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一杯の珈琲  作者: 武智舞
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第一話

もしよろしければ感想や評価ポイントなど募集してます。


感想なんて、一言で十分、大好きだー!☆


そりゃ、長文もうれしいけどね☆

第一話







 こんな華のない高校生活を俺は望んではいなかった。しかし、中退するにも中途半端な時期でもある。それが高校二年の冬に抱いた俺の感想だ。中退するぐらいなら、卒業証書は貰って置かないとと思う。そのために、そのためだけに進学したのだから。

 今日も昼休みの教室に、一つ学年が下の高津美帆が俺に体を向けて前の席に座っていた。その席の持ち主である友人は、今は俺の肩に腕を掛けている。美帆がこの高校に入学してから、ずっとこんな調子である。こんな時だけクラスメイトが周囲に頓着しないことに感謝すると、ある友人に話すと「調子が良いな」と笑われた。

 高津(たかつ)美帆(みほ)は、俺が中学二年の時にコンパで知り合った同じ中学出身の後輩である。一七〇を少し超えた長身だが、顔が可愛く性格も可愛い、そしてセンスも良い。でも、やっぱり俺より目線が高いのは、プライドめいたもので気にはなる。

 しかし、俺よりも頭が良いはずの美帆が、どうしてわざわざこの高校を選択したのか未だ定かじゃない。合格通知を見せられて初めて知った俺は、その後何度かそれとなく聞いてみたが、曖昧な返答ばかりで、最後に聞いた「私に受験勉強は似合わないですよ」というのも、信じあぐねている。いや、一応予想はつくのだけれど、はっきりとはしてない。

「……つまらねえな」

 なにげなくこぼすと、美帆がきたきたと言わんばかりに、すごい笑顔を浮かべた。そしてソプラノボイスで言う。

「せんぱい。私が楽しい高校生活にしてあげましょうか?」

「言うなぁ。何、楽しませてくれるの?」

「はい。すっかり寝ぼけたせんぱいの青春を叩き起こしてあげます」

 からかい半分の言葉に、何故かどことなく意気込む美帆を見て、俺は若干困ってしまった。こんな熱血キャラだったか、こいつ?

「どうしてよそ見するんですか? 喜ぶところですよ、せんぱい」

 美帆は見かねたのか、ふて腐れて、私を見なさいと言うように顔を寄せてきた。

「今更じゃないか?」

「言ってくれてもいいじゃないですか」

「うれしいよ」

「…………全然そうは見えません」

 やっぱり口先だと睨まれたが、気恥ずかしいものがあるから勘弁したい。しかしこのままだと全速力で機嫌を損ねられて、今以上に里織にねちねちと言われそうだ。面倒くさい。

「そんなことないぞ。すげぇ、うれしいから」

「…………わかりました」

 美帆は渋々引いてくれた。むしろ尾を引きそうだったが、割り切っておこう。

「ところで」

「あ! なかったことにしましたね? ひどいです! こんなひたむきな後輩にする態度じゃないですよ!」

 噛みつかれた。でも、俺は気怠げな目をした。すると美帆が口を尖らせたから、俺はやっぱり悪ふざけが入ってたなと呆れた。

「うれしいのは本当だって」

「………………やっぱり、おざなりです」

 満更でなさそうに見えた。

 昼休みが終われば美帆は名残惜しげもなく自分の教室に帰っていった。少しは後ろ髪引かれるようにしてほしいのは、俺のわがままだ。振った奴が言う台詞ではない。また「節操ない」と怒る里織(さとり)の顔が目に浮かぶ。しかし、昼休みが終わると、なんとなくつまらなくなる。昔からの友人がそれぞれ別の高校に行ってしまい、だけど美帆がその分、暇つぶしになってくれてるからだろう。

 放課後になると、シフトを入れてない日で友人と寄り道する気分でもなかったから、そのまま帰宅した。部屋に入ってすぐ私服に着替えて、ベットに倒れ込み、もぞもぞと動いて仰向けになった。次第にまぶたが重くなった。



 目が覚めると、窓から見える景色はカーテン越しでさえ、かなり薄暗いとわかる。オーソドックスな目覚まし時計は、五時十三分を指している。

 気怠いながら寝汗を流しにシャワーを浴びた。着替え直す頃にはすっかり目が覚めていた。

 朝食を買いにコンビニに足を運び、スタバのコーヒーとエクレアを買った。雑誌で美容師が洒落た朝食をとっているのが掲載されていたが、田舎のコンビニだとこれぐらいが精々だ。

 コンビニを出ると空は一層澄んでいた。薄っぺらい雲と蒼い空が、薄暗い辺りとは違ってきれいだ。バイトで深夜まで長引くことがあっても、こんなに朝早く起きることがないから新鮮で、凍るような空気が体の中を刺激する。

 継ぎ接ぎの路面を歩いていると信号に引っかかった。家からコンビニまで一つしかない信号だ。立ちつくしていると、隣に小柄な女性が横に並んできた。少し気になって何気ない風を装って一瞥してみた。

 ばっさりショートのほとんど白に近いブロンド。そして痩せすぎなほど細いプロポーションに、ぷっくりとした唇が印象的な美人だ。澄ましたような表情だから、年齢は判然としない。足下には古ぼけたトランクがある。

 俺は裾ポケットをまさぐって、煙草があることを確認して声を掛けた。

「すみません」

「おはよう」

「あ、どうも」

 淡泊な口調と見当はずれな返しに、思わず俺は会釈した。先を促すような彼女の視線に、くしゃくしゃになった煙草の箱を見せつつ、よく吟味した台詞を口にした。

「火がなくて、ライターかマッチがあれば貸してくれませんか? 家にうっかり忘れてしまって」

 すると、彼女はちょっとだけ首を傾げた。怒っているようにも呆れているようにも見えた。

「…………君、高校生でしょう? 若いうちから吸ってると、すぐに体を悪くするよ」

「もう、やめられませんから。想像できませんね。マナーはきっちり守ってますよ?」

 言ったが、彼女は素っ気ない面持ちですでに俺を見てさえいない。内心苦くなった。信号はもう青になっていた。

「はい」

 突然の声に顔を向けると、目の前にライターが浮かんでいた。思わず顔を引く俺を横目に、彼女の口元がほころんでいるのが見えた。そして危うい挙動で掴み損ねて、路面を叩くライターの音が耳を打つ。拾った頃には、横断歩道を渡りきった彼女の背中と赤く灯った信号が目に映って肩を落とした。

 失敗したなー。

 そう思ったが、すぐにあきらめた。



 でも、授業中から思い直して、昼休みになっても悔しかった。気分的には頭を抱えている感じ。

「あーあ、退屈ですね。ずっと頭を抱えて、何を悩んでいるんですか?」

 指摘されて、実際にそんな状態だったことに気づいた。誤魔化すように、見よがしと言わんばかりに顔を寄せて、下から睨み付けてくる美帆に「暇つぶしに何かしてくれよ」と言った。

「たまには、せんぱいからしてくださいよ」

 呆れたように顔をしかめた美帆は、ストローをくわえてレモンティーを啜る。

 今日は美帆側に立ちつくす友人も顔をしかめてやれやれと首を振った。

「だよなぁ。課題だって人任せだもんな夏目って。何かやれよ」

「そうですよ。いつも私ばっかりです」

 ここぞとばかりに美帆は友人の言葉に乗っかってつついてきた。面倒だ。

 俺がうんざりとしていると、不意に美帆が真面目な口調で尋ねてきた。

「ところで、せんぱいまた何かありました」

「ん」

 またというのに少し引っかかったが、それよりもどう答えたものかと口つぐんだ。

「少し待て考えてる」

「はい」

 途端に美帆はにこにこと笑って首を傾げた。意外と現金な奴だ。しかし、ここで余計なことを言ってふて腐れても、なんだかつまらない。

「……楽しそうだなぁ」

 友人がつまらなさそうにしていたが無視だ。というより邪魔だった。

「お前は席外せよ。邪魔だから」

「ひで」

「はいはい」

 渋々友人は別のグループに紛れていった。そんなやりとりをしていると、大体まとまってきた。しかし、目の前に襟を正した美帆の視線が居心地悪くて話しづらい。

「今朝、綺麗な人に会ったんだけどな。ちょっと取っかかりに失敗して軽く後悔してな」

 案の定、美帆は女として如何なものかと言うほど思い切り吹き出した。

「逃げられちゃったわけですね? せんぱいにしては珍しく失敗したんですか。あ、でも、慎重なようでアバウトだから、せんぱいらしいですか」

 笑いをこらえながら言うのが腹立たしい。

「笑いながら言うな」

「おかしいのだから、しかたないですよ。せんぱいのせいです」

 低い声色で言ったが、しばらく美帆の発作が治まる気配はなかった。

 しゃっくりのように時折笑いをぶり返しながらも、ようやく落ち着いてきた頃を見計らって再び口を開いた。しかし俺の声色はかなり低い。

「で、散々笑ってくれたけど、女の視点だとどう思う?」

「わー、かなり腹を据えかねてますね、せんぱい」

 当たり前だ、と思う俺と、当たり前か、と顔色に出す美帆の視線が合う。変なところでシンクロしなくていいと、ますます俺はふて腐れた。

「そうですね。さとり先輩ならバカでしょうって言いますね」

 少し考え込んで余計なことを言う美帆に、「そうじゃないっ」と釘を差した。

 美帆は、へへへと笑う。誤魔化すときの美帆の癖だ。付き合いのない奴だと、普段の笑顔と区別がつかないだろうけど。差し当たり、舌が出てるか出てないかの違いだろうか。出ていたら誤魔化している。

