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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十、天衣無縫! キグルミオン!
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十 天衣無縫! キグルミオン! 8

「……」

 一番機の推進モジュールにその身を押されながら、ヒトミが無言で宇宙を見上げる。

 キグルミオンのアクトスーツが、エキゾチック・ハドロンの照射(しょうしゃ)を受けて光り輝いてた。中でもその胸元が一際光りを放っている。

 そしてそれは地上で輝いていた時よりも更に鮮明な光りを放っていた。

 久遠が〝グルーミオン〟の色荷(しきか)――カラーチャージを測る為のものと言った胸の輝きが、今まで以上の光りを宇宙で放っていた。

「……」

 ヒトミがやはり無言で胸元を見下ろした。

 続いて宇宙の向こうに目をやる。

 そこにはヒトミの胸元で輝く光とは異なる種類の光りが()れをなしている。

「宇宙怪獣……」

 ヒトミがようやく口を開く。

「……そうよ……宇宙怪獣よ……」

 その独り言と思しきヒトミのつぶやきに、少しのタイムラグの後久遠が音声で(こた)えた。

「久遠さん」

「……ヒトミちゃん、よかったら地球を見て。宇宙怪獣が射程に入る、後少しの間を利用して」

「?」

 ヒトミが久遠に進められるままに地球を見下ろす。ヒトミが今進むのは太陽の反対側。地球は夜の面を見せていた。

 太陽の光りが届かない夜の側の地球は、それでも茨状(いばらじょう)発光体に照らされ(うす)ぼんやりと光っていた。

無粋(ぶすい)でしょ? 夜は夜で、地球はとても奇麗(きれい)なの。本来はね。人間の(いとな)みが夜の闇に()まる地上や、海上を明るく照らすの。人工の光りなんて、宇宙で野暮(やぼ)だと言う人も居るけど。私は素直にすごいと思うわ。人とそこに居るんだな、人が生きているんだな、ってのがよく分かる夜の地球を輝かす人工の光りがね」

「……」

「……それで……夜だと、少し分かるんだけど……その人工の光には不自然な穴があるわ……そこが、十年前の第一回の襲撃より後、私たちが選択してしまった結果……宇宙怪獣を核で焼き払ったところよ……」

「……」

 ヒトミは地表にゆっくりと顔を上下させて視線を送る。久遠の指摘する光の穴が分かったのか分からなかったのか、ヒトミはそのまま顔を見上げた。

 宇宙怪獣の赤い目の光がそこにはある。キグルミオンに合流した時よりも、エキゾチック・ハドロンの照射が始まった時より、それははっきりと宇宙に浮かんでいた。

 今やその宇宙怪獣の()虫類然とした動きによるかすかな上下運動も分かる程だった。

「……せっかくの宇宙から見た地球なんだから、本当はオーロラとか、雲の放電現象とか。地球の見応えのある神秘を楽しんで欲しいんだけど。そんな余裕はないわね」

「それは、この次の楽しみにとっておきますよ」

「……そうね。流れ星とか、スプライトとか。今度ゆっくり皆で楽しみましょうね――ヒトミちゃん。射程距離到達。任せたわ」

 久遠の音声がその言葉を最後に途切れる。

「――ッ!」

 ヒトミがぐっと眉間に力を入れて宇宙怪獣をにらみつけた。

「第一射、いきます! クォーク・グルーオン・プラズマ!」

 ヒトミが再び右の拳を宇宙怪獣に向かって振り上げた。今度は決意を表すポースではなく、その右の拳の先から目もくらむような閃光が飛び出した。

 今まで最もエキゾチック・ハドロンの照射時間の長いそれは、茨状発光体に照らされているとは漆黒(しっこく)の宇宙で他を圧倒するような光りを放つ。

 エキゾチック・ハドロンとグルーミオンが激突した結果生まれる閃光。ミクロな現象ががもたらしたプラズマの閃光が広大な宇宙を()くように放たれた。

 放たれたと同時にその宇宙規模の稲光(いなびかり)は、SSS8をかすめるようにその向こうに消えていく。

 間髪をいれずに赤い(つい)の光が爆発するように吹き飛んだ。

「当たった!」

 ヒトミがその様子に歓喜の声を上げる。

「……続いて第二射用意……時間だけから見れば、直接会敵(かいてき)する前に、もう一発当てられる……」

 ヒトミのキャラスーツの中で美佳の声が再生された。

「美佳! どう?」

 ヒトミのアクトスーツが第二射のエキゾチック・ハドロンの照射を受けて早くも内から光り出す。

「……今、成果を確認中……速報値で、おおよそ全体の三分の一は片付けられた模様……」

「じゃあ、後に二回当てればオッケー?」

「……そんな、簡単じゃない……どんなけうまくいっても、次で(けず)れるのは三分の二の三分の一と見るべき……」

「ええっ! 何で?」

「……ヒトミは考えなくっていい……それに、二発目を放ったら、もう宇宙怪獣は目の前……まとめて倒すなんて、まず無理……」

「むむ、そうね……」

 ヒトミが光る体で宇宙怪獣にあらためて目を向ける。

 一度千々(ちぢ)(みだ)れた宇宙怪獣。その赤い(つい)になった目の光が、もう一度合流していた。岩に当たる清流(せいりょう)の流れに身を任せた落ち葉のように、宇宙怪獣の()れは左右に大きく分かれてから再度同じ流れに戻っていった。

「仲埜! いいか、よく聞け!」

 ヒトミととともに宇宙をいく二番機から坂東の声が届けられた。

「そろそろ推進モジュールの燃料が尽きる! 燃料の()きた推進モジュールは、キグルミオンにとってはただの重し! 最後に逆噴射に利用して、慣性を制御する! 推進モジュールは、そのまま廃棄だ! いいか! 第二射! 推進モジュールごと、キグルミオンの力で反転! そのタイミングで逆噴射! 慣性を殺して停止! 休む前もなく、迫り来る宇宙怪獣と肉弾戦だ! この後は一瞬も気を抜けんぞ!」

「はい! 任せてた下さい!」

 ヒトミが坂東に(こた)える。その返事を待っていたかのように、加速し続けていた推進モジュールから火が消えた。

「もう一発……当ててみせるわ……」

 ヒトミは宇宙怪獣の群れに向かって右の拳を突き上げると、

「クォーク・グルーオン・プラズマ!」

 更なる光を宇宙に向かって解き放った。

改訂 2025.09.02

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