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第10章 ~分岐する未来・三人の天才、二人の出会い②~

10章後編です。

フロルドがイツキ達と出会った頃リンディスとソラは、図書館に在った歴史書や文献をあらかた調べ終えた為、息抜きを兼ねて連日、数多くの犯罪者を捕らえていた事で仲が良くなった審議官の夫婦、ギャリック・ハーデンス、シズカ・ハーデンス夫妻とその息子の辰巳タツミ・ハーデンスと共に近郊に有る湿原、ロブト湿原を訪れていた。

ただ初めの頃は数分毎に犯罪者を捕らえる学生である筈の年齢の二人に夫婦は不信に思い職務質問をしたりしている。

それにはリンがかつての虹の身分証を見せて極秘任務だと言って心中で謝罪しながらごまかしている。

息子のタツミはソラと同じで軍学校の学生でクラス内では女子からの人気の高い青年だかリンとソラの美少女コンビには気後れ気味の様だ。




~ロブト湿原~


ロブト湿原は休日である為か、かなりの人集りに成っていた。

そんな中でリンとソラは昨日迄、図書館に缶詰め状態だった為か二人揃ってはしゃぎ回っている。

ただこの二人、地が良すぎる為やたらと目立つ。

10分としない内に数え切れないほどナンパされることになっていた。

そうなって来ると気が気でないのはタツミだ。

クラスではほって置いても女子の方から近付いて来ていたがリン達はそうでは無くタツミに初めて振り向かせたいと思わせた女性だった。

そんなリン達は先程からナンパ師達の執拗な誘いに戸惑っている。

特に15歳から派閥に在籍しそれ以前は孤児院を生活の拠点としていたリンはこの状況に対処出来ずソラの後ろに隠れている。

タツミやハーデンス夫妻はそんな二人を助けようとしているが人垣が邪魔で助けられないでいる。

その状況に真っ先に参ってしまったのはやはりリンで、普段、気丈にフロルドや親フロルドの立場を摂っていたマリアーナの代役等をこなしている姿が信じられないぐらい見事に泣き出していた。

流石にいきなり泣き出された事でナンパ師達にも動揺が生じてタツミ達が入って来れる余裕が出来る。

ハーデンス夫妻はナンパ師達を追い払うとソラとタツミに慰められているリンの所に来る。

しかしこの状況にもっとも驚いているのはソラだ。

ソラは此処数日の間に犯罪者を瞬きする間に捕まえるリンの姿をずっと見ている。

何より彼女の凛とした落ち着いた姿からは今のこの少女は想像出来ないからだ。


「すみません。

 突然泣き出してしまって。」


そう落ち着いてきた所でリンが謝る。


「良いのよ。

 別に気にしなくて。

 悪いのはあの連中何だから。

 それより、大丈夫?」


そうシズカが話し掛ける。

リンが頷くのを確認しながらソラはシズカの言葉が途切れると言葉を重ねた。


「でも、驚いたわ。

 ネムのイメージって落ち着いた大人の女って感じだったから。」


ネムとはリンディスのセカンドネームである。

一部の派閥関係者は本名と偽名の二つ以上の身分証を所持し使っている。

理由はリンならリンディスやリンの呼び名が帝国ではそれなりに有名で名が知られていて動きにくいからだ。

若しくは、潜入、潜伏任務の多い者もこの部類に入る。

今の状況で言えば理由は前者である、タツミはリンが派閥に所属していた事は知らされてはいないし、夫妻が知るのもネムの名だ。


「幻滅なさいましたか?」


そう悲しそうに微笑みながらリンが聞くとソラは、


「全然!

 ただ、びっくりしただけ。

 むしろ泣き顔すごく可愛いかったわ。」


何処か嬉しそうに見えるソラの顔から嘘は無い事を理解して安心したのかリンはぽつりと呟く。


「あれほど沢山の男性に囲まれたのも言い寄られたのも初めてです。

 子供達に囲まれる事は有りましたが・・・。

 それにあの方達はお兄様達とは余りにも違いすぎて・・・・・・、すごく怖かったんです。」


その独白にソラは納得する。

リンディスにはフロルドの片腕と言う側面がある。

そのせいで他の男性を意思して見る事が無く。

彼女の中に有る男性のイメージ像とはフロルドその人だっただけなのだ。

しかしリンから兄と言う言葉が出た事でタツミが質問した。


「お兄様?