「まあ、あいつならやりかねないけどな」

 いや、絶対やる。心の中で断言しておいた。

「はい。うーん、でも、せんぱいが思わず声をかける人ですか。会ってみたいですね。どんな感じの人だったんですか?」

「あ? そうだなぁ。白に見えるぐらいのブロンドで、頭は丸っこくって背が低かったな。年齢は不詳だった」

「そんな細かいところまでよく覚えてますね……」

 呆れ半分感心半分という調子で美帆が笑う。

「ブロンド好きなんですか?」

「いや、別に。髪型にはこだわりあるけどな」

「ああ、せんぱいはそっちでしたね」

「ところで、今回の俺に失敗ってわかる? わかるなら言ってほしいんだけど」

「それはやっぱり軽いからです」

 思い切り吹いた。即答な上に、簡潔な言葉がツボだった。でも半分は苦笑いだ。言い訳はしておきたい。

「俺が女の付き合いには真剣だってことは知ってるだろ?」

「確かに真剣ではありますね。でもあきると露骨に付き合いがずぼらになるじゃないですか」

 さすがによくわかっている。詰問口調ではないものの、はきはきと言われたら言い訳もしにくい。

 追い打ちを掛けるように続ける。

「それに見る人によっては結構軽薄ですよ、せんぱいって。私も最初、せんぱい軽薄そうに見えましたもん。今だから言いますけど」

 本当に今だからこそ言えるな。俺は苦笑した。

「ちょっと傷つくんですけど、それ」

「でも」

 美帆はにっこりと微笑んだ。

「今はせんぱいが楽しい人だってわかってますから。というか知らなかったら付き合ってませんでしたし」

「確かに」

 妙な具合で納得して、笑みがこぼれた。

「けど、せめてメルアドだけでも交換したかった」

 滅多に見せない情けないことを口にすると、くすりと美帆が笑う。からかうような色を含んだ目をしていた。別れてから遠慮が全くなくなってきたなと思う。

「それはそれでハードルが高いですよ。変なところで女性のことわかってませんね。あ、いや、抜けてる、ですね。お互いにある程度の信頼があって初めて成り立つんですよ?」

「ああ、もう、わかったわかった」

 うざったそうな口調であしらう仕草をしても、笑顔を引っ込めない美帆は少しして、すくっと立ち上がった。

「じゃあ、そろそろ私、教室に帰りますね」

「はいはい、じゃあな」

 俺のおざなりな返事も、今回ばかりは美帆も笑って流した。まあ、いつもの引っ張るようなやりとりは、実際が悪ふざけなのだけれど。

 それにしても、廊下側の席に座ってから俺は、野暮ったいセーラー服のスカートをひるがえして、廊下をぱたぱたと駆けていく美帆の足音をいつも聞いてるうちに、まるで女は猫のようだと思うようになった。なかなか詩的ではないかなと、自画自賛してみたり。あの澄ました顔の友人なら鼻で笑ってくれそうだが。

 今日はシフトの日だからバイト先に直行した。今はファーストフードのバイトで、更衣室で制服に着替えた。お世辞にも容姿が良いとは言えないが、持ち前の人懐こさで客だけでなくバイト仲間からもそこそこ評判が良い。

 そういえばと思い出す。通っている高校はアルバイト禁止だから、もちろんこれは無断アルバイトであるが、高校から遠いからすっかり高を括っていた時に、よりにもよって生活指導の教師が来たときは、顔に出てないだろうなと思うほど驚いた。しかし何度か顔を合わせても聞かれなかったからバレてないと思う。思いたい。

 だけど、そろそろここも潮時かなと最近思う。なぜなら最初の頃は時給が高くおごってもくれると気に入っていたのだが、新しく入ってきた本社員のせいで職場がおかしくなった。そいつを発端に仲間内が険悪になったのだ。近頃、嫌気が差している。

 十時にバイトを終えて更衣室で着替え終えると裏口に置いてある自転車に跨った。ペダルに力を入れて景色がゆっくりと流れ始めると、体から熱気やこびりついた様々な臭いがはがれ落ちてゆくような感覚を覚えた。体を撫でる冬の寒風がこの時ばかりは心地よかった。



 冬休みに入ってから数日が経った。

 ほのかな朝の気配に目を覚ますと同時に、スライド式の携帯がメロディと共に画面を光らせた。メールの発信者は美帆だった。欠伸をしながらベットの上で胡座をかき、緩慢な動きで文章をなぞる。

 内容は簡単に言えば誘いだ。何度かメールでやりとりしてる内に、今でもそれなりに付き合いのある悪友の武田(たけだ)賢志(けんじ)だけでなく、高校進学後はほとんど疎遠になっている田沢(たざわ)里織(さとり)も来るということがわかった。口にはしないが結構楽しみだ。

 数日後、約束の十分前に駅前に到着したが、まだ誰も来ていなかった。見知らぬ頭頂部の禿げた脂ぎった中年がじろりと睨め付けてきたが、気にせずロータリー沿いのベンチに腰掛けた。

 待つ間、ベレー帽の具合を確かめたり、耳にヘッドホンを付けて音楽を聴いたりして暇をつぶす。

 賢志の彼女とその友人も来るらしいが、どんな奴だろうと気になる。想像できないから余計にだ。そもそも賢志に彼女が出来たことが驚きだ。顔はそこそこだが、性格に難のある奴だから。それにしても、

「やけに遅い……」

 しびれを切らして、ぽつりとこぼす。石畳の路面がひしゃげた煙草やたんで汚れて余計に憂鬱だ。手慰みに携帯を数度スライドさせていると、不意にヘッドホンを取り外された。跳ねるように顔を上げると、仁王立ちの里織が俺を見下ろしていた。背が低いから見下ろすというほどではなかったけれど。

「…………ねぇ。メールでもいいから返事をしてくれないかしら。わざわざ私が捜す羽目になったじゃない」

 相変わらず冷淡な口調で言ってくる。しかもヘッドホンを放るおまけ付きだ。俺は苦笑した。

「俺のせいかよ。お前メルアドや電話番号を変えたなら教えろよ」

「だったら、美帆ちゃんか賢志くんでもいいじゃない。そこまで頭回らない?」

「極端なお前に言われたくないな」

「何?」

「気にするな」

 かすかに顔をしかめる里織を適当にあしらって、もう一度携帯を操作した。

「あの二人にもメールを送ったはずなんだけどな」

「そんな話聞いてないわ。みんな待ってるから早く行くわよ。その時二人にでも聞いて」

 投げやりに言うと里織はさっさと背を向けて歩を進めていった。俺は立ち上がってすたすたと歩いて肩を並べる。

 それにしても、すとんと下ろした長く重たい黒髪は相変わらずだ。懐かしいとさえ思う。小さな白い顔も、泣き黒子も、スポーツに向いてそうな長い手足もそんな気持ちを強くさせる。

 でも、何よりもまず気になることがある。

「なんで制服?」

「悪い?」

「そこで制服のチョイスがわからない」

 にべのない反応はこの際気にしない。少し苦笑したが。

 里織の服装は、上下とも暗い青を基調とした、派手ではないけどハイセンスな制服だ。上はボレロで、下はハイウエストのスカートというのが一番近い。里織の場合、それに加えて赤のタイツを穿いている。

「わからなくて結構よ。そんなことより早く歩いて」

「随分な言い方ですね」

 目すら合わせない反応に俺は苦笑した。昔にも増して、きつい物言いだな。



 どうやら集合場所は俺がいた場所から駅を挟んだ反対側だったみたいだ。うっかりしてた。俺以外は全員集まっているらしく、その中に見覚えのない女が二人、賢志の近くにいた。

 俺に気づいた美帆が、気後れした様子で俺に近づいてきた。

 美帆らしいショートパンツのルックで、長身で意外と肩幅のあるから、さらりと羽織ったモッズコートがよく似合う。でも、せっかくスタイルがいいのだから、一度ぐらいラインを出したコーディネートもしてみればいいのにな。

「ごめんなさい。私、気づきませんでした」

「いいって、気にしてないから。気づいてなかったのは、美帆だけじゃないし」

 拝むように謝る美帆から目をそらして、賢志を見た。背が高く筋肉質な体格の賢志は、澄まし顔で片目を閉じて頬をつり上げる。

「俺のせいにするなよ。聞かなかったお前の責任だろ。勘違いするな」

 さすが幼稚園からの付き合い、遠慮のない言いぐさだ。

 美帆は今度は里織に体を向けたが、里織が先制をとった。

「気にしてない」

「…………よかったー。っと、せんぱい?」

 ほっと胸をなで下ろした美帆に、里織が唐突に抱きついた。美帆は目を丸くしたが、すぐに里織が脇をくすぐり始めて楽しそうに悲鳴を上げながら身をよじった。

「そっちの二人はお前の彼女と友達?」

「ああ、そうだ」

「……いや、紹介してくれよ?」

 それっきり、ぷっちり黙りこくった賢志に苦笑する。賢志は気怠そうに隣の女に首を回すが、当たり前のことだろうと思う。

「俺の彼女の福本(ふくもと)春音(はるね)。こっちが春の友達で、神楽(かぐら)絢子(あやこ)な」

 賢志は一番横にいた、美帆とはまた違った人懐こそうな女と、その隣の三つ編みをカチューシャ風にしたお嬢様然とした女と順に指差した。

 福本と呼ばれた女が緩い笑顔で自己紹介をした。

「こんにちは。福本春音っていいますー。けんじくんの彼女でーす。そしてこの子は私の親友の神楽絢子。可愛くない?」

 ハスキーボイスと間伸びた調子が印象的だ。賢志とペアルックなのか、ショートのライダースを羽織っている。足下はバルーンのようにふくらんだキュロットスカートで包んでいる。

