第11章 ~時を刻む者・今は昔、昔は今①~
時間は少々遡り、フロルドが牢を破壊し脱獄した翌日、バンはその報を牢番をしていた密偵からの報告で聞く事になる。
バンはフロルドがどちら側にも付く事はないと踏んでいたがその通りに為った事を喜びつつ、反面、最高純度の魔封石で造られた牢を力任せに破ったと聞いて背筋に嫌な汗が伝うのを止められずにいた。
そんな最悪の心理状態の中、バンの元にフロルド達と歳の変わらない少年が訪れる。
「なんや用でも有るんかい?
ブラッディー・クリムゾン。」バン
呼び名からして異名かコードネームと言った所だろう。
ブラッディー・クリムゾンと呼ばれた少年は無言でバンを観察している。
その壮絶な瞳を仮に一般人が目にする様な事が有れば間違いなく、ただ一人、氷点下の世界に置き去りにされた様な寒気と錯覚を覚えて震えていただろう。
その少年の瞳は間違いなく人殺しの目だった。
戦場で数々の活躍をしてきたバンにはそれが嫌と言うほど身に染みて判っている。
しかしその目から観てもブラッディー・クリムゾン・・・この少年の瞳は異常だった。
英雄として数々の戦場で何百と言う人間を討って来たバンでさえ、どれほどの人間を討てばこんな瞳を出来るのか理解出来ずにいた。
特一級戦犯者や殺人狂でさえこれ程の壮絶な瞳をした者は存在しない。
少年は隠して居てさえ<慈愛>に溢れた暖かい輝きを放つフロルド(エリシアやソラは無意識の内にこの輝きに惹かれていた)とは正に正反対の<呪怨>を纏った絶対零度の暗黒を全身から吐き出していた。
暫く無言で互いを観察していたがブラッディー・クリムゾンの方が先に用件を口にした。
「隻蒼眼が逃げたんだな?」
その耳慣れない単語にバンは思わず聞き返した。
「セキセイガン?
なんやそれ。
エレメントマスターの事か?」
疑問は当然だがブラッディー・クリムゾンは答えようとはせずに密偵に違う質問をする。
「牢を出る時、皇女は存在したのか?」
密偵は答えて良いものか解らずバンに視線を向ける。
クロスの将軍であるバンの存在を完全に無視してブラッディー・クリムゾンは自分の都合上必要な質問を勝手にしているのだから無理も無いだろう。
しかしその行動はこの少年には取るべきでは無かった。
密偵が気が付いた時には密偵の腕は其処には存在しなかった。
そして有る筈の腕はブラッディー・クリムゾンに引きちぎられその手に無惨にも握られていた。
冷徹な目だった。
地獄と見間違う程の純然たる罪過をこの少年の瞳からは伺えた。
まるで其処が地獄であるとでも言いたげな目だった。
のたうち廻る密偵にブラッディー・クリムゾンは容赦無くその引きちぎった腕の傷口を踏み付ける。
ブラッディー・クリムゾンの仮面の様な顔を紅く染めながら周囲に飛び散る鮮血の雨、濃厚な鉄の錆びた臭いが薄暗く狭い室内に充満していく、そんな中、傷口近くの骨の砕ける音と密偵の悲鳴が嫌に遠くから響いてきている錯覚を同時に憶える。
密偵はもう既に正気を保てはしない程の恐怖をこの10秒程度の時間に受けていたがバンは突然の非常事態に対処出来ずに目を剥いて硬直してしまっている。
・・・・・・様に振る舞った。
実際にはバンは密偵が腕を掴まれた瞬間、事態を理解し密偵を切り捨てた。
密偵を捨て駒にする事でブラッディー・クリムゾンと言う少年を試していたのだか、密偵には知る由も無かった。
時間にして30秒程度経過した所で今まで観察を行っていたバンは正気に戻った振りをしてブラッディー・クリムゾンを止めにかかる。
しかしこの時バンは自分が見当違いの行動を行っていた事に気付く。
観察されていたのはブラッディー・クリムゾンではなく自分の方だった事に・・・・・・・・・。
それからのバンの行動は早かった。
まず事の目撃者である密偵を治療しブラッディー・クリムゾンの質問に全て答えさせた。
更に自分の欲しい情報を聞き出した後、容赦無くその密偵の首を愛用の漆黒の刃をした大鎌・煉獄を用いて刈り落とした。
それから元々密会用に作った場所ではあるが死体を含めてその場に誰かが居た痕跡を完全に消し去った後、最後にブラッディー・クリムゾンと共にその場を離れ別の場所で改めて二人は会談の席に着く。
先程の場所とは違い交渉の為に互いのカードを切り始めた。
国の為とは言っても余りにも冷酷、無慈悲な対処ではあった。
二人が密偵と交わした会話の内容はこうだ。
「死にた無いやろ?
ボウズの質問に答えたええ。」バン
そうブラディー・クリムゾンに質問する様に促す。
「皇女は奴が脱獄した時居たか?」ブラッディー・クリムゾン
その問いに恐怖で真面に呂律の廻らない中必死に質問に答える密偵。
「はっ、はははっ、はい!いっ、いい、居ました!」密偵
「他に居た人間は?」ブラッディー・クリムゾン
「こっ皇帝とジジイがひっ一人!
ほほ、他は居ませんでした。」密偵
「奴はどうやって逃げた?」ブラッディー・クリムゾン
「ろっ牢の鉄格子をこっこっこ壊して、それから、てってっ転移で」密偵
「どんな風に壊した?
