ピアニスト
初の恋愛ものです!読んで下さい!
1、出会い
皆が持っているもの。私にはそれがない。
最初からない。どうしてないのかは分からない。でも私は幸せです。
この町は人が多く、都会と言えば都会だ。
俺はこの町に住んでから10年が経つ。彼女はいない。
高校生なんだから彼女くらい欲しいものだ。
学校までの道は信号を3つ渡ってすぐだ。この道は川も見えるし、山も見える。
俺にとってお気に入りの道だ。
なんてここまで散々カッコつけてきたけど、俺は超お調子者。
バカといってもいいだろう。いやバカなんだ。
10月32日があると思っているとんでもない奴なんだ。
バカだが友達はわりといる。でも彼女はいない。当たり前だよな。こんなバカなやつ。
学校につく。俺はいつもどおり少しカッコつけながら靴を履く。
「しょうちゃん、おはよぉ!それNEWファッション?靴が逆だけど」
クラスメイトの女子が笑っている。
はぁ。カッコつけたらすぐこれだ。俺はどうすればいいんだか。
教室のドアを開ける。派手に「登場!!」とか言って入ってみた。
皆からの冷たい視線・・・。
??俺ってこんなに嫌われていたっけ?
そして後から響く爆笑の声。
「しょう、お前やるな!ワイシャツじゃなくてパジャマかよ!」
おっと、俺は寝ぼけてパジャマの上からブレザーを着てしまったのか。
自分でも恥ずかしい、そして情けない。
先生に借りに行くのも面倒くさい。
「はぁい着席!!奥田!!パジャマかそれは。ナーイスセンス★・・・早く職員室行って来いばかたれ」
この先生は女のわりにサバサバしすぎている。ちょっと苦手だ。長谷川 華南。苗字も読みづらくて苦手だ。なぜこれで「はせがわ」なんだ。俺には読めない。
職員室でも散々笑われ、もううんざりだ。笑われるのには慣れているが、気分は良いものではない。
その後も俺の嫌いな勉強の授業ばっかり。学校行っている限り避けられないが。
なんとか死なずに授業を乗り越えた。眠くて眠くて死にそうだった。よく絶えたと思う。
よくやったぞ、俺!!
教室へ向かう時音楽室からステキなピアノが聞こえた。
ベートーベンの名前は知らないが、「ダダダダーン」って奴だ。
素人の俺が聞いても上手いと思った。感情がこめられている気がした。
とてもなめらかで美しい、嘘のない音色だ。誰だろう・・・
気づいたらその場に立ち止まって聞き惚れていた。
「違うって!何回言ったらわかる?そこはパッパパーンっていうリズムだって」
あぁこの声は長谷川だ。音楽の教師だからピアノを教えているのか?それにしてもどこから聞いてもキンキンうるさいキツイ口調だ。
かわいそうに。
「もういい。ダメ、基本がなってなさすぎる。帰れ」
「はい。スイマセン。明日またご指導お願いします。失礼します」
何も帰すことないのに、長谷川のやろう。
音楽室からは女の子が出てきた。身長は小さく、髪は黒のロング。とても可愛らしい。
気づいたら俺の体は高温になっていた。顔が燃えているかのように熱い。
これって恋?
「おい、何やってんだ奥田。授業始まるぞ」
「すいません。先生、今の子って誰ですか」
「あぁ、あの子は沙弓。5年前からずっとピアノ教えてるの。あの子凄い才能あるからつい厳しくしちゃうのよねぇ」
「そうなんすかぁ。明日も来るんすか?」
「うん、上手くなって来るよ」
「そうすか。俺明日の放課後音楽室行きますわ」
「いつから音楽の趣味なんて・・・もしかして女の子のほうの趣味かい?」
「そういうことっすね」
次の日は靴を逆に履くこともなく、パジャマを着てくることもなく、授業中死ぬこともなく学校生活を終えた。あとは沙弓さんのピアノを聞くのみ!今日は喋れたらいいな。
今日も昨日と同じ部分が演奏されている。昨日と今日の変わりに俺は気づかない。
「凄く上手くなった。この調子でいけば先生も怒らずに済むわ」
長谷川のご機嫌な声。ご機嫌な声、すらも腹がたつ。やっぱり俺は長谷川が嫌いなんだ。
俺は音楽室の外で聞いてるだけじゃ物足りなさを感じ音楽室を入ろうとした。
と思ったらもうすでにノックをしていた。
「奥田か?いいよ、入んな」
「失礼しゃす」
「終わるまで邪魔すんじゃないよ」
とても美しい音色と長谷川のキンキン声が交互に音をだす。
ずっと聞いていても良いくらい俺には素晴らしく聞こえるピアノの音。
気づくと練習は終わり、沙弓さんは帰る準備をしていた。
「じゃあ又明日ね。沙弓、そこにいる坊主と一緒に帰ってやって、アンタの事気に入ったみたいだから」
えぇ!!!そんな言い方ありかよ。俺が気あるって言っちゃうのかよ。俺そのくらい自分で言えるのに。
