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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
八、気宇壮大! キグルミオン!
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八、気宇壮大! キグルミオン! 14

 制限速度ギリギリにまで上げた軍用車両が片側一車線の一般道を()け抜けていた。海上自衛隊所属を現す39を頭に持ったナンバープレートが、その軍用車両の後尾で陽光を受けて光る。

 その屋根なしの(ほろ)も開いた軍用車両は、ほのかに届く潮風を巻き上げながら港からやや内陸に向かってひた走っていた。

 運転席と助手席には海上自衛多所属と思しき制服に身を固めた自衛官。運転席の自衛官がきびきびとハンドルを切り、助手席の隊員は運転手の死角となる物陰を見つける度に鋭く目を配っていた。

 その車窓の先に見え始めたのは(ゆる)やかなカーブを(えが)く道路と、大きく開けた土地が広がる空間。

「……」

 運転手の後ろの後部座席に窮屈(きゅうくつ)そうに座っていた坂東が無言で身を前に乗り出した。

「隊長! あの開けた場所が、キグルミオンを(あず)けてある基地ですか?」

 その横の後部座席のドアの上から顔を突き出したヒトミが歓声を上げる。

「そうだ! 海上自衛隊の基地だ! 刑部が乗り込んでるはずだ! 危ないから、顔は引っ込めておけ!」

 (うな)りを上げるエンジン音に負けじとしてか。それとも基地に近づいている興奮からか。坂東が声を張り上げてヒトミに答える。

「海自さんの基地なんですか? キグルミオンは空輸するんでしょ? 船使うんですか? 内陸ですし、滑走路があるぐらい広そうですけど?」

 素直にドアから身を離したヒトミ。今度はシートベルトを締めた身で可能な限り立ち上がり、車からうかがえる限りの向こうをのぞき込もうとする。

「実際に滑走路があるんだ! 海上自衛隊の第一線の航空部隊あるからな!」

「海上自衛隊なのに、航空部隊があるんですか? 海上自衛隊って、海の自衛隊じゃないんですか?」

「海上自衛隊にだって航空機はあるし、それを運用する基地もある。緊急事態の際、海の安全を守るのに、船で行くよりも飛行機の方が早いだろ?」

「ああ、なるほど!」

 ヒトミが納得にか目を見開いてそう答えると、

「曲がるぞ! 座ってろ!」

 坂東がヒトミに手を上から下に振って注意する。

 だが忠告も空しく軍用車両は無駄のない動きでハンドルを切り、

「うひゃあ!」

 バランスを崩したヒトミの奇声とともに基地に吸い込まれていった。



「美佳ちゃん! 隊長達が基地に着いたそうよ! こっちの準備は?」

 久遠が自慢のつり目の目をきりりと(さら)につり上げて振り返る。

 『宇宙怪獣対策機構〝南の島の〟臨時支所』その事務所で久遠はイスに座ったまま後ろに振り返った。

「各種技術的な準備は順調――」

 その久遠に美佳が珍しく苛立(いらだ)たしげに情報端末を指で叩きながら答える。抱き締めていたユカリスキーを更に力を入れてその胸に押し付け、美佳は何かを待つかのように情報端末のモニタの一角をじっと見つめた。

「全てが予定通りなら、宇宙怪獣の群れを高度四百キロメートルで迎え撃てる……」

 先程までとは打って変わり何か不安に心を奪われたのか、浮かない声で美佳は答える。

「『技術的な準備』だけが順調なのね?」

「そう……キグルミオンを収容する人類最大規模の大型無人宇宙補給機――STV……いつでも()め込めるようになっている……私達が乗る有人ロケットも準備はよし……」

「後は、政府の飛行許可が降りるのを待つだけ――って(わけ)ね……」

「それが、降りない……もう降りていてもおかしくない時間なのに……両親先生からの連絡も途絶えた……おかしい……」

 美佳はちらちらと落ち着きなくモニタに視線を送る。

「上ではまだ()け引き中って訳ね。溺愛(できあい)する愛娘(まなむすめ)への連絡もできないほど、ギリギリの取引が続いてると思いたいけど……」

「ウチの両親先生は、もちろんキグルミオンでの迎撃派……()け引きは(すで)に終わっていて、外部と連絡とれないように……軟禁状態に置かれてるかも……」

 美佳の指が更に不安に叩きつけられる。

「考えすぎよ、美佳ちゃん」

「……」

 美佳がユカリスキーの頭部に顔をうずめる。

 ユカリスキーはそんな美佳にされるがままに身じろぎ一つせずに身を任せた。

「待つだけは退屈ね。じゃあ、宇宙補給機に関して質問! キグルミオンを宇宙に運んでくれるこの補給機はどんなだった?」

 久遠が殊更(ことさら)微笑(ほほえ)みを浮かべて不意に美佳に(たず)ねる。

「スペース・スパイラル・スブリング8補給機……長いんで〝STV〟……赤ん坊を運んで来てくれるっていうコウノトリ……その名を愛称につけられた宇宙ステーション補給機――『HTV』から続く、我が国の宇宙補給機の最新にして最大の機体……SSS8に定期的に物資を補給してる、各国の宇宙補給機の中でも最大級……」

「そうよ。SSS8 Transfer Vehicle――STV! 『スペースシャトル』の退役後の『ISS』――国際宇宙ステーションへの貨物輸送の一翼(いちよく)(にな)ったHTV。その技術はSSS8建造の際にSTVとして生かされたわ。STVクラスの輸送力があってこそ、あれだけのものを宇宙に浮かべることが可能になったの。そして今は補給に打ち上げられてるわ」

 久遠が美佳の背中から身を乗り出した。美佳の手元の情報端末に手を伸ばし先程から何も変わらない端末の一角に触れる。

「まあ、それだけのペイロードを(ほこ)っても――」

 久遠の操作で美佳の端末に模式図(もしきず)が表示される。

 その模式図には円筒状の上のスペースに無理に押し込まれ、

「キグルミオンを()み込むには〝ぐにゅー〟な()め込みが必要なんだけどね。とんだコウノトリだわ」

 赤ん坊のように四肢を折り曲げたキグルミオンの姿が描かれていた。

改訂 2025.08.24

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