 福本は自己紹介の直後、不意打ち気味に神楽という仏頂面の女に抱きついた。うりうりという言葉が聞こえそうなほど、頬などに密着している。

「これがこいつらのスキンシップだ。口出しするなよ」

「俺がそんな無闇なことを言う奴でも、思う奴でもないことぐらい知ってるだろ」

 慣れた風にこっそり耳打ちしてくる賢志に心外だと睨み付ける。俺はそんな狭量の男じゃない。何年の付き合いだ、お前。

 それと、さっきから視線を感じる。何気なく目を配ると、俯きがちの神楽という女と目があった。不躾と言えるほどの眼光を感じたが、直後、神楽は慌てたように視線を落とした。

「なら、いいけどな」

「そのすげぇ上から目線が鬱陶しいんですけど」

「お前だって人のこと言えないだろ」

「お前とは違う」

「ねぇねぇ」

 ふと、呼んできた福本に顔を向けた。神楽の頬や肩に密着してるが、気にしないでおく。好奇心が強そうな笑顔で俺を値踏みすると、

「けんじくんから聞いてるよ、ナツくん。確かにセンス良いよね、その帽子とか。かわいいっ」

 唐突だったけれど、うれしいことを言われて、テンションがあがる。顔には出さないが。

「そんなうれしそうな顔するなよ、人の彼女の言葉で」

 さすがに賢志にはバレバレだった。しかし、人を食ったような顔でからかわれると、本気でうざったいな。

 そこで俺は目敏くあるものを見つけた。

「福本さん。その腕時計、賢志のか?」

 福本の細い手首に巻かれた、ごつい文字盤の腕時計を目線で指差す。すると、福本は可愛らしく頷いた。

「うん、そうだよ。あ、呼び捨てでいいよ。名前はだめだけどね。けんじくんが拗ねるから」

「おい」

 指差された賢志が、いたずらっぽく微笑む福本を、じろりと睨み付けた。余計なことを言うなと目で語るが、全員にバレバレだ。むしろ、抵抗すればするほど面白い。

 福本は気にした様子もなく、ぺらぺら喋ってくれた。

「せっかくだからって、けんじくんのお母さんにクリスマスパーティーに誘われて、その後、空き部屋に案内されたの。けんじくんのお姉さんの部屋だったから、ベットがあってちょうどいいわって。で、夜遅くになると、けんじくんが尋ねてきてね。いろいろと話していた時に、このごつい腕時計が目に入って食い入るように見ていたら、けんじくんがいるかって。それで頂戴したわけなんだ」

 賢志が無理矢理口を塞ぐまで、福本は赤裸々に話してくれたのだった。



 冬休みにも関わらず、いつも通りグランシティと呼ばれるショッピングモールには活気がなかった。客足があまりなく、店員も店頭も覇気がない。開店当初のあぶれるほどの賑わいは、もう見る影もなかった。

 俺たちはまずゲームセンターに向かった。俺たちは自然と、それぞれグループを作って、時間を指定して散らばった。俺は美帆と里織と一緒だった。

 しかし里織の何気なくも鋭い視線があって、なんだか楽しめない。

 俺は逸らすように美帆に話を振ることにした。

「これだと、いつものメンバーだよな」

「ですね」

 美帆はにこにこと笑いながら同意した。

 適当に店内を見て回ると、さすがにここは人が多いなと思った。基本的に学生が多いが、ゲームに熱中する大人も少なくはない。むしろ最近は、大人の客が多いとバイトしている友人から聞かされているから当たり前の風景なのかもしれない。

 奥に行くほど学生や大人の数が増えていくのが、如実にわかった。人気なものほど奥にあるらしく、耳の調子が狂いそうな音や、まぶたの裏に焼け付くような光がごちゃ混ぜになった喧騒も酷くなる。そして俺は刺激は好きだが人混みは大嫌いである。

「せんぱい。もうこの辺りで引き返しませんか? ここまでうるさいと逆に楽しめないです。さとり先輩はどこかに行っちゃいましたし、私は入り口のところのシューティングゲームの筐体がしたいです」

「そうだな。そうするか」

 美帆の提案には俺も賛成だ。里織がいないことだし、楽しまないと損である。あいつとはまだ喧嘩しているから、いたらすごい疲れる。

「それにしても、ここだけ人が多いですね。他は全然空いてるのに」

 入り口に向かって歩いていると、美帆がそんなことを言い出した。俺も軽く同意する。

「ゲームの筐体が多くて、ちょっとした雑貨店なんかがあって、ゲーム疲れや買い物した後に休むのにちょうどよくて気軽に入れる店があるの、この辺だとここぐらいだろ? それに同じ市内でもここから遠い奴でも、ここの近くに駅があるから電車で来たらいいしな」

「学生とってはうれしい立地ですね。でもせんぱいは、やっぱりM市ですか?」

 からかうように聞いてくる美帆に、特に考えず「まあな」と答える。

 しかし思い直して、俺は笑って言った。

「さすが、よくわかってるな。そんな先輩思いな後輩には何かおごってやるよ」

「え、本当ですか?」

「千円以内ならなんでもいいぞ」

 期待感に目を見開く美帆にしっかり釘を差すと、不満げな顔をされた。

「高校生ならかなりの上限だろ。何が不満なんだよ?」

 さすがにこれ以上は苦しいから、俺の口調も少しきつくなる。すると、美帆はぶつぶつと言った。

「よく考えてみると、なんだか私、釣られた魚みたいです。体のいいえさに食らいついたら最後、せんぱいにまた何かされそうです。やらしいですよ、せんぱい」

 思ってもみない言葉に、俺は呆れたような面白いような複雑な感情を抱いた。でも、胸を隠すように体を抱いて少し逸らし、上から睨み付けてくる様は可愛いと言えるかもしれない。けれど、こういうのはやっぱり女の背が低い方が絵になるよな。

「それはそれとして、シューティングがしたいんだろ? なら早く行こうぜ。こんなところで話していたら時間がもったいない」

 そういうわけで、俺たちは話を切り上げてさっさと入り口に向かった。

 筐体に乗ってコインを投入して美帆はグリップを握り画面に銃口を向けた。

 美帆は意外とガンを扱ったシューティングゲームが大好きだ。結構な頻度で俺はこいつに、ゲームセンターへ付き合わされているから、それをよく知っている。

 暇だから俺もコインを投入して参戦することにした。が、即ゲームオーバー。三つのライフはあっという間に削れてしまった。

 俺はこの手のゲームが苦手だ。

 そんな俺を尻目に美帆は次々とゾンビを倒していくから、思わず苦笑がこぼれた。

「せんぱいは全然うまくならないですねー」

「うるさいな。そのうち記録塗り替えてやるよ」

「そういうセリフはゾンビを五体は倒してから言ってくださいよ」

 癪だから言い返しても、美帆は余裕綽々と笑うから余計腹が立った。プライド的なもので許せないので早々と頭を切り替えて、コインを投入した。

「せんぱいの場合、撃つときに射線がずれてるから当たらないんですよ」

 隣で美帆が何かを言っているが聞こえない。俺はゾンビをしっかり狙って引き金を引いた。

 ゲームオーバー。

 美帆が呆れていた。

「せんぱい? 私の話、聞いてました?」

「うるさい。こういうのは楽しめればいいんだよ。外野がうるさいと気が散るだろうが」

 ぶつくさと不平を口にすると、やれやれと美帆が肩を落としているのに気づいて苛ついて、「なんだよ」と、噛みついた。

「間違ってないだろ」

「そうですけど……。せんぱいが人の話を聞かないことは、先輩たちにちゃんと聞かされてますし、私もわかってますからやっぱりいいです」

「おーい。それはそれでむかつくんですけど?」

 まるで俺が駄々をこねているような言い方だ、それだと。

「その憐れむような目もやめてくれませんかー?」

「そうですね、今更ですし」

 こんなひどい後輩だっただろうか。絶対、里織から悪い影響を受けてるな。やめてくれ。

 俺が乱暴に銃を突っ込むと、美帆があからさまに口を尖らせてきた。

「もうっ。いじけないでくださいよっ」

「あ? いじけてない。あきただけだ」

 眉をひそめて、俺は背を向けると歩き出した。退屈だからその辺をうろつくことにしただけなのだが、美帆は勘違いしたらしく文句を言ってきた。

「それのどこが違うんですかぁ。もうっ」

 背中越しに見ると、美帆はかなりふくれていたが気にせず歩を進めることにした。あきらめたように美帆が筐体を放り出して俺と肩を並べて睨んでくる。しかし、これも放っておくことにした。

 そうしていると、不意に思い出した。前に似たようなことがあった。その時は、俺の目の前で全てのステージをコンプリートした直後で、自慢げに語る美帆がちょっと鬱陶しくて、美帆を他の得意なゲームに誘って気が済むまで勝ちまくったんだ。その時にいた賢志に「大人げないな」と、揶揄されたこともついでに思い出した。