「ははは。そうなんですか。ではそうします、さようなら先生」
やばい。手汗がびっしょり。なんか話さなきゃ。なんて話そう。俺は今日ちゃんと靴はけたぜ。違う。ただのアホになってしまう。俺の好きな食べ物・・・
「こんにちは、私新塚 沙弓です」
「ちゃす。俺奥田 渉。ピアノ凄く上手だね」
「ありがとうございます。小さい頃からやってたので。私ピアニスト目指してるんです。あの、渉君は何年生ですか」
「あぁ、俺は高2。俺のことしょう、で良いよ。あと敬語やめようぜ、緊張しちゃうから。ただでさえ緊張しちゃうのに」
「ふふふ。私も高2。この学校には通ってないけど。私理由があって学校には通えないんだ。私のことも沙弓でいいから。これから友達になってくれる?」
「大歓迎大歓迎。こっちからお願いしようと思ったところ!明日も又ピアノ聴きに行くから!」
「ありがとう。じゃあまた明日ね」
「おう」
なんて可愛いんだろう。俺の心は桜が満開に咲いてるぜ。さゆみ。あのキレイで嘘のない瞳。キラキラしてる瞳。恥ずかしがってか俺の顔を一度も見なかったあの瞳。透き通ったキレイな声。全部ストライクだぜ。帰る道が逆方向なのがとても残念。この学校に転校してくればいいのに・・・。
俺はそれから沙弓のピアノを毎日聴き、その後二人で話す。という毎日を送っていた。
楽しすぎる毎日。こんなに幸せでいいのだろうか。
目をつぶるとあのキレイな瞳と美しい音色が俺の頭を埋め尽くした。
2、転校生
沙弓と知り合ってから1ヶ月が過ぎた。お互い親しくなり、お互いがお互いを知っていった。
今日もカッコつけながら沙弓がいればもっと楽しい学校へと向かう。
「しょう、あんたカッコいいね。靴下。黒と白なんて。オッシャレー」
くそ。またヘタこいた。靴下の色違うじゃねぇか。まったく。
沙弓、ごめん。今まで黙ってたけど俺クラスの女子に笑われるアホなんだ。
なんて事もいえないし、これはしょうがないものだな。うん。我慢してもらおう。
教室に入ったらもう長谷川がいた。
にこやかな表情。でも腹がたつ。
「今日は転校生を紹介する」
俺に天使が舞い降りてきた。とうとう来たよ。待ちに待っていたこの日が。
おんぼろ学校が俺にとって素晴らしい学校に変わるこの瞬間が。
「入りなさい」
沙弓が来るぞ。俺の大好きな沙弓が――――
「失礼します」
背が高く、ショートヘアの女の子だ。あれ。沙弓イメチェンしたのか。
「私は隣町から来た浦谷 まおです。お願いします」
一気に俺の元へ来た天使達が去っていく。沙弓じゃなかったぁぁぁ
「この子は先生のいとこの娘なんだよ。凄い関係だろ?じゃあ奥田の隣に座れ」
俺の隣かよ。でもよく見ると、悪くないな。細すぎず、太すぎずナイスバディだ。
「今日さ、転校生来たんだよ。沙弓かと思ってうかれてたっけ、長谷川のいとこの娘だとよ」
「それは残念。私より可愛かった?」
「全然。沙弓の手元にも及ばない」
「足元ね」
「はは、恥ずかし」
「ねぇ私達って他から見たらどういう風に見えるんだろうね」
「カップルかもな」
沙弓は何も言わなかった。ただ無表情で。俺の顔も見ずに。
最近転校してきた浦谷によく話しかけられる。映画行こうだの、放課後あいているかだの。
俺には沙弓しかいないからお断りしているけど。
「ねぇ奥田君は彼女とかいるの」
「いないよ」
「そうなんだぁ。私はどう?・・・・冗談冗談。そんな困った顔しないでよ」
「ははそんな顔したか?」
うまく笑えなかった。ぎこちない笑顔になってしまっただろう。私はどう?なんて。
告白みたいなものじゃん。このバカな俺がこんな事を言われて断っている意味が分からない。
沙弓と会っていなかったら即OKだろう。
沙弓のピアノはますます美しく、俺の心に響く。
帰り沙弓はゆっくりと俺の前を歩く。
「沙弓」
用はないが、呼んでみた。ん?と可愛く振り向く。だめだ。可愛すぎる。守ってやりたくなる。
俺は沙弓の元へと小走りで駆け寄り、手をつなごうと手に触れる。
と、同時に俺の手は振りほどかれる。
「え?ごめん。嫌だった?」
「ううん。ごめんね。でもそういうのじゃないっていうか」
ショックだった。そうだよね。こんなバカな男と付き合ったりしたらバカだと思われちゃうよね。沙弓とは友達なんだよ。俺がバカだった。付き合えるんじゃないかと思った俺が。バカだと知っているけどここまでバカだとは。
「ごめん。ほんと」
「しょうのせいじゃないの、ほんとに。傷つかないで。ね?」
「あぁ」
嘘をついた。傷つかないはずがない。俺は自分に嘘はつけない。沙弓の事が好き。沙弓のまっすぐな瞳、声、性格、全部好きだ。今は沙弓なしじゃ生きられない。だから余計ショックが大きい。
