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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
八、気宇壮大! キグルミオン!
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八、気宇壮大! キグルミオン! 12

 高速で海を行く(てい)舳先(へさき)が陽光の下波を切り()いた。

 潮風を正面から迎え撃つかのように、激しいエンジン音を響かせてその船は真っ直ぐ海の上を行く。

 定員は六名程のそのレジャー用とも思えるプレジャーボート。キャビンは天井付きで、後方を除く三方は窓に囲まれていた。

「ほおおおぉぉぉえええ! 早い早い!」

 その後部の座席の窓から顔を突き出してヒトミは奇声としか思えない歓声を上げる。

「こら! 勝手に窓を開けるな!」

 その艇のハンドルを握り坂東が眉間にシワを寄せて振り返る。

 坂東の巨体にはレジャー用のボートはやや小さかったようだ。坂東が身を(ちぢ)めて船を(あやつ)り、ヒトミがはしゃいで船から身を乗り出していた。船にはその二人の他は美佳や久遠、ユカリスキーの姿はない。

「だってウチのお爺ちゃんの漁船より早いですよ!」

 そしてヒトミは今や半身すら窓の外に乗り出さん勢いだ。

「無理言って借りた島一番の足の出る船だ! そこら辺の漁船と一緒にするな!」

「むむ! お爺ちゃんの第八海謳丸だって! そこら辺の漁船とは違うんですからね! 漁協で一番の漁獲高を(ほこ)るいか釣り漁船なんですから!」

「分かった! 分かったから、窓を閉めろ! 危ないぞ!」

「はーい」

 ヒトミが突き出していた体をようやく窓から引っ込める。

「たく……いいか、遊びで船飛ばしてるわけじゃないぞ!」

「分かってます! キグルミオンを出迎えにいくんですよね!」

「そうだ! 状況がどう転ぶか分からん! なるべくなら有利な状況でことを運べるように、キグルミオンを受け取りにいく!」

 (こた)える坂東の手元では細かにハンドルが切られていた。ただ真っ()ぐ進んでいるように見えて、細かく舳先(へさき)を操ることで大小の様々な波を乗り越えているようだ。

「うまいですね、隊長!」

 ヒトミが坂東の横の座席に勢いよくお尻を乗せながら、その坂東の手元をのぞき込む。

「まあな! これでも八分の力で走らせてる! 一応安全第一だ!」

「てか、船舶の免許も持ってたんですね?」

「まあな! ハンドルがついてるものは、一通り運転できるぞ! 敵地に上陸した後は、ありとあらゆるものを移動手段にしないといけないからな! 船だった例外じゃない!」

「宇宙船もですか?」

「はは! さすがにそれは無理だな!」

「それにして、隊長! 敵地の移動とか、運転できる理由が(さび)し過ぎですよ!」

「そうか?」

「そうですよ! もっと楽しい理由で船に乗って下さい! そうだ! 宇宙怪獣を倒したら、漁師になったらいいんですよ! ウチの漁協、いつも後継者不足って(なげ)いてますから! (あい)ターン大歓迎ですよ!」

「あのな……」

 勝手な提案を並べ立てるヒトミに坂東が苦笑いを浮かべたその時、

「はいはい。ヒトミちゃん、量子の話なら私にしてね」

 ボートのダッシュボードに置かれていた情報端末が独りでに起動した。同時にこちらも苦笑を浮かべる久遠の顔と音声が再生される。

「久遠さん、お疲れです! 久遠さんも漁師になりたいんですか?」

 ヒトミが手を伸ばし端末を取り上げる。

「私が言ってるのは、素粒子とかの量子の話よ。キグルミオンの〝グルーミオン〟や〝ダークワター〟の――まさに量子の特性のお陰で、私達は力を得てるからね」

「何でしたっけ?」

「大事なのは『エンタングルメント』と『観測問題』よ。キグルミオンのアクトスーツがキャラスーツの動きをトレースしてくれるのは、アクトスーツに裏打ちされたベーススーツがダークワターによって観測問題を乗り越えてエンタングルメントしてくれるからよ」

「よく分かりません! 不思議なだけです!」

 ヒトミがビシッと手を()げて(こた)える。

「正直でよろしい。じゃあついでに――ヒトミちゃんが今から向かうところは?」

「キグルミオンの居る基地の近くの漁港です! ウチの漁協と同じ漁連に属してます! ここのカンパチはハンパなく美味しいです!」

「そう、地元情報ありがとう。でも、私が()いたのはもっと先の目的地よ」

「むむ……宇宙の方ですか?」

 ヒトミが中央に(まゆ)を寄せて顔も端末に近づける。

「そう、宇宙――スペース・スパイラル・スプリング8の方。これも素粒子の世界の不思議に迫る為の施設なの。宇宙に浮かぶ超大型加速器――それがSSS8よ」

「何で宇宙にあるんでしたっけ?」

「出力が巨大過ぎてね。地球じゃ建設できなかったの。宇宙に上がれば、ここが私達の拠点になるわよ」

「ほおおぉぉええぇっ! 楽しみです!」

「ヒトミ、楽しみのところ失礼――」

 情報端末の向こうの久遠の前に、大写しになったユカリスキーの顔が割って入る。

「どうしたの、美佳?」

「むむ……せっかくだから、ユカリスキーが話してるように報告しようと思ったのに……()ぐにバラすのよくない……」

 ユカリスキーの顔は早くも引っ込められ、久遠の隣に陣取った美佳の顔が写し出される。その顔はどこかわざとらしく不機嫌に(まゆ)が寄せられている。

「まったく声色も変えてないのに、何を贅沢(ぜいたく)言ってるのよ?」

「ふふん……遊んでる場合じゃない……隊長に……」

「いや、遊んでたの美佳だから……はい、隊長」

 ヒトミがモニタを隣の座席の坂東に向ける。

「どうした、須藤くん?」

 坂東は振り返らずにハンドルを握り続けた。相変わらずの細かいハンドルさばきで船体の()れを最小限に抑えている。

「たった今、ヤバげな情報が……国は押さえたけど、その更に上が――というか、横やりが……」

「……」

 急に真顔に戻って報告する美佳の声に坂東の顔が怪訝(けげん)(くも)る。

「国連が――キグルミオンを押さえようとしてる模様……」

「――ッ!」

 美佳の最後の一言に坂東が安全第一を放棄したのか、

「うっひゃあっ!」

 ヒトミの奇声とともに更にボートの速度がぐんと上がった。

改訂 2025.08.24

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