第3章 ~派閥・決意と決別②~
エリシアは自分勝手な行動を心底後悔していた。
≪
カイ様の言った通りなら私は間違い無くフロルド君を破滅させた事になる。
当然だよね、彼の今の地位も名声も職も家族もその他の全てを最悪その命でさえ私が感情のままに取った行動で破壊した事になる。
そしてフロルド君は立場上その責任を取らざる終えないんだから。
孤児院の孤児達と言う不特定多数の幼い子供達を巻き込んで。
それだけの事をしでかしたのに、フロルド君は私を庇ってくれた。
その結果が彼自身の命さえも失いかねない大怪我をする可能性がある事は十分に理解していたはずなのに。
事実、私はそれだけの怪我を負わせてしまった。
だと言うのにそれほどの怪我を負いながらあの瞬間、まるでそうする事が当たり前だとでも言っているかの様に笑いかけて私の無事を確認する言葉をくれた。
『無事か?』
と、問い掛けてくれた。
そして私の無事な状態を見たあの瞬間、間違いなく安度していた。
その事がカイ様から話しを聞いた今では私には不思議でしょうがない。
そうだ、間違いない。
あの時の彼の目は紛れも無く私の無事に心から安度していた。
それと同時に自分が負傷した事も死ぬ可能性がある事にもエレメントマスターとしての彼の存在価値が無くなる事に対しても彼に繋がる沢山の人達を不幸にしてしまった事にも。
違う!
あの時起きたすべての事に対して私を非難するつもりが全く無かったんだ。
≫
エリシアはその事実に尚更、子供染みた自分の余りにも短慮な行動を後悔した。
≪
惨めだと思う。
余りにも惨めだと、成績優秀?才色兼備?20年に一人の天才?誰に対してもやさしい?誰が?私が?
何処がよ!!!
たった一人の本当に優しくて、強くて、思慮深くて、我慢強くて、その上冷静で。
今までずっと総てを視ていた人がすぐそばに居たって言うのに?
どうしてそんな事が言えるの、受け入れられるの!
違う!
違う!!
そうやって他人の評価だけを見ていたから、聞いていたから、そう思われるのが居心地がいいから、見たく無い物を見て見ぬ振りをして来たから、だから!
だから一番大切な人には振り向いて貰えなかった。
少し気を回せばある程度なら不自然さに気づいた筈なのに。
どう考えてもフロルド君は最初から私がフロルド君と深い関係にならないで済む様に自分から距離を取っていてくれたし、彼の成績で魔法科に在籍事も有り得ない、今にして思えば不自然な事だらけだ。
その事に気付いて聞いていればもしかしたら私が皇族である事、これは無茶かも知れないけど、フロルド君がエレメントマスターで誰かの護衛であることは教えてくれたかも知れない、ううん!
きっと教えてくれた。
今なら自信を持って言えるその方が護衛はしやすい筈だし不自然さが少なくなるから。
だというのに私は他のクラスメイトと明らかに違うフロルド君を只の虚栄や嫉妬で振り向かせ様とした、してしまった。
フロルド君が気の無い態度を取って引き離そうとしても尚、かたくなに彼の周囲を付き纏った。
ただ、取り巻きとして彼を飼いたかったから。
その結果がこれだ、私の醜い部分が綺麗に浮き彫りになった訳だ、本当に情け無い。
そして彼を失いかけて初めて自分の本当の気持ちに気付くなんて本当に滑稽だ、私は。
フロルド君は最初から他の誰よりも私と言う人間を本当に大切にしてくれていたのに。
カイ様は彼の事をお人好しだと言っていた。
本当にその通りだと思う。
フロルド君は、怪我が治った後、私が謝っても決して私を責めたりしないと思う、ううん絶対にしない。
それどころか逆に謝ってくれると思う。
『騙していて済まない。』
と、言い方は違うかも知れないけど間違いなくそういった言葉を言ってくれる。
大馬鹿者の私にだって本当は判ってる!
これ以上彼の側にいる資格は私には無いって事くらい。
でもそう思っていても、解っていても、それでも強く強く彼に惹かれていってる自分がいるのは隠し様が無いの。
今自分の横で眠るフロルド君が放つ暖かなオーラが・・・。
変化の魔法が解けた事で彼の本当は女性かと思わせる程綺麗で整った顔を見る事になって・・・。
エリシアと言う人間を引き付けて放そうとしてくれないでいるから。
フロルド君からすれば端迷惑な話だと思う。
私はフロルド君に怨まれて当然の立場なんだから、既に愛想を尽かされたはずの立場なんだから・・・。
だと言うのに・・・。
なのに、それなのに・・・。
今頃気付いたフロルド君への好意をまだ未練がましく持ち続けている自分が本当に可笑しくて堪らない。
同時にどれくらいこの人を愛していたかを思い知った。
決して叶わない恋だと言う事は自覚してる。
だって自分で壊してしまったんだから。
≫
もう決して叶わなくなった恋にエリシアの目元から透明な冷たい雫があふれた。
その酷く澄んだ雫はエリシアの頬を伝って空を舞いフロルドの頬を濡らして消えた。
しかし消えた筈のその雫は幾度消えようともあふれては空を舞い頬を濡らして消え、またあふれては空を舞い頬を濡らして消えをただ続ける。
繰り返し繰り返し時間が許す限りその光景は一向繰り返された。
行き成りですが今回の章は実は章分けする必要は全く無かった章です。
それでも敢えてそうしたのは読んで頂ければ判りますがこの章はある人物の脳内回想モードメインに仕上げてあり、続けて書くより分かり易いかと思ったからです。
今後も偶にこういった書き方をすると思いますがご理解くださいね。