 しかし、それを振り払うように俺は美帆に声を掛けた。何故なら、あまり思い出したくないことだからだ。

「やっぱり、こういうときはカラオケじゃないかな?」

「…………また、そればっかりですね……」

「いいだろ? なら他に何かあるか?」

 せっかく逃げた方向で美帆にげんなりされた。良い提案だと思ったのにな。そう思った俺が不満げな顔をすると、美帆はますます顔を苦くしてくれた。

「いつもそうだと、さすがにあきてきますよ。せんぱいぐらいじゃないですか、毎日通っても楽しめるの」

「いや、さすがに俺でも毎日通ったらあきるから」

「十分通ってます。それに褒めてないですよ……」

 それでも美帆は折れなかったが、むしろますます嫌気が差しているが、どことなく諦めてる感もあった。

「だから他に何かあるなら、そっちでもいいけど、ないんだろ。だったら、カラオケでいいじゃん。無難だろ?」

「……そうですけど」

 納得のいかない顔をする美帆はそんな曖昧な言葉で濁した。

 まあ、俺も無理強いはしたくないけどさ。他がないなら譲れない。あったとしても譲れない。でも、さすがにそんな嫌な顔をされると傷つくなぁ。

 しかし、俺は尽力を惜しまず、しつこく美帆を勧誘した。美帆に「……そんなところばかりエネルギーを使うんですねぇ、せんぱいって」と、皮肉られたが気にしない。というか、それがどうしたと開き直る。

「いざ、入ってみればすぐに楽しめるって。いつもそんな感じだろ? ほらほら」

「そうかもしれませんけど……。やっぱり、せんぱいだけな気がします。というか、他のみんなの意見もありますよ」

 ちょっとずつだが、満更でもなさそうな反応を美帆は見せるが、結局もっともらしい正論で否定的な結果になるという、そんなやりとりが続いた。

 賢志たちを見つけるまで、大方そんな感じだった。



「やっぱりアニソンか」

「何? 文句ある?」

「別にないけどさぁ」

 口を濁すと、ますます里織の視線が険しくなったが、今更だった。

 俺たちは結局、カラオケに来ていた。あれだけ渋っていた美帆が、福本と意気投合して、あっさり寝返ったのは結構イラッときたが、この際だから棚上げしておこう。楽しめればそれでいい。

 室内はこざっぱりとしたそれなりの部屋で、ソファーがカラオケセットの向かいと、そして入り口の向かいにそれぞれあり、自然と俺と賢志で分けられて座っていた。しかし男は隅の方である。

「この中で一般のアーティストに詳しいのは、俺とお前だから仕方ないだろう。田沢は俺たちとはジャンルが違いすぎる」

「アニソンしか聞かないからな」

「馬鹿にしてる?」

「いや? そこまでいくと尊敬する」

「恭一くんに褒められても嬉しくないから不思議」

 食ってかかった次は罵倒である。毒舌も限度があると思うのだが、言ったって無駄だろう。というか、真顔で、しかも冷淡な口調で言われると殊更傷つくんですけど? さすがに腹が立つんですけど?

「ナツくんって、すごく楽しいね。狙ってる?」

「これがこいつの素だ。あまり期待しすぎない方がいいぞ」

「ひどい言い様だな。空気呼んでもう少し引っ張れよ」

「引っ張ったって何も出ないだろ?」

 言い返すことが面倒くさくなって俺は口をつぐんだ。その間、福本はずっとくすくすと笑っていた。盛り上がっているのは良いけど、いまいち納得できない。

 俺と賢志の会話が一通り終わったのを見計らってか、ちょうどいいタイミングで福本が俺たちを交互に見ながら尋ねてきた。

「ねぇ、ナツくんって歌上手だよね。けんじくんも滅多に歌わないけど上手なんだ。ナツくんもたくさん曲知ってるって言ってたけど、けんじくんが歌が上手なのはその影響?」

「確か、俺も賢志も元々アーティストはそれなりに知ってたから、特に影響されたって言うのはないかもな。ああ、でも、好きなアーティストを勧めたこともあるから、やっぱりあるかもな」

「別に影響されてないと思う。こいつには特に」

「じゃあ、歌を上手に歌えるコツってあるの? 私下手だから、いつもけんじくんに聞いてるんだけど、教え方下手なんだよ。だから全然上手にならないの」

 そう言って福本が溜息をこぼすと、賢志が言い訳がましく口をついてきた。

「人のせいかよ。そう言うけどな。こいつだって、そんな変わったものじゃないぞ」

「する前に断言するな」

「そうだよ。初めから諦めていたら何もできないよ。けんじくんの皮肉は嫌いじゃないけど、こんな時に使うのは違うと思うよ」

 心強い福本の弁護が聞いたのか、賢志はふて腐れたがそれ以上は何も言わなかった。ただ一言、「まあ、がんばれ」と口にしただけだった。

「うん、がんばるね」

 そう言う福本を見ていると、俺が場違いな気がした。

「せんぱいもがんばってくださいね」

 こっそり耳打ちしてくれる美帆の心配する調子が嬉しい。里織が「大げさ」と言う言葉が水を差したが。

 早速福本に教えることにしたが、瞬きもなくじっと見つめられるとやりにくかった。

「そんな難しいことじゃない気がするけど。口を大きく開けて、発音をしっかりすれば結構良いところまでいけると思うぞ? 声きれいなんだし」

 ほとんど癖でさらりと口にすると、賢志が珍しくにやりと笑った。

「なんだ? 人の彼女にナンパか? 良い度胸してるな」

「してねぇよ。だったらお前が教えろ、ケチつけるなら」

「珍しく正論ですね、せんぱい」

 他にも余計な茶々を入れる奴がいたが、睨んで制した。しかし、それは美帆だけではなかった。

「もしかして、けんじくん。それって嫉妬? だったらうれしいな」

「言ってろ」

 たとえ彼女であってもノリが悪いようだ。

 すると女の視線がすごいことになっていた。

「けんじ先輩、たまには素直になっても罰は当たらないと思いますよ?」

「……男って情けない」

「お前ら……。好き勝手なことを……!」

 賢志の口調がわなわなと震えている。口々と言う中、福本がぽつりとトドメを言った。

「……たまには、恋人らしいことしてくれてもいいじゃない……」

 明らかな泣き真似だが、口調は悲哀に満ちてるから、あながち嘘にも見えない。下手に口出せない賢志は、絶句していた。

 福本が寂しそうに目をうるうるさせる。しばらくして無言だった賢志は諦めた。

「……わかった。俺がきっちり指導する。ほら、もう少し傍に来い」

「やったっ」

 福本は顔を輝かせて、進んで体を寄せて、説明する賢志に熱心に頷いていた。

 というか、俺は噛ませ犬か何かか?

 暇を持てあました俺はリモコンで曲を入れて歌うことにする。

 すると不意に、パシャッと乾いた音が聞こえた。景色を携帯で写す俺には耳慣れない、カメラのシャッター音だ。

「良い歌いっぷりだねー。被写体としては最高だよ」

 見ると頬のゆるんだ福本の手には、いつの間にか、一眼レフが握られていた。その重厚すぎる品に俺は真顔で聞いた。

「それって自分の?」

「そうだよ。写真部に入ってるの。私が部長で、けんじくんは副部長。けんじくん腕が良いんだ」

「こいつは賞を取るほどの腕前だけどな」

 惚気る福本を、賢志が親指で指差す。

「じゃあ、福本さんは将来は写真家ですか?」

 美帆が無邪気に言うと、とたんに福本が言い辛そうに首をすくめた。

「んーとね。まだ決めてないんだ」

「どうしてですか」

「それだけの腕があるのにか?」

「そうだけど……。やっぱりそれだけだと、だめな気がするんだ。どう説明したらわからないけど。それで、どうしようってね? 迷ってる」

「ようするに、勇気とか意気込みとか、そんなのが足りなくて後一歩が踏み出せないんだよ、こいつは」

「確かにそうだけど! そんな身も蓋もないまとめかたしないでよ!」

肩を怒らせた美帆が盛大に噛みついたが、賢志はどこ吹く風といった調子で肩をすくめた。ささやかな嫌がらせなのだろう。

「はぁ……。そうだ、みんなを撮ってあげるよ。やっぱりこういうときはカメラの出番だよね」

 福本は、女の子女の子した笑顔を浮かべて、宣言通り写真撮影を始めた。



 里織が進学した先は、県内だけでなく、全国でも有数の進学校である。しかし、ここからでは電車で一時間をかけて、バスに乗り継いでさらに一時間の距離だから、里織は県庁所在地のM市のマンションで一人暮らしをしているらしい。

 その都合で俺たちは早めに切り上げることにした。駅前まで里織を送って、そこで賢志たちとも別れた。

「福本さんって面白い人でしたね。けんじ先輩とは相性が合ってそうな人でした」

「まさか、あいつに彼女ができるなんて、ちょっと驚きだけどな」

「……それはひどいと思いますよ?」

 美帆は苦笑する。

 自転車をつきながら、肩を並べた俺たちは、街灯でぼんやりと照らされた路面を歩いていた。冬もそろそろ本格ムードに入ろうとする気配。空を仰げば、澄み切った黒が一面に広がっている。見てるだけで寒々しい。