具体的に言え!」ブラッディー・クリムゾン
「まっまるで刃物で、切り、裂いたみっみたいににっ二カ所、切りっ切り裂かれてまっました。」密偵
「何故、奴は突然逃げ出した?
きっかけは何だ?」ブラッディー・クリムゾン
「わっわわわっ解りません!
たっただ皇帝がフッフロルドを脅っ脅しに来て・・・いたのはまっままま間違いありません。
そっそれが原因、原因なのではなっ無いかと。」密偵
そう言った後、密偵はブラッディー・クリムゾンに顔面を蹴り飛ばされる。
「憶測の情報など必要無い!
聞かれた事にだけ答えろ!」ブラッディー・クリムゾン
「ずっずびばぜん!
ぼっぼがには何か?」密偵
「逃げた時、皇女はどうしていた。」ブラッディー・クリムゾン
「おっ送り、出した・・・様でず。」 密偵
「その後は捕まったのか?」ブラッディー・クリムゾン
「どどっどちらが・・・ですか?」密偵
「チッ!
両方に決まってるだろうが!」ブラッディー・クリムゾン
「フッフロルドはゆ行方、不明です。
エリシエールはフッフロルドが逃げた、とっ当初は確認できましたが、いっ今現在はゲート・・・発動によより行方不明です。」密偵
「両方行方不明か?
奴の手駒の情報は?」ブラッディー・クリムゾン
「一っ一切、あっありませんでした!」密偵
「皇帝とそのジジイのめぼしい情報は!」ブラッディー・クリムゾン
「皇帝ははっ二人を逃がした後、後、殺気だったまっまま居城に戻っ戻りました。
ジジイはそれに・・・ついて・・・ついて行きました。
それ以上は解りません。」密偵
「チッ!
役立たずめこれなら自分で調べた方がマシだ。
愚図め。」ブラッディー・クリムゾン
そう言って密偵を顔面から地面に叩き付けた後、再び密偵を今度は後頭部から踏み付けながら睨み付けた。
足を暫く捻り密偵は床に顔を擦り付けられていた。
それをバンが止めた後、今度はバンが密偵に質問を始めた。
「ご苦労さん。
酷い目に合わしてもうたな、スマンのう!
後はわいの質問に答えてもうたらゆっくり休んだええわ!
今月の給料は期待しとき、臨時ボーナス付けとくさかい。
ほな質問に移るで?
落ち着いたら答えてか?
フロルドと皇帝の会話、ちょっとでも聞けたか?」
暫く震えたまま消沈していたが震えが退くのと共に答え始める。
「はい。
はいっ。
聞けました!
ですが牢から距離が離れていましたから極一部しか・・・。」密偵
「構へん!
詳しい教えてんか?
どんな些細な事でも構へんから。」バン
「解りました。
しかし解るのは皇帝の言葉だけです。
フロルドは聞き取れない様な小声でした。
意図的な物だと思われます。
では・・・、皇帝はエリシエール・・・皇女との婚約を条件にフロルドを前線に送ろうとしていた模様です。
しかし結果から観て断られた様です。
それでも諦めきれ無かったのかエリシエールを餌に脅しを掛けていました。
それも見事にあしらわれていた様でしたが・・・、ですがエリシエールが囚われていたフロルドの元に面会に来たことでどうやら状況が一変した様です。」
そこでバンは一度口を挟む。
「チョイ待ち!
一旦整理するさかい。」
そう言うとバンは右手を腰に当て左手を顎に当て思考の海に潜って行った。
バンは整理すると言っていたが実際にやっている事は整理では無く策を練ったり、不必要な内容の削除でブラッディー・クリムゾンのしていた質問やこれまでに獲ていたフロルドは勿論、カトレア軍、クロス軍の情報等も踏まえた上での一種のシュミレートに近い作業だった。
つまりバンと言う人間にとって一番重要な事象は、
《フロルドに勝つ》
事では無く。
飽く迄も、
《この戦争に勝つ》
事が最重要事象なのでありフロルドと言う存在は、あくまでも勝つ為に排除すべき障害に過ぎず、逆に有り得ない事象では有るが、フロルドが邪魔にさえなりえなければ完全に無視してしまう事も有り得るのである。
またフロルドが後にケイオス相手に危惧していたこの戦争が仕組まれた物である可能性もバンは当然理解していながらも、それでも尚、自国の勝利の為に策を練らねば為らない立場でもあった。
本音と建前はあくまでも一致しないのが世の中の仕組みだと言う良い例だろう。
そういった意味で言えばバンの本音はあくまでもフロルドと同じく戦争反対派なのであるが・・・、建前は多くの部下や自国を守る為の軍人であり将軍であり他人より少し頭が廻り、能力が優れているだけの凡人でしかないのだ。
それから5分・・・。
一通り考えをまとめたバンはブラッディー・クリムゾンと密偵に休憩を兼ねた昼食を提案する。
密偵にとってはおそらく最後の食事だ。
そのためバンはこの後、殺さ無ければならない部下に贖罪の意味を込めて提案したのだ。
しかしそれをブラッディー・クリムゾンは拒否した。
「こんな役立たずと食事等出来るか!
早く尋問を終らせろ!!」
それがブラッディー・クリムゾンの言い分だった。
それをバンが更に否定する。
「誰のせいや思とんねん。
お前がコイツ、ボコボコにしたせいで治療の為に大量の魔力使こてもたんやぞ。
それにコイツも多量の出血で体力が無うなっとるし喉も渇いとるはずや。
そんな状態やと話しもなかなか進まん。
やったら始めにエネルギー補給しといたった方が効率良いんや!
