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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
九、森羅万象! キグルミオン!
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九、森羅万象! キグルミオン! 4

「博士……隊長とヒトミが、マルチロールファイターにマルチでロールなファイトを(いど)まれてる……」

 情報端末の光をその眠たげな目に受け美佳がポツリとつぶやいた。

 『宇宙怪獣対策機構〝南の島の〟臨時支所』――その一角で、美佳と久遠は再びそれぞれの目の前の情報端末と顔をつきっきりにさせていた。

「はい? 何ですって!」

 振り返る余裕はないのか、久遠が自慢のつり目の目尻を更につり上げて声を(あら)げて聞き返す。久遠はまるで情報端末のキーを(たがや)すかのような勢いで何やら入力していた。

「第八世代ジェット戦闘機……多用途戦闘機としての頂点を(きわ)めたはずの最新鋭機が……マルチロールファイターが……キグルミオンの下でマルチにロールしてる……」

 美佳がのぞく情報端末の中では、三機の戦闘機が等間隔で()を描いてはティルトローター機の下を通り過ぎていた。

 余程訓練されているのか、曲芸飛行もかくやと正確な円を(えが)いて一周し、間断なくキグルミオンの足下を通り過ぎていく。

 ティルとローター機は宇宙センターの真上に来ていた。だがそれ以上は戦闘機に邪魔をされて高度を下げることができないようだ。ティルトローター機は高度こそ上下させているが、緯度経度はほぼ固定して宇宙センターに降りんと留まっていた。

 ユカリスキーが美佳に習うかのように一緒になってその光景をのぞき込んだ。戦闘機とティルトローター機が宇宙センターの真上でやり合う様子がユカリスキーのボタンの目に写り込む。

 その光景は割り込むように久遠の情報端末にも表示された。

「美佳ちゃん……それはロール違いよ……役割のroleと回転のrollの(つづ)り違い……今そんなおふざけしてる時間ないわよ」

「むむ……別に私が指示したわけじゃない……でも、何かそんな感じで着陸を邪魔されてるのは事実……」

「そうね……ぐぬぬ……」

「下から上に斜めに抜けるように、キグルミオンの足下を旋回してる……うまい……これじゃ、ほとんどどれか一機が常に邪魔になって降りられない……」

「もう! セコいわね! 最新鋭機! もうこの真上まで来てるってのに!」

 久遠が情報端末の一角に映し出されたキグルミオンの様子に目をやり、次いで天井を見上げた。その間も(おど)るかのような指の勢いは止まらなかった。そして苛立(いらだ)ちのままに必要以上の強さで指はキーに打ちつけられた。

「でも、実際降りるに降りられない……下手に着陸を強行したら、大惨事もあり得る……」

「そんなマヌケな軍隊じゃないわよ、あちらさんは! 危険のないギリギリで避けて、それでもそれを口実にでもするつもりでしょ!」

 久遠はもう一度情報端末に目を戻す。

「あと、うまく時間が(かせ)げれば……もっと強硬(きょうこう)な手段の許可が下りるかも……」

「そうね……撃墜の許可が出るのを、こちらは黙って待つ訳にはいかないわね……美佳ちゃん、隊長は何て?」

「呼びかけてるけど、それどころじゃない模様……向こうは向こうで必死に降りるタイミングを見計らってる……ヒトミだけ切り離して落とすつもりみたい……」

「もう! あの人達のことだから! (かん)だけを頼りにするつもりでしょう! 一歩間違ったら、ヒトミちゃんが危険じゃない!」

 久遠は苛立(いらだ)たしげに情報端末に指を(おど)らすと、別のウィンドウを新たに呼び出しまっさらな画面にあっという間に数式と数値を入力した。

「美佳ちゃん! この数式送ってあげて!」

 今度は美佳の情報端末に割り込むように数式が表示される。

「何、博士……この数式……」

「ガリレオ・ガリレイでお馴染みの――ある有名なものの方程式よ! F=マイナ……まあ、細かいところはいいわ! その通りのやり方とタイミングで、最新鋭機様の裏をかけるから! あの体育会系の人達に教えてあげて!」

「てか、博士これ……」

「ええ、そうよ! 元よりぶら下げて輸送したんですもの! どうせなら最後までぶらぶらしてもらいましょう!」

 久遠の情報端末に数式が図式となって表示される。そこには一つの点を支点に、左右にほぼ半円を描く図が描き出されていた。

「了解……分かりやすく、イラストに……」

 美佳が情報端末の一角を操作する。その一連の操作で支点の部分にティルトローター機のイラストが()えられ、半円の円周上にキグルミオンのイラストがつけられた。何故かそのイラストのキグルミオンは中腰になっており、何か四角い板のような物に腰掛けていた。

 その板からチェーン状の(ひも)が伸びティルトローター機まで(つな)がれた。

「真下に降ろしたら、単純過ぎてすり抜ける余裕なんてない! ふん! だったらバカ正直に、戦闘機の上に降り必要なんてないわ!」

「博士――送った……」

「ふふん! ヒトミちゃんなら、楽しんでやってくれるわよ!」

 久遠がそう口にして目を光らせると、

「ヒトミ達に、伝わったみたい……」

 美佳が情報端末に目を落としながら報告する。

 その美佳の情報端末の中ではキグルミオンが前後に体を()すり始めていた。

「ヒトミ……確かに楽しそう……」

 つぶやく美佳の視線の先で、見る見るとロープにつられたキグルミオンの体が前後に()れていく。

「そうよ。真下に降りようとするから、一点を押さえられちゃうのよ――」

 ヒトミの体は前後に()れる(たび)に水平方向の動きを得て、ティルトローター機を支点に円を描き出す。

 久遠はその様子を己の情報端末内で横目に見ながらつぶやく。ヒトミはただ体を()らすだけではなく、(おのれ)の全身で()ぐように前後に体を動かし出していた。

 結果を確信しているのか久遠はまた自身の作業に没頭(ぼっとう)し始めた。

 その証拠に体を激しく前後に()らすキグルミオンの映像の横で、滝が逆流するかのように新たな数式が情報端末に入力されていく。

 今や体が地面に水平になるまで体を揺らしているキグルミオン。そのキグルミオンの最後の一漕(ひとこ)ぎで、肩口に(つな)がれていたロープが切られた。

 キグルミオンの体が中空に投げ出されると――

「振り子――ブランコの動きで水平方向の運動エネルギーを得れば、点から線に落下点が広がるわ」

 久遠は頭上で直に聞く何か巨大なものが落下した衝撃音とともに情報端末の決定キーを押した。

改訂 2025.08.26

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