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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
九、森羅万象! キグルミオン!
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九、森羅万象! キグルミオン! 11

「政府から正式に通達! 宇宙怪獣がSSS8襲撃コースに進路を変更! 宇宙条約――『宇宙救助返還協定』に基づき、高軌道(きどう)打ち上げ能力のある各国に救助要請来た!」

 美佳が珍しく声を(あら)げた。端末を手にVAB内を走り回っている美佳。その指先が嬉々(きき)(おど)り情報端末の上を舞うように走る。

 美佳の指の舞いに合わせるかのようにヌイグルミオン達が、時に飛び跳ねながらその周りをこちらも大騒ぎで走り回っていた。

「宇宙救助返還協定に基づく救助要請! 遅いわね! こっちはとっくに準備を始めてるわ! もちろん助けに行くわよ! 何と言っても、高軌道まで到達できるロケット技術を持ってる国は限られてる! ましてや有人機を打ち上げられる国もね! 何より――」

 久遠が美佳に(こた)えて(ほこ)らしげにロケットを見上げた。

 ロケットは二台並べられておりそれぞれが一対の鉄塔に囲まれている。その内の一体の先端に巨大な鉄の(かたまり)が向かって行く。

 ロケットは今まさに先端部――衛星フェアリング部分を取り付けるところだった。

 (ゆる)やかなカーブを(えが)円錐形(えんすいけい)の鉄のカバー。それが巨大なクレーンでつられ、ロケットの先端に()え付けられる。

「宇宙怪獣に対抗できる手段を、今まさに発射できるのは――私達宇宙怪獣対策機構だけだらね!」

 久遠の自信に(あふ)れたその言葉に、衛星フェアリングが固定される金属音が(かぶ)さり響き渡った。久遠は見上げるような天井から響いて来たその音に、視線を上げたまま満足げにうなづく。

 その音に一様に作業を止めてやはり天井を見上げていたヌイグルミオン達が一斉に飛び上がった。皆が両手両足を投げ出し喜びを爆発させている。

「ほええ……」

 久遠の隣に立つ人間大の大きさの猫の着ぐるみが間の抜けた声を()らした。キグルミオンのキャラスーツで久遠の横に立つヒトミは、後ろに倒れんばかりにロケットを見上げる。

「どう? ヒトミちゃん? 間近(まぢか)で人の大きさで見たロケットは?」

「大きいです! アクトスーツで見た時よりも、こっちの方が断然(すご)いです!」

「でしょ?」

「でも……そのアクトスーツが超〝ぐにゅー〟だったのは、全然(すご)くないです……」

「あはは! ゴメンね! いくら世界最大級の搭載能力を持つ最新鋭ロケットでも、キグルミオンをそのまま乗せるには体積の方が許容量オーバーなのよ!」

「何か、お布団をしまうみたいに、透明なビニール袋に()め込まれてぐにゅーされてました」

「ふふん。衛星フェアリング部分に直接キグルミオンを入れちゃえば、また別なんでしょうけど。実際はSTVも必要だからね。キグルミオンだけ宇宙に放り出す訳にはいかないでしょ? 宇宙に出てからの推進能力は、STVに頼らざるを得ない。STVもキグルミオン運搬用に極限まで機能を絞ってるけど、キグルミオンは宇宙に運ぶ荷物としては形に無駄が多いのよ。圧縮袋に入れて空気抜きしてから搭載するのは仕方が無いわ。コンパクトにまとまってくれてないとね」

「巨大なビニール袋の中で、体育座りの指示が出た時に嫌な予感がしました。私が外に出て、キグルミオンがビニール袋にきゅうっと収まっていくのは何だか(かな)しい光景でした」

 ヒトミがげんなりと肩を落とす。

「仲埜! 何をやってる? そっちの作業はもうお前の出番は終わりだろ?」

 そんなヒトミの肩の上から坂東の声が落とされる。

「隊長!」

 ヒトミが振り返るとそこには宇宙服に身を固めた坂東が立っていた。

「我々は自身の打ち上げに対して準備確認だ。いつまでもぼけっとしてる場合じゃないぞ」

「ぼけっとはしてません! 感動してただけです! てか、私はこのキャラスーツで打ち上げなんですから、準備も何も無いですよ!」

「その装備で打ち上げだからこそ、自分の身の安全の為に確認しておけと言ってるんだ! 宇宙に上がったら、真空中でキグルミオンのアクトスーツに乗り移るんだぞ!」

「キグルミオンのキャラスーツは宇宙服並みの気密性があるって聞きました! 生命維持装置も背負うだけって聞いてます!」

「たく……宇宙に出るってのに、暢気(のんき)だなお前は……」

「あはは。でも、ヒトミちゃん。実際今からヒトミちゃん達が乗る方のSTVも取り付けから、ぼおっとしてられないわよ。でもその前に――」

 久遠はそこまで口にするとたった今先端部を取り付けたロケットの向こうに目を向ける。

 そこにあったのはのっぺりとした壁だ。ロケットをすっぽりと収めるVAB。その他の三方の壁がところ狭しと階段や機器、パイプ類が張り巡らされているのに対して、その壁だけはつるっと何も設置されてない。

 壁はよく見れば二つに分割されていた。建物約半分の大きさの二枚の壁が前後に位置をずらして立っている。それはまるで閉じられた引き戸のような壁だった。

「世界一の一枚扉が開くところ。それは見物だからゆっくりしていってね」

 それは久遠が口にしたとおり実際に引き戸だったらしく、

「ほおおおぉぉぉえええぇぇぇっ!」

 ()頓狂(とんきょう)に驚くヒトミの目の前でゆっくりと開いていった。

改訂 2025.08.29

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