それにワイが腹減ったんや!
誰の所為とは言わんけどな。」
そう言ってバンは密偵に向き直り問い掛けた。
「そんな訳で何か喰いたいもん有るか?
大変な目に合わせた詫びに何でも奢るで!
遠慮しなや。」
そう言って密偵のリクエストを待って三人は昼食を取りに飲食店に入って行った。
時間は戻って現在。
リンディスを前に震え上がった部下を従えたレックスとリンディスとソラの三人が向き合ったまま既に10分の時間が過ぎていた。
静かな10分間だった。
しかし・・・、余りにも張り詰めた10分間だった。
兵の一部は、その緊張感に耐え切れず、気を失っている。
しかし考え方を変えればむしろ気を失っている方がマシなのかも知れない。
これから起こるで有ろう戦闘は、今以上に緊迫した物に為る事は必死なのだから。
そんな派閥の内部闘争とも言うべき争いを遠巻きから見ている野次馬の一人が呟いた。
「何だよ。
虹の派閥つっても対した事ね~な。
女二人に怖じけづくなんて。」
しかし、それは仕方ない事だ。
リンディスは戦闘準備中に被害を恐れて半径50mの円形の結界を周囲に張り、内と外を魔力、物理の干渉外にしているからであった。
仕方ない・・・、仕方ない事だが一人の野次馬のそんな一言が皮切りになり一気に外野の野次がヒートアップし始める。
もはや外野は止まりそうになかった。
ほおっておくのが無難であろう程に日頃の鬱憤を晴らす為か罵倒し悪態を附き続けていた。
ある意味、一部の構成員がエリートとして威張り散らしている事実への派閥に対しての反発である。
しかし、その野次は今までの硬直が解け戦闘が始まった瞬間に納まった。
リンディスの張っていた結界が破れ三人の放っていた魔力が津波の様にその結界の中心から押し寄せた結果だ。
遮る物の無くなったその力は、耐魔力の低い一般人を瞬く間に飲み込み意識を奪っていく。
結界内に溜め込まれた魔力が解き放たれた後に意識が残っていたのは僅か16名、残りの人間は全てその場に倒れ伏していた。
残った16名もリンディス、ソラティカ、レックスの三人を除けば全員震えながら腰を抜かしているような有様だった。
足元が濡れている者も少なくない。
そんな惨状を余所に戦闘を続ける三人。
一般人の目にはもはや捉らえられない速度での目まぐるしい移動と攻防が続く。
本来、ソラにはこれ程の超高速度での戦闘はまだ無理だがリンの使った無属性SSSクラス肉体強化補助魔法『ソル・ブレイク』の力でついて行けていた。
ただしこれは一種のドーピングとも言って良く、掛けられる側に適性が存在する変り種の魔法でレックスは勿論、リンにも適用が不可能な魔法だ。
ソラは運が良かっただけと言えた。
しかし例え運と言っても言い方を変えれば持って生まれた才能である事は間違いなかった。
そんな正に異常とも言うべき緊迫した惨状での戦いは速度を除くと見た目はかなり地味な物だ。
本来、実力が均衡した相手との戦いに大技は余り必要無いもので有りむしろ邪魔と言っても良い。
大技は当たれば良いが外せば只の良い的に外ならない。
その様な愚を犯すほど三人は愚かでも無ければその事が理解出来ない程戦闘経験が無い訳でも無い。
始めから大技を出すのはフロルドの行っていた戦闘の様な実力差が極端に開いている時に限られる。
それ故にお互い、回避は相手の攻撃を回避すか受け流すかの回避方法が普通であり、鍔迫り合い等の金属同士の激しい激突音等は一切聞こえない。
また攻め方も相手を倒す為の大振りは一切せず足元を薙だり手を銃撃しての態勢を崩す攻めか、動作が小さい連突きによる急所攻撃だったりと、とにかくひたすら繊細な攻防が続く。
とわ言えやはりそこは二対一である。
時間が経つに連れてリンディス達の方が有利に為って来ている。
正確には開戦直後からやたらと息の合ったリンディスとソラティカの連係攻撃にレックスが圧され気味では有ったのだが、戦闘時間が経つに連れてリンディスの力に引き摺られてソラティカが実力以上の力を発揮している為だ。
そしてそのソラティカにつられてリンディスもまた実力以上の力を発揮している。
幾ら実質、同ランク同士の戦闘と言っても防ぎきれる物ではない。
しかしそこは四皇の一角を担う者である不利と見るや戦闘スタイルを切り替え、策も切り替えてきた。
リン達が激しい戦闘を繰り広げている頃、カルタロッサのエリシア達はフロルドとリン達の行方を詮索する為に蒼の情報網を一箇所に集める事で的確に管理する事を目的に造られた情報拠点と言うべき場所、天宮と名付けられた社に来ていた。
メンバーはナタル、ガゼル、フィルにエリシアの四人である。
しかしその中の一人エリシアは傍目にも解るぐらいに落ち込んでいた。
理由は二つある。
まず一つ目は社の有る場所である。
社はフロルドの作った空天の門と呼ばれる門を空宮の鍵と言うリンディスが作った鍵でもって初めて入れる上空1万2000メートルの特殊な雲の中にある、そして社は魔力を溜めやすいと言う理由から全体が非常に透明度の高い天然水晶で出来ていた。
つまり傍目には空中を歩いている様に見えてかつ、その上を歩いている人には地上が見渡せるのである。
つまり結論は・・・・・・・・・・。
エリシアは高い所がダメ、高所恐怖症なのである。
来るまではこんな所だとは知らなかったため平気ではあったが来た瞬間からこれである。
二つ目は天宮に移動する際襲った感覚、丁度エレベーターが動き出した時やフリーフォールの落下直後の感覚に泥沼に全身で浸かっている様な感覚を併せた何とも言えない気持ちの悪い感覚に到着するまでの5分程度の間中ずっと襲われていたのだ。
その結果この場所に来慣れていないナタルとエリシアは酔ったのだ。
特にエリシアは根がお嬢様な為より酷い結果になった。
この二つの理由によりエリシアは完全にグロッキーな状態を現在進行形で、維持し続けている。
フィル達はそんな状態のエリシアを気遣いつつフロルド達の行方を探し初めている。
そんな中リン達の行方は直ぐに見つかる。
元々隠れるつもりが無かったリン達は複数の場所に自分達の痕跡を残していたらしい。
事実リン達は派閥に見つかっている。
その痕跡の多さに半ばナタルは呆れ混じりの苦笑をしつつフィルを見る。
それにフィルは軽く頷いて呟いた。
「囮になんて為らなくても平気なのに。
リンママは心配症何だから・・・。」
「でも心配だね!