 お兄さんがいるのか?」


そこで初めてリン達は家族の事を全く話していない事を思い出す。


「あ~そっか。

 友達の事とか家族の事ってまだ一度も話してなかったっけ。

 ごめんね。」


ソラはそう言いながらリンの横に座りまだ少し涙声のリンの頭を抱き寄せる。

二人が再会した頃のリンに対する気後れや罪悪感といった物はもう感じられない。

それ位今の二人の仲は良くなっている。

そうかつてティターニア家で幼い二人が仲良く遊んでいた頃そのままに二人が成長したかの様に。

つまりそれ位二人の相性は生れつき良いのだ。

夫妻は初めて二人に会った時、二人の事を姉妹だと思った程だ。

その状態のままソラは自分の家族の事を聴かれても差し障りなく、また聞いていて不信な点が出ない程度に話しはじめた。


「私の家族はお父さんとお母さん、それとおじいちゃんと私の四人家族で、私は一人っこ、タツミ君と同じね。」


そこで今度はリンが自分の家族の事を話す。


わたくしは物心が付いてすぐに家族を全員事故で亡くしました。」


勿論、リンの家族は事故死ではなく暗殺による殺人だ。

だからといってわざわざ隣にいるソラとソラの家族を追い詰める様な事を言う気はリンには無いし、数日前に知り合ったばかりの人に話す事でも無い。


「亡くなった!

 ・・・その、知らなかった事だけど、ごめん。」


聞いてすぐにタツミは謝り難しい顔をする。


「・・・そう、大変だったね。」


夫妻は揃って苦い顔をする。

特にこの二人は審議官だ。

こういった経験は多い。

その辛さをよく見て知っているのだ。

しかしすぐに矛盾がある事に三人は気付く、それを承知していたリンは続きを話した。


「その事故の折り、わたくしをその現場から救ってくださったのが先程、わたくしが申し上げたお兄様です。

 その後、わたくしはお兄様に引き取られ、いろいろな事をご教授頂きながら、お兄様がお引き取りになられたわたくしと同じ境遇の子供達と暮らしておりました。」


そうソラに甘える様に頭をソラの頬に寄せながら話した。

それが家族を亡くした辛さとフロルドに対する敬愛や憧れの狭間で葛藤するリンディスの心の上げた小さな悲鳴であった事はその場ではソラのみが気付いていたがソラにはリンを救う手立てが解らなかった。

暫くの沈黙を破ったのはこの場に居た五人では無かった。


「タツミ先輩・・・、その二人は誰、何ですか?」???


そこには三人のリン達と同じ年頃の少女がリン達を敵意を含んだ目で睨んで立っていた。

その手の視線に馴れているソラは彼女達がタツミのファンだとすぐに気付く。


「心配しないで、私達はタツミ君の只の友達よ。

 私もこの子もタツミ君の御両親に良くしてもらっていて今日は御両親のお誘いをお受けしただけだから。

 それに彼とはまだ今日で2回しか会っていないから。」


しかし二人に好意を寄せているタツミには結構キツイ一言だ。

ハッキリ言ってかなり落ち込んでいる様だ。

その辺りソラは鋭い様で鈍い。

それでも、何故、敵意を向けられているのか判っていないリンよりはマシである。

リンは小首を傾げキョトンとしながら。


「ソラさん、何故そのような事を?

 確かにその通りですけれど。」


などとタツミに追い撃ちを掛けている。

そんなソラとリンの反応に三人の少女は胸を撫で下ろす。

リンは訳が解らず頭に?マークを5つ程浮かべている様だ。


そんな風にその場はリンとソラの二人を穏やかに押し流していた。

タツミのファンの三人が加わり賑やかに過ぎる時間を突然終わらせたのはリンだった。


「ソラさん、皆様をお連れして避難なさって下さいね。」


突然そんな事を言い出したのだ。

ソラはソラで、


「わかった!

 気をつけてね。」


と言い出す。

訳が解らないので困惑する他の人達を余所にリンはおっとりとした動作で立ち上がる。

対してソラは困惑している五人に手を差し出して立たせ湿原を離れる様に誘導する。

ソラに背中を押され訳が判らないまま五人が移動を開始した事を確認するとソラはリンに確認した。


「誰が来たか判る。」


それを落ち着い口調でしかし強張った声で返答する。


「四皇のレックス様です。

 少し時間を稼いでから逃げます。

 合流はあの場所に三日後、急いでくだ・・・。

 どうやら、気付くのが少し遅かった様です。

 幸い囲まれたのはわたくしとソラさんだけの様ですけれど。」リン


「覚悟を決めろ!