「でも、神楽さんがあまり喋ってくれませんでしたね。人見知りする人だったんでしょか? 少し残念でした。また機会があれば、話してみたいですね」

 すぐに浮き浮きする美帆は、本当に前向きな奴だ。そういえば、ずっと前にそれを言ったら、里織に「あんたの方が前向きよ。あんたほど馬鹿で前向きな奴、見たことない」と散々に言われた気がする。

「まだ冬休みだし、大丈夫だろ。確かに里織と違って全く会話に参加してなかったな」

「さとり先輩はマイペースですから。後、せんぱいの方に向いてましたし。絶好調でしたね」

「迷惑だけどな。口を開けば俺のことを罵って、しつこいよなー、あいつ」

 げんなりしてると、美帆がくすくすと笑った。

「仕方ないですよ。怒らせたせんぱいが悪いです」

「慰めもないのかよ」

 励ましてもくれないとは、着実に良い性格になってきたな。

「あいつ、一体何に怒っているんだろうな? 何かした、俺?」

 試しに尋ねてみると、美帆は思い耽るように目線を下げて、俺に向かって小首を傾げた。

「……したんですよ、何かを」

「何をだ!」

 ほとんど反射で突っ込んだ。ここまでくると苦笑してしまう。すると、美帆は顔をしかめた。

「せんぱいが聞いた方が早いと思いますけど? ……わかりました。私がそれとなく聞いておきますね」

「サンキュー」

 あっさりと俺の真意に気づいて応えてくれる美帆はいい女だと思う。まあ、これで悩みの種は消えたも当然だろう。

「せんぱいのそんな暢気なところ、ほんと良くも悪くも羨ましいです」

「どういうことだ?」

「そのままの意味です」

 美帆の顔は、もう付き合ってられないというものだった。そんなにひどいのかと、さすがに心配になってくる。

 何事もなかったかのように歩いていると、美帆が震える体を抱く。吐く息がとてつもなく真っ白だ。もしかしたら、煙草の煙よりも濃いかもしれない。

「それにしても、冷えますねー。そろそろ冬も本番でしょうか?」

「時期的にそうだな。底冷えする前に帰らないと、霜焼けするかも」

「えー? それはいやですよー。私って肌弱いから、なると結構長引くんですよー」

 嫌そうに顔をしかめた美帆は、想像したのか項垂れた。ここまで弱々しい美帆も珍しく、同情してそれとなく元気づけておく。

 美帆はげんなりしたまま顔を上げた。

「肌の強いせんぱいが、こんなとき恨めしいですよ」

「そう言われてもなぁ」

 ふくれる美帆に苦笑する。面倒くさい以前に俺にはどうしようもないことだ。この場合はまず間違いなく。

「雪は好きですけど」

「雪は滅多に降らないからな、ここは」

「だから余計に残念なんです!」

 鬱塞となる美帆は殊更落ち込んでいくが、やっぱり俺にはどうしようもないことだ。

「せんぱいは雪が積もったらうれしいなって思ったことないんですか?」

「あるけど?」

「なら雪合戦はありますか?」

「雪と言ったら定番だろ?」

「そうですか……」

 それっきり美帆は口を閉じたが、質問の意図がつかめず俺は怪訝な顔をした。

「意味がわからないんだけど? 結局何が言いたいわけ?」

 それでも何も言わない美帆に俺はさらに詰め寄った。すると、渋々といった感じに美帆が口を開いた。恨めしそうに見下ろしてくる。

「せんぱいにだって、それだけ雪に思入れがあるのに、現実主義だなぁと思っただけです。普段はロマンチストなくせに、変なところで辛辣ですね。というか、興味がないことには、意外とドライですね。……逃げてません?」

「逃げてない。でも、雪なんて滅多に振らないところで長く暮らしているんだから、当然の反応だろ? いくら俺でも夢と現実の区別はつくからな?」

 珍しく俺が正論を言って文句をたれる美帆をなだめる構図だった。思わず俺は調子に乗った。

「お前ってほんと夢見がちだよな。ああ、馬鹿にしてないからな? むしろ、良いことだと思うぞ」

「……わざわざ説明しなくてもわかってますよ。そのぐらい、せんぱいのことはよく理解しています」

 口を尖らせる美帆は年相応にこどもっぽい。

 そんな中身のあるようなないような、割と投げやりっぽい会話をしていると、いつの間にか美帆の家に近づいていた。そして到着すると、すでに美帆は切り替えていた。

「そうだ。次はさとり先輩の部屋に行きましょう、せんぱい」

 突飛すぎだ。俺は嫌な顔をした。

「なんでだよ。行ったら、どうせ追い返されるからぞ。さすがの俺でも、それは遠慮する」

「わぁ……。いつもは相手の都合もお構いなしに訪問する、せんぱいのセリフじゃないですねー」

 呆れすぎたといった具合に目を見開かれても、むざむざ美帆の言葉に賛成などしない。

 あからさまな逃げ腰の俺に、仕方ないなぁと美帆が溜息をこぼした。

「いや、俺は悪くないからな?」

「せんぱいが原因の天罰ですよ、間違いなく」

 訴えてみるが、何の効果もなかった。にべもないとも言う。

「行くのも億劫だ。だから行かない。俺は絶対行かないから」

「…………いいです。せっかく、せんぱいが家まで送ってくれたんですから、今日は引いておきます。せんぱい。これからもよろしくお願いしますね」

「じゃあな」

 にこやかに、そんな脅迫めいた挨拶を区切りに、俺は軽く手を振る美帆に腕を上げてペダルに足をかけた。

「あ、そういえば」

「ん、何?」

「今ちょうど両親、家を空けているんです。明後日ぐらいには帰ってくる予定なんですが。お父さんのわがままで。だから泊まっていきませんか? 夕食もごちそうしますよ」

 さっきの話でこう来ると、ふつう何か裏があると勘ぐるが、この後輩に限って何もないだろう。直球勝負がポリシーの美帆のことだから、これは単純な好意での誘いのはずだろう。

「どうします?」

「……せっかくだし、そうさせてもらうな」

 美帆に気後れした様子もない。俺にも断る理由がなかったから、ありがたく受け取った。



 寝覚めは微妙だった。そして欠伸を噛みしめる。視界はぼんやりとして、まぶたをぐりぐりと揉む。辺りは薄暗かった。

 同じベットの隣には、うつ伏せに寝た美帆が静かに寝息を立てていた。つまり、ここは美帆の部屋である。あまり女の子らしいとは言えない、逆に言えばボーイッシュな部屋だ。見慣れた光景でもある。

 何気なく、美帆の頬にかかった数本の髪の毛を、撫でるように掻き上げた。美帆はこそばゆそうに喘いだ。

 それからじっとしていても仕方ないと思い立って、刺激しないようにベットから這い出ると、美帆の肩にそっと布団と毛布をかぶせた。そして、シャワーを浴びに行った。

 こんなことでシャワーなどを借りるのも、一度だけでないから使った形跡を残さないのは手慣れたものである。

 そうして身支度を終えて部屋に戻ったとき、美帆はまだ枕に頬をうずめていた。もうしばらくは起きないだろう。起こすのも悪いだろうから、俺はストールを巻きメモを書き残して部屋を後にした。

 時刻はまだ八時を回ったぐらいで、途中、コンビニに寄った。今日はエスプレッソとサンドイッチを見繕い、近くの何の特徴もない公園に入って、ベンチに腰掛け朝食をとった。

 食べ終わると、ゴミは丸めて茂みに投げ捨て、しばらく俺はベンチに腰掛けたままだらだらしていた。そして、携帯をブルゾンのポケットに滑り入れると立ち上がって、自転車のグリップに手を掛けた。

 不意に見覚えのある姿が見えた。俺は躊躇なく駆けだした。

「どうも」

 肩を並べてまず俺の口から出たのは挨拶だ。基本である。

「この前はありがとうございました。……覚えてます?」

 何の反応もないから心配になってきた。もしそうだと、変人扱いされてしまう。

「…………ええ」

 たった一言だったけれど、それで十分ほっとした。

 彼女は会った時と同じ服装であった。特徴的な白のブロンドも、手元の古ぼけたトランクも相変わらずの様相である。

 俺よりも低い、もしかすれば里織ぐらいの背丈の彼女は、見上げながら感情のこもらない声で言った。

「お礼はいいわ。単なる気分であげただけだから」

 身も蓋もない言い方だったが、それだけで俺はこの人が面白い人だと直感する。ますます、このまま別れるのが惜しいと思えた。だから、歩く速さを彼女のペースに合わせる。

「そんなことより君。まだ煙草の臭いがするけど、控えた方がいいと思うわ。…………どうしてもやめられないなら、せめて煙草の始末はしっかりね」

 不意に彼女は俺に顔を近づけたかと思うと、そんなことを言い始めた。とりあえず「はい」とだけ返事をしておく。そして彼女も、何事もなかったかのように前を向いた。しかし、俺はポケットから煙草を取り出して、パッケージを見せながら言葉を続ける。

