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第5章 ~二人の選択・真実の欠片~

カトレアとクロス両国の戦争は硬直状態にあった。


原因は”シンクレアの変”と名付けられたフロルドの拘留事件だ。


シンクレアとは事件の有った学園の名である聖十字シンクレア軍事学園から来ている。

カトレアでは軍人はエリートであるため戦争反対派(穏健派)が皮肉を込めてそう名付けたのだ。



その裁判以降クロス軍はフロルドの軍事介入を恐れ守りを固めて状況を見守っている状態で有り。

対と為るカトレア軍はフロルドの抱き込みを計り、軍の先兵となる事で罪を許すとして勧誘に励んでいるが拒否され続けている為守りを固めたクロス軍を攻め切れずにいた。


かと言ってフロルドを罪に問い処罰する事は先のクロス軍の進攻でたやすく町一つを落とされた帝国カトレアには不可能でもあった。




~皇居地下特別牢獄~

その牢の一つに立つ牢番と一人の罪人が世間話混じりに物騒な会話をしていた。


「協力する気にはなったか?」牢番


「する訳無いだろ。」フロルド


「このままだと処刑だ!

 それで良いのか?」牢番


「お好きにどうぞ・・・。」フロルド


「もう何人も殺してるんだ!

 今更だろうが・・・。」牢番


囚われの人物の身を半分案じ、半分は利用する為に説得していたがそこで二人の会話は一旦終わる。

人が来た為だ。



〈コツッコツッコツッ〉



静まり返った廊下に足音が響く。

暫くして足音の主が姿を見せる。


皇帝とガイアだった。

牢内に居ながらまるで自宅のベットで寛ぐ様に出迎えた黒髪の青年を忌ま忌ましげに睨みながら、既に利用価値の無くなった一枚の政治的カードをそれ以外の目的で最大限利用するために切る事を決意した皇帝は、


「娘をくれてやる!」


獄中で寛ぐ自国最大の戦力に対してそう告げた。

しかしそれを言われた当人は、その申し出を一蹴する。


「それで協力すると?」フロルド


「勿論断っても良い!

 ただし・・・その時はどうなるか・・・。」皇帝


そう言って不敵に笑う。


「それは脅しと言うらしいぞ?

 一般的には・・・な。」フロルド


「随分と余裕がある様じゃな。

 とても脅されとるとは思えん。」ガイア


「脅しに成ってないんでね。」


と今度はフロルドが不敵に笑う。


「・・・自分の立場が判っているのか?

 この牢は魔封石で出来ている。

 幾ら貴様が強かろうが此処に居る限り何もできん!」皇帝


魔封石・・・魔力を掻き消す魔石で希少価値の非常に高い鉱石。


それで作られたのがフロルドの居る牢だった。


「だからと言って人質を殺せばオレは迷う事無くクロスに付くぞ?

 それともエリシアをオレの目の前で拷問でもしてみる?」


そうフロルドは余裕たっぷりに言った時、別の人間のいた足音が響いた。


暫く全員声を出さず訪れた人物を待つ形になり暫しの沈黙となった。




「フロルド君。

 ・・・失礼しましたお父様にガイア様。」


そんな中、上擦った声から後半は沈んだ声になりながらエリシアがフロルドの牢を訪れる。

それに皇帝は、


〈随分間のいい〉


フロルドとガイアは、


〈随分間の悪い〉


とそれぞれ思いながら迎えた。

その雰囲気は彼女エリシアにも伝わったらしく登場直後、固く暗い顔で固まってしまう。

その様子を知ってか知らずかエリシアを無視して話は進む。


「エリシエール、喜べ!

 たった今フロルドとの婚姻について話していた所だ。」


そう皇帝は半ば狂喜を含んだ笑顔で話しを再開した。

その顔と言葉の意味を正確に読んだ彼女エリシアは引き攣った顔を其の儘に顔色を一瞬で蒼白に変えて佇み、その手は小刻みに振るえ始めている。


「どうした?

