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第10章 ~分岐する未来・三人の天才、二人の出会い①~

長いです。

書ききれそうに無かったので一段投稿しました。

インフルエンザに掛かってなかったらアップかなり遅くなってたかも知れません。


「以上で説明は終了させて頂きます。

 最後にこちらから質問させていただきます。

 貴方方はこれからどうなさいますか?

 端的で結構です。

 例えばこれを機に軍属となる、わたくし達に着いてくる。

 または学園生活を続けると言った物で構いません。」リン


一通りの説明を終えたリンとガゼルはそう言ってソラ達を見つめた。


それに真っ先に反応したのはノバァだった。


「その前に聞いときたいんたけど。

 もしも敵対するって言ったらどうなるの?」


「どうもせ~へん。

 どう足掻いてもあんたらじゃ俺らに敵わへん。

 これまでも、これからもな!」ガゼル


「そう、感に触る言い方だけど事実だし仕方無いわね。

 じゃぁ、私は学園生活を続けるわ。」ノバァ


次いでハースも答える。


「オレも学園に戻らせて貰うよ。」


「私は~指導者として~誰かが~残る~って言うなら~貴女達に~ついて行くよ~。

 でも~誰も~行かないなら~教師を~続けるわ~!

 さぁ~ソラちゃんと~ジン君は~どうするの~。」メイリン


そう言ってジンを見つめた。

ソラがまだ悩んでいるのは確認しなくても判ったからだ。

その視線を受けてジンは一瞬思案した後リン達を見て。


「オレもあんた達と一緒に連れていってくれ。」


そう答えていた。


「じゃあ~私も~残るね~。」


そのジンの言葉を聞いてすぐにメイリンはそう続けた。

それからリン達はソラの決断を待った。

しばらくの沈黙の後ソラが口を開いた。


「私は学園を辞めます。」


その一言だけで全員がリン達と行くのだと思いメイリンが、


「じゃ~、行こっか~。」


そう返した。

だがそれにソラが目をまるくして、


「どうして先生が一緒に?」


そう問い返し直ぐに勘違いさせたのだと気付くと、


「ゴメンナサイ。

 そういう意味じゃなくて、私は違う道を探して見ようと思って。」


そう付け加えた。

それを聞いたジンは少々落胆したがすぐに、


「違う道って何か当てが在るのか?」


そう聞いてきた。


「無いけどしたい事って言うか、目標はある!」ソラ


「目標、ですか?」リン


「ええ、私は戦後の復興に尽力したい。

 私何かじゃ戦争は止められないし。」ソラ


そう苦笑しながら答えた。

それをハースは冷ややかに観ていた。


《所詮、世間知らずのお嬢様か》


そう心の中で呟きながら。



一方、リンは、


《お兄様の言った通りに為りましたね。》


と的確すぎる兄の予想に半ば呆れつつ聞いていた。




それから一週間の時間が過ぎた現在・・・・・・・・・。




ソラはリンと行動を共にしていた。


「でも、驚いたわ。

 あの後、リンが私について来るなんて思ってもいなかったから。」ソラ


「そうですね。

 わたくしもこうも見事にお兄様の予見通りでなければ貴女がこれから何をするのか気にもしなかった筈です。」リン


「でも、良かったの?

 ガゼル君達をほって置いて?」ソラ


「問題ありません。

 ガゼルは、行動こそいい加減ですが、戦力としては申し分ないですから。

 それと指揮はわたくしの副官でも在ったフィルにとって貰っていますから。」リン


「フィルちゃんって別れる前に話してた子だよね?

 強いの?」リン


「強くはないです。

 基準は虹内部ですが・・・。

 ただ、フィルは戦闘面ではなく指揮、策謀面に置いての才が抜きん出ています。

 とても10才とは思えない指揮、軍略を披露してきた天才軍師ですからね。

 ですので全く心配いりません!」リン


「天才軍師・・・。

 それでも、まだ子供でしょう?

 寂しがったりしない?」ソラ


「しますね。

 わたくしはあの子の母親同然ですから。」リン


「だったら!」ソラ


「ですが、その分合流した時には思っきり甘えさせてあげます。」


リンのその時の顔は正に母親の顔だった。

そんな会話をしながら二人は水中都市『オスティア』の町を図書館に向けて歩いていた。

ただ問題はこの町は国内最大の図書館が在ると同時に水中都市と言う名前の通り四方を文字通り水に囲まれた大河の川底に存在する都市であり、各国家に対して絶対中立を慣行している都市国家である。

その性質上、各国で指名手配された犯罪者が多く潜伏していて、また、二人が街中の女性と較べて郡を抜いた美女だったせいもあり図書館に着くまでに二人は両手で数えられないぐらいの犯罪者を捕まえる事に成っていた。

そのせいで図書館に着いたのは朝9時の会館直後に着くように宿を出たにも係わらず午後2時を廻ってしまっていた。




~図書館受付~


「その文献でしたらD-75の棚に在るはずです。」受付員


二人が捜していたのはかつての戦争、天災等の資料とそれの復興を行った人物の資料だ。

理由はまず何をすれば良いか全く見当もつかなかったからだが。

二人はその文献の数を見て固まってしまっていた。

この二人は実は似たり寄ったりでかなりの勤勉家あり、本好きなのだが・・・・・・この量は二人の許容量を超えていたのだ。

それでも二人は意を決して本の山に向かっていった。




それから暫く二人は図書館に通い続ける事になるのは言うまでもない。




二人が図書館で調べ始めた頃、ガゼル達はエルフ族の町『カルタロッサ』に来ていた。


「ゴメンね、ナタルさん突然お邪魔しちゃって。」フィル


「良いよフィルちゃん。

 気にしなくて。」ナタル


ナタルと呼ばれたエルフはこの町の長であるハイエルフで魔法に長け長命で知られるエルフ族としてはかなり若い部類に入る。

それと余談だがエルフ族は名字を持たない。


「それで、こんな大所帯で訪ねて来たのはやっぱり、フロルド殿の件だね?」ナタル


「はい。

 事情はその通りです。

 それでお願いしたい事が在って。」フィル


そこまで言うとナタルの妻のリリーが、


「そんなに緊張しなくても協力させて貰うわ。

 この町は貴女達、蒼の翼とフロルド様には凄くお世話になっているのだから。

 それにカトレアとクロスの戦争はこの国にとっても目の上のタンコブだもの。」


それを聞いてフィルの顔が年相応の無邪気な笑顔に変わる。

その笑顔を見てリリーはフィルを優しく抱き寄せながら。


「ところでリンディスちゃんはどうしたの?

