した攻撃と反対側に()れ、やはりその都度(つど)バックバックの姿勢制御エンジンで体を強引に戻された。

「ヒトミちゃん! 作用・反作用の法則は! 宇宙では決定的な意味を持つわ! 気をつけて!」

 休むことなく襲い来る宇宙怪獣に拳と()りを繰り出すヒトミの耳元で、久遠の声が再生された。

「気をつけているヒマ! ないですよ! おっとと!」

「……ヒトミちゃん、バランスはどう! 戦えてる?」

「久遠さん! ダメって訳じゃないんですけど! 何か大きさがやっぱり合ってない感じです! おとととっ! 何か、ありがたいんだけど、少し間が抜けてるって言うか! おっとっ! そっりゃあ!」

「……そう……」

 ヒトミのバランスをとる音頭めいた声に続いて、久遠がタイムラグの後小さく(くや)しげに声を()らす。

 その声は明らかにその姿勢制御装置の役割に満足いっていない様子だ。(おのれ)の無力を(なげ)く久遠の声は、音声で再生されているが自分の内に向かってつぶやいたようだ。

「この! おっと! そこだ! こなくそ!」

 ヒトミは今や、左右はおろか上下前後から襲い来る宇宙怪獣に次々と拳と蹴りを繰り出している。実際ヒトミは一匹退(しりぞ)ける度に、強引に体を支えられ、攻撃を繰り出す以上にバランスをとることに苦心しているようだった。拳や蹴りを繰り出す度にそれ以上の動きで体勢を(ととの)える。

 だが退(しりぞ)けては次の宇宙怪獣が間隙(かんげき)()うように襲い来る。

 ヒトミは攻撃を喰らう前に宇宙怪獣に攻撃を繰り出すが、攻撃とバランス取りに息を整える()すらないようだ。

「上! 下からも!」

 上と下から同時に(はか)ったように襲い来る二匹の宇宙怪獣。

 ヒトミは拳を突き上げて上の宇宙怪獣のアゴに一撃を入れると、その伸ばしきった体で右足を下に突き出した。

 ヒトミの拳に上から襲い来た宇宙怪獣がやはり()ね返され、ヒトミの右の足の裏が下からアゴを突き出した宇宙怪獣の顔面にめり込んだ。

 あまりに連続して相反(あいはん)する方向に力を向けたせいか、背中のバックパックは申し訳程度にしかエンジンを吹かさず沈黙した。

「――ッ! そうだ!」

 ヒトミがその様子に何かにひらめいたように顔を上げた。

 そしてヒトミは大きく上半身をねじると、

「ここは宇宙なんだ!」

 自身の背骨を(じく)にしたように体を勢いよく回転させた。

改訂 2025.08.03

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