 青い顔をして、もっと喜んだらどうだ惚れていたのだろう?

 折角身分に関係なく籍を入れられると言うのに普通なら有り得んのだ。

 平民からの成り上がりと皇族の婚姻など。

 それを許す余は随分と寛大であろう?」皇帝


追い撃ちを掛ける様に皇帝の言葉は続く、エリシアとしては皇帝の、実父の口からこれ以上の腹黒い言葉は何も聴きたくは無かったのだがそれで終わる程狂気を孕んだ皇帝は甘くは無かった。


「さぁ。

 早くともに生きたい婚姻の申し出を伝えなさい。

 父として大いに歓迎するぞ。

 この者も皇女の申し出を断る不敬等せんだろう。」


口調こそ優しい皇帝だったがそれが自分に対しての優しさでは無く。

フロルドに対しての揺さぶりであり脅迫なのは言うまでも無く理解できた。

そのためエリシアは俯き、


「・・・ゴメン、ナサイ・・・。」


そう口にするしかなかった。


「なぜ謝る。

 もっと嬉しそうにしたらどうだ?

 貴公等(フロルドにガイア)もそう思うだろう?」


この場にエリシアが現れた事でフロルド自身が口にした目の前での彼女の拷問(陵辱)。

それが現実になりかけた事で皇帝はフロルドとエリシアを精神的に完全に追い詰めていた・・・。


「さあ?

 返事を聞かせてくれ。

 勿論断らんな?

 我が娘、エリシエール、それとエレメントマスター、フロルドよ。」


しかし皇帝がそう言い終わるよりも早く二人は動きだしていた。


エリシアは自分が取引材料となる事を永遠に拒否した。

舌を噛んだ(自決した)のだった。


これ以上フロルドに迷惑を掛けられ無い!

掛けたく無い!

追い詰められていた彼女はその思いから冷静で在れば短慮と言えるが今の状態では最善と思う行動を取っていた。

エリシアの様子を見ていなかった皇帝は自らが指し示した結末に気を取られ自ら追い詰めた少女が口から血を流し倒れるのに全く気付か無かった。

そんな皇帝とは裏腹にガイアは舌を噛んだエリシアが倒れる前に抱き留め声を上げる。


「エリシア君!

 シッカリしなさい!

 死んではならんぞ!」


そう叫んでいた。

その声で皇帝は初めて娘が舌を噛んだ事を知り愕然とした声を上げる。


「なっ…!」


そう呟くだけに留まったが驚嘆は隠し切れていないのは傍目からでも理解できた。

そんな表情を浮かべる皇帝は人の心を理解していないが故に、統治者(皇帝)であるが故にエリシアの行動の意味が理解の範疇を優に超えたていた、事態に付いて行け無くなり完全に取り乱していた。


皇帝としてはエリシアにとってはフロルドを自分の物に出来る最も簡単でてっとり早い方法を示したのに舌を噛んだのだから、何を差し置いてもこの話に乗る物と思っていたのだろう。

しかし現実は意味不明の事態に推移した為に皇帝を混乱させ皇帝の計算を完全に打ち砕いてしまっていた。




そんな皇帝を他所にガイアは治療を始める。

本来、治癒魔法はフロルドの方が数段格上ではあったが牢から出していたのではとても間に合わない。

そう判断したガイアは自ら治癒魔法の行使を行う、自らより格上と言っても十分にガイアの魔法もエリシアを治療出来るからだ。

勿論その判断は正しく何の問題も無かった。




しかし・・・。


〈治療を行えばまた道具として扱われる事になろう。

 それにこの娘はフロルドの足手まといに成たくないからこそ・・・舌を・・・かんだのじゃろう。〉


その思いが治療への集中力を奪っていた。

当然それはエリシアの命を更に危険に曝す事となったが、情に流されつつあったガイアにその思いを打ち消す事は出来ずエリシアは瀕死の状態のまま治療は中断されてしてしまう。