 蒼は実質あの娘が管理していた筈よね。」リリー


「リンママは今は違う仕事で別行動してます。

 ガゼ兄だけだと頼りないからって事で蒼には私が着いてますけど。」フィル


そんな話しをしていると突然目の前が光だす。

三人は咄嗟に戦闘態勢を取り外で待っていたガゼルも異変を察知して武器を構えながら入って来るとフィルを庇う様に前に出る。

それと同時に光は納まり、


「きゃう!」???


と言う可愛いらしい悲鳴が響いた。

たが自分に対して向けられた武器を見てすぐに臨戦態勢を取り。


「此処で捕まったらまたフロルド君に迷惑がかかる。」???


そう呟いた。

だが当然フロルドの名が出たことで4人に空きができた。

それを見た少女は踵を返し逃げ出したが後ろから掛かった一言で足を止める。


「兄貴の知り合い?」ガゼル


「えっ?」少女





それから暫く警戒を解こうとしない少女に事情を説明し少女の警戒を解いた。


「ゴメンナサイ。

 まさかフロルド君の御友人の方と御家族の方だとは思わなかったもので。」少女


そんな少女の言葉に4人は内心で、


『フロルド殿を君付けか。』

『フロルド様を君付け。』

『兄貴を君付け。』

『ルーパパを君付け。』4人


そう突っ込みながら話を聴く。


「改めまして自己紹介致しますね。

 私はエリシエール・A・S・マァークライトと申します。

 今回の件の原因となった、カトレアの第4皇女です。

 ガゼルさん達には本当に申し分ない事をしてしまいました。」エリシア


そう言って深々と頭を下げる。

そのままフィルが頭を上げる様促すまでエリシアは頭を上げなかった。


そこにエリシアが来た事を聞いたジンが入って来るとエリシアを見て直ぐにエリシアに問い返す。


「エリシア?

 あっ!

 失礼しました。

 エリシエール様!

 それで・・・本当に・・・エリシエール様・・・何ですか?」


「エリシエール様だなんて、エリシアで構いません。

 ですが・・・それほど変わりましたか?」エリシア


「何の話しだ?」


そう以前のエリシアを知らないガゼルが割って入りジンを見る。


「それは何て言うか・・・雰囲気っていうか・・・気配って言うか・・・。

 ん~まぁ、そんな感じのが・・・以前と全然違ったんだ。

 それに喋り方も違うし。」ジン


「いろいろ・・・有りましたから、この1週間で・・・。

 いいえ、この数時間で・・・と言った方が正しいですね。」エリシア


その時のエリシアの表情を見たフィルはその表情を彼女がルーパパと慕うフロルドの表情とダブらせていた。

それから自然とエリシアの頬に手を伸ばし、お腹の辺りに額を当てて、


「大丈夫だよ!

 皆が居るもん。」


そう呟いていた。

その行動に一瞬目を丸くし、驚いた様な表情を見せたエリシアだったが直ぐにまだ彼女達が学生だった頃の全てを包み込む様な暖かい笑顔で、


「ありがとうございます。」


そう返していた。


「それで、何であんたは此処に居るんや?」


そう、人見知りの激しいフィルがエリシアにすぐに懐いたのに驚きつつ、フィルがエリシアから離れるのを待ってガゼルがジンの登場で聞きそびれていた事を問い掛けた。


「ガゼル君。

 お相手は一国のお姫様だよ。」


そう言葉を継いだナタルが、


「ですが確かにその理由はお聞きしたいですね。」


そう少し恐い顔でエリシアにガゼルと同じ質問をする。

先程からエリシアとずっと手を繋いでいるフィル以外は皆そんな顔だった。

しばしの沈黙の後、エリシアは、


「それが・・・、解らないのです。

 おそらく・・・。」


そう言いかけた時、


「ルーパパだよ!

 エルお姉ちゃんの手首のネックレス、パパと最後に会った時にパパが作ってた魔道具だもん。

 何かのきっかけで転移魔法が発動する様にしてたんだよ。」フィル


そう、とても10才とは思えない洞察力でことの顛末を言い切った。


「フィルちゃん、ルーパパとは確かフロルド殿の事だったね?」ナタル


フィルが頷くのを見て、


「エルお姉ちゃんと言うのはエリシエール様の事?」ナタル


そう再び問い掛けた。

それに頷きながらフィルは、


「ガゼ兄、気付か無かったの?」


と少し非難の篭った目で呟いた。

その目にたじろぎながらガゼルは、


「俺が居ない時やろ、俺だって何時も蒼に居た訳やない!」


「居たよ。

 それに、『兄貴、何やってんだ?』って自分から聞いてる。

 そんな事も忘れた?

 この役立たずの筋肉バカ!

 そんなだからリンママの苦労が減らないんだ。

 もういっそ出て行け!

 それか死んで!」フィル


そう言って今度は更に憐れみまで篭った目を向ける。


「フィ、フィルちゃんチョト言い過ぎよ。

 『毒舌過ぎるから。』

 ねっ。

 もう少しお手柔らかに言ってあげて!」リリー


妖精の様に可愛いらしいフィルの口から出たとんでもないバクダン発言に必死に制止を掛けるがフィルは相変わらずガゼルに文句を言いたげにしている。

しかしエリシアはそんなフィルの姿に彼女が良く知る普段(学生時)のフロルドの姿がダブり、


『やっぱり家族何だ。』


と何処か納得してそのフロルドが残したネックレスを愛おしげに眺めてから胸の前で優しく握り締めていた。


「どうかなさいましたか?」


ナタルがそれに気付いて問い掛けると、


「羨ましいと思ったのです。

 お二人の様に本音でお互いに言い合えるのが・・・。

 それと、フィルちゃんの口調がとても子供らしい素直な飾りげの無いものだった事が何処かフロルド君に似ていてつい。」


「ルーパパに?

 でも、パパはそんな風に振る舞った事ない!」フィル


「そうやな。」ガゼル


そう先程迄の会話をまるで無かったかの様に二人は聞き返した。


「おそらく、エリシエール様の印象は演技、意図的な物でしょう。

 そうでなければつじつまが合いませんし、・・・いえ、逆でしょうか。

 私達が知るフロルド様が不自然なのかも。」リリー


後半思考の海に潜りながら、彼女はそう呟いていた。


「それは判りませんが、前者だと考えるのが自然です。

 という事で、フロルド君の事は此処までにして、今後の事を話し合いましょう。」エリシア


「そうですね。

 では・・・、まず、フィルちゃん達への支援については私達は全力で支援させて貰うよ。

 勿論、エリシエール皇女殿下も歓迎致します。」ナタル


「ありがとうございます。

 ですが先程も言いましたがエリシアで構いません。

 敬語等もいりませんから、普通に接して下さい。」エリシア


「ありがとうございます、ナタルさん。

 フロルド、リンディスに代わり感謝致します。」フィル


そうそれぞれに歓迎と感謝の意を告げた。

返答を聞いてすぐに砕けた調子で話は進む


「それじゃ、遠慮無く敬語は省かせて貰うよ。

 エリシア君」ナタル


「はい。

 それと逃亡中の身ですので念のために街中では、別の名前で呼んで頂けますか?