「俺が吸ってるの、セブンスターって言うんですけど。煙草吸う人ですか? 臭いには気を遣っているつもりなんですけどね。そんなに臭います?」

 だけど、そんな俺の杞憂を、あっさりと否定した。

「いいえ、私の嗅覚が敏感なだけよ。それとイクニって呼んでくれていいわ」

 ついでのように自己紹介をしたイクニさんの表情は薄い笑顔だった。しかし、すぐに引っ込めた。

「俺は夏目です。よろしく」

「私はジタンを嗜んでいるわ。君はこのブランドを知ってるかしら?」

 俺の挨拶ではなく、さっきの会話の反応だった。

「全く聞いたことがないですね。うまいんですか?」

「私は好きよ。でも、独特な味わいだから君が好きになれるかはわからないわ」

 淡々としているけれど、もったいぶった言い方に聞こえて、俺は興味が湧いてきた。

「一本もらっていいですか?」

「どうぞ」

 臆面ない俺の要望に、イクニさんは躊躇なく箱を差し出して煙草のお尻を向けてきた。俺はありがたくつまんで抜き出し、くわえてイクニさんからもらったライターで火をつけた。そしてそのライターをイクニさんに差し出した。

 イクニさんはそれを一瞥して、視線を俺に移した。

「君にあげるわ」

「イクニさんは大丈夫なのですか?」

「あるわ。だから気にしなくていいわよ。ところで、君にとってはどんな味かな?」

 その質問にしばらく俺は顔をしかめた。舌の上でころがしながら、ぽつりと言った。

「…………俺にはまだ難しいクセのある味ですね。俺はセブンスターのほうが好きです」

「そう。……君は面白い子ね」

 唐突で、しかし俺は興奮した。もちろん内心で、である。イクニさんは淡々と続ける。

「さて、これだけ話してみたものの、私は君の目的がわからないわ。君は私にどんな用があるのかしら」

「お礼が言いたかったんですよ。だから、イクニさんと話ができて良かったです」

 笑って答えると、イクニさんは目を細めた。呆れてるようにも見えた。

「それは及第点とはいかなくても、願望にそぐって嬉しかったという意味かしら? ナンパだったんでしょう?」

 躊躇なくはっきり言う彼女に、苦笑しながらも俺は弁解した。

「俺はそんな軽い奴じゃないんですよ。本当に単純に話してみたかっただけです」

「そうね。ほんの冗談よ」

 あっさりと覆されて、俺はますます苦笑した。俺は別の話題を口にすることにした。

「その髪の色は自前ですか?」

「ええ、そうよ」

 唐突さには気にも留めず、白に近いブロンドを後ろに払った。その髪が梳くように流れる様が色っぽくて、俺はどきりとする。そして、イクニさんに不快感を与えない程度にまじまじと彼女を見つめた。

「綺麗な色ですね。やっぱりコツがあるんですよね?」

「……気になる?」

 当然である。しかしそれよりも、かすかに悪戯っぽい笑顔に見惚れてしまった。初めて見る笑顔だ。

「それはやっぱり気になりますから」

 やっと答えると、イクニさんはさっきの笑顔のままどことなく悟ったような、口角がわずかにつり上がったような気がした。そしてきっぱりと言った。

「美容師の勉強をすればおのずとわかるわよ」

「いや、美容師を目指そうなんて考えてませんから。興味はありますけど。俺ってすごいヘアスタイルに興味があるから、これ結構真面目なお願いなんですけど」

 拝み倒しを試みた。引き際を間違えなければ、今までのように上手くいくと、高を括っていたが、その予想はまんまと裏切られてしまった。

 イクニさんは唇を「それは君が努力するべき事柄よ」と、動かした。

 俺もその言葉で、あっさりと諦めた。表面上は。と、そこで気づいた。

「なんだかその口ぶりだと、まるでイクニさんが美容師を志していたように聞こえますね。もしかして、してました?」

 彼女の答えはノーだった。

「昔、美容院で働いていた友人が聞いてもいないことをたくさん喋っていたせいよ。その時は気にも留めていなかったけれど、ある日、いざ挑戦してみようとすると、その時言ってたことが役に立っただけ。頑張ってね。私、頑張ってる男の子、好きよ」

「これから俺、頑張るんで、その頑張りを報告するのにメルアド交換しませんか?」

「断るわ」



「ごめんください」

 特に収穫もなく帰宅してすぐに、一階から間違えようのない美帆のソプラノボイスが二階にいる俺の耳に届いてきた。顔を出すと母親と美帆が玄関で談笑していた。この色々と気むずかしい母親は美帆と結構ウマが合うらしく、大抵はこうして玄関で引き留める。これで美帆が迷惑に思っていないから、面倒くさい。

「俺に何か用か? 部屋に上がれよ」

「何言ってるの。ここでいいじゃない」

「俺に用だからいいだろ」

 文句を言う母親をさとして、俺の部屋に美帆を連れて行った。

 入ってすぐ、慣れた手際でマフラーとミリタリージャケットを脱いで、部屋の隅のポールみたいなハンガー掛けに掛けた。マフラーは一回巻いている。

 そして、美帆が白のタートルネックセーターとショーパン姿になると、これまた隅から引っ張ってきたクッションにお尻をつけて、両足を広げていつもの楽な姿勢をとった。俺もベットに腰を落ち着けた。

「久しぶりだな。お前が尋ねてくるの」

「はい。相変わらず、男の人は部屋に入れないんですか? これ忘れ物です」

 差し出された、鍵を数本通したリングに、俺は目を丸くした。

「……お前の部屋に忘れてた? 悪いな。気がつかなかった」

「そんなところだと思ってました」

 受け取ると、鍵は机に置いてまたベットに座る。美帆はにこにこと笑っている。それにしても、美帆を見下ろすなんて新鮮な感じだ。そんな感慨にふけつつも、煙草を一本取り出して火を灯す。美帆は一本ぐらいなら臭いは気にしないらしい。煙をふかしながら尋ねてみた。

「楽しそうだな」

「楽しくて仕方ありませんね。せんぱいがいると退屈が少なくてすむから大好きですよ」

 俺はこの場合、けなされたよりも褒められたと思うことにしてる。だから俺も笑った。

「そう言ってくれると俺もテンションあがるな」

「実を言うと、せんぱいの家に入る口実だったんです。ほら、ここのところ二人っきりになる機会、ありませんでしたから」

「それならそうと誘ってくれればよかったのに」

 真っ当なことを言うと、美帆が口を尖らせた。

「……ほんと都合のいいことばっかり言いますね、せんぱいは」

 文句を言ってるが俺は半分も聞いてない。座っているときぐらいにしかできない美帆の上目遣いに、ドキドキしてる。今、口を滑らせば舌戦になって居たたまれない結果になるのは明白だから、余計なことは言わない。怒ったときの美帆は無茶なこと言ったり、したりするからなぁ。

 別れて友人になってから、それに磨きがかかった気がする。絶対里織の影響だと思う。

「冗談に決まってるだろ。わかれよ」

「偉そうですね…………」

「そんなつもりはないけどな」

「自覚がない方が厄介ですよー」

 あきれ顔の美帆は、馬鹿にするように間伸びた調子で言った。俺は苦笑する。

「そう簡単に怒るなよ。案外お前って短気なのか?」

「せんぱいと付き合っていたら、ストレスなんてたくさん溜まりますよ。もう少しせんぱいに自覚があれば、私もさとり先輩も気苦労が減るんですけど…………」

 これ見よがしに目をそらして溜息をこぼす美帆に、ますます俺は顔を苦くした。

「うるさいな。それで他に何か用があるんだろ?」

 埒が明かない気がして、制し促すと、誤魔化されたことに腹を立てたような目をした美帆が、一度目を閉じて立ち上がった。瞬間、出し抜けに抱きついてきた。さすれば、俺も美帆の背中に腕を回す。すると、俺を見下ろす美帆はこぼれるような笑顔を浮かべ、その頬はうすく上気して、ちろりと舌を出した。

「せんぱい。この腕はなんですか?」

「そこは聞かないのがマナーだろ?」

「まあ、いいです。存分に甘えましょう」

「それが本当の目的か」

「だめですか?」

「いいに決まってるだろ」



 事後の一服がうまいというのは、少々下品だろうか。と、ベットの横に腰掛けて俺は思う。

「ところで、せんぱい」

「ん?」

 背中越しに顔を向けると、毛布にくるまった美帆が枕に頬をうずめたまま笑っていた。

「このことがさとり先輩に知られたときの上手い言い訳考えてます?」

「もちろん考えてない。その時は、その時だ」

「さすが、せんぱい。清々しいですね。でも、男らしいかと言えばかなり微妙ですね」

 すっかり口達者になった後輩である。一切、慰めになっていないところが味噌だ。

「大晦日にさとり先輩が帰省するから、みんなで初詣に行こうって話になってるんです。せんぱいも参加しませんか?」

「いいよ。どうせそれ、賢志の提案だろ」

「大正解です」

 おかしそうに美帆は笑った。

 人に興味がなさそうな風体のくせに、決まって行事ことには活動的な古馴染みである。幼馴染みと表現しないところが、あいつとの関係を如実に表すところだ。

「さすが幼馴染みですねー」

「せめて、古馴染みか腐れ縁って言ってくれ」

 俺はげんなり気味だ。



 そういえば前回の失敗を踏まえてなかったと気づいたのは、コンビニに来てしばらくしてからだった。しかしそれは杞憂で終わった。なぜなら、コンビニのショーウインドウ越しに小さく手を振る美帆がいたからだ。そして何故か美帆は私服姿である。俺はコンビニの雑誌コーナーに足を運んだ。