今日の夜は眠れなかった。
「しょうくん、今日遊べない?」
浦谷だ。昨日は沙弓にあんなことしちゃったし会える状態じゃない。今日はいいだろう。
「遊べるぜい★」
「ほんとぉ~??嬉しい★じゃあ5時に坂口駅で待ってるね」
坂口駅には浦谷が待っている。短めのスカートを履いてニット帽にマフラー。冬らしい格好。短めのスカートは男の血が騒ぐ最高のアイテムだ。バッチリ着こなしている。
「悪ぃまった?」
「ぜぇんぜぇん!渉君カッコイイねその格好」
「そうか?浦谷の格好も可愛いよ」
「ほんとぉ?ありがと!」
浦谷は付き合っているかのように自然に俺の腕に手をまわす。
なんだか罪悪感がこみ上げてくる。
でもいいんだよな。沙弓とは友達。それ以上もそれ未満もない。ただの友達。
カップルのように腕を組み、二人で話しながら映画を見る。
沙弓といるときの方が楽しい、と感じてしまう。
浦谷は一生懸命はなしているが俺にはわからない。
バカだからなのか、何かが頭の中で邪魔をしているのか。
あっという間に時は流れ坂口駅まで戻ってきた。
「渉君、今日は楽しかった。有難う」
「あぁ、じゃあ明日な」
「・・・あっちょっと待って」
俺が帰ろうと後ろを向いた瞬間、俺の体は又浦谷の方を向いた。
そして暖かく、やわらかいものが口にあたる。
「ごめんね。抑えられなくて。あの・・・付き合って、もらえないかな?」
ファーストキス。それが衝撃的できちんと判断できなかった。
「いいよ」
「本当?嬉しい。私転校してきてすぐ渉君に一目ぼれして。本当夢みたい。有難う。私のことまおでいいから。じゃあ明日ねしょう!」
凄い輝いていた。あの笑顔。沙弓の笑顔も浮かんでくる。
彼女。俺の彼女が出来た。嬉しい。でも心の底では何か違う、と思っている自分もいた。
今日はなんだか足が重い。沙弓には言った方がいいのかな。
「おはよしょうちゃん★」
「おぉまお。おはよ」
「今日は何処行くぅ?」
今日は沙弓の誕生日だ。前誕生日は遊ぶと約束したんだ。
「ごめん。今日は前から予定入ってて」
「あ。そっか、じゃあまた今度だね。うちにさ面白い映画沢山あるからおいでよ。ねっ」
「おっけぇー。毎日行っちゃうわ」
「ほんとにぃ」
放課後。沙弓の音色と共に長谷川のキンキン声が聞こえてくる。
どんどん上手になっていってる気がするのは俺だけだろうか。
もうピアニストになれるんじゃないか。どんだけピアノの世界は厳しいんだろう。
「ごめん。今日ちょっと練習長引いちゃったね」
「お誕生日おめでとう」
「あぁりがとう。覚えてくれてたんだ。しょうのことだから忘れてると思ったのに」
「何だよ。どんだけ信頼されてねぇんだよ」
「ふふ。どうしたの?なんか今日の声元気ないよ?」
「そうか」
「うん。なんかあるでしょ?言って?」
女は怖い。なんでも当ててしまうんだから。しょうがない。言うか。
「俺、彼女できたさ。転校生のまお。明るくて良い子なんだ」
「・・・。そうなの?良かったしょ!おめでとう」
悲しんでほしかった。という気持ちが少しあったのは事実だ。素直に喜べない俺はどうなっているんだ。
「あぁ。もうキスもしちゃったしね」
それから会話はなくなった。沙弓を見ても表情から読み取れるものはなく、沙弓が俺のことを見ることもなかった。
3、秘密
まおと付き合ってから2ヶ月が経った。
昼休み、一緒に弁当を食べているときまおは何か言いたそうな顔をしていたから聞いた。
「なんか話したいことある?」
「あのさ、放課後いつも一緒にいる子って誰なの?」
「あぁあれは結構前からの友達。ピアニスト目指して一生懸命頑張る子だから応援してんだ。変な事は考えなくて大丈夫。安心して」
「そっかぁ。よかったぁ。凄く不安でぇ」
「そうだったのか。ごめんごめん。俺も言うべきだったな」
「あの子って目が見えないんでしょ?」
「え?!」
「知らなかったの?生まれたときから目が見えないんだって。何も使わないでスラスラ歩けるのは凄い耳が良くて音だけで全部分かるからなんだって。長谷川さんが言ってたよ」
言葉が出なかった。意味がわからない。理解できない。そんなはずがない。
でも俺の顔を見ている沙弓を見たことはない。いつも同じところをじっと見つめる。キラキラした瞳で。
ゆっくり歩いてたのもそのせいかも。元気ない声だね。って言ったのも声だけで判断したからだ。
「まじかよ。全然知らなかった」
さすがにこれは大変なことだ。ここまで一緒にいて気づかなかったとは。バカにもほどがある。
どうして俺をこんなバカに生んだんだ。