いくらリン君が強くても足手まといが居たのでは勝てるものも勝てないからね。
援軍を出した方が良いかもしれないね。」ナタル
そう言って自分達の戦力の分配方法を考え始めた。
それにガゼルが意見と言うよりも感想と言っていい見解を述べる。
「リンに援軍なんていらね~よ。
あいつまだ本気じゃね~し。
あのソラティカって女もリンの補助が有るけど今、SSSSぐらいには使えるみたいだしな。」
そんなガゼルの意見にフィルは了承の相槌を打つ。
フィルが同意するとは思っていなかったナタルはこの反応に驚いたようだった。
それを見たフィルは補足の説明を入れた。
「この馬鹿、頭はお猿さん以下だけど戦闘能力と野性の感なのか他人の力を見抜く才能だけは私達の中 でも一、二を争うくらい優れてるから意見の採用に問題は無いよ。
仮にも紅蓮の最年少入団記録保持者だから、認めたくないけど。
それが無かったら私達が例えルーパパが許してもこんな役立たずに居場所何かやらないよ!
この愚図野郎!!!」
そう一々一言多い台詞と共に言い切った。
その後、エリシアが蒼い顔のままガゼルに問い掛ける。
「ソッソラティカさんっがSSSSクラスと言うのは、は、本当、ですか?」
その様子に渋い顔をしながらガゼルは、
「大丈夫かよ?
まぁ、あの女、リンとは相当、相性が良いらしい!
そのせいで初めて会った時と比べて別人みて~だ。
下手すると蒼の五指と同格かもな。」
そう補足する。
蒼の五指とは言葉通り蒼の翼の中でも特に特出した力を持つ者達だ。
例外のフロルドとリンディスの二人を除けば正に
《蒼の顔》
と言って良かった。
フィル、ガゼルは勿論、五指の内に入るが、残り三人は現在外で単独行動中のため行方知れず。
フィル達二人は二人で他の三人を探す気が無いらしかった。
探す必要も無いのだろう。
必要なら独自に接触して来るはずだからだ。
ちなみに五人の中ではフィルはNo.3でガゼルはNo.5に当たる。
しかしフィルはいずれはNo.1か例外の一人に成り得る人材で自然周りの期待は大きかった。
話しは戻って社、ガゼルの話しを聞いたエリシアはただでさえ凹みまくっていた所に別れて一月にも満たない間に嘗ては自分の方がランク上位にいたにも関わらずソラにぶっちぎりで置いて行かれた事で放心状態で床に指で円を描いていた。
余程ショックだったのだろう。
しかしそれもある意味仕方ない。
ソラの指導者はリンディスでありリンはソラと生れつき相性が非常に良い上、元々才能の方向性がエリシエールとソラティカでは違うのだから。
しかし今のエリシアには言っても仕方ないのでフィルはエリシアが多少なり気を取り戻すまでそっとしておく事にしたようだ。
そんなやり取りをしている間にリンディス達の戦況は1対2の状態に致っていた。
丁度リンとソラの二人が互いにオルフレアに罵倒された直後のようだ。
その光景にナタルは少し身震いし、フィルは目を輝かせ、ガゼルは一言呟いた。
「馬鹿な奴。
普段はともかくキレたら蒼で一番手が付けられないのリンディスだってのに!」
これは事実でキレたリンディスをなだめられるのは現状フロルドとフィルだけである。
それから暫くフィル達はリン達の戦闘を横目にフロルドの行方を探しはじめた。
しかしフロルドは行方処か痕跡すら一切掴めない。
そんな状況でやっと
≪落ち着いた・・・・・・?≫
様に見えるエリシアがそれでもまだ高い所が怖いのか足を震わせながらフィル達にゆっくり近づいてきた。
それに気付いたフィルがエリシアの元に小走りで駆け寄りその白雪の様な手を取りエリシアの顔を心配そうに覗き込んできた。
「ごめんね!
お見苦しい所をお見せしてしまいました。
御心配お掛けしてしまいましたよね?
もう大丈夫ですから。」
そうエリシアは最初の言葉はフィルに後半は全員に対して話し掛けたがその言葉はやはり振るえていた。
それに気付かないふりをしてフィルはエリシアに問い掛ける。
「本当に大丈夫?
