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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
八、気宇壮大! キグルミオン!
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八、気宇壮大! キグルミオン! 13

「美佳ちゃん! 国連の動きは?」

 久遠は『宇宙怪獣対策機構〝南の島の〟臨時支所』の(せま)い室内で携帯端末に指を(おど)らせた。そのまま振り返らずに後ろでやはり端末に指を走らせる美佳に(たず)ねる。

 久遠の手元の端末では数々の数式と数字が羅列(られつ)されては消えていく。

「理事国が、裏で何やら協議中とのこと……」

 美佳の端末には英文の文書が現れては(やく)されて消えていく。それに対して美佳も返信を打ち込み、(またた)く間に大量の情報に()まれるようにやはりこちらも消えていく。

 ユカリスキーは無線機を耳と口にあてながら(あわ)ただしげに後ろで走り回っていた。もちろん無線機には向かって一言も言葉は(はっ)しておらず、それでも真剣な様子で耳を()ましはうなづいている。

「ふん。口実探し中って訳ね」

「ふふん……博士甘い……」

「何、美佳ちゃん?」

 二人は情報を口頭で交換しながらも、それぞれの端末の上で指を舞わせ続ける。

「口実なんて、何でもあり……一番()めてるのは、事後処理のはず……」

 美佳は怪しい笑みを浮かべ、その様をのぞき込んだユカリスキーがわざとらしくブルブルと震えた。

「どこがキグルミオンを分捕(ぶんど)っていくか――ってところかしら?」

「ふふん、その通り……キグルミオンを我が国だけに運用させることをよしとしないのは、各国ともに一致……」

「で、問題はキグルミオンを取り上げた後ってことね……どこが主導権を握るかか……ふん! ホント、人類の危機を何だと思ってるの!」

 久遠はぎりりと奥歯を噛み締める。

「人類の危機を自国の発展のチャンスと考えてる……」

「ぬぬ……」

「いつの時代も国際関係は疑心暗鬼……超大国など無くなったこの時代……わずかばかりでも他国より優位に立っていていないと、自国が守れない……」

「少しでも優位な軍事力を持ってないと、国が成り立たないっての?」

「直接のドンパチなんて、ナンセンス……今は経済戦争時代――その矛盾点が()き出す、臨界点(りんかいてん)ギリギリの時代……技術力は経済力に直結し、ましてや軍事的技術力は経済力を裏打ちしてくれる……少しでも優位に立てる技術を持とうとするのは、政治家の(ごう)にして、生業(なりわい)……どこもおかしくない……」

「地球がなくなっちゃ、それも意味がないでしょ?」

「地球がなくなる……ふふん、そこまでは誰も考えていない……」

「……」

 久遠の手が一瞬だけ止まる。そしてそのことを否定するかのように、久遠の手が先にも増して情報端末に勢いよく打ち込まれる。

「私は博士を信じる……博士がなくなるって言うのなら、地球はなくなる……」

 美佳が情報端末への入力を一旦止めた。(そば)に立っていたユカリスキーに美佳がその端末を手渡す。

 コアラのヌイグルミはモニタに向かって二三度うなづいてみせる。そして美佳に端末を返すや、やはり話をする訳でもない無線機を(ほほ)にあてては何度も真剣にうなづいた。

「ユカリスキーとの情報共有終わり……現時点での政治的圧力の分析も終了……後は理事国の協議次第……」

「そう……こっちも何とか……」

 久遠の瞳に数字と数式の羅列(られつ)が、写っては新しい入力に押し退けられるように消えていく。

「そんな端末で大丈夫……」

「ペンシル。ベビー。ラムダ。カッパー。ミュー。そして、H―1にH―2Aと、H―2B。固体、液体の違いはあっても、我が国のロケットは着実に進化していったわ。この中で今世紀初めに開発されたのが、小型人工衛星打ち上げ用のロケット――イプシロン」

「ふふん……」

 久遠の説明に美佳が(おのれ)の手元の情報端末を操作する。そこに写ったのは『小型』と名が付く割には巨大なロケットだった。

 そのロケットの周りは鉄骨に囲まれ、多くのエンジニアがその周囲を走り回っていた。今まさにロケットを組み立てているようだ。

「初期イプシロンは基幹ロケットではなかったけど、多くの実績を宇宙開発に残してくれたわ。もっとも顕著(けんちょ)な実績が、少人数での打ち上げ管制を可能にした運用システム。これは今の基幹ロケットにもしっかりと受け継がれているわ」

「……」

 今度も美佳は端末を操作する。そこに写ったのは簡素な部屋に、情報端末が数台机の上に並べられた光景だった。その映像の右上端に『管制室』とタイトルが表示されている。管制室とは名ばかりにそこはただの小さな会社の会議室程度にしか見えない。

「モバイル管制とまで呼ばれたこの打ち上げシステムは、前時代にメーカ側も含め数十人が管制室に詰めた打ち上げ風景を一変させたわ。あの時代の情報端末たった一台で、ロケットの打ち上げを可能にしてしまったからね」

「宇宙センターは、上に押さえられる可能性がある……」

「そうね――」

 久遠が情報端末からゆっくりと指を離した。

「だからいざとなったら、打ち上げは私達だけで行うわ……組み立ては今、急いでしてもらってるしね……」

「ふふん、大変大変……」

 美佳はもう一度端末に指を走らせる。次に表示されたのは浜辺で()ち上がり空に向かって飛んでいくペンシルロケットの姿だった。その勇姿にヒトミの歓声が(かぶ)せて再生される。

 久遠はそのリピート再生されるその映像をのぞき込み、

「でも、予行演習はばっちりでしょ?」

 ペンシルロケットの閃光に目を輝かせながら微笑(ほほえ)んだ。

改訂 2025.08.24

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