 ・・・か。

 大丈夫とっくに出来てるから!」ソラ


そう言ってリンと背中合わせになり、具現化の魔法で自身の武器であるハンドガンを作り出す。

ソラは具現化の魔法だけならM・R、SSデュオと遜色ない技術がある。

十分虹の構成員と対抗出来る武器だ。




~具現化魔法~


具現化の魔法や神法は作った物に固有の名称を付けると名前をイメージし魔力や神力を一カ所に集めるとスペルキャンセルでも作った時と全く同じ能力か実力が上がりより力の集束率が高くなっていると自動的に上書きで今の実力相当に更新された物を具現化出来る便利な魔法である。

ちなみにソラが付けたハンドガンの名前は『ミリタリー』である。

だが具現化の問題点は想像力が優れていないとたいした物が作れない事である。

そのため、一般の魔導師や神属の者は魔具、神具と呼ばれる魔法を補助出来る一種のブースターを装備し、そのままだったり、透明化クリア系の魔法や神法、縮小ミニマム系の魔法や神法を使って持ち歩く。

例外は召喚師で召喚師は不必要な物を亜空間に保管し必要な時に取り出すのが一般的でフロルドはこれを使って双月を持ち歩いていた。

また具現化を使える者と一部の魔力、神力感応者は魔具、神具を使わ無くてもブースターを装備した魔導師や神属の者と互角の力を引き出せる。




その頃、後を追って来ないリンとソラを不信に思った五人は後方を振り返り、ソラが具現化の魔法を発動したのを見た。


「!

 具現化!

 それもかなり高度な・・・。

 何で彼女があれだけの魔法を親父、彼女は一体?」


そうタツミに聴かれてギャリックは状況も相俟って答えざる終えなくなっていた。

一度、シズカに視線を送ってから話しはじめた。


「・・・彼女達は虹の派閥に属している魔導師だ。

 彼女達は特殊任務でこの街に来ていた。

 これはその妨害なのだろう!」


「虹の術師・・・。

 おじさん・・・でも、二人共私達と同い年ぐらいですよ。

 ネムちゃん何か年下なんじゃないですか?

 落ち着いてるけど。

 そんな子が虹に居るなんて・・・。」追っかけ1


その疑問に夫妻以外が同意する。


「しかし、ネム君に派閥の構成員証を見せてもらった、あれは偽造出来る物では無いんだ。

 それに私達が彼女達と知り合ったのは彼女達が任務中に数分毎に犯罪者を捕らえて来たからだ。

 前例だってある。

 罪人として指名手配されたエレメントマスターと召喚師のフィルと言う少女は10歳で、入閥している。

 実力があれば入れると言う事だろう。」


そう説明したギャリックは視線をリン達の方に向ける。

話しをしている間にリンとソラは20人近い人影に囲まれていた。

数が違いすぎる。

助けに行くべきだろう。

しかし、救援に向かう前にレックスが二人に接触していた。

その声が五人の耳に届く。


「久しぶりだな、フィードガルドの姫君。

 お前も随分とひどい男を兄に持った物だ。

 だが、俺の物に為ると言うならお前だけは助けてやる。

 正直な話し派閥内でも随一を誇るお前の美しさは嫌いではない。」


そう言い放ち手を差し延べて来る。

つまり奴隷同様の扱いか死ぬかそれが嫌なら自分の元に来いと言っているのだ。

それとフィードガルドの姫君と言うのはフロルドを嫌う派閥の人間がフロルドの妹であるリンディスを皮肉と侮蔑と悪意を籠めて呼ぶ時に使う忌み名だ。


つまり派閥の関係者にしか解らない言い方でレックスはリンディスを雌として扱ったのだ。

むしろ世間一般に姫君等と呼ばれる事が嫌がらせだとは思わないだろう。

しかしリンと同調率の高いソラにはその言葉が嫌がらせだと言うことが自然と解ってしまった様だ。

一気に機嫌が悪くなり目元を吊り上げながらレックスに怒鳴った。

端から見れば只の命知らずだ。


「あ・ん・た・ね~!

 黙って聞いてればふざけんじゃないわよ!

 リンディスはあんたみたいな色情魔に渡すもんですか!」


しかし言った後にソラは自分が失言をした事に気付く。

自分から周りの一般人に私の連れは桜剣舞だ!