無理し無くていいよ?
私達でルーパパ達の詮索は十分出来るから休んでても大丈夫だよ?」
それにエリシアは、ゆっくりではあるがはっきりと、
「大丈夫です!
これ以上ソラティカさんに置いて行かれる訳にはいきません。
足手まといには足手まといなりの意地が有りますから。」
そう言いながらも立体パネルの操作盤に手を掛け作業を始めた。
しかしエリシアには凹んでいたため操作方法を教えていない事に気付いたフィルは慌てて説明をしようとエリシアに声を掛けた。
「あっ!
待って今、操作方教えるから。」
「大丈夫です。
先程見させ頂いて大体把握できましたから。」
そう微笑みながら答えエリシアはこの場に居る誰よりも早く正確に天宮の機能を使い熟し始めた。
そうこれがエリシアの本来の才能だった。
エリシアはソラの様に戦闘能力には優れてはいない。
かと言って戦闘支援に優れる訳でも無い。
つまり皇族としてのカリスマ性とデスクワークや交渉と言った内政や外政に特化した政治能力がズバ抜けて高い生来の統治者。
それがエリシエールだった。
エリシアが作業を始めて僅か10分・・・・・・・・・。
三人掛かりでも一切掴めなかったフロルドの行方・・・。
その痕跡が初めて見つかる。
しかし、その痕跡は4人を戦慄させる事になる。
痕跡が見つかったのはクロス領トルカナ湖。
しかしそれは有り得ない。
見つかるはずが無い、何故なら痕跡は今から10年以上昔のトルカナ湖。
その湖底である筈の場所で見つかった。
子供の頃のフロルドの痕跡(この痕跡が見つかったとしても十分問題では有るが)、では無く今のフロルドの痕跡が・・・、である。
「どう言う事でしょうか?
これは?」エリシア
「判らない。
もう少し詳しく探れないかな?」ナタル
「やってみます!」エリシア
そうこうしている内に画面に映るリンディス達の戦況に変化が起こる。
戦っている二人にとっては好むばしくない方向で・・・・・・・・・。
徐々にレックスを押し始めていたリンディス達では在ったが事態は一瞬で暗転する事になる、一言で言えば邪魔が入ったのだ邪魔をしたのは思いもしない人物だった。
邪魔をした人物それはタツミだった。
しかしその目は完全に白目を剥いていた。
気絶したままの状態でレックスに操られているのだった。
その非人道的な戦法にリンディス、ソラティカは激怒するも操られている人達を傷付ける訳にもいかず戦況の変化後、五分もしない内に二人は完全に追い詰められていた。
その光景に四人は先程の自分達の判断が間違っていた事には気付いていたが今更助けに行った所で間に合わない事にも気付いていた。
《甘かった・・・・・・。》
その一言に尽きる。
「ママ!!!」
フィルの悲痛な叫びと共にリンディスとソラティカは人形と化した人々に飲み込まれて行った。
場所は変わってアサヒの墓前、フロルドはまだ背後の人物に顔は向けず。
また、立ち上がる事もしなかった。
シャラ達も背後の人物に気付きこちらは顔をそちらに向けている。
当然ながら彼等に背後の人物に対する警戒はない。
また背後の人物も特別変わった様子を見せてはいなかった。
それこそ始めにフロルドの背を観察て見せた表情等何処にも存在しない。
その人物を知る人々にとってはごくごく普通の普段通りの姿、俗に言う“自然体”と呼ばれるある種の人としての悟りの到達点に達している人物がそこに存在しているだけだった。
後ろを振り向かないフロルドにシャラは気付いていないのかと思い込み声をかける。
「ケイ様、御祖父様、神官長様が来られたんやけど?
後ろに居てはるから紹介するわ。」
それを御祖父様と神官長と呼ばれた歳は80歳程に見える老人が制止した。
「シャラ、イツキ、その様な事は後で良い先ずは、こちらに来なさい。」
何故呼ばれたのか解らないまま二人はその人物に向かって歩いて行く。
フロルドはそれに合わせて非常にゆっくりと、しかし見ている者の目を引き付けて放さない不思議な立ち振る舞いで相変わらず顔は墓石の方を向いたまま立ち上がり静止していた。
その背にまたシャラが手でその人物を示しながら声を掛ける。
「ケイ様、この方がウチの御祖父様で神官長を勤めてはる玄武針様や。」
紹介を承けたにも関わらず、フロルドはそれでも振り返る事はしなかった。
代わりに先程迄の多少事務的な口調だか暖かみのある声では無くまるで吹雪の中に居るような寒気のする声でゲンブシンに話し掛けた。
「久しいな、ゲンブシン?
イヤ、トルカナの死神と呼んだ方が良いかな?」フロルド
その台詞にゲンブシンは老獪な笑顔で、
「母君は元気かね?」
と問い返してきた。
そんな二人の会話は周囲の者達には噛み合っていない様にしか見えない。
ましてフロルドは冷徹な声音でゲンブシンは朗らかな声音で話す物だから尚更だろう。
しかし二人には十分過ぎる位に通じていた為そのまま周囲を無視して二人は話を続ける。
「今だにトルカナに抱かれたままだな。
しかし出世した物だ。
神官長か・・・。
忌み狩りはそれほどの大役か?」フロルド
「そうじゃな。
忌み狩りは神族の者に置いては最大最高の神事それを完遂したのじゃ。
当然よな~。
そしてまたその忌み狩りが行われる事が決まった。
良い事じゃて。」ゲンブシン
「また新たな時詠を狩ると?
