第12章 ~紅の台頭・見える繁栄、見えざる衰退①~
フロルドとゲンブシンのトルカナ湖での戦いから既に3ヶ月の月日が流れていた。
その間に世界情勢は想像以上の変革を見せていた。
まず目に付くのは、イカロスの急速な発展だ。
理由はエルフ族を始めドワーフ族、ウルフへジン族と言った亜人族は自然信仰の精神が強く、その概念から良く言えば、歴史・伝統を重んじる、悪く言えば変化を嫌う古臭い風習が根強かった為、科学(化学)技術と言う物を軽視する傾向が強かった、それ故に人種の技術と言う物を余り受け入れて来なかった。
しかし、先の蒼のカルタロッサ入りとその後の発展に強く興味を引かれた部族は多く、また、幼少期より亜人との親交の強いフロルドに教育された蒼のクルーは亜人族にも受け入れやすい、自然との共生と発展の両方を主観に置いた中立的な技術体系を模索し開発させていた事から受け入れられるのにさほどの時間は必要なかった。
その結果が出た形だ。
続いては神社、神殿と言った神族の関係だ。
巫女姫であるシャラが社を出た事(一般には誘拐された)で各神殿の関係者はフロルドとその協力者に対しての警戒をさらに強めたのである。
当初はシャラの逃亡を隠蔽する事も考えられたが、誘拐に内容を摩り替え事実を公表する事で忌み狩りの必要性を信者に浸透させかつ、巫女の奪還を信者に強く刷り込ませる為、ゲンブシン等はこの事実を公表したのだった。
しかしその思惑は想像以上の効果を見せ、他国、他宗派の神信者のフロルドへの不信感を助長した。
『次は我等の当主ではないか?』
と・・・。
その後の各関係部署の対応は早かった。
神の反逆者としての汚名を被る事と為ったフロルドは各方面に指名手配書が飛びかい、ついでとばかりに帝国からの皇女誘拐の報を捏造された為に英雄としての名は地に落ち、邪術師としての悪名が轟いていた。
しかしそれでもイカロスではフロルド擁護の声が根強い。
表立って擁護するには事態が大きくなり過ぎている事もあり戦争に発展しかけないからと抑えられているがそれでも養護を表明する者は跡を絶たない。
要因はやはり蒼の存在である。
また非公式ではあるが誘拐されたとされている皇女の保護事実がナタルによって上層部に上がっていた事、更には、種族柄風評で物事を判断しない者が多い事もある。
次に帝国である。
帝国内は現在、共和国との戦争により戦線を大幅に下げ領土を占領されている状態にある。
カイ、フロルドのいない帝国はその抑止力を大幅に低下させているその影響が想像以上に深刻だったのだ。
カイは戦前から虹に属する有力な帝国魔導師として各国、各都市を積極的に回っていた、この行為は主観的に見れば共和国将軍としての諜報活動だが、客観的に見れば国内屈指の魔導師の視察である。
口こそ悪い四皇であったがそれでも人前に滅多に姿を見せない他の四皇よりは余程親しみやすい事もあり、支持率は四皇内ではダントツに高かった、その裏切りは帝国軍の士気を大きく下げた。
また、フロルドの罪状の決定により親フロルド派の権力は地に落ち、その筆頭だったマリアーナと、シンクレアの変の折り、フロルドを擁護していたガイアへの不信感の拡大もあり発言力の低下に伴って派閥トップ2の指揮能力は低下し、実質の最高権力者となったレックスはその行動から未だに女性クルーからの支持の低迷が続くと言う戦時の軍としては最悪の状態にあった。
その上、皇帝の開戦の判断に対して現状の戦況から市民の疑心が強くなり、こちらに対しても支持率の低迷と言う悪循環に陥っていた。
そして何より帝国に打撃を与えたのは元フロルドの直轄部隊の戦線の離脱であった。
この部隊は実質の派閥の最前線部隊で練度も高くまた、シンクレアの件でも判る様に指揮官で有ったフロルドへの信頼が強く帝国のフロルドに対しての扱いに疑心が強く残っていた。
事件の一部始終を遠巻きながら視ていた事も有り帝国の発表に偽りが有る事を知っているからだ。
またこの事態に対して皇族の自業自得と考える者も直轄部隊には多かった特に自身の上官は拘束直前、事態を予測していたかの様な命令を送っていた事もあり、彼らは最優先事項として彼ら自身の身の安全を優先した判断を多くの者が選択していた。
その結果、共和国に侵略を受けながらも国内が大きく分裂状態に突入し、半内乱状態に陥っていた。
最後にクロス共和国の状態だ。
共和国内は現在、十字議会を中心に国内が優位な戦況に後押しを受け、議員への支持率が非常に高くなっている。
元々帝国からの宣戦布告を請けての開戦だった事も有り仮に劣勢だったとしても国民の多くは現政権を支持していた事は予想されるがそれでも、それでもだ、議員達を中心として国民の多くが
「高い戦意を有している」
その事実は共和国と言う軍隊を非常に強力な一個の兵器として形成していた。
それに伴い軍の総指揮をあずけられていた将軍であるバンの地位も時間の経過に伴いより強固な物となり元々、共和国の有している将の中でも突出した存在であった5人の将の筆頭から現在は大将に階位を上げ、戦前は五鬼将と呼ばれていた者達は現在は死神将と名を変え、バン自身は、龍翼将軍の異名からクロスに光を齎す者と言う意味を込めて輝神将と呼ばれる様になっていた。
しかし、一方でバンの暗黒面に気が付いている者は一体どれ程の数が居るのだろうか?
勿論、暗黒面といっても国政に関わる上では避け様のない事柄だ、大手を振って批難される様な事では無いと言える、だからこそ其処まで気にする事では無いとも言える程度の事だろうが・・・。
しかし、そのバンの判断は既に多くの歪みを国内に生んでいるのも事実、例えば、先の密偵の家族であったり、十字議会議員への強い干渉能力で有ったりと複雑に絡み合って分かり易い物から解りにくい物まで本当に多種多様である。
その中の幾つかは既にバンの干渉力を超えて共和国内を黒く初め始めている、肝心のバンは多忙な毎日に忙殺され、気付かぬまま月日が過ぎて来ていた。
12章突入です。
この章から、前章までとは時間が多少過ぎた所からスタートです。
その為、暫し状況説明が続きます退屈でしょうが御容赦を。
今後ですが、放置気味だった最後の一人も暗躍を開始する予定ですが、はてさて、最後の一人は敵か味方か乞うご期待です。