「しょうちゃん?大丈夫?なんか顔青いよ」
「あぁ大丈夫。ごめん。今日も沙弓の所行くから。でも安心して」
「うん。わかった。まお良い子にしてまぁす」
いろいろなものが頭をかけめぐる。目が見えない――――
早く練習が終わらないかソワソワしていた。
「ごめんねぇ今日も遅くなっちゃって」
「おい。ちょっと今日話せるか?」
「すごく焦ってるね。大丈夫だけど」
「じゃあ公園でも行くか」
早く行って話をしたいが沙弓にあわせゆっくりと歩く。
「お前俺に隠してることあるだろ」
「え。ないよ?私、実は男です。とか?」
「ふざけんな!」
落ち着かなきゃ。という気持ちが後からこみあげる。キレてしまった事を後悔する。
「え?どうしたの?」
少し涙ぐんだ声だ。
「おい、何でもっと早く言わなかったんだよ・・・お前目が見えてないんだろ?」
沙弓は何も言わない。
「つらかっただろ。ごめんな。俺バカだからさ。気づけなくて。それなのにいきなり手つなごうとしたり沙弓の気持ち考えずに彼女いるとか自慢話とかしちゃって、本当に許してくれ」
「・・・。はは。びっくりだよね。本当にしょうはバカだよね。なんで謝るの?ずっと黙ってたのは私だよ?怒ればいいじゃん。私目が見えないんだよ?おかしいでしょ?小学校でも沢山いじめられたよ。私普通じゃないんだって。目が見えないから」
俺は涙を流している沙弓を強く抱きしめた。
「目が見えないのが普通じゃないっていう法則なんかあるのか?俺バカだからそんなことしらねぇよ?お前は沙弓だ。目が見えなくてもそのキレイな瞳俺は好きだよ?」
「っ・・・嫌われると、思ってた。目が見えないって言ったら嫌われると思ってた。私しょうが好きだよ。大好き。でも目が見えない私と一緒にいたら絶対迷惑だと思ったから」
「ごめんな。ごめん。ほんとに。俺これから沙弓とずっと一緒にいる。何があっても離れない。こんなバカな俺でも許してくれる?」
「うん。許す。あのさ、他の人には言わないでもらえる?私普通の人と同じように暮らしたいの。知ってるのは長谷川先生としょうだけだから・・・」」
俺は沙弓の顔を両手で支え、そっとキスをした。沙弓の涙が頬を伝う。
そしてもう一度ゆっくり深くキスをした。
俺と沙弓は付き合うことになった。俺の叶うはずのない夢。現実という世界では叶った俺の望み。
神様ありがとぉぉ。
4、別れとはじまり
次の日学校に行くとまおが凄い顔をしていた。
「しょうちゃん。ちょっと来て」
まずい感じなのは分かっている。昨日したことだ。俺が悪い。
「昨日何してたの」
低く抑揚のない声。
「ごめん」
「友達が目撃したって言ってたよ。・・・しょうちゃん私のこと好きじゃないんでしょ」
少し目が潤んでいる。俺は何も言えない。
「いいよ。無理しないで、そしたら別れよ?」
「ごめん」
「うん。じゃあね」
鋭い目つき。今まで見たことのないまおの顔。
あんなにこやかな顔からは想像もつかない顔。
悪いことは分かっている。でもしょうがない。俺は沙弓が好きだから。
今日は足が軽やかだ。スキップをしながら沙弓を迎えに行く。
今日の曲はクリスマスにちなんだハッピークリスマスという曲らしい。俺にはわからないけど。
ピアノが終わるとワクワクしていてしょうがなかった。今日が初めての日だ。
沙弓を彼女として一緒に歩くのは。周りから見れば普通のカップルだろう。
いや実際にも普通のカップルだ。ただ俺らだけの秘密があるだけ。
「お待たせー。今日は上手く弾けた!」
「ほんとか!良かったな。沙弓のレベルでもまだピアニストは無理なのか?」
「全然。私目が見えないぶん耳が少しいいんだよね。でも見えないから耳だけでは少しきついんだ。だからもっと練習して普通の人みたくならなきゃ」
「そっか。あんま頑張りすぎるなよ?たまには俺とデートでもしてくれやぁ」
「はいはい。そのようにしたいと思います」
「じゃあ今から出かけようぜ?」
「そうだね、最近遊んでないしね。いこっか」
天使が舞い降りてきた。いつも一緒いいるが、デートは初めてだ。俺の記憶では。
「どこがいい?」
「公園でいいな。私歩くの遅いし遠いとこ行けないから」
「よし、そしたら公園行くか!俺がきれいなイルミネーション見て感想言って歩くから!」
「アハハ。それはナイスアイデア★じゃ出発!!」
俺は沙弓をおんぶする。とってもびっくりした顔がとっても可愛い。
俺はゆっくりと歩く。
「ここのイルミネーションはですね、青いライトに、雪だるまの赤と白がチカチカしてて、緑もあった。なんかシカ?あ。トナカイか。トナカイもなんか。わぁ動いてるし!」
「ねぇ渉?説明が下手でまったくわかんないんだけどぉ」