16年前の様に・・・・・・・・・。」フロルド
「嫌々、16年前と同じではない!
それ以上の忌み狩りじゃ。
当然じゃろうて。
今回は時詠の血筋でありエゼルの血筋であり臨界者でありまた魔眼持ちでもある。
しかも本来、時詠の能力・・・時軸操作の能力は女子にしか発現せんと言うのに男子の身で発現させた余りにも特出した異能者じゃ。
その者の名は、・・・・・・・・・フロルド・圭夜・フィードガルド・ランフォード。
マスター・オブ・キャスター、の名を冠した邪術師である、彼の者の狩るのじゃから。
のう、そうで有ろう?
圭殿?
それとも・・・フロルド殿・・・の方が良かったかね?」ゲンブシン
そう言って声高に笑った。
その会話を聞いていたシャラ達だったが全く状況が掴めないでいた。
先程迄、ケイ様と呼び好意を寄せ始めていた男性が忌人だと言われ、かつその人が今、最も世間に名を知られた魔導師のフロルドだと言われたのだから尚更だ。
混乱を無視して肯定も否定もせずにフロルドは選り状況を混乱させる事を言い始める。
「さすがは神官長様、高潔でいらっしゃる。
・・・・・・そう言って父、ワイズリー、母、サクヤとその付き人呑み為らず何も知らず里帰りに同行した者達全員を”アサヒ叔母上”諸共シャラとイツキの目の前で忌み狩りの名の下に殺したのだな・・・。
御祖父様、貴殿は。」
その台詞と共に振り向いた美しい青年の瞳は言葉の冷淡振りとはちがい深い哀しみと悲嘆が漂っていた。
しかしゲンブシンはそんなフロルドの顔を見るや嫌悪を顔と声に滲ませる。
「・・・何と悍ましい。
忌み巫女と見間違ごうたわ。
それとのワシにはサクヤ等と言う娘はおらんし孫はシャラとイツキの二人だけじゃ。
汚らわしい!
それにのイツキ達の母を何故ワシが殺す必要があるのじゃ、第一、二人とも母の死を見てなどおらん。
世迷言を言うで無いわ。
何をしておる忌人を討ち取るんじゃよ!!」ゲンブシン
そう言いつつもゲンブシンは暗殺用の鋼針をフロルドに投げシャラを後ろに下げる。
それをフロルドは片手で全て掴み取りながらシャラとイツキを始めその場に居る者達全てに語りかけた。
「事の判断は自分達で決めろ!
他人に判断を任せるな!
いいな?」
そうは言った物のフロルドは彼等から自分が信じてもらえる様な信頼関係は築けていないし、ゲンブシンの攻撃が激しく余り彼らを説得する様な事に口を開いている余裕も無い為この程度では彼等は止まらない事も判ってわいた。
実際、彼等の多くはフロルドに襲い掛かって来ている。
それを上手く捌きながらフロルドはゲンブシンに永年、本人の口から聴きたく思っていた事を口に出した。
「ゲンブシン、忌人とは何だ?
神に背いた者か?
神族を辞めた者か?
時詠で在る者か?
私の様に人としての禁忌に触れた者なら忌人と呼ばれても仕方ないのは認めよう。
しかし、アサヒ様は姉君であられたサクヤ様を庇われただけだ。
だと言うのに何故、サクヤ様ごとアサヒ様を討った!
何故、神域に踏み込んでもいない里帰りしただけの同郷の者達を討った!
答えよ!
ゲンブシン!!」
流石にこの言葉にはゲンブシン以外の者は動きを止める。
その一瞬の隙を付きフロルドは傀儡と入れ代わる。
その事には気付かずゲンブシンはくぐもった笑い声を上げながらその質問に答え様とした。
しかしそれよりも早くシャラとイツキが震える声でゲンブシンに問い掛けていた。
「御母様を・・・御祖父様が・・・殺した?
他の・・・神族の・・・人等まで?
ほんまに・・・?
・・・・・・・・・何でなん?
・・・何で!!」シャラ・イツキ
それを聞いたゲンブシンは二人の孫に目を向けながら人として口にしてはならない台詞を口にする。
「愚か者!
忌人に毒されおって、もう良い不信心者は死して神に購うが良い!
