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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
八、気宇壮大! キグルミオン!
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八、気宇壮大! キグルミオン! 10

「一斉通信! どうしたんですか? 宇宙怪獣ですか?」

 ヒトミがオロオロと周囲を見回した。

「ヒトミ、(あわ)てない……ヒトミの携帯端末にも、通信来てるはず……」

 美佳が(おのれ)の耳に端末を当てながら冷静に答えた。久遠も坂東も同じ仕草で端末からの音声通信に耳を(かたむ)けている。ヒトミはその中で一人何もせずにただ皆の様子を慌てて見回す。

 (かた)めとはいえ海の砂浜。ヒトミの狼狽(ろうばい)ぶりは、その足下の砂地にあちこちに向いて残る足跡としてよく現れていた。

「あはは……部屋に置いて来ちゃった……」

「むむ……ダメっ()め……」

 眉間にシワを寄せて抗議の視線を寄せる美佳の足下では、ユカリスキーが仲間はずれ感を演出する為にか(ひろ)った板きれを耳に当てていた。

「だって、滅多に使わないし……」

「ヒトミちゃん。今時の娘として、それはどうかと思うわ」

 やはり耳に端末を当てながら久遠が(あき)れたように振り返る。

「緊張感がない」

 坂東も端末に耳を傾けながら聞こえるようにつぶやく。

「だって! 機密保持か何か知らないですけど、パスワードとか生体認証とかめんどくさいですもん!」

「まあ、それに以前に……今鳴ってるのは、第一報用の信号音……ヒトミが聞いても理解できない……」

「でしょ! でしょ! だから私が聞いてなくっても……あれ? あんまり擁護(ようご)になってない……」

「隊長……」

 端末から耳を降ろした久遠が坂東に振り返る。

「ああ、宇宙怪獣の早期警戒警報の一斉配信だったな」

「ハッブル7改……前回のデータを元に、更なる遠距離での宇宙怪獣の補足に成功した模様……」

 美佳が端末を耳から()ろす。その仕草に合わせてユカリスキーも板きれを耳から離した。

「施設に戻るぞ。刑部ならもっと情報をつかんでるだろう。本格的に連絡をとる」

 坂東が身をひるがえした。浜辺の砂地に一際(ひときわ)深い足跡を残して、拍車(はくしゃ)のついたブーツがめり込む。

 その後ろをヒトミ達三人とコアラのヌイグルミ一体がついていく。

「どこに降りてくると思う、久遠くん? 君や刑部が言うには、宇宙怪獣は動かないキグルミオンに興味を示さない――だな」

「仮説ですが」

「確信してるくせに……」

 美佳がポツリと呟く。

「ふふ……宇宙怪獣の望みなんて聞いてみないとホントのところは分からないわよ、美佳ちゃん。でも宇宙怪獣が今回()さぶりに来たと考えればどうでしょう? その戦略とか、戦術として考えた場合?」

「なるほど。それはどちらかと言うと、俺の領分だな」

 坂東は浜辺から下草の生えた小さな崖を上がる坂道へと向かう。

「あぶり出しをすると考えれば、無差別の絨毯(じゅうたん)爆撃が一番単純か? やつらは軍事目的主義なんて、知らんだろうしな。軍事目的に使用されている施設だけ狙ってはくれまい。まあ、元よりそれは数が()るか。だとすれば、ある程度目標を(しぼ)り込んだ精密爆撃に近い攻撃だな。キグルミオンをあぶり出す為に、既存交戦地にもう一度降りてくる。もしくは今までの例でいくと、デブリや人工衛星をろ(かく)して落としてくるか……」

「ええ! 宇宙怪獣がバンバン衛星落としてくるんですか? キグルミオンで(ふせ)ぎきれるんですか?」

「無理だろうな。キグルミオンは一体しかない……」

「ええ、一体しか動かせませんわね……」

 坂東の話に後ろを歩く久遠が言葉を重ねるように口を開いた。

「そうだ……どのみち動かせるのは、一体だけだ……ならやはり大元を叩くしかない」

 坂東はその言葉とともに浜辺から陸地へと上がる急な坂道を大股で力強く登り始める。

「宇宙へ――ですわね」

「そうだ」

「元より上がる気ですよ!」

 ヒトミが大きく身をはね上げさせて坂道を上り出した。

「ふふん……丁度、刑部氏から通信……しかも最悪……」

 美佳がもう一度端末に耳を当てる。急な坂道を上がるのを手伝おうとしてか、その後ろではユカリスキーが美佳の背中を押していた。

「何だ?」

「ハッブル7改の光学映像を簡易解析……宇宙怪獣に間違いなし……ただし、今まではまったく違うタイプ……」

 美佳が携帯から耳を離して立ち止まる。ヒトミ達が美佳の様子につられて坂の途中で立ち止まった。

 内容の深刻さを伝えようとしたのか、美佳は皆に向かってその半目の視線を一巡(ひとめぐ)りさせる。

 そして美佳は空を見上げると、

「おそらく群生状態……群れをなして向かって来ている――とのこと……」

 見えるはずもない宇宙怪獣の群れに(けわ)しい視線を向けた。

改訂 2025.08.23

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