 そうですね、・・・フィルちゃんが呼んでいたエルとでも。」エリシア


「判りました。

 では町の者にもそう呼ぶように伝えます。

 フィルちゃん達もそれで良いかな?」ナタル


「はい。

 良いです。

 それでは、私達の事ですけど、当面は町の会議場で休ませて頂きたいです。

 勿論、明日から、皆が泊まれる場所の詮索、確保と、町の手伝い等をさせますけど。

 手伝える事があれば何時でも何でも言って欲しいです。」フィル


「うん、判ったよ。

 たよりにしてますね。

 後、泊まる場所ならいっその事、新しく建てて貰って構わないよ。」ナタル


「考えておきます。」フィル


「あの、フィルちゃん、貴女方が宜しければ、私も貴女方と生活させて頂いて構いませんか?」エリシア


「俺らと?」


その提案に今までフィルに任せきりだったガゼルが口を挟む。


「ダメでしょうか?」エリシア


「いいよ!

 大歓迎、私達なら気にしないで!」フィル


そうフィルは満面の笑みで答えた。


「それは何か理由があるのかい?」ナタル


ナタルに質問されてエリシアは少し困った様な、恥ずかしがっている様な複雑な顔で、


「その何と言わせて頂いたら良いのか・・・。

 その・・・、私は・・・、その・・・今にして思えば、皇族だった為なのですが、その・・・、典型的なお嬢様育ちと言いましょうか、魔法と勉学以外の事に、その・・・、まったくの無知なものですから。

 その・・・まずはそのあたりからこの世界の事を学びたいと思いましたので。

 身勝手とも思いましたが、お願いできますか?」エリシア


「成る程、つまり庶民の生活を学びたいと言う事だね?

 どうかな?

 ガゼル君、ジン君」ナタル


そう二人に尋ねる。

それにジンは言葉を重ねて、


「だったらオレも学んどきたい!

 良いか?」


そうフィルとガゼルに聞いた。


それにガゼルは笑みを浮かべながら、


「良いぜ!」


と答え、フィルは、


「エルお姉ちゃんは良いけどジンはヤダ!

 ガゼ兄が相手して。」


と言う言葉で切り捨てる。

その返答にリリーは内心、


『誰に似たの?』


などと思いながら、


「リンディスちゃんも大変ね。」


と本人にしか聞き取れない程小さな声で呟きながら苦笑した。



そういった具合にナタル邸での顔合わせの一日は過ぎていった。




翌日からエリシア達は昨日のやり取りの通りガゼルを中心にした男性陣は居住地探しと街の警備を女性陣は子供達の世話や家事をそれぞれ行い、フィルにナタル、エリシアとリリーはそれぞれの仕事を行った上で、夜は今後の事を話し合う毎日が続き比較的平穏な日々が過ぎていった。

当然、フィル達とは違いこういった生活に不慣れなエリシアとジンはほぼ全日、ふらふらになっていたのは言うまでもない。




そうしてエリシアやソラ達がそれぞれの望む未来に向かって進み出した頃、フロルドはと言えば、ケイオスに付け回されていた。


「・・・何時までついて来る気だ?」フロルド


そう聞くとケイオスは、


「お前がこの国をどう判断するか見届けてからお前に指定された人間に会いに行ってやる。」


そう言って再び沈黙を保つ。

それに、


《ヤレヤレ》


といった具合に肩を竦めてから進行方向を変えトゥルカナ湖と呼ばれる湖に向かった。




~トゥルカナ湖~


「そういう事なら、オレの判断を聞かせてやる。

 此処なら滅多に人は来ない。

 こういう話しをするにはもってこいだ。」フロルド


「そうだな。

 この湖は神属の者しか近付く事を許されていないからな。

 得にこの国の人間は信心深い奴が多い。」ケイオス


ケイオスは気付か無かったがトルカナ湖周辺には聖域として厳重な結界が張られていたがそれと気付かせずに魔法を掛けたフロルドにより結界内に侵入出来ていた事にケイオスが気付くのは随分先の話である。

それからフロルドは、付近で湖に一番近い樹の枝に座り湖面を見つめながら、囁きの様な小さな声でしかし不思議と非常に聞き取りやすい声で、まるで歌を歌う様に聴く者を包み込む声音でゆっくりと語りはじめた。

その声をケイオスはフロルドが昇った樹の幹に背を預けながら聞いていた。


「この戦争は両国にとってまるで意味が無い、不自然な戦争だ。

 二国の国力はほぼ同等だし、イカロスも国力はほぼ同等、三大国家の均衡により安定した状態だっだ。

 更に両国共天災、食料不足や水源の枯渇に外交上の摩擦と言った戦争の引き金になりえる事象も一切無い。

 こんな状況で戦争を起こせば最後はイカロスが疲弊した戦後の両国を攻めてどちらの国も倒れて国が滅ぶ。

 滅ぼさざるえなくなる、そうしなければ次に滅ぶのはイカロスだからな。

 だと言うのに戦争は起きた。

 なら考えられる事は一つだ。

 それは、第三者による戦争の先導!

 だったらオレはソイツらを止める!

 そして泥沼化する前に戦争の真相を突き付け、この無意味な戦いを終わらせる。

 勿論、この国に無意味な闘争を仕掛ける気は無いしな。

 少なくとも第三者を罰する事で事態を終息させられるならそうする。」フロルド


そこで一旦言葉を切り、まるで演説を聴く観衆を相手にしている様に一拍措くと再び言葉を紡ぎはじめた。


「・・・だが必ずしもその第三者を人々の前で罰する事が出来るとは限らない。

 その時はオレがこの戦争の責任を全て背負おう、その為の細工も、もう仕掛けてある。

 正直に言えば、大切な人達を騙して、その人達に自分を殺させる事には抵抗はあるが・・・。

 戦争と言う物がそんな綺麗事だけで終息しない事だって判っている。

 ならの者に無実の罪を着せるなどと言う愚かな事をする気は毛頭ない!

 罪はオレが被る!