とばらしてしまったのだ。

当然、審議官のギャリック夫妻はリンディスの事を知っていた。


「リンディス?

 リンディスと言えば確かエレメントマスターの妹君。

 桜剣舞と呼ばれた才女。

 ネム君がその桜剣舞なのか?」


その囁きのように漏れた言葉にタツミ達は絶句する。

特にリンが多数の男達にナンパされ、大泣きした所を見ていた者達はレモンをかじった後の様な顔をしていた。

しかし事実は事実、此処に居るのは桜剣舞本人だ。

そして本人なら此処に多数の追っ手が来るのも納得できるのは確かだ。

何故なら皇帝に反逆したあのエレメントマスターの妹なのだから。


「ごめん・・・リン。

 でも、許せなかったのよ。

 リンの事、雌扱いした上にフロルドの事も勝手に悪人扱いして!

 ぶん殴ってやる!」ソラ


どうやらリンディスの正体を明かした事は反省している物のリンを雌扱いした事とフロルドの事を馬鹿にした事に対して怒った事は反省どころか時間が経つにつれて更に頭に来ている様だ。

その事にリンは、


「ありがとうございます。

 ソラさん、とても嬉しい。」


ソラと背を合わせたままソラの空いていた右手を取り呟いた。

そういった仕草や表情からはやはりリンには桜剣舞などと呼ばれている様な実力者にはとても見えない。

ちなみにソラは左利きでミリタリーは左手に持っている。


「おじさん、桜剣舞ってソラちゃんの事じゃないんですか?

 ネムちゃんが異名持ちだなんて・・・信じられない。」追っかけ2


この光景を見ていればそう思って当然なのだろう。

確かにリンは楽器や子供達の手を取っている方がよく似合う。

するとそんな感想を二人を囲む虹の隊員の一人が言った言葉が後押しする。


「師団長殿。

 やっぱりあんた師団長失格だよ、役立たずの素人。

 戦闘力なんて皆無のくせに、色気しか取り柄も無いからどうせ大好きなお兄チャマに頼んで虹に入れてもらったんでしょう。

 愚図だもんね。

 そこの素人と一緒に大好きなお兄チャマに抱いてもらってなさいよ!

 フロルドがいなかったら虹にも入れないような愚図何だから当然よね。

 桜剣舞の異名もお兄チャマからもらったんでしょう?」


その言葉にはその場にいたほとんどの人間が納得した。

リンの容姿ならその方が納得出来るのだ。

しかしその言葉はリンディスとソラティカの逆鱗に触れた。


「オルフレア副師団長!

 わたくしの事をどうお想いになられたとしてもどうお言いになられ様と構いません!

 ですが、わたくしの家の者と友人の方々を悪くお言いになるのでしたら・・・。

 容赦致しませんよ!」リン


「あんたね!

 リンの事何も知らない癖に適当な事言ってんじゃ無いわよ!

 私は確かに素人だからどう言われ様と構わない。

 でも、リンとその家族の事馬鹿にする様ならただじゃおかないから!」ソラ


二人の放った魔力の混ざった怒気は実力に劣るソラの怒気ですらその場にいる虹の一般隊員の力を超えていた。

リンと行動する様になってからの数日間ではあるが二人は暇があれば戦闘訓練を行っていた。

その成果にソラ自身は気付いていなかったが結論から言えば経験不足な事を差し引くと今の彼女はR・A、SSSトリオと変わらない所まで実力が飛躍している。

ましてリンディスはフロルドの影に徹して実力を隠していたが実際はR・A、SSSSSクインテッドの四皇と同等な実力がある。

リンディスは血は繋がっていなくても、間違い無く天才フロルド・Y・F・ランフォードの妹なのだ。

結果、リンとソラの放った余りにも膨大な魔力に当てられた二人を囲んでいた虹の兵達は半数の兵が気絶するに至った。

背筋の凍る光景がほんの一瞬の間に湿原の一画に拡がりタツミ達は勿論リンを馬鹿にした態度をとっていたオルフレアを始めとした気を失わなかった虹の兵達の大半がリンディスの事を誤認していた事をその瞬間思い知った。

