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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
八、気宇壮大! キグルミオン!
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八、気宇壮大! キグルミオン! 15

 ヒトミと坂東を乗せた軍用車両が滑走路(かっそうろ)へと基地内をひた走る。

 基地内でも注目の(まと)なのかすれ違う隊員達はちらちらとヒトミ達に視線を送る。

 ヒトミ達が着いたのは両側を格納庫で(はさ)まれた滑走路へと続く道の終点だった。最後に鋭角にハンドルを切り軍用車両はその格納庫の一つの前で()まる。

 ヒトミ達の目の前に広がったのは質素な滑走路だ。民間空港の持つそれとはどこか違う。実用一辺倒のようなアスファルトが実直に伸びる滑走路。それがまるでヒトミ達の為に()けていると言わんばかりに開けた空間をさらしていた。

「お待ちしてましたよ」

 格納庫の前では刑部が(すず)しい顔をして待っていた。

 海辺の街もここまでくれば(しお)の香りなどしない。今や軍用車両や航空機が(はな)つ機械油の(にお)いが(おお)う基地の中。刑部はその匂いが作り出す雰囲気によく似合う緊張感を身にまとっていた。

「お前自らお出迎えか? (ひま)だな特務隊も」

 坂東がドアをろくに開けもせずにその上から飛び降りる。大男が身をひるがえす迫力は空気を()らし、その身が地に着けば軽く地面を鳴らす。坂東も刑部の前に軍事的とも言える迫力を持って立った。

「どうもです!」

 そんな緊迫の雰囲気をヒトミがとぼけた挨拶(あいさつ)で打ち破る。こちらは一応ドアを開けたが、やはり勢いよく飛び降りる。坂東と刑部の反対側に降りたヒトミは、去っていく迎えの軍用車両に手を振りながら二人に走り寄った。

「どうもです。相変わらずお元気ですね」

「あはは! 着ぐるみヒーローの中の人は、いつも元気ですよ! キグルミオンとヌイグルミオン達に会いに来ました!」

「そうですか。彼も皆元気ですよ。さて、坂東一尉――」

「一尉ではないと言ってるだろ」

「はは。これから現役並みに活躍してももらいますからね。一尉でいいでしょ。上は完全に押さえらてしまいそうです……ご覚悟を……」

 刑部は笑みを収めて声をひそめる。

「……」

 刑部の口調につられたか坂東はこちらは(まゆ)をひそめた。

「むむ! 何ですか?」

 ヒトミは眉間(みけん)に深いシワを集めてそんな二人の沈黙に割って入ろうとする。

「隠しても無駄でしょうしね。仲埜さんにもお知らせしておきますよ。国連はキグルミオンの我が国一国運用を危険視してます。最悪の場合、キグルミオンは国際社会の同意の下、接収(せっしゅう)されてします」

「ええ! キグルミオンが連れていかれるんですか? どこにです?」

「いいところを()くな、仲埜」

 坂東がアゴに手を当てながらヒトミに振り返る。

「何がですか?」

「『とごに』です。我が国の一行政法人からはもちろん取り上げたい。だけど取り上げた先、どこの国が主導権を握るかは仲間割れ中という訳です」

「今まで散々無視して来たくせにな。手の平を返すとはこのことだな。行くぞ」

 坂東は(あき)れたように口を開くと格納庫に向かって大股で歩き出す。

「仕方がありません。ここまで急激に戦果を見せられてはね。独り()めしたいとまで言い出しませんでしょうが、他国に少しでも出し抜かれたくと考えるのは普通でしょう」

 刑部もその後に続いた。こちらも無駄なく足を前に出し一歩一歩が大きい。

「むむ! キグルミオンは皆の着ぐるみヒーローですよ」

 ヒトミはそんな二人に小走りで着いていく。

「それが通じる国際社会ならな。だが、これは最後の好機だな」

「『最後』?」

 ()頓狂(とんきょう)におうむ返しに聞き返すヒトミの前で格納庫の扉が開いていく。

「むむ! こんな置き方されると、キグルミオンがおマヌケちゃんじゃないですか!」

 ヒトミはその格納庫の扉の向こうの光景に不満の声を上げる。

 そこには出口に向かって足を向け、四肢をダラリと左右に投げ出したキグルミオンが、うつ()せに横たわっていた。

「うつ()せ! 地べた直置(じかお)き!」

「仕方がありませんよ、仲埜さん。ウチの施設に、キグルミオン用のハンガーなんてありませんし。中に人が入ってないと、自立すらしてくれませんからね。格納庫に寝かせるしかなかったんですよ。チャックの関係上、背中を上に向けないといけませんしね」

「だからって! やる気出ないって感じで、手足が放りっぱじゃないですか! 何かいじけて寝てるみたいです! せめて猫なんですから、〝ゴメン寝〟ぐらいさせて上げて下さい!」

「『ごめんね』とは何だ?」

 坂東が真面目な顔でヒトミに振り返りながら、格納庫の奥へと進んでいく。

「知らないんですか、隊長。猫がこう――手足を体の下に折り込んで、頭をまるで謝ってるみたいに下に()れて寝てるあれですよ。めっちゃ可愛い寝相(ねぞう)です」

「知らん。そんな置き方したら、無駄にスペースを食う」

「むむ!」

 ヒトミは抗議に肩を(いか)らせてその場で立ち止まる。

「ほら、急げ。最後だと言っただろ。キグルミオンを自由に動かせるのは、連中が()めてる今の内だけだぞ」

 坂東が格納庫の向こうを指差すと、そちらから人の背の半分程の背丈のヌイグルミ達が待ってましたとばかりに走ってくる。

 フワフワでもこもこの集団はその頭上に着ぐるみのスーツを抱えていた。キグルミオンのキャラスーツを運ぶヌイグルミオン達だ。

「ええ、仲埜さん。これを逃したら、一気に接収部隊が動いてしまいます。今の内に」

「分かりました。皆! お久しぶり!」

 ヒトミは自分からもヌイグルミオン達の群れの中に突入していく。キャラスーツを抱えていないヌイグルミオンの群れが飛びつくようにヒトミを迎えた。

「……」

 その背中を坂東が黙って見送り、

「さて……キグルミオンと、その中の人が(そろ)ってしまいましたね」

 刑部もそちらの方を見ながらつぶやく。

「ふん、キグルミオンのいるところに宇宙怪獣が襲ってくる。それが正しいのなら、キグルミオンと仲野を一つのところに集めた時点で、むしろ我々の勝ちだ」

「後は――」

「後は宇宙に出るだけだ……」

 ヌイグルミオンの群れにもみくちゃにされながら、キグルミオンのキャラスーツに入っていくヒトミ。その背中と横顔を優しく見つめながら坂東は静かにつぶやいた。

改訂 2025.08.25

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