「まじかよ。わりぃな!俺のバカ、許してくれる?」
「うん許すー」
この言い方、俺は好きだ。
ベンチまで行って俺は沙弓をおろした。
「ねぇ、渉さぁ私といて恥ずかしくないの?」
「自慢だぜ?こんな可愛い子と一緒に歩けるなんてさ。しかもピアニストを目指して一生懸命努力してる、おい泣いてるのか?」
「ごめん。嬉しくて。ほんと私渉のこと大好き」
おれの首に手を回そうとして俺の顔面にパンチする。
「おい。それ俺の顔。はいこうしたいんでしょ?」
俺の首に手を巻きつけてあげる。
「ごめんごめん。ありがと★」
俺はゆっくり深く沙弓にキスをする。
何度も、気が済むまで。
5、最悪な毎日
次の日沙弓は練習に来なかった。
「長谷川先生、新塚さんどうしたんすか」
「あぁわからないよ」
何か隠しているような顔。俺のためにデートの作戦でも練っているのかな。それは最高だ。
帰ったら沙弓に電話してみよう。
無事に授業も終え俺は自分のケータイ電話で沙弓の番号を押す。
4回目の呼び出し音で沙弓は出た。
「もしもし、沙弓?どうかした?」
「あぁ大丈夫よ。ゴホゴホっ風邪引いただけだから」
「良かった。じゃあ今日の学校の話でも・・・」
「ごめん。疲れてるんだよね。寝てもいいかな」
「おぉそっかそっか。じゃあ早く治せよ」
「うん。バイバイ」
それから沙弓は一週間学校に来なかった。
流石に長いだろう。今日はお見舞いに行こう。
クラスでは俺が教室に入ると浦谷と筒井がこっちを指指し、笑ってくる。気分が悪い。
浦谷と筒井は付き合っているらしい。昨日知った。どうせ俺の悪口を浦谷が筒井に言ったんだろう。
どうでもいいさ。
6、新塚 沙弓
私は小学生のときにいじめられていた。とてもヒドイいじめだった。学校に行くと靴がないのは当たり前。目が見えなくても私は必死に探そうとした。無駄なのはわかっていた。
その姿を見るのが楽しかったんだって。
中学生のときもいじめられていた。私は普通じゃない。この時言われたこの言葉。これが一番傷ついた。普通じゃない。みんなは目が見える。私は普通じゃないから見えない。中学校の3年間小学校よりもつらかった。でも私は逃げなかった。そしてピアノが私の心の傷を癒してくれた。
長谷川先生とは私のピアノのコンテストの発表を聴いて「良い音だ」と褒めてくれて。
私はそれまでピアノ教室に通っていたが、その時先生が私に指導させてくれ。と親に頼み、それから私の先生は長谷川先生になった。
長谷川先生は厳しかった。でも私のピアノの成長ぶりは凄かった。自分でも感じたものだった。
長谷川先生は私に言った。ピアニストを目指さないか―――と。
それから私はピアニストを目指し努力を続けた。
そして高校生になった。私はもう学校はうんざりだ、と思い高校は行かず通信教育を受けていた。そして長谷川先生のいる学校へとピアノに通い続けた。そして渉とであった。
渉とであったあの日。私が今までで最悪なピアノを弾いてしまった時だった。
「奥田か?いいよ、入んな」と先生が言った時何が起こったか理解できなかった。私の元に人が来る。またいじめられるのかな、と少し不安な気持ちで待っていたら低く、でもとてもきれいな声が全身に響き渡った。とても良い声だった。人間の性格は声に出ると私は思う。皆は目で感じるものを私は耳で感じる。
この人は良い人だ。奥田 渉。私は恋をした。してはいけない恋を。私が恋をしても幸せになる人はいない。目が不自由な人には彼氏なんて出来るはずもない。迷惑をかけるだけだ。
そして渉に彼女が出来た。嬉しいことだ。表面上では。でも私は嬉しくなんかない。悔しかった。でも渉のハッピーは私のハッピーでもあるから私は喜んだ。嘘の笑顔で微笑んだ。目が不自由な事を憎んだ。どうして私なのか。どうして見えないのか。私にはわからない。
私は渉に話せるか、と聞かれた。私は渉の焦り声を聞いてすぐにわかった。私の目はただついているだけ。見えていないのがバレたと。私は出来る限り明るく振舞った。これでお別れだと思うと悲しくて涙が出そうだったから。そして思ったとおり。私は怒鳴られる。なんで教えてくれなかったのか、と。
これで私は気持ち悪がられて置いてけぼりにされるんだ。そう思った。
でも渉は違った。謝っていた。本当に嘘のない気持ちが溢れた、ごめん。
耳を疑った。私の目が見えないということを知った人は皆離れていった。バカにされた。どこを見ているのかわからない目を見て皆は笑った。でも渉は違った。これからもずっと一緒にいよう。
その言葉は私の嫌な思い出を一瞬吹き飛ばす力をもっていた。きれいな声がさらにきれいで美しく私の耳、心に響いた。