 勿論、平和に成ったこの世界を観てみたいとも、大切な人達と幸せな日常を過ごしていきたいとも思うけどね。

 そんな一個人のちっぽけな感情よりもこの世界中に住む多くの人々の幸せを護るのが為政者としてのオレの役目だからな。

 これがお前の問いに対する答えだ・・・。

 他の人間ヤツにはバラすなよ。」


そうフロルドは一息に語り切りケイオスの反応をケイオスには一切視線を向けずに待った。

沈黙が二人の間を包みこむ、動物の鳴き声や木々の擦れるおとに風のが響く中、ただ時間だけが早足で過ぎて行く。

そんな中、日が暮れる直前に意を決したケイオスが口を開いた。

実にフロルドが語り終えてから5時間以上もの沈黙と静寂だった。

それほどの沈黙と静寂だったにも関わらずケイオスの第一声は驚くほどに完結だった。


「そうか。」


ただその一言だけ言ってまた沈黙が訪れる。

二の句が継がれたのは日が完全に沈んだ後だった。


「何故それほど重要な事をオレに話した?」ケイオス


「お前に嘘をついた所でバレるだろう?

 それにお前がこの事をばらしても誰も信じない。

 気分屋の傭兵として有名だからな。

 貴様は!

 一応さっきも言ったが口止めはしておくがな。」フロルド


返答を聞いたケイオスはたからかに笑い、


「良いだろう!

 会ってやろう。

 お前が指定する雇い主とやらに。」


そう言い残して去っていった。

フロルドは枝から音も無く飛び降りながら、


「御手並み拝見といこうか。」


と言いながらトゥルカナ湖の岸を上流にある山麓に向かって歩き始めた。




~河口付近~


そこでは暗闇に紛れて川の流れる水音とは違う水音が響いていた。

勿論こんな暗闇で川で泳ごう等というバカはいない。

まして此処は聖域だ一般人は近付かない。

だからこそフロルド達は此処で話しをする事にしたのだから。

しかしそこには5人もの人が居た。

1人が川の中に後の4人はそこから10メートル程離れて川の中の1人に背を向ける様にして。

暫く水音だけが続いていたが、


〈ガサッ〉


という草を掻き分ける様な音がして一斉に音のした方を5人が見る。

しかしそこには何も居ない。

その事に安心した様にまた5人は元の配置に戻ると。


「ほんまにそんな神託が当たるんか?」???


そうまるで期待していないと言いたげに一人が口を開く、声からして男だろう。


「神託が外れた事は無かったと記憶しとるけど?」???


それに、もう一人が答えたこれも男の声だ。


「神託云々はどうでもええ。

 ワイは自分の仕事こなすだけや!

 無駄口叩くなや。」???


三人目も男の様だがそう、うっとうしいと言いたげに口を挟む。

それに中心にいる人物が、


「ウチの事信じとへんの?

 なんや寂しいな~。」???


と川から上がって髪を拭きながら聞いた。

声からして女だ。

少し考えてから最初に口を開いた男は、


紗羅シャラ様の事は信じとる!

 せやかて、近い内にシャラ様の未来を大きく変える出来事が起こるわれてもな~。」???


「ウチだけちゃうよ。

 一樹イツキ、あんたもや!

 むしろ、あんたの方がその影響大きいねんで。」シャラ


そう今まで黙っていたイツキと呼ばれた男に顔を向けながら話し掛けるシャラ。

それにイツキは、


「ワシ?

 でも、ワシ、こん中やと一チャン雑魚やで。

 ありえんやろ・・・思うけど。」


そうまるで老人の様な口調で問い返す。


「せや。

 流石に今回は外れるて。

 シャラ様、いくら弟やからて変に気~使わんでええで。」


それに最初に口を開いた男が同意する。


「うわ~。

 ほんまの事やけど凹むわ~。

 エンそないハッキリ言わんでも良いやないか。」イツキ


そうこうしている間にシャラは着替えを進めて行くが。

再び、


〈ガサッ〉


という音で全員が音のした方を見る。

そこには先程とは違い毛むくじゃらのダチョウのような生き物が居た。


「なっ!」


と全員が口にしたのと、2番目に口を開いた男がダチョウモドキに頭から動体を食いちぎられるのは殆ど同時だった。

鮮血を吹き上げ、残った内臓を近くに撒き散らしながら倒れる仲間を見ながら臨戦態勢に移る男達。


レン

 クソ!

 なんやこの化け物、冬摩トウマ、イツキ!

 シャラ様を守れ!」エン


「仕事や!

 やっと巫女姫様の護衛らしい仕事や。」トウマ


そう言って会話を五月蝿気に聞いていた男がダチョウモドキに背にしていた打鞭を手に飛び掛かった。

しかし横薙ぎに振られた打鞭は空を切り4人はダチョウモドキを見失う。


「何処いった?」


エンは警戒しながら円を描く様にシャラに向かって移動する。

トウマはその場で周囲を見渡すが、ダチョウモドキを目で捉える前に二人はダチョウモドキに弾き飛ばされ川の中に沈む。


「エン、トウマ!」


そう叫びながらイツキは自身の持つ槍でダチョウモドキに突きを放つと、


「姉貴、逃げろ!

 戦いの邪魔や。」


と叫んだが、シャラは、


「でも!」


と躊躇った。

その直後、エンとトウマが川から飛び出し、


「行け!」


と叫びながらダチョウモドキにエンは戦斧を頭上から縦に振り下ろし、トウマは打鞭を下から振り上げる。

その剣幕に押されシャラは仕方なくその場から逃げ出した。




一方、フロルドは5人が居た場所から響いた音に反応してそこに向かって走り出していた。


「何だ?」


そう言いつつ、魔素マナの正確な気配を探る。

元から逃亡中だった為人の持つマナに近づか無い為、広域のマナ探索中でポイントを合わせるのは早かった。


《これは、召喚獣?

 はぐれか?

 いや、主持ち(あるじもち)だな。

 一人離れた、戦えないのか?》フロルド


などと考えつつ更にマナの探索範囲を絞り込む。

よく勘違いされるが元々フロルドの強さはその膨大な魔力の量でも、魔力のコントロール能力でも無ければ、物理戦闘能力でも無いし、知力でも無い、勿論それらも十分過ぎる程優れているが、そんな物よりもマナの探索能力の高さがその強さの要で在り、他の追従を絶つ絶対的な差だった。

そんな長所を生かしフロルドが今している事は、その場に居る者達の戦闘能力と戦闘パターンの分析、それと周囲状況の把握にそれぞれの精神状態の確認だった。

信じられない程の高速疾走を行いながら、暫く様子をうかがった後、


《成る程、それが目的か。

 つくづく縁があるな、まぁ、此処は聖域だ彼奴等が居てもおかしくは無いか。

 ならオレも上手く立ち回る必要があるな!》フロルド


そう結論付けて速度を上げる。




一方でイツキ達は、


「クソッ!