ああ、それから、お前達小娘に次の巫女を産ませよ!」
それと同時にイツキはゲンブシンの攻撃に曝される。
またそれを聞いたシャラに好意を寄せていた男達が一斉にシャラに襲い掛かる。
しかしゲンブシンの攻撃も男達も動いた瞬間弾かれる。
先程、傀儡と入れ代わったフロルドが止めたのだが状況が判ったのはシャラを襲わなかった者とイツキとシャラにゲンブシンの極少数だけだった。
そのままゲンブシンを牽制しつつフロルドは二人を連れてゲンブシンから大きく距離を取る。
距離を取ると同時にシャラから声が掛かる。
「ありかとな。
ウチ役立たずで敵の孫やのに、何度も何度も。」
その台詞をフロルドはゲンブシンを睨んだまま聞いていた。
だがこの時フロルド以外の者は気付いていなかった。
此処が16年前の世界でトルカナ湖の湖底であり今、正にゲンブシンによる虐殺が行われている最中だとは。
なぜなら景色にまるで代わりが見られないからだ。
早い話が空間を今と昔で入れ替えた訳だが、それだけではこの空間は湖底の水で埋め尽くされてしまうし、タイムパラドックスもお越し兼ねない。
と言うよりも確実に起こすだろう
そこでフロルドが採ったのは高位現実(ハイ・リアリティー又はアパ・リアリティー)と言われる位相のズレた過去に飛ぶことで位相相互の干渉を不可にすると言う禁忌ギリギリの時空転移魔法の使用と言った行動だった。
逆に言えばその位相のズレが墓前から湖底に飛んだ原因でもある。
そんな状況だが知らない事実は対処出来無くて当たり前。
当然の様に玄武針と神兵達の猛攻は続く。
そんな状況でイツキは刃を取る。
イツキの槍は一直線にその軌跡を描き疾走する。
相手の命を確実に絶つ無慈悲な一撃。
しかしその一撃は一振りの長剣によって防がれるが勢いに圧されたのか相手は大きく弾かれる。
イツキの体格は大柄なガゼルと比べても一回り程大柄だ。
その巨躯から繰り出される一撃は並の人間では防ぎきれない。
ましてその相手が小柄で軽い人間なら吹き飛ばすのは容易だろう。
そうフロルドの様に女性の様な体格の人間にはイツキの一撃は重過ぎる。
まともには受けきれない事が判っていたからこそイツキは自身に出来る渾身の力を持って最速の突きをフロルドに向けて放ったのだ。
フロルドが吹き飛んだ理由が判らず当惑の表情を浮かべた周囲だったがイツキが槍を突き出している姿を見てシャラが声をかける。
「あんたまさか!
イツキ!
あんたがやったん!?」
「他に居るか?
ゲンブシン様らに気~行ってたから楽やったは。」イツキ
その返事を聞いてシャラは鋭い目付きで睨みながらイツキの頬を思い切り叩いた。
「正気なんか?
うち等を助けてくれた人を不意討ちで殺すやなんて正気の人間のする事や有らへん!
それが判らんあんたや無いやろ!」
しかし、シャラの叱責に反してゲンブシンはイツキを褒めていた。
「ようやったイツキ、忌人を討ったのじゃ先の件は不問とする。
そのまま次の巫女作りしてくれるかの。」
一瞬訳が解らなかったシャラだが突然、押し倒され眼前の人物を見て理解してしまった。
自分は今、弟に襲われているのだと。
ゆっくりとイツキの手が伸びて来る。
抵抗しても微動だにしないイツキにシャラは顔を強張らせ、叫ぶ。
「やめてイツキ!
ウチら姉弟やで、こないな事許されへん。
やめて!!」
しかし無情にもイツキはシャラに手を伸ばす。
止める気は無い様だ。
それに気付いたシャラは蒼い顔で目に涙を湛え抵抗を諦めた。
「御盛んな事で!
俺の事忘れてね?」
そう声を掛けられたのは正にその瞬間だった。
イツキとゲンブシン以外の者の振り向いた顔は化け物を見た様な顔だった。
それでもそう見えたのは一瞬で既に兵達はフロルドを見て笑い出した。
吹き飛ばされた事でフロルドの服がボロボロだったせいだ、死にに来た様にしか見えない有り様で有った。
現実にはフロルドは傷一つ負ってはいない訳だが。
しかし経験の浅い兵達にはヤケクソを起こした様にしか見えてはいなかった。
そのため次の瞬間起こった出来事に全く対処出来なかった。
突然目の前の景色に観たことの無い人物が複数現れて会話を始めたのだ。
いや、正確には会話の途中でしかもその人物達はこちらに全く気付いていなかった。
「その娘が次の?」女性1
「エエ、正確には次の次、二代先の・・・ね。」女性2
「そう、ほら二人ともシャラちゃん達に御挨拶して?
貴方達の従兄弟のシャラちゃんとイツキ君よ。」女性2
「・・・・・・・・・。」男の子×2
「あらあら照れちゃって。」女性1、2
「違う!
僕はその子を殺すから!
だから必要無い!」男の子1
「レイ兄ちゃん?」男の子2
「アハ!
ほら死に神が来た!」レイ
『ドス!』
「サクヤ姉さん?」女性2
「母さん?」男の子2
「こっれ・・・ば?」サクヤ
自らの胸を貫いた光の槍・・・・・・『神法・光牙』を見つめながらサクヤは口から血を流しながら呟き死んで行った。
「忌み巫女が早様死ね!」???
そこにサクヤを討ったと思われる人物。
若き日のゲンブシンがまるで汚物でも見るような濁り切った目でサクヤを見ながら現れる。
「・・・・・・・・どうだ自分の娘を殺す瞬間をもう一度客観的に見るのは?
位相が違うからなサクヤ様を助ける事が出来ないのが残念だが・・・。」フロルド
あえて母とは言わず主君で在るかの様に話ながらゲンブシンの様子を伺う。
その一方でサクヤの傍で高らかにレイが笑い声を揚げていた。
その横ではもう一人の女性がサクヤを抱き上げながら必死に声を掛けていた。
その女性に双子の片割れの男の子が信じられない言葉を掛ける。
「・・・・・・母は亡くなりました!
アサヒ様はシャラ様、イツキ様を連れ・・・お逃げ下さい!
母が討たれた以上私も討たれる事に為るでしょう。
さぁ、お急ぎ下さい。」
そう話す男の子の声には何の感慨も恐怖も怒りも哀しみも無かった。
ただ全てを悟りこれ以上の悲劇を起こさない事だけを考えている事が伺える。
それがアサヒには混乱した頭でも理解出来てしまった。
とても物心の付いたばかりの子供の台詞ではない。
しかし、その言葉を聞き黙って縦に首を振れる程アサヒは大人では無かった。
一言、
「二人をお願いね。」
そう言ってゲンブシンを睨み付け神法の詠唱を始める。
それを見てゲンブシンがアサヒをも標的として認識したのが殺気から理解できたがそれよりも先に戦闘は始まっていた。
肉体強化神法と思われる力で強化した筋力でもってレイがシャラ達を襲ったのである。
「心配しなくても後でフロルド!