渉と付き合うことになった。とても嬉しかった。であって一目ぼれ―――と言っても声に惚れたんだが。私の望みが叶った、と。
それからの毎日は輝いていた。私の瞳も輝いていただろう。幸せすぎた。
そして今ここにいる私は。風邪で寝ているんじゃない。渉にはいえない。
またいじめられているなんて・・・。
電話がかかって来た。渉かな、とケータイをとった。
「もしもし、アンタ新塚?私渉の元カノのまお。よろしくね」
最悪な声。性格の悪さがにじみでていた。
「新塚 沙弓です。何でしょうか」
「アンタさぁよくのこのこ学校来れてるよね。放課後だけ来る無駄な目がついた女って学校中大騒ぎだよ。しかも人の彼氏に手出すとかね。最悪。まじふざけてんね。自分何したかわかってんの?私と渉ちゃん付き合ってるの知ってたでしょ?なのに強引にキスした。最低な女ね。よく目も見えない中キスしようとなんか思ったよね。信じらんない。唇の位置当てたところだけ褒めてあげるよ」
憎らしい甲高い声で笑っている。
「ごめんなさい。でも私は何も・・・」
そんなこと言ったら渉に迷惑かけちゃう。渉のせいになんかしちゃダメだ。
「ごめんなさい」
「まじアンタなんか死ねば良いのにな。そしたら私幸せになるのに。渉ちゃんと。あぁーあ。アンタ明日学校これないねぇ。だって学校に行ったら帰りは渉ちゃんじゃなくて私がアンタを待ってるんだから」
全身に鳥肌が立った。本当に殺されるんじゃないかと思う殺意に満ちた声。手が震えている。
電話は切れた。震えがとまらない。昔の記憶が一気に蘇る。無駄な目がついた女。最悪なニックネーム。
このまま渉と一緒にはいられない。絶対に。ずっと守ってくれるって言ってくれた渉に感謝する。でももうその約束は守れない。ごめんなさい。私も一緒にいたかったんだよ。ごめんね。私にちゃんとした意味のある目がついていればね・・・
私は学校に行けない。怖くて。渉から電話が来た。嬉しかった。心配してくれていた。
でも私は渉とうまく話せない。渉に悪いことをしてると思うと私が渉なんかと話す権利などない、と思ってしまう。大好きなんだよ。渉。これだけはわかって。
7、お見舞い
俺は沙弓の家へ向かった。チャイムを押す。電話もせずに来てしまったから驚くだろうな。
ピンポーン。
「はい」
「俺だよ、大丈夫か」
「ごめん、帰って。うつっちゃうから」
「いいよ、俺は平気。開けていい?」
「帰って!」
「おい、どうしたんだよ。せっかく来たんだから開けろよ」
沙弓が階段を上る音がした。最近沙弓はおかしい。あいつから電話をかけてくることはなくなった。何かが起こっている。バカだがそのくらいはわかる。このまま沙弓の家の前にいても不審に思われるだけだ今日は帰ろう。
メールを送っておいた。
本当に大丈夫か。
一週間も沙弓に会えないとか、俺死にそうだよ。
俺はずっとお前のそばにいたい。
だから何でも言ってくろ。
送信。
うわぁ、最悪。最後の最後で。言ってくろ、恥ずかしすぎるだろ。
沙弓はこれを見てどう思うんだろう。笑ってくれてるといいな。あのステキな笑顔で。
今日も沙弓はこなかった。どんだけ悪い風邪なんだろう。
浦谷が何か言ってる。
「渉ちゃん。沙弓ちゃん最近来てないんでしょ?大丈夫かな。私凄く心配。筒井も心配してるし」
「あぁ、風邪らしいよ。ありがとう。心配してくれて」
「ねぇ今日3人でお見舞い行かない?」
「あぁ家入れないと思うけど」
「行くだけ行こうよ、みんなでさ。だから放課後待ってて」
「わかった」
あまり乗り気ではなかったが行くことになってしまったし放課後その二人を待った。
手をつないで楽しそうに歩いてきた。
「優、大好き」
甘ったるい声を出している。こいつは男たらしだな。筒井の下の名前は優って言うんだ。
「ごめんね待った?」
「全然」
「私達家わからないから案内よろしくね」
「おっけぇ」
二人は俺が透明人間かのようにいないと想定して二人の世界に入っている。
筒井の目は完全に浦谷にくぎづけ。ベタ惚れだな。
俺に話しかけられることは一回もなく沙弓の家に着いた。
ピンポーン。
「はい」
「浦谷でぇす」
ガチャ。すんなりと開いた。俺が行ったときは怒鳴られたのに。
沙弓の顔を久しぶりに見た。目が真っ赤にはれている。何があったんだろう。
「おじゃましまぁす」
人の彼女の家にズカズカと入っていく二人。腹がたつ。
「おい大丈夫かよ」
沙弓は俺に返事をしようとしない。
「ねぇ、沙弓ちゃん?今日は話があるんだよね?何?」
話?俺に?それともこいつらに?お見舞いに来たんじゃねぇの?