一方獄中のフロルドはエリシアが舌を噛む直前ある行動を開始していた。

それはエリシアが半錯乱状態にあることを正確に把握した上で自分のために命を断つ可能性が有る事を考慮した判断では在ったが、彼女の行動は彼の予想より早く、エリシアのフロルドへの罪の意識の大きさを物語っていた。

舌を噛んだエリシアの状態を確認した彼は、その後の成り行きを観察しながら通常なら必要は無いが、人命を最優先に考え頭の中で詠唱を開始する。


〈光輝なるみち、生を満たす優しきともしびその照らし守る活力、汝がに・・・。  シャイニングリカバリー〉


そう心の中で唱え魔法の発動を遅延させつつ、詠唱と同時に腰を落とし居合の様な構えをとった。


勿論、牢生活のフロルドに武器は無い。

その上此処では魔法は使えない魔封石の効力だ・・・・・・。

が、牢の鉄柵は切り裂かれると同時にエリシアの傷は癒えていた。


そのままゆっくり歩きながら気を失った少女を抱き上げながら独り言葉を紡ぐ・・・、その声は皇帝とガイアの声で掻き消された。


「フロルド、貴様は一体何を!」皇帝


「フロルド、お主何をしたのじゃ!」ガイア


その悲鳴にも似た声には答えずに気を失った侭のエリシアを見つめ呟いた。


「困ったヤツだ!

 サファイア・・・使わせやがって・・・全く。」フロルド


そう言いつつも嬉しそうな寂しそうな複雑な思いの感じ取れる顔を向けていた。


「・・・んっ・・・・・・。」


それから直ぐにエリシアは声を漏らしながら目を覚ましフロルドの顔が近くに有る事を気付くと真っ赤な顔で暴れ回ったが、暫くしてそこに不自然さを感じ暴れるのを止めフロルドの顔を凝視(観察)し始める。


普段の彼とは僅かにしかし明らかに何かが違っていた。

違いはすぐに判った。

目の色が右目のみ蒼に、黒と蒼のオッドアイに変化していた。


「・・・目の色・・・変、蒼くなってるよ?」エリシア


困惑しながらその事を告げる少女には目を向けず声には答える。


「誰のせいだと・・・まぁ良い。

 これが本来のオレの目の色だ。

 オレは元々オッドアイ、傍目に目立つから髪の色と合わせて黒に変えてるだけだ。」フロルド


「オッドアイ・・・魔眼かの!

 どうにもお前さん呪われた王子じゃった様じゃな。

 じゃから身分を隠しておったか。」ガイア


「蒼い隻眼の魔眼・・・まさか!

 サファイアか!」皇帝


「これで判ったろう?

 俺は貴様程度にどうこう出来る人間では無い!」フロルド


「待って!

 また一人で行っちゃうの?」エリシア


フロルドと皇帝達の駆け引きを余所にエリシアはフロルドが今度こそ居なくなる様な気がして状況にそぐわない台詞ではあるがそう聞いていた。


「・・・そう為るだろうな・・・。

 お前はどうする気だ?

 先に言って置くがお前の事まで庇ってられんからな。」フロルド


遭えて冷たい眼を彼女に送りながらそう聞くとエリシアは逡巡しながら答えた。


「・・・私は・・・・・・・・・。」


どもども、本年最後の更新です。

作品書いてて思ったのですが、この作品、主役級簡単に死にかけすぎか?

でも別にいっか・・・。

で、話は変わって裏話を一つ、実は以前(序章で)この作品は別サイト投稿だと書きましたが、加筆修正の段階でサブタイトルが変わってる部分が幾つか有ります。

更に別サイト投稿分とはボリュウム全然違います。

元探しして読んでみると面白いかもです。

投稿サイトに付いては進行が追い付いた時にでも紹介しますので、我慢してください。


では、皆様、良いお年を。

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