だがよく考えればそれは余りにも判りきった事だ。

なぜならフロルドは派閥内において穏健派の筆頭として名が揚がるほど虹の実力行使を嫌っている事で知られていた。

何より過激派の者達自身がフロルドは甘いと非難し続けていたのだ。

更にフロルドはその力を派閥に入ってからずっと隠していた。

その身内が実力を隠す事ぐらい用意に想像できる。

ましてリンディスはフロルドの片腕として虹に入る前からフロルドを補佐し続けていたのは周知の事実なのだから。

しかし、リンの実力を下等評価していたのは実際には極一部の人間である、主にリンディスの団と男性の団の一部で、リンディスの団は、師団長であるリンディスが良くフロルドとマリアーナから個人的な密命を受けてフィルとのコンビで単独行動していた事が原因で実質半分以上の割合で、団はオルフレアの管轄扱いで有った事、男性の団は単に男尊女卑の思想からである。

そこに広がる光景に冷や汗を流しながらギャリックが呟いた。


「これほどの力が有るなどあの容姿からは想像できないな・・・。

 タツミ、彼女達は諦めろお前では釣り合わない。」


後半余計な事を言いながら二人を囲む虹の隊員達を見た。

視線に気付いた訳ではないがオルフレアが身じろぐ。

リンに脅えているのだろう。

リンの逆鱗に触れた張本人なのだから。

湿原を優しく風が流れていく。

鳥達がその柔らかな風に乗り天を舞い、草木は種子を運ぶ。

虫達の柔らかな歌声は動物達を眠りへといざなう。

そんな晴れ渡る青空の下に在りながらオルフレアは自分よりも7才も年下の182cmの自分よりも20cm以上背の低いただ手を前で組み、立っているだけの強く叩けは砕けてしまいそうな少女を前に声すら出せず・・・ただ、震えていた。

もうリンディスは怒気も魔力も発していない。

ただ哀れむ様な悲しそうな瞳を他でも無い自分に向けている。

・・・ただ・・・それだけだ。

今はもう何の感慨も持ち合わせていないだろう。

オルフレアは副師団長である。

R・AはSSSトリオ

ソラとなら経験的にも戦えば勝てるだろう。

しかし自分はこの少女にとってもう見る価値も無い、刃を合わせる価値も無い、ただの石ころでしかないという残酷な現実を否応なしに突き付けられ、そして理解してしまっていた。

もはやこの場で行動を許されているのはリンディス本人とリンディスと背を合わせて立つ少女、そしてリンディスと同等の力を持つ四皇、破天の剣皇・・・レックス・スミルノフの三人だけだという現実に。




~カルタロッサ~


その頃のエリシア達は流石は蒼の孤児達と言うべきなのかフロルドから建築につれて学んでいた子達を中心に既にそれはもう立派な城かと思う程の建物を建てていた。

それでもどうこう言っても50人近い大所帯。

その上、今は居ないフロルドやリンディスの執務室や200人以上の人が集まっても会議(議会)が開ける議事堂、来客用(宿屋兼)の浴室、厨房付きの部屋も 150室、練武室何かも有る。