「渉、ごめん。私渉と別れたい」
「え?」
言葉の意味がわからなかった。いや分かるんだ。でも脳が理解を拒んでいる。
「別な好きな人が出来たの。ごめんね。ほんとにごめん」
「なんでだよ。いつからだよ」
「わからない」
「俺は別れたくない」
「私は別れたいの。ピアノにも集中したいし」
「ピアノの邪魔は一切しない。約束する」
「ううん。ダメなの。ごめん」
俺は何も言えなくなった。ピアニストになりたいという夢の邪魔をするわけにはいかないし。でも沙弓を好きな気持ちは変えられない。
浦谷は半分にやけた顔だ。そうだよな。人のフラれるシーンをこんな間近で見たら笑いたくもなるだろうな。
「わかったよ。ピアニスト、なれよ」
「うん。ありがとう。ごめんね」
沙弓は俺に何度も謝った。俺は沙弓に何もしてあげられなかった。
「大丈夫?じゃあ帰ろうか」
浦谷は笑いをこらえているような顔で言った。
家を出るとき沙弓は泣いていた。
「ごめんねぇ。まさか振られるとは思ってなくて。なんか沙弓ちゃんが私に来て欲しいって言うから、何かなっと思って着いてきただけだから」
「あぁいいよ」
筒井が着いてきたのは謎だが。
俺と浦谷は帰る方向が一緒だ。筒井と別れ俺らは二人で並んで帰る。
今は彼女ではない浦谷の隣で。
「沙弓ちゃんってなんか変わってるね。人の前で別れを告げたいタイプなのかな。面白い子だね」
今は話かけないでほしい。殴りそうになってしまう。
なぜ俺は振られたんだ?なんか悪いことしたか?ずっと一緒にいようって約束したのに。
「ねぇ、公園に行かない?」
俺は返事をしていないが公園に連れていかれた。
俺が口を開こうとしない間浦谷はずっと沙弓の悪口を言っていた。
今の俺には聞こえてこないけど。
気づくと浦谷は俺の顔を両手で支えていた。
と同時に強引に俺の唇にキスをしてくる。
長く、乱暴に。俺は抵抗する気力もなくただされるがままだった。
何回されただろう。5、6回はされた。
何も感じなかった。
8、嘘
神様は平等なのでしょうか。私は信じられません。私に意味のある目をください。そして渉を返してください。
電話が鳴る。
「もし、浦谷だけど、今日さアンタん家行くから。渉のことフリな。わかった?」
「え?それはできません」
「は?ふざけんじゃねぇぞ。まじに殺しにいくよ?てかアンタじゃなくてあいつをね。フルんだよ。アンタから」
「え、いや、・・・」
電話は切れた。
この世の終わりを感じた。渉とは別れたくない。でもこのままだと渉が殺されかねない。
涙があふれ出た。とまらない。一日中ずっと。とまらない。
浦谷がにくい、そして自分に腹がたつ。渉は何も悪くないのに。私は渉が一番好きなのに。
絶えられない。こんな世界。いじめられ、出会った人とも最悪の別れ。こんな人生ならないほうがマシ。
ピンポーン。
終わりだ。来てしまった。一睡もできないうちに。
渉に別れを告げた。私は渉にウソばっかり並べた。
渉は今どんな顔してるんだろう。浦谷は?本当最悪。
次の日浦谷から電話がかかってきた。出たくない。
でも出なかったら一日中鳴り続けるだろう。
「はい」
「もしもぉし。アンタ偉いね。あいつかなり落ち込んでたよ。でも私と何度もキスしたの。抵抗することなくね。アタシのほうが好きなのかもね。もうアンタのこと必要としてる人いないよ。死んじゃえば?」
私は何も言わずにきる。渉の気持ちが知りたい。本当の渉の気持ちを。
渉の本当の気持ちを知れれば私は死ねる。こんな世界にはもういられない。
9、最後の声
次の日俺は死んだ魚のような顔で学校へ向かった。
筒井が後ろから走ってくる。
気づいたら俺は激しい痛みを感じながら道路に倒れていた。
「おい、お前ふざけるなよ。殺されてぇのかてめぇ、立てよ」
「痛ってぇな。なんのことだよ落ちつけっ・・・うっ」
何度も殴られる。こいつの力は半端じゃない。
「人の女に手出しやがって。あいつ昨日泣きながら俺んとこ来たぞ。お前にキスされたって。最悪だな」