 このダチョウモドキなんつう速さや!」エン


この言葉の通り、ダチョウモドキのスピードに翻弄されていた。

このダチョウモドキの速さはS・R、SSデュオクラスで一般兵(R・A、B以下)では10人掛かりでもほぼ間違いなく全滅する戦闘力があった。

3人は巫女姫の護衛だけはありエンとトウマのR・AはソロランクでイツキはAランクの上級兵クラスだが苦戦は必死だった。


「まあ、でもシャラ様は逃げれた事やし、これで本気出せるわ。」トウマ


その言葉と同時に3人は今まで抑えていた神力シンリョクを解放する。




神力・・・

神兵シンペイや神官、巫女といった神属の者のみ使えるとされる聖魔法セイマホウで別名は神法シンホウ

魔法の派生種とされているが、神力を使える者は魔法を使えない。

逆に魔力を使える者は神法を使えない。

また神官、巫女は何故か補助神法と回復神法、またはそのどちらかしか使えず。

神兵は攻勢コウセイ神法しか使えない。




3人は攻勢神法を発動してダチョウモドキに挑んでいった。




その頃シャラは3人を置いて来た事に不安を覚えながら救援を求める為、神社に向かって走っていた。

神社はシャラが水浴びしていた(身を浄めていた)場所より1Km程東の所に在る。

しかし、シャラは『巫女姫』と言う出生上、体が余り丈夫ではないうえ、此処は森の中で足場がかなり悪い為200mも走らない内にフラフラになっていた。


「!」シャラ


そんな彼女が異変に気付き後方に目を移すのと気を失うのはまったくの同時だった。




~トゥルカナ湖北西部の鍾乳洞~


そこに目を覆いたくなる様な肥満体の男がいた。

どう見てもフロルド3人分は横幅がある。

いくらフロルドが小柄と言っても太りすぎている。


「グフ!

 グフフ!

 待っててね~、シャラたん。

 もうすぐシャラたんを悪い奴らから助けてあげるからね。」


と明らかに妄想も甚だしい事を周囲に置いたスナック菓子を頬張りながら口にしている。

傍目から見たらただの変態だが当人は気付いていない。

それには2つ理由があった。

1つは、その姿を見た人が揃って彼を避けた事だ。

シャラが連れ去られた事もそこに原因がある。

そうシャラは皆が避けたこの男に優しく(人並み)に接したからである。

理由は単純に巫女姫としての職務にすぎない。

その事を男は自分に気があるのだと勘違いしたのだ。

2つ目はこの男が使っている力だ。

フロルドが先程考えていた、召喚獣やはぐれ、主持ち等といった事柄だ。

つまり、召喚術と呼ばれる上級魔法(他には錬金術、神剣魔法などかある)がこの男は使えるのである。

召喚術は本来、禁術と同等とまで呼ばれる程優れていて、召喚術が使える者は召喚士と呼ばれ、異名持ちと同等に扱われる。

それほどの人材なのである。

それゆえに誰も男を恐れ男を止めようとも近付こうともしなかったのである。


「ゲッ!

 ゲッゲッ~!」???


そこにシャラを背負った半魚人が現れる。


「待ってたんだな~シャラたん。

 オイ!

 ギンギョ、そのベットに寝かせるんだな~。

 ソットだぞソット。」男


「ゲッ!」


そうギンギョは答えてシャラをベットに寝かせる。


「グフ。

 シャラたん、何時もの巫女服もカワユイけど、今の浴衣姿もカワユイね~。

 起きたらいっぱい可愛いがってあげるからね~。」男


と寒気がするほど気持ち悪い口調で話しかける。

しかし、直ぐに男は自身が張った結界に亀裂が入った事で警戒を強める。


「誰何だな~?

 僕ちゃんの結界を壊したのは?

 あの3人がもう嗅ぎ付けたんだな~?

 違うんだな~、1人?

 じゃあ誰何だな~?

 まぁ良いんだな~。

 おまえら侵入者を消して来るんだな~!」


そう言って普通なら5体も召喚べば十分と思うが何せ常識が無い。

何と500体も召喚んで向かわせたのである。

しかしある意味その常識の無さが当たっていたとも言え無くもない相手で有った訳だが意図した訳では当然ない。




そのマナを読んだフロルドは、


「またワラワラと、邪魔だな!」


とゴチながら相棒たる双剣を召喚んだ。


双月ソウゲツ


そう剣の名を呼んで双剣を召喚ぶとフロルドの身長(168cm)以上の長剣(175cm)と刃渡り20cm程の短剣(全長35cm)が姿を見せる。

その剣の形状は両方共に三日月の様な曲刀形でクラッシュアイスの様な透明に近いが内部で光が乱反射する事で非常に色彩豊かな芸術品の様な造りの武器だった。

剣を手に取ると直ぐに右手の長剣を反転させ逆手に構え、左手の短剣を順手に構えて進みだすが、直ぐに大量の召喚獣と鉢合わせして戦闘が始まった。




一方、イツキ達はダチョウモドキのヒットアンドアウェイの攻撃(単に小回りが利かず自然とそうなっている)にてこずっていた。


「クソッ、当たんね~。

 それにあの質量やと受け止めるんも無理や。」エン


「何でこないな化けもんんねん。

 聖域やでな。

 此処。」イツキ


そう2人が半切れしながら怒鳴った。


「ウッサイわ!

 集中せ~!

 こないなったら、誰か囮んなってそのスキに畳み掛けるしかない!

 問題は誰がやるかや。」トウマ


「・・・ワシがやる。」


その役目を誰がするのか決めようとしたトウマにイツキは自分から志願していった。


「ワシは今中やったら一番弱い。

 留めさすんに火力不足かもしれん!

 やったら囮ん成るんが一番や。

 それにこの化け物は野放しんでけんしな。」イツキ


「ええんか?

 下手したら死ぬで。」エン


「わ~っとる。

 せやかて、やらなしゃ~ない。」イツキ


「ホナ頼むわ。

 次かわしたら作戦言うで。

 跳べ!」トウマ


それと同等にそれぞれ上と左右に別れてかわす。

直後突風を纏ったダチョウモドキが突き抜ける。

それを確認してから3人はトウマの指示を聞いた。

作戦は至ってシンプルな物だった。

トウマ以外の2人が樹上でそれぞれの最強神法を唱え待機し、イツキが大岩を背にダチョウモドキを待つと同時に遅延神法をセットしておく(イツキにセット可能な神法はBクラスの神法まで)。

後はダチョウモドキが突っ込んで来たらそれをかわして神法を放つと同時にそれぞれの武器で頭部を集中攻撃して倒すという物だ。

シンプルだがダチョウモドキの猪突猛進な攻撃パターンを上手く利用した作戦だ。

トウマという男の技量を伺うには十分だろう。




それからすぐに3人はダチョウモドキの攻撃をかわしながら場所を移動して行く。

暫くして目的の大岩のある場所にたどり着き配置に就いた。

勝負は一瞬だろう。

心臓の音が早くなるのをイツキは感じていた。

ドクンドクンと世話しなく打つ動悸を無視してダチョウモドキが突進して来るのを待つ。

冷や汗が首筋を撫でた瞬間、前方から弾丸の様な速さでダチョウモドキが突っ込んで来る。

それをぎりぎりまで引き付け、僅か1m手前という1/100秒にも満たない瞬間にイツキは左に跳び、


「弾けろ!」


と叫んだ。

それと同時にダチョウモドキが大岩に、


〈ドゴーン〉


と言う轟音を響かせて激突する。

それを合図にエンとトウマは


神鳴り(カミナリ)」エン


神炎シンエン」トウマ


とどちらもソロクラスの神法を放ち岩に激突したダチョウモドキの頭の在った場所に鞭と斧を振り下ろす。

更にイツキの発動させた〈旋風〉の神法が追撃を掛け一拍遅れてイツキの槍がダチョウモドキの首に深々と突き刺さった。


「・・・ヤッタ?」イツキ・エン


そう言った後、


〈ズ~ン!〉


と言う音と共にダチョウモドキの巨体が崩れ落ちていた。


「作戦成功や!