その他大浴場、厨房大小等含めて有に300室は有るだろう。

資金は勿論、稼ぎ頭だったフロルドとリンディスのポケットマネーと商業を学んだ子供達だ(ガゼル、フィルは二人の1/4以下の稼ぎ)。

正直な一般人の感想から言えば、


《ガキの癖に能力高すぎっ!》


・・・・・・とツッコミぐらいは許してほしい所だ。

フィルは孤児達に(孤児院)を建てる事を許可していたがまさかこれほど大規模な物を建てるとは思っておらず途中から呆れ返っていた。

だがそれだけで終わらないのがこのメンバーの恐ろしい所。

完成と同時にそこを基点に商業、工業を学んだ者達が商売を開始し、学術を学んだ比較的高齢(と言っても15歳前後)の者達は平時に議事堂で学校を初めている。

家の完成と同時に手の開いた建築担当は次に鍜治場の製作に移っている。

更には手隙の10歳以下の子供達でさえ宿屋として開業したこの家で働いている。

当然エリシアも此処で働いている。

エリシアが担当したのは学校の教師である。

元々人当たりが良く、学園での成績も良かっただけに十分熟せている様だ。

そんな訳で今現在のカルタロッサは実にフィル達がやって来る前の実に100倍近い経済効果を上げている。

ナタル達からすれば嬉しい誤算だろう。


「何と言うか・・・たくましいね。

 フィル君の家族は。」


ナタルは家が完成した後、そこで仕事をエリシア達が始めたその日の会議でフィルに語りかけていた。

フィルはそれに、


「恐縮です。

 私もまさか自分の家族のポテンシャルが此処まで高いなんて思ってなかったです。

 正直みんなポジティブ過ぎです。

 ビックリです。」


等と呆れた様子だ。

エリシアはただ感心しながら、


「やはり普通よりも格段に優秀なのですね。

 フィルさん達を見ていて感じてはいたのですが。」


そんな事を言っている。

孤児が普通の子供よりもしっかりしている子が多いのは知っていても蒼の孤児達はしっかり者とかそういったレベルではない。

子供は親の背中を見て育つ物だが見てきた背がフロルドでは大きすぎるのだろう。

そんな会話にリリーが提案を入れる。


「折角だし、もし良ければフィルちゃん。

 このまま此処を拠点に両国の進攻に備えて有志を募ってみたらどうかしら。」


それにエリシアは反対の意見を入れる。


「それはいけません!

 確かに両国の進攻は脅威です。

 しかし、此処で人を募れば多くの犠牲が出てしまいます。

 元々人口の割に御年の若い方(子供)と御高齢の方が多く、また守りに向かない地形ですし。」


「確かにその通りだね。

 でも対応策は必要だよ。」ナタル


「判ってます。

 だから私達の人数以上の家を建てたんです。

 そろそろ各国に散っていた元蒼の院生が集まってくる頃です。

 こんな世界情勢で行き成り短時間でこれでけ大規模な物を作れる建築技師は早々いませんから蒼の生徒なら気付きます、勿論パパとママも、気付く筈です。

 まだ、戻ってはこないと思いますけど。

 本格的な迎撃準備はそれからです。

 と言う事で取りあえず地形図と地図は有りますか。」フィル


「流石はリンディスちゃんの補佐官ね。

 はい、こっちが地図でこっちが地形図よ。」


そう説明しながらリリーはフィルに地図と地形図を渡した。

それから直ぐにフィルは二つの図を確認しながら迎撃準備の為にその頭脳を駆使しはじめた。

今現在フィルの頭の中では現在の戦力と軍資金と地形他もろもろの情報が錯綜している。

それから暫くの間フィルは思考の海に潜りそうなのでエリシアはこの時間を使ってずっと気になっていた事をナタルとリリーに聞いた。


「あのすみません。

 ずっと気になっていたのですけれど・・・。

 たびたび何かがある度にお名前が出て来られるリンディス様とは一体どの様な方なのですか?」


それに今までリンディスの名前だけ出してエリシアに一度もリンディスについて説明していないのを二人は思い出す。

特に、ジンとメイリンはリンディスに会った事があり極普通に会話に乗ってくるのでそのままスルーで来ていたのだ。


「そういえば、言ってなかったね。

 リンディス君はフロルド殿の妹君、と言ってもフィル君達と同じで孤児院の生徒だよ。

 ただリンディス君はフロルド殿が蒼を造る前から共に暮らしていてフロルド殿にとっては妹であり最も信頼を置いているパートナーでもあるね。

 だからこそなのだろうけれど、リンディス君は蒼で唯一フロルド殿と同じフィードガルドの名を名乗っているね。」ナタル


「それにリンディスちゃんはただフィードガルドの名前を名乗っているんじゃなくてそれに見合った才能が有るわ。

 例えばリンディスちゃんは今、桜剣舞の異名を取っていたり、政治の場でも活躍してるわね。」


そうリリーが引き継いだ。

それからも暫く二人はリンディスの事を話してくれたがその中にリンディスの短所が上がる事は無かった。


「素晴らしい方なのですね。

 リンディス様と言う方は。」


そう感嘆の声を二人が息切れしたのを見てエリシアは口をはさむ。

同時にその時まで思考の海に沈んでいたフィルが遇えてナタルとリリーが避けていた話題を口にしてしまう。


「うん!

 リンママはすごいよ。

 美人だし、優しいし、頭も良いし、器用で家事も完璧。

 お歌も踊りも他の事もほとんど何でも出来る。

 ルーパパとリンママの二人で居ると夫婦みたいだよ。

 多分この件か終息したら結婚するんじゃないかな?」


興が乗ってたので勢いで突っ走って書き上げました第10章の後編です。

リン&ソラの視点メインに為ってますが意外な一面や怖い一面が描かれてます。

また孤児院メンバー大奮闘、凄まじいですね。

最後にフィルの爆弾投下のオマケまで。

ちなみに三人の天才が誰だか解りましたか?

答えを言うと今後のネタバレになるのでご想像にお任せします。

では、第11章でお会いしましょう。

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