おいおい待てよ。キスはあいつから・・・意識がもうろうとしていく。凄い顔で俺を傷だらけにしている筒井が見えた。
俺はクラスの女子に見つけてもらい病院へと運ばれた。
命に別状はないらしい。
それにしても何が起こっているのかまったくわからない。
あの女は何なんだ。近づかないようにしよう。
するとケータイが振動しているのに気づいた。相手は・・・沙弓だ。
「もしもし」
「あ。私。ごめんね。電話なんかして」
「おぅどうした?」
嬉しかったがフラれた事を思い出すとそんなウカれた声は出せなかった。
「渉、私のことどう思ってる?最悪な女だよね・・・」
「は?俺は今でもお前が大好きだ。お前が俺のこと嫌いになっても俺は沙弓が好き。沙弓しかいない」
「そっか。ありがと。明日家に来てくれない?じゃあね」
「おいっ何時に・・・」
電話は切れた。
まぁいいや。こんな病院抜け出してでも行ってやる。
10、バカな男
次の日俺は松葉杖をつきながら沙弓の家へと向かう。
ピンポーン。
返事はない。車庫に車はないから両親は出かけているだろう。入っても大丈夫だよな。
「おじゃましまぁす」
沙弓の部屋の階段を上る。ドアを開けると女の子らしいフローラルの香りが広がる。
沙弓は寝ているようだ。
沙弓のピアノの上に手紙が置いてあった。
渉へ
来てくれたんだね。ありがとう。
私ね、渉にもうひとつ秘密があるの。
私は風邪なんかひいてなかったの。あの時。
私ね、浦谷さんにヒドい事言われ続けて、つらくて、でも渉に言えなかった。
渉に言ったら渉の身に危険が起きてしまうから。
私は渉と出会えて本当に良かった。
幸せだったよ。
目が見えないこと知っても一緒にいてくれたのは渉だけ。
私を認めてくれたのは渉だけ。
私のピアノを認めてくれる人は沢山いるのにね。
私を認めてくれる人はこの世に渉、たった一人。
寂しいよね。
渉を振ったこと許してください。
私のいる前で振らないと渉のこと殺すよって
言われちゃって。渉を失いたくなかったけど
命を奪うようなことはしたくなかっから、出来なかったから。
ごめんななさい。ウソついちゃって。私は渉が大好きなの。
でもつらいの、今のこの状況が。
本当にごめんなさい。
私のこと必要とする人はもういないんだって
浦谷さんに言われたよ。きっとそうかもね。両親にも迷惑かけてきたし。そう思っているかも。
でも最後に渉の本音が聞けてよかった。私は大丈夫。
もう思い残すことは・・・
あ。渉の顔見たかったな。どんな顔してたんだろう。
きっと笑ったときの笑顔がステキで瞳がキラキラしてるんだろうな。
私今眠っているでしょ?
この世では弱い人がする「自殺」と呼ばれる行為かな。
これ書き終わったら薬飲むんだ。
本当に有難う。渉の声大好きだったよ。
渉は何も悪くないから。ねっ?
愛してる。
新塚 沙弓
声は出ない。涙があふれ出る。キレイな顔、安らかな顔で眠っている沙弓は
死んでいる。
信じられない。
俺はバカだ。
沙弓がこんなに苦しんでいるのを気づかずに。
悔しい。悔しい。悔やんでも悔やみきれない。
なぜ俺はこんなにバカなんだ。
バカなために愛する人を失った。
最悪な野郎だ。
ごめん、ほんとにごめん。
俺が悪くないなんて言えねぇよ。
俺が浦谷と出かけたりなんかしなければ。
浦谷たちとお見舞いに行くかと誘われたとき断っていれば。
すべて俺がまいた種で花を咲かせてしまっている。
でも俺だけが悪いとも思えない。
あの女。俺があいつをこの世から消し去ってやりたい。
今すぐにでも。
神様。あなたはこの世に存在しているのでしょうか。
そうならば平等なのでしょうか。
沙弓は何か悪いことをしたのでしょうか。
俺はこれから容疑者として生きます。
バカな俺は感情を抑えることを知りません。
沙弓と会えるのはいつになるのでしょうか。
神様。俺の沙弓を返してください。
あのキレイな瞳、透き通った声、沙弓のひくピアノの音色。
すべて返してください。このバカな俺に。
ありがとうございました