「二番乗りですね」

「他はまだなんだな。というか、お前はなんで振り袖じゃないんだ? 去年は着てたのに」

 すると、美帆は言いにくそうに笑った。

「きつくてやめました」

「スタイルいいもんなぁ。今年も見たかった」

「じゃあ、せんぱいが袴を穿いてきてくれれば着てきます」

「それはそれで結構面白そうだな。考えておく」

 そんなくだらない話で盛り上がっている内に、コンビニ手前の薄明るい駐車場に停まった車から、賢志たちがぞろぞろと下りてきた。それを見て、俺たちもコンビニを出て合流する。

 一昨年ぶりの里織の格好は、いつも通り振り袖だった。今年は青く、髪は結い上げて簪を差している。そして福本は派手ではないけれど存在感のある朱の振り袖、神楽は白が目立つ振り袖だった。二人の髪はそのままだ。

 俺が三人の振り袖と美帆の私服を比較して混ぜ返すと、さすがに美帆と里織に怒られた。

「賢志は自転車で来いよ。俺は自転車を漕いできたんだぞ?」

「いつも楽ばかりしてるんだから、たまには苦労しろ。そうでないと経験が偏るだろ。美帆も自転車か?」

「違いますよ。私は親の車で来ました。いくら初詣でもこの時間は危ないので」

「そうか。さて、少し早いが、もう行くか」

 その賢志の言葉を機に俺たちは神社へ足を運んだ。これから向かうところは福本と神楽は初めてだが、それ以外のメンバーは高校進学以前の話になるが毎年参拝に来てた神社である。後、その町は里織の地元である。

 昔、里織が話していたことだが、その神社は町から結構離れた島の大社の分社であるらしく、その大社自体はそこそこ大きなものだと言う。そして、里織の家はその大社と深い関わりがあるらしい。

 また、秋が深まった頃になると、町内と隣町の子供たちがこぞって、舞子などに扮装して参加する祭りが催される。これには、俺たちも遊びに来ていた。里織は中学の間だけ、豪奢な巫女服のようなものを着て稚児の舞を披露していて、短い間だけだったが俺たちにとっては祭りがさらに楽しくなる見物だった。

 人気がなかった暗い路地も、鳥居をくぐると一転して結構な長さの人の流れが目に飛び込んできた。両側の壁には等間隔に提灯が吊り下がっている。揉まれるほどの数ではないけれど、女性陣の足下が普段のものと違うから、足場が悪いのと相まっていつもと比べて進めない。が、気にするほどではない。高揚としていたせいもある。

 しばらく歩けば年代を感じさせる、石を切り取ったようなぼろぼろの階段があり、あがればむき出しの土と仰いでも先が見えない巨木がいくつかある境内。神殿があるさらに上の境内にあがるための階段に向かう途中に、テントと餅を手渡すおばさん、臼に転がった餅を杵で打っていく暑苦しいおっさんに境内を広く照らす灯りがあった。ちなみにその灯りは、いくつかの木材を足になるように組んで中央を紐で縛り、頭にはぱちぱちと炭を砕いていく火を載せた古めかしいものだ。

 賽銭箱の前には結構な人だかりがあったが、市内の参拝スポットである城と比べれば圧倒的に少ないから、すぐに順番が回ってきて柏手が打てた。次に俺たちは神社の裏手に回り、そこにもある、今度は胸に抱えられそうな大きさの賽銭箱に小銭を入れて、また柏手を打つ。

 下の境内に下りると、何を思ったのか賢志とその連れ二人が餅つきするおっさんたちに交じってはしゃぎ始めた。

 残された俺たちは仕方なく人混みから離れたところから、遠巻きに賢志たちを見物するが、それもすぐに飽きて手持ちぶさただった。それに里織の存在があって居心地が悪い。すると、美帆が壁から腰を浮かした。

「そうだ。私、何かあったかい飲み物買ってきますね。せんぱいたちは何がいいですか?」

「ブラック」

「ブラック、と。さとり先輩は」

「私も」

「ブラック二つですね。了解です。じゃあ、ぱぱっと買ってきますね」

 いちいち復唱して確認を取ると、美帆は快活な返事を残して駆けて行った。使い古した表現であるけれど、まるで子犬である。それもかなり従順な。俺は流し目にその背中を眺めて、ぽつりとこぼす。

「……たいがい正直者だな」

 大切なことになると、美帆は肩がこわばるから簡単に透けて見えるのだ。

 手慰みに持っていた火を灯してない煙草をくわえて、上下に揺らした。煙草を吸っていないと、すごく口が寂しい。そうしていると、声を掛けられた。

「気を遣わなくてもいいのにね。だけど、せっかく気を遣ってもらえたんだから、有効に使わないといけないと思わない?」

「面倒じゃね」

 やる気なく返すと睨まれた。小柄なくせに鋭い眼力だ。顔が怖い。

「怖い顔をするなよ」

「真面目に話する気できた?」

「はいはい。聞くからどうぞ」

 覇気のない仕草に里織はますます目をつり上げるが、それ以上は追求してこなかった。これ以上は不毛だということは理解してるのだろう。そうしてくれないと俺も困る。

「怠け癖は変わらないのね。私が恭一くんの何に怒っているかわかってる?」

「全然」

「…………美帆ちゃんのことよ」

 今にも溜息をこぼしそうな勢いの顔つきで、絞り出すように声を出した。俺は眉をひそめる。

「俺、何かしたか?」

「別れたくせにヤッてるなんて、恭一くんはどれだけ飢えているんだか」

「さらっと言うな」

 さらりとぶっちゃけるから俺は吹き出して苦笑いだ。

「お盛んなことは結構だけど、別れた相手にそれを求められる神経が理解できないわ。まあ、美帆ちゃんからも迫っているから、これはお互い様。だけど」

 里織はためを作った。

「それは、恭一くんが美帆ちゃんにはっきりした態度を示さないから。だから美帆ちゃんは中途半端な行動に取らざる得ないんだ。きっぱり言えばいいのに、どうしてずるずると美帆ちゃんと昔の関係を引っ張ってる? いつまでそうしているつもり? 美帆ちゃんは待っているんだ。あんたの言葉を」

 俺に口を挟む暇を与えず里織は言い切った。言い切って、堅く口を閉じて俺を睨みあげる。顔が怖い。刺さる。いや、今にも髪に挿した簪を抜き取って、俺の首筋に当ててきそうな勢いだ。あながち冗談でないのが、一層恐怖を増す。

「しっかり別れは口にしたんだけど。あいつがお前にそう言っていたのか?」

 案の定、里織は首を横に振った。

「違う。けれど、私はいらいらするの。煮え切らないあんたが。もう一度、はっきりさせてきなさい」

「お前に強要する権利あるのかよ。お前の気分だろ、それ」

「…………そうね。でも、後悔する前になんとかしんなさいよ」

 里織は激情を引っ込めると、そのまま視線を遠くにやって立ちつくした。

 俺はこっそり溜息をこぼす。二年ものの喧嘩の原因があっさりとわかった上、果てしなくくだらなかったからだ。

 まだ美帆は帰ってこず、賢志たちも終える気配を見せない。今では無表情の里織を盗み見て、俺も遠くに目をやった。煙草に火を灯して、ふかす。薄い煙は立ち上ってもすぐに空にかき消される。澄んだ空気の前には、煙は圧倒的に弱く入り込む余地がない。そして澄んだ空気は俺の体を刻一刻と冷やしていく。そろそろ本当に体が震えそうだ。

 思い出したように里織が俺を見て言った。

「美帆ちゃん、毎日昼休みになると教室を訪ねてきてるよね?」

「ああ、そうだけど」

「健気ね」

 それだけ言うと、再び里織は遠くを見た。何の嫌がらせだろう。

 そういえば、里織に美帆を紹介したのは俺だったか。合コンで知り合って付き合うまでの間だったと思う。仲は最初から良かった。

 もうしばらくしてから美帆はやっと帰ってきた。俺と里織を伺うように見たのは、やはりそういうつもりだったのだろう。胸に抱えていた缶コーヒーを渡して、俺と里織の間に地面から腰を浮かして壁にもたれかかって座った。

 全く可愛い後輩である。

 俺はもちろん、恐らく里織も苦笑した。

 俺たちが缶コーヒーを啜って体を温めていると、賢志たちが餅の入ったパックを持って戻ってきた。賢志が俺の手元を見て言う。

「お前も餅をつけばよかったな。温まるぞ」

「だるい」

 切って捨てて、携帯灰皿に煙草を押しつけた。

 福本がくすくすと笑って賢志を労う。

「たくさん指導されたよね。けんじくんは頑張ったよ。握り方に付き方に、細かいところまで、付きっきりで教えられて。ちょっと間違えただけですごい勢いで怒られてたんだよ? 見てた?」

「あきた」

「私も」

「私は途中で飲み物買いに行ってました」

「ははは……。がんば」

 ただ一人、美帆だけがすまなさそうに言った。哀れな奴である。賢志の報われなさは相変わらずなようだ。どことなく、賢志は残念そうだった。苦笑する福本は腕を叩いてあげている。

 不意に神楽が俺にパックを手渡してきた。俺は礼を言って受け取ると、神楽は仏頂面のまま、すたすたと福本の隣に戻っていった。美帆はご満悦で、里織は無表情のままだった。

「で、どうする?」

「こんな時間に店が開いているわけがないからな。これで解散だろ」

 賢志の言葉に、他の面子も口々に「そうだね」と言ったから、解散となった。といっても、これからまたコンビニにまで行って車の奴はそこで待たないといけない。とりあえず、俺たちはコンビニへと向かった。そして境内を下りていく。そんなときだった。俺は振り返って、近くにいた美帆の肩を叩いて一気に言った。