お前も殺してやるよ!」レイ
「止めてレイ兄ちゃん!」
しかしそのレイの攻撃は同じく肉体強化魔法と思われる力で、フロルドによって阻まれていた。
その頃天宮では傀儡化した人々に飲み込まれて見えなくなったリンディス、ソラティカの二人を救出しようとナタル達は戦闘準備を進めていた。
とは言え戦力不足は否めない。
蒼のクルーで腕の立つ者は今殆ど出払っている。
かと言ってナタル達エルフ・・・亜人が大挙して攻めるのはかろうじて均衡している三国間の均衡を崩す結果にしか成らない。
そうなれば一時的にはリンディス達を助けられても次からは更に危険な立場に自分達を追い込んでしまうのは明白だった。
それでもやはりリンを失う事は蒼やナタル達、そして何よりフロルドと言う存在にとって最も避けるべき事象なのも事実だった。
「問題はこの面子でどうやって二人を連れ出すかだ・・・。」ガゼル
「判ってるわよ。
今、考えているんだから、黙りやがれこの筋肉バカ。」フィル
「ア、ハハハ・・・。
その、気にしない様にね?
ガゼル君。」ナタル
そんな中、エリシアは画面を操作し人々に飲み込まれたせいで見えなくなったリン達の状況を確認しようとせわしなく指を動かしていた。
しかしリンディスとソラティカはまるで確認出来ないでいた。
しかし、横からリンディスに声を掛けられる。
「エリシエール様、聞こえておられますね?
フィル達に私達は無事ですと。
お兄様・・・失礼致しました。
兄、フロルドと合流いたしますので湖底の映像を御覧下さいとお伝えください。」
「そんな馬鹿丁寧に言わなくても平気よ。
相手が皇族でもね。
違うか、皇族だから必要ないわ。」ソラ
そう巨大な白狼と呼ばれる魔狼に膝を揃えて座り、輝く白狼の毛を撫でながら実に優雅に話し掛けてくるリンディス。
ソラティカはその後ろで女の子座りで片手をエリシアの腰に廻しながら空いた手は同じ様に白狼を撫でていた。
その呼び掛けに目を丸くしてエリシアは数秒固まっていたが直ぐにフィル達を呼びに走った(その途中慌て過ぎてコケていたが当人以外は気付いてはいなかったようだ)。
少ししてフィル達全員がスクリーンの前に集まった。
暫くは泣き出したフィルを宥めるのに気を割いていたエリシアとリンだが泣き止むとすぐに状況確認の為にリンの話を聞き始めた。
「私達はレックス様の傀儡と化した人々に飲み込まれる寸前にお兄様より頂いていたこちらのアメジストの力により、お兄様の近く。
と言っても10Km程離れておりますが・・・に転移されました。
ちなみにこの狼はお兄様とは古くからの知己でアルフリルと言います。
アルフ、ご挨拶をお願いします。」
そうエリシアは髪をかき上げ耳に光る非常に大きなアメジストのピアスを見せた後、アイスルパインに顔を向けるとそのアイスルパインが続けて口を開く。
「魔狼の一種、白狼のアルフリル・ガル・フィンだよろしく頼む。
それからフロルドからの伝言がある。
先ず、我はこれより本来の主で在るリンディス、ソラティカの元に戻る様言付かっている。
それから乙女達よ。
心して聞くが良いお前達のこれからに深く関わる事柄だ。」アルフ
そう自らの背にゆられる二人の少女達に軽く視線を向けながらしかし歩は止める事なく語りかけてくる。
その静かな威圧感に身を委ねながら二人は頷いた。
前回更新からかなり時間が空きました、更新を楽しみに為さって居られた方には申し訳ありませんでした。
何れも此れも仕事が悪いんです!
何でこの数週間の間、同じ職場内で私だけ徹夜が続くですか!
巫山戯すぎです!
人を殺す気ですか~!
とまぁ、プライベートな事態はこれ位にしてお知らせです。
遂に別サイトの進行に追い付きました。
よって、第11章はまだ続くのですが、一旦アップします。
これにより、更新に掛かる時間が今までより遅くなると思いますがご容赦を。
それとお約束道理、別サイトの名前をお教えします、”E-エ○リス○”サンです。
○には任意で文字を入れて下さい。
それでは本文についてですが、この作品の主人公5人何ですが5人目殆ど出てませんゴメンなさい!
それでストーリーを観てもらえば解る事ですがこの作品はフロルド君の視点を時間軸に各主人公の行動を出来るだけシンクロさせて書いてます。
天宮なんか良い例ですね。
後、判りにくいですけど所々に爆弾仕掛けてます(重要そうなのに早々に消えたアレとか)。
場面の切り替わり、主人公の切り替わり激しくて申し訳ない気もしますが人と人の互いへの影響とか思いの形とかは余り一人に時間掛けても(長文にしても)逆に解りにくいかと思いこうして短文で視点切り替えしまくってます。
ただこの書き方各キャラの進行状況つい忘れちゃうんですけど。
それでは皆さん至らない事も多いですけど最後までフロルド君達に付き合ってもらえると嬉しいです。
(別サイト作者からのメッセージより一部抜粋)