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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
八、気宇壮大! キグルミオン!
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八、気宇壮大! キグルミオン! 2

「うっひょう!」

 軍用車両がタイヤをアスファルトにこすりつけながら車体を横滑(よこすべ)りさせた。そのまま豪快(ごうかい)に駐車スペースの上で車体を前輪を中心に回転させる。最後は枠内にこそ収まっているが、斜めに傾いて四角く縁取られた駐車スペースに軍用車両が停車した。

 ヒトミは歓声を上げながらその最後の()れに身がふられるに任せた。

 ヒトミは坂東の運転する軍用車両に最後まで立って乗っていたようだ。一際(ひときわ)上半身を左右に振られながら海に近い駐車場の空気にその身をさらす。

「はしゃぎ過ぎだ、仲埜」

「だったら、もっと普通に停めて下さい――とう!」

 ヒトミは坂東にそう(こた)えたが、やはり内から興奮しているようだ。エンジンの切られた車両。その(ほろ)も屋根もない窓枠に足を()けるや、小さな気合いととも車両から飛び降りた。

「おひょっ! こっからでもデッカイ!」

 ヒトミは飛び降りるや(いな)や先程久遠がVABとMLと呼んだ大規模構造物を見上げる。

 坂東が車を()めた駐車場から見ても、それらはまだ遠くにある。それでいながら他に何もない緑に囲まれた島にこつ然とそびえ立つそれらは、凛々(りり)しくも天を()いてそれを目指す人間の意志の現れのように大きく見えた。

「ふふん……ようやく潮の香りが堪能(たんのう)できる……」

 続いて美佳が後部座席からこちらは扉を開けて降りてくる。胸に抱き締めたコアラのユカリスキーと情報端末がその腕の中で小さく()れる。美佳はまぶしげにそれでいて眠たげな視線を(はる)か先に向ける。そこには森に囲まれた島の外周部の向こうに続く海の青がのぞいていた。

「宇宙センターへようこそ」

 久遠が助手席から白衣に包まれた足を駐車場に降ろす。久遠は駐車スペースに降りるや(いな)や空を見上げる。緑豊かな島のお(かげ)かはたまた絶えず海よりなびいてくる潮風のお陰か、(そら)はどこまでも澄んだ青を見せていた。

 その青い空に茨状(いばらじょう)発光体の白い光の(おび)()かっている。それは都会で見るよりも()んだ帯に見えた。いつもは(けわ)しい目で見上げる久遠もこの時ばかりは(やわ)らかい視線で謎の発光現象を見上げた。

「見て見て、美佳! あっちの方に、私の島があるんだ! 海見に行こ!」

 ヒトミが広い駐車場の一角に向かって指を差しながら走り出す。

「知ってる……もっと南の方……」

 美佳がユカリスキーを抱いたままヒトミの後を歩いて着いていこうとする。

「仲埜! 遊んでる(ひま)はないぞ!」

 坂東が軍用車両からそのブーツで降り立つ。その巨体を支えるブーツには相変わらず拍車(はくしゃ)がつけられており、それが坂東が降りにあわせてカチャカチャと金属質な音を立てた。

「分かってますって、隊長! 少しのぞいてくるだけです! 美佳! ほら、早く!」

 ヒトミは坂東に(こた)えて一度立ち止まり、美佳に振り返りながらその場で()け足で足踏みをする。

「ヒトミ、興奮し過ぎ……」

「島っ子だもの! 海の香りがして、黙ってられますかっての!」

「やれやれ……ユカリスキー、先に行ってあげて……」

 美佳が走り出したヒトミを追わせる為にかユカリスキーを地面に降ろしてやる。

 ユカリスキーは美佳に手を一つ振って飛ぶようにヒトミの後に着いて駆けていった。

「ユカリスキー、君はいい子だ! 一番に私の島を――見えないと思うけど! じゃーんと紹介してあげよう!」

 ヒトミがあっという間に追いついたコアラのヌイグルミとともに走り出す。

「あはは。ヒトミちゃん、ご機嫌ですわね」

「まったく。荷物も降ろさずに。遊びに来たんじゃないぞ」

 久遠がその様子に機嫌良く目を細め、坂東が色の濃いサングラスの奥で不機嫌に目を細めた。

「まあ、南の島はヒトミちゃんに取ってはどこも故郷みたいなもんなんでしょ? 生まれは都会の私達の街ですけど、育ちはこっちなんですし。ここまで来れて、それなりに興奮してるでしょう」

「たく……南の島どころか、これから宇宙に行くんだぞ。あんな気が(ゆる)んでいては先が思いやられる」

「あはは、いいじゃありませんか。故郷の島に(つな)がる海。その海に浮かぶ島にある『世界一美しいロケット発射場』。そしてその地球そのものとも言える美しい自然の中から、目指す広大な宇宙――どれも興奮するなって方が無理ですわ」

「ふん……」

 坂東が鼻を一つ鳴らすと宇宙センターに目を向ける。

 ひとしきりセンターの建物に目をやった坂東は、駐車場の鉄柵から身を乗り出すようにはしゃいでいるヒトミの背中に視線を戻す。駐車場は高台にあり鉄柵の向こうに()いだ海が広がっていた。

 ヒトミはなるべく遠くまで見えるようにかユカリスキーを肩車して飛び()ねていた。そのあまりの激しい飛び上がり方に、ユカリスキーがぶるんぶるんと体を前後左右に揺すりながらヒトミの頭にしがみついていた。

 その横にようやく追いついた美佳が並ぶと、こちらも身を乗り出して海の向こうに目をやる。

 坂東はその様子に困惑(こんわく)げに、

「たく……今度は低軌道(きどう)上に数分(とど)まるどころじゃないんだぞ……」

 それでいて(ほほ)(やわ)らかに崩してつぶやいた。

改訂 2025.08.20

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