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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
九、森羅万象! キグルミオン!
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九、森羅万象! キグルミオン! 10

 宇宙の闇に散りばめられた無数の光。その一つ一つは自らを燃やすことができる恒星(こうせい)の光だ。

 特別な力を得たこの星々は宇宙空間にあっては空気に邪魔され(またた)くこともなく光を――(おのれ)の存在を周囲に知らしめることができる。まさに星の数だけ――正確には恒星の数だけ星々は宇宙に輝いていた。

 今は茨状(いばらじょう)発光体に邪魔をされ(いく)つかの星が、その不自然な光に()まれてしまっていた。それでも難を逃れた星々が光を地球に届けている。

 宇宙の闇の小さな点でしかない星の光。互いが互いの存在を際立たせるように星は宇宙の闇の中で輝いていた。

 その星と闇の中にあって、先までは無かった赤い光が明滅した。こちらも数が多いがこちらは星の数程ではない。

 赤い光は明らかに星々の光と違う。それは一対になった生物の目の光。一対の赤い光が何かの流星群のように宇宙に流れている。

 宇宙怪獣の凶悪なアギトの上に(そろ)える双眸(そうぼう)の光だ。

 宇宙怪獣は群れをなしていた。血にたぎるような凶暴な赤い光に目を光らせ、宇宙怪獣の群れは一斉に進路を変える。

 その様子を宇宙に向けて突き出されていた巨大な目が見ていた。

 宇宙怪獣早期警戒探査衛星――宇宙怪獣鏡ともハッブル7改とも呼ばれるそれが、その巨大な小型のタンカー程もある体を宇宙に突き出している。そこに内蔵された鏡が星々の光を写し出して拡大し、人の目では及ばない宇宙の姿を知らしめてくれる。

 元は宇宙そのもの秘密を解き明かす為に造られた宇宙の巨大な望遠鏡。今は機動性と動く物体に対しての追跡能力を高めて宇宙怪獣の警戒に使われていた。

 その宇宙怪獣鏡が赤い光を追う。

 宇宙怪獣が変えた角度はわずかなものだった。だがそれは地球に到達するころには着地点を大きく変えてしまうには十分急激な変化だった。

 ハッブル7改が()ったデータが地球上の関係各機関に送られた。

 いやデータが送られたのは地球の上――地上だけではなかった。

 地球に浮かぶもう一つの巨大建造物――スペース・スパイラル・スプリング8にもそのデータは送られた。浮かぶ高度は地上400キロメートル。バネを強引にドーナツ状に丸めたようなその人工の衛星は、その形をもって距離を稼いだ人類最大の粒子加速器でもある。それが地球の空に浮かんでいる。

 その巨大粒子加速器内でこちらも赤い光が瞬いた。それは明らかな危険がこの人工衛星に差し迫っていることを知らしめる警報の光だった。警報の光とともに非常を告げる警告音も同時に鳴り響く。

 ハッブル7改がSSS8に送って来た宇宙怪獣の情報。それは宇宙に浮かぶ為に秒速8秒以上で地球を回っているこの人工衛星に、ピタリと宇宙怪獣が衝突するコースをとっていることを告げていた。

 先ずはSSS8内で簡易に計算された結果がそのことを告げて、人工衛星内に赤い光と警告音を響き渡らせる。そして地上の施設で厳密な計算をされた結果がそのことを裏付けた。

 警告の光と音は更に高まり、最上級の危険を知らしめ始めた。

 宇宙の神秘の力が、人類の英知の力に迫りくる。

「……」

 そのことを告げる人工の光と音をその男は静かに身の周りを通り過ぎるに任せていた。

 男は闇の中に浮かんでいた。無重力に身を任せ静かに横たわっている。宇宙に地上の上下左右の概念など適用できない。だが男は静かに目つむり眠るようにしていた。その為()ずは横たわっているように見え、同時に仰向(あおむ)けに寝ているようにも感じられる。少し意識を切り替えれば仁王立ちしているように思え、頭を下にして真っ逆さまにどこかから落ちている途中のようにも考えられた。

 男の体がびくんと一つ波打つように()れた。

「やれやれ……やっぱり『ウィグナーの友人』なんて、誰にでもなれるものじゃないね……やっぱりあの〝二人〟は特別か……」

 男が目を開ける。

「でも、これで宇宙怪獣の目はこちらに向いたはず……救難信号も出てる……救難信号が出た以上、宇宙条約に基づいて加盟各国は我々の救助を最優先にしなければならない……」

 男は明滅する赤い光に目を光らせながら一人つぶやく。

「さあ、教え子くん……助け舟は出したよ……今度は君が助けにくる番だ……今我々を助けられるのは、〝君の〟キグルミオンだけだからね……」

 男はもう一度目をつむると満足げに微笑(ほほえ)んだ。

改訂 2025.08.28

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