 とっとと帰って姫さん安心させたり、イツキ。」トウマ


そう言いながら3人は神社に急いだ。




~神社~


神社に到着した3人は神主にレンの死の報告とシャラの居場所を聞いた。

しかし、シャラは今誘拐されていて此処には居ない。

その事を知った3人は戦いの疲れも癒えないまま神社を飛び出した。

そのまま3人はダチョウモドキと最初に出会った場所を中心にシャラを捜し始めた。




~鍾乳洞近郊~


3人がシャラを捜し始めた頃フロルドは召喚び出した双月とリンディスに自ら教えた剣舞をもって、まだ戦闘開始5分程度だというのに大量の召喚獣を倒し一種の地獄絵図を作り上げていた。

倒した数は389体だがその頃には知性の無い本能のみの召喚獣達は生存本能に従い逃げ出していた。

そんな戦いを終えたフロルドは信じられない事に傷一つ無い所か息一つ乱していない。

唯一変わった事と言えば頭の後ろで結い上げパイナップル状にしていた髪がスピードに耐え切れず解け、首の付け根辺りで紐で結んだだけの状態になっているぐらいだ。

その直後、召喚獣達は光の粒子に包まれ立ち上がる。

しかし、フロルドは見向きもせずに鍾乳洞に向かう。

一方、召喚獣達の状態はフロルドと同じく傷一つ無い。

だがそこには先程とは決定的に違う事があった。

フロルドを襲わないのだ、そして倒された順番通りに姿が消えていく。

最後の1体が消えた頃光の粒子も納まり元の静かな森に戻っていた。

後方の光は消えたがフロルドはそのまま鍾乳洞を進む。

暫く進むと鍾乳洞は行き止まりになっていて、そこでは気を失ったままのシャラを満面の笑みで見下ろす大男がいた。

フロルドは外での戦闘にあれだけの召喚獣が送られていた事で洞窟内も敵でごった返していないかと面倒だったせいも合ってマナを読む事を止めていた為、少々ウンザリしながら進んでいただけに半分拍子抜けし半分呆れ返りながら近付いて行く。

それはそうだ、普通結界を破って侵入した者を迎撃するなら相手の撤退か撃破を確認してから警戒を解く、しかしこの男、数に任せた迎撃で安心し、戦闘に全く無関心だったのだ。


「オイ!」フロルド


そう怒鳴った。

しかしこの男あろう事か。


「五月蝿いんだな~。

 僕ちゃんとシャラたんの愛の一時の邪魔しないんだな~、報告何かいらないんだな~。」男


と気付きもしない。

フロルドは左手でこめかみを押さえながら、右手で双月を投げ付ける為に構える。

その顔は笑顔だ。

ただし、押さえていない顔の右側は蒼筋が浮かんでいる事が判る。

それから優しいのにドスの効いた声で、


「人の話しは目を見て聴きなさい!」フロルド


と言いながら、構えていた剣を男の鼻の頭目掛けて投げ付けた。

剣は男の鼻を掠め洞窟の壁に、


〈ドスッ!〉


とゆう音を発てて突き刺さる。

驚いた男が驚愕に見開く目をフロルドに向けるがすぐに鼻息を荒くしてフロルドに詰め寄ろうとする。

同じく剣が突き刺さる音で目を醒ましたシャラは直ぐには状況が理解出来ずに寝ぼけたまま口を開いた。


「此処は?

 なんやお腹の辺りが熱いし?」


腹部の熱はギンギョに気絶させられた時に殴られた痕だ。

そう言いながら自分の体を見ると浴衣がかなり乱れていてハダケていた。

そのまま顔を上げると目の前に見知らぬ大男がいる。

瞬間今までの事を思い出して顔を真っ赤にしながら、


「キャーーー!!!」


と大声で悲鳴を上げ半泣きになりながら胸を隠す。

その悲鳴に男は振り返りながら、


「シャラたん。

 起きたんだな!」


と嬉しそうに声をかける。

更にフロルドに、


「ごめんなんだな!

 君みたいなカワユイ子がわざわざ来てくれたのに無視しちゃったんだな。」


等と行ってくる。

フロルドは投げた大剣、水月すいげつの所に走り引き抜きくとシャラの横で短剣、輝月こうげつと共に構え、シャラはフロルドが横に来たことでフロルドの脚に縋り付き2人揃って鳥肌を立て男を拒絶した。

その間僅か2秒である。

その状態のままフロルドはシャラに問い掛ける。


「なあ、普通剣を投げ付けたらどんな風に思う?」


「勿論怖がるで、軍人はんやったら反撃するやろか。」シャラ


「だよな。

 オレの頭がおかしいのかと思った。」フロルド


「大丈夫!

 ウチもそう思たから。」シャラ


2人は男の反応に理性が吹っ飛びそうに為ったのを必死に戻したが、余計に鳥肌が立った様だ。

それから2人はまるで謀った様に、


「とりあえずこの男は目の前から消したい!」フロルド


「とりあえずこの男は目の前から消そ!」シャラ


と結論ずけた。

男は相変わらずフロルドとシャラを見比べて鼻息を荒くしている。


「オイ!

 この三流術師、とっとと帰れ!」フロルド


「ん~ギンギョ。

 取り敢えずあの暴漢共が来る前にぼくちゃんの花嫁さん達をぼくちゃんの家に避難させるんだな~。」男


「話しが噛み合っとらん?」シャラ


「ゲッ!」ギンギョ


「嘘や!

 こんなんが召喚師!」シャラ


ギンギョが出て来た事でシャラは初めて男が召喚師だった事を知り恐怖で顔を蒼くしながら震えだしより強くフロルドの脚に抱き着いた。


「ああド三流のな。

 まったく何だってこんな出来損ないの素人が召喚師何だか。」フロルド


「さぁ行くんだな~!