「悪い。先に帰っていてくれ。他の奴にも伝えてくれ」

「え? はい?」

 きょとんとする美帆を置いて、俺は境内の方へ駆け出した。


 走っていく内に、いつの間にか神殿の裏手に来ていた。この時間帯になると、参拝客の姿は全くない。せいぜい表でたむろっているぐらいだろう。

 さすがに俺の前に立つ人は俺に気づいたらしく早々に振り返った。その顔は呆れている。

「そのしつこさも、ここまで来るとすごいと思うわ」

 イクニさんは近くの墓石のようなものに腰掛けた。里織から顰蹙を買いそうだ。

「今日はどうしたの? ライター? 懲りずにアドレス? もしかして煙草かしら?」

「どれも違いますよ。そんなことばかり考えているわけではないんですけどね」

 イクニさんの俺に対する印象に思わず苦笑をこぼした。釣られるようにイクニさんも薄く笑った。ささやかだが、感情を前面に出してくれるようになっている。でも、まあ多分、あの澄ましたような顔がイクニさんのスタイルなんだろうけど。

「そうなの? ごめんね。てっきり、そんな子だとばかり思っていたわ」

「ちょっとひどい言われようですね」

「それで、どうしたの?」

「話をしに来ただけですよ。ナンパ目的ばかりで話しかける訳じゃないですよ」

 冗談交じりに口にすると、イクニさんは目を丸くした。

「あら、ならちょうどいいわね。私も話し相手が欲しかったのよ」

 イクニさんの表情が柔らぐ。俺にとっても都合が良かった。彼女が腰掛けている墓石に程近い塀にもたれて、イクニさんに続いて煙草をくわえて火を灯した。

 空を仰げば市街とは比べほどにならないほどの煌めく星空がある。それに負けじと、煙草の先に二つの濁ったオレンジの光が細々と輝いている。

「もしかして、イクニさんは市内を歩き回ってます? これで三回目ですけど、結構会いますね」

「当たり」

 冗談だったのだけれど、イクニさんはどことなく悪戯っぽい笑顔を浮かべたのだから驚いた。思わず俺は彼女をまじまじと見てしまう。

「意外と足腰強いんですね。何かスポーツしてました?」

「そうね。これでも剣道をしていたのよ。後、薙刀も少々。小学校に上がる前から練習していたから、かなりの腕前」

 握って開くを繰り返す彼女の小さな手からは想像もつかなかった。顔に出ていたのか、イクニさんはからかうように目を細めている。

「あら、信用ない? 実は合気道もしてたの。ちょっと組み手でもする?」

 意外と彼女は好戦的だった。俺は笑って流す。

「できることなら荒事は勘弁です。というか武道系を嗜んでいたんですね。道理でこんな夜中に一人で出歩いているわけだ。ところで今日も散歩ですか? 涼みに来たとか」

「それも当たり。良い勘してるのね、君」

 機嫌を良くしたからか、今日の彼女はよく喋る。美帆とはまた違う、気品があって老獪なソプラノがまるで好きなアーティストの歌を聴いているようで、俺を高揚とさせる。

「孤独を内包する景色はとても美しいと思うの。たとえば、ここみたいなひっそりとした場所。澄んだ空気が私の中まで浄化するような錯覚を覚えるわ」

「喧騒が嫌いなんですか?」

「いいえ」

 当たりをつけてみるが、あっさりと否定されてしまった。しかし今の彼女は思わず見惚れてしまうほどに魅力的だった。まるで夢を見る少女のような、それでいて思わぬ快楽に戸惑いつつも溺れていく女のような、繊細なものだ。

「誰もいない港に立って、波飛沫に耳を澄ますのもまた、乙なものよ」

 つまるところ彼女の感性に人は邪魔ということになる。しかし、ここは余計なことを言わない方が華だと直感した。

「君はどう? 景色は嫌いかしら?」

「好きですよ。人間観察も同じくらい好きですね」

「それはまた、素敵なスキルね。接客に向いてると思うわ。人付き合い上手でしょう、君」

「よく言われます。……イクニさんって、なんというか、すごい冷静で客観的に物事を見てるような雰囲気がありますよね」

「そうね。私と面識を持った人は、君と似たようなことを言うわ」

「それにあか抜けた感じもあります。都会の出身だったりしませんか?」

 そこでイクニさんは瞬いた。真顔のまま首を傾げて、俺をじっと見つめてきた。

「どうして?」

「だからあか抜けてるように見えたからです」

「単純ね」

 冷ややかな口調だった。

「近からず遠からずといった感じよ。もしかして君、都会に興味があるのかしら」

「そりゃありますよ。今時の若者なんですから」

「確かに見た目通りの若者よね、君は」

 イクニさんはうっすらと微笑む。

「すると、やっぱり将来は都会で就職になるのかしら?」

「そうしたいです。そのためなら努力は惜しまないつもりでいます。まずはどんな仕事をするかを考えないといけないんですが」

 意気込んだのはいいけれど、もっとも大切な部分が抜けてるから、とたんに恥ずかしくなって口を歪めた。

 しかしイクニさんは容赦なく突いてきた。口調はやっぱり冷ややかである。

「まだ考えていない訳ね。そこが君らしいと言えるわけだけれど」

 見透かしたようなことを言う彼女が不思議と鬱陶しくなかったのは、何故なのか。全く見当もつかなかった。ただ、面白い人だなと思えた。

「有限の時間を、当然、無限にあると勘違いするのは若者の特権ね。果てを見てしまった子供は、もう子供ではなく大人。大人は安寧を望む人間のこと。なら若者は変革を求める人間といえるわ」

 不意にイクニさんがこぼした独白に俺は首を傾げる。何が言いたいかわからない。そもそも、今の彼女の目に俺が映っているかすら怪しい。

「この定義で言えば、君は若者らしいわ。やはり若者は変化を貪欲に求めるものでないと。君はどうして煙草を吸うのかしら?」

「どうして煙草を吸うかと聞かれても」

 唐突の振りだ。そして彼女は淡々と付け加えた。

「理由のない行為なんてものは絶対ないわ。人が何かをするとき、そこには意識的にしても無意識的にしても、理由があるの。理由がないなんて例外があれば、今ある学問は破綻してしまうわ」

 もっともらしい言い分だ。少なくともさっきよりはわかりやすかった。けれど、どれだけ言われようと結論めいたものが見えてこない。

「…………そんな力まないでいいわよ」

 とたん、彼女が薄い笑みをこぼしたものだから、俺はかなり訝しんだ。

「ほんの軽口よ。深く考えなくても、気にしなくてもいいわ」

「つまり、冗談ですか?」

「それだと少し言い方が悪く感じられるけど、概ねそうよ。ごめんね」

 とても謝っているとは思えないほど、口調は淡々としていた。顔は笑っているから落差が激しい。

「でも、君が都会に行きたいという気持ちは、今の現状に不満があるからではないかしら?」

 本当に見透かしたようなことを言う人だ。

「…………愚痴を聞いてもらえますか?」

「いいわよ。私は話し相手が欲しかったのだから、むしろ願ってもないことだわ。存分に語りなさい」

 げんなりとする俺とは対照的に、彼女は今までになく明るい調子だった。余計に彼女のことがわからなくなった。でも、ここで取り下げるのも勿体なく感じがして、俺は素直にとうとうと語り始めた。

「卒業証書欲しさで高校に進学したのですけど、高校だからこその楽しみも期待していたんです。見事に裏切られました。担任ははっきりとしない上に何もわかってない人で、同級生は自分の価値観にそぐわなかったり、自分以外がでしゃばったりすると、一生懸命潰そうと躍起なるような奴でした。これなら、早々と専門学校に行けば良かったと思うぐらい、時間の無駄使いだなぁって思うんです。面白くないんですよね」

「理不尽な環境ね。君が周囲と上手く折り合いをつけられるタイプだから、冷静さが余計に君の神経を擦り切らせているのでしょうね。容易にはいかないわ。でも、華やかな高校生活を送ってる、送ってきた人なんて、ごく希だと思うわよ? 諦めたら?」

 まさしく正論で思わず苦笑がこぼれる。

「現実的ですね……。俺が聞きたかったのは正論ではないんですけどね。これだから田舎は嫌いなんです。選択肢が狭いから」

「都会だって、特段選択肢が広いわけではないんだけどね……。それは自ずとわかるでしょう。ただこれだけは指摘しておくとね。環境で選択肢が決められることもあるわ。けれど、世の中それに抗う人がいる、君のように。そんな人は、諦めるか、もしくは自ら選択肢を狭めるか、己の願いを叶えるかに分けられるわ。私には君がこれからどうなるか知りようもないけれど、君は君の意志を大切にして欲しいわ。だって君、面白い子なんだもの」

 褒め言葉だと思うことにした。

「…………そういえば、イクニさんはこの町に住んでいるんですか?」

 彼女の足下の古めかしいトランクを見る限り、多分違うだろうけれど一応聞いてみる。

 随分と短くなった煙草を口元から離して、イクニさんは俺を横目に見た。

「この町には旅行に来たの。この辺りの景色を見て回っているのだけれど。やはり土地勘がないときついわね」

「じゃあ俺が案内しましょうか? 詳しいですよ」

 実を言うとそこまで詳しくない。わざわざ不利になるようなことを言うこともないだろう。

「お願いするわ」

 彼女は目を細めて、歯を覗かせた。

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