 ぼくちゃんの花嫁さん達。」男


しかし、フロルド達からの返事は勿論、ギンギョからの返事も無かった。

フロルドがギンギョを切ったからだ。

そこまで来て初めて男はフロルドが敵なのだと気付いたがその直後の第一声がまた普通とは違う。


「ぼくちゃんを騙したんだな!

 シャラたんそんな卑怯な女からは早く離れるんだな~。

 ぼくちゃん怒ったんだな~。

 奴隷としてヒ~ヒ~言うまでこき使ってやるんだな~。」男


フロルドとシャラはお互いの顔を見つめ、


「どうしたら良い?」フロルド


「どうしたええん?」シャラ


と違いにこれ以上無いぐらいに困惑している。

元々ドジっ子のシャラはともかくフロルドがこれほど困惑するのは珍しい。

それからフロルドは取り敢えず双月を送還しまった。

名剣である双月で斬る事に嫌悪感を持ったのだ、その直後、普通の剣を召喚した後、


「あれを斬るから離せ!」


それ以上なにも言わずシャラの手が緩んだ瞬間男を切った。

すると斬られた場所から黒い球状の物体が現れその球が完全に現れたのを確認してから黒い球を切り捨てた。

フロルドが斬った物は魔源マナ


魔源・・・

魔素と呼び方は同じだがこちらは魔法を使う為に必要な魔力が貯められたそれぞれの魔導師の力の源だ。

神法では神源カルラと呼ばれている。


つまりこの男はもう二度と魔法が使え無くなった訳だ。

だがシャラも男も状況が判らない。

だが直ぐに男は召喚術を使おうとして使えない事に気が付いてフロルドに怒鳴り付ける。


「女!

 お前何したんだな!

 召喚獣召喚べないんだな!」


「召喚出来ん?

 何で?

 怪我もしてへんのに。」


そうシャラは首を傾げながらフロルドを見上げた。


「ゲート」


フロルドは質問には答えず男を此処から100Km程離れた町に男を飛ばしてからシャラを見た。


「ともかく此処から出るぞ。

 こんな所に居たら何時まで経っても鳥肌が消えない。」


そう言いながらも身震いして更に鳥肌を立てる。

同感なのかシャラは何も言わずについて来る、そんなシャラに上着を掛けてやりながら2人は鍾乳洞を後にした。

行きはフロルド1人で走って入ったので速かったが実はこの鍾乳洞全長5Km程で迷路状でオマケに暗い。

シャラが怖がりなかなか先に進め無かった。

少しの物音でフロルドに飛び付いて離さ無くなるのだ、仕方なく途中からフロルドはシャラを抱き上げ(つまりお姫様抱っこだ)進むが、それでも物音がするとフロルドの首を絞める様に抱き着いて来るので2人が鍾乳洞から湖畔に出た時には既に空に朝日が登り掛けていた。

ちなみにフロルドは戦闘では一切、息を乱してはいなかったにも関わらず、何度も首を絞められたせいでかなり息が荒く、シャラは必死にフロルドに謝っている。

フロルドの息が落ち着くのをまって洞窟内でした質問をシャラは再度繰り返した。


「それであの男に何したん?」


「マナを斬った。

 それだけた。」


フロルドはそうまるで何でもない事の様に答えた。


「マナを斬ったて、そんな神業。

 それに物凄い美人で大人っぽいし、同じ女や思えんな~。

 ウチ何も出来んのに。」シャラ


「美人?

 女?

 まさかお前までそう思ってたのか?」フロルド


「エッ?」シャラ


フロルドは解けた髪を慣れた手つきで何時のパイナップル状に結い上げながら言葉を続けた。


「オレは男だ。」


「嘘っ!」シャラ


そう言いつつも今までの自分の姿と態度を思い出してシャラの顔が一気に紅くなる。

それはそうだ、シャラはあの男もそうだかフロルドにも胸を見られている。

その上洞窟から出るまで女だと思ってフロルドに当然の様に抱き着いていた。

それを根底からひっくり返されたのだ、取り乱して当然とも言える。

それから恐る恐る判っていながらシャラはフロルドに問い掛けた。


「なぁ、その、やっぱり見た?」


フロルドは特に気にした風も無く、


「ああ、それと飛ばしたついでにあの男からは今日一日の記憶は消しといた。

 後は拐われて胸見られた以外の事は何も起きてない安心しろ。

 助けた代金としては安いだろ?

 散々人の首、締め上げたんだから。」フロルド


「うぐ!

 その通りやから言い返せへん。」


そう言ってシャラはこの件に関しては諦めた様だ。

それから暫く思案した後シャラは意を決してフロルドに問い掛けた。


「なぁ、あんた何者や?

 それにあの双剣何処で手に入れたん?」


その問いにフロルドは決まり文句を返した。


「人に物を尋ねる時は自分から、が礼儀だぞ。」


そう言いながら食事の準備を始める。


「それもせやな。

 ウチは隼神・紗羅(ハヤガミ・シャラ)

 ほんまは部外者に教えたアカンのやけど、恩人に嘘はつけへんし言うな。

 現巫女姫や。

 そうは見えんやろけど。

 そんであんたの名前は?」シャラ


そういったあとフロルドの横に座り顔を覗き込んでくる。


「知ってるよ。

 先々代の巫女姫、星詠のアサヒ様の娘。

 巫女姫、月詠のシャラ様、どちらも先詠に長けた巫女だな。

 アサヒ様には昔随分と世話に為った。

 オレの名前だったな、ケイ・フィードガルド、冒険者だ。

 で、他に質問は?」フロルド


フロルドがアサヒの事を知っていた事に驚きつつ、また、自分の事も知っていて名乗らせた事に若干の抗議の視線を送りつつシャラは質問を続ける。


「あの双剣、何処で手に入れたん?

 あれは七聖双具シチセイソウグの一つやろ!」


そう言って二振りの小太刀を取り出す。


「さっきまでずっと共振してたさかいな!

 間違いあらへん!」シャラ


シャラが七聖双具を持っていたことに驚きつつフロルドは自身の七聖双具を召喚びだした。


「第六位の七聖双具、双命か、まさかこんな所に在ったなんてな!」フロルド


「第六位?

 なんやそれ。」シャラ


「知らないのか?」


そうフロルドが聞くとシャラは頷く。


「まったく、自分の持つ神器の事くらい少しは勉強しておけ。

 七聖双具はその名のとうり七組の神器だ。

 双具はその力毎に階位がある一位から三位までが上位双具、四位から六位までを下位双具と呼び、それらの頂点に天位双具が存在する。」フロルド


そこで一旦切り、作り終えた朝食をシャラに渡しながら話しを続けた。


「取り敢えずオレが把握していた七聖双具はオレが持つ天位の双月に、虹の桜剣舞が持つ第三位の双龍とあかのレイが持つ第一位の双陽そうひの三つ、つまりこれで四つ目だ。」フロルド


「あんたの双具、双月が天位!

 何でそんなとんでもないもん持っとんねん。

 あっ、美味しいやん。」シャラ


最後の一言に苦笑しつつフロルドは続ける。


「七聖双具は意思を持つ神代の武具だオレがこれを持つのは双月の意思だ。

 ついでに教えといてやる。

 双命が双月に反応したのは双命が双月を畏れたからだ。

 双月は何の反応も示してないぞ。

 最初からな。」フロルド


そこまで言ってフロルドは朝食を済ませ手早く片付けまで済ませるとシャラに、


「流石に疲れた、少し休ませて貰うぞ、お前も休むと良い。」


そう言いながら毛布を渡し自身は樹の根本に移動して片膝を立てて座りそのまま眠りに就いた。

シャラはそれを見てフロルドの横に移動してフロルドにも毛布が掛かる様にしてから眠りに就いた、どうやら洞窟内で散々フロルドに抱き着いた事で、もはや気にならなくなった様だ。




二人が眠りに就いてから6時間後、シャラを捜していたイツキ達が樹の根本で寄り添って寝ているフロルドとシャラを見つけ出すとまずシャラをフロルドから離し直ぐにフロルドを捕まえ様としだした。

勿論シャラはフロルドから離された時に起き必死に説得しようとしている。

しかし、此処は聖域だ神属以外の立ち入りが禁止されている。

弁護のしようがないのも事実だ。

確かに巫女姫を助けた事で多少の恩赦が汲まれるのは確かたがそれでも重罪は重罪、庇い切れる物ではない。


「オイ!

 起き!」エン


そう言って戦斧を突き付ける。

それにフロルドは目は瞑ったまま、


「起きてるよ。

 どっかの誰かさんがなかなか起きないから動け無かったんだよ。」


「ええ!

 ウチのせい?」


そう言ってシャラは状況も忘れて意味も無く焦る。

それを尻目にイツキは、


「聖域に神属以外の者が入れんのは知っとるな?」


そう切り出す。

対してフロルドは、


「知ってるよ。

 だから入った。

 オレも神属だからな。」


「何?」神兵


「ほら証拠だ。」


そう言ってフロルドは神樹シンジュSSS(トリオ)クラス)の神法を使って見せる。

これにはその場に居た全員が驚く。

神樹が使えるのはこの聖域出身者ではアサヒ以外居なかったからだ。

特にフロルドが魔法を使っていた所を見ていたシャラの驚きは大きかった。


「これで判ったろ、オレが神属だって事が。

 判ったらそれを降ろせ。」


そのまま立ち上がるフロルドにイツキ達は武器を降ろした。

すると今まで心配そうに見ていたシャラがフロルドの元に駆け寄り謝罪しつつ周りに聞こえない様注意しながら問い掛けた。


「堪忍な。

 でも許したってな、此処はそういう場所何よ。

 でな、さっきのほんまに神樹なん?

 確かあいつに使っとったんて魔法やろ?」


それにフロルドは、


「気にするな。」

『この世には例外も居る。

 それだけだ。』


後半を念話に切替て返した。

一方神兵達はフロルドを見ながら口々にえらいベッピンやなとか美人やな~等と言っている。

実際学園に居た頃は極力目立たない様にかなり地味にしていたし、魔法である程度厳つく見える様にしてもいた。

しかしそれを解いただけでこうも女性に見間違われるとは思っていなかったフロルドは困惑を隠せない様だ。

イツキに至っては姉を取られた事に若干のやっかみを持っている事が伺えた。


「シャラ様、これからどうするんや?」トウマ


「ケイ様に御礼したいさかい社に行くわ。

 それとイツキ~!

 アサヒ様の事知ってはるらしいから一緒に話し聞こ。」シャラ


「母様の知り合い?」イツキ


それを聞いてフロルドが止めに入った。

その事にシャラは信じられない物を見た様な目でフロルドに振り返っていた。

その反応を予測していたフロルドは、


「悪いな先にアサヒ様の墓前を訪ねたい。

 社はその後に行く。」


と、昨夜の目的地であったアサヒの墓参りに行く旨を伝える。

するとシャラは先程とは打って変わり、晴天の様な笑顔でフロルドの手を取りながら急かせた。

そんな姉を久しぶりに見たイツキはこの時初めて巫女姫としての重圧と常に戦ってきた姉が初めて家族以外に心を許している現実に戸惑いを隠せなかった。

まして目の前の人物は昨日初めて会った人物なのだ尚更だろう。

しかし同時に物心が付く前に亡くなった母親の事を聞ける相手でもあり自然浮かれていた。

そうこうしている間にフロルド達はアサヒの墓前に着いた。

到着後、直ぐにアサヒの身内であるシャラとイツキ以外は下がらせ、フロルドは片膝をついた状態で目を閉じ手を合わせた。

そのまま後ろで立つ2人に話し掛ける。


「オレがアサヒ様と初めて会ったのは今から16年前の事だ。

 その時に当時1歳のシャラと産まれたばかりのイツキとも会っている。」


そこまで言うと合わせていた手を降ろし、目を開けてアサヒの墓を見つめた。


「オレがアサヒ様に会うきっかりになったのは、アサヒ様の実の姉君である朔夜サクヤ様がその双子の実子をお前達の祖父達に会わせる為とイツキの誕生の祝福の為の二つ。

 その護衛を含めた一団にオレも居たからだ。」


そこまでフロルドが話した所でイツキが疑問を口にし、疑惑の目を向けてきた。


「母様に姉が存在したなんて初耳や。

 それに、護衛に子供を入れたんか?

 それは変やろ。

 どっちも嘘とちゃうんか!」


「あくまで護衛を含めた一団だ、サクヤ様以外にも里帰りの為に一団に居た人物も居た。

 最初の疑問は後で解ける。

 話しを戻す。

 その一団はこの地に着くと一部の者・・・神力を持つ者を除く大部分が下の街でその足を止めたがサクヤ様を始め10名程が社まで進み、そこでアサヒ様を含む15名と合流しこの・・・・・・・・・。」


そこまで話した所でフロルドは話すのを止める。

背後に16年前に一度会っただけだが忘れた事など無かった気配を感じたからだ。

その人物はアサヒの墓を前に座るフロルドの後ろ姿に目を見開き震えだし口元を吊り上げていた。

冒頭でも書きましたが長い章になりました。

しかもまだ終わらない・・・。

ついでに視点がコロコロ変わると言うオマケ付き。

てな事で中々にカオスってる第10章ですが、読み応えは有ると思うので楽しんで下さい。

ではまた次のアップでお会いしましょう。


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