らきの想い
「じゃあお前は、俺が武道館に行くって言ったのを密かに笑ってたのか? できるわけねえって心の底では嘲笑ってたのかよ?」
怒りで俯くらきに、みちるは否定出来なかった。決して嘲笑っていたつもりはないが、少なくとも肯定する気持ちや応援する気持ちはなかった気がする。
「俺はお前を信じてた。頼りないと最初は思ったけど、お前の考える戦略は目を見張るものがあったし、実際効果もあった。だから信じてもいいかもしれない、一歩進めたって思ってたよ。けど俺がそう思ってた間にまさか、お前自身できるわけないって嘲笑ってたなんてな」
もはや冷笑を浮かべていた。
みちるはそんな彼を直視することはできなかった。否定したい気持ちもあった。だがこれまでの自分を振り返れば否定する余地などない。
ただ黙ってらきの言葉を受け止めることしかできない。
「もういい。そんな中途半端な奴にマネジメントなんかして欲しくねえよ。こっちから願い下げだ。さっさと辞めちまえよ。足手まといだ」
そういうとらきはレッスンルームの方へと行ってしまった。
バタンと大きな音が響く。
みちるは当然その背中を追いかけることも、弁明する余地もない。
「これが君が出した答えだ」
アズマが先に口を開いた。
「だけどまだ撤回の余地はある。少し時間をあげよう。これはまだ正式には受理しない」
彼は手の中にある退職届をひらひらと揺らした。
「少しだけ休みを取ると良い。そしてゆっくり考えなさい。また改めて君の意向を聞こう」
そしてアズマはその退職届を机の引き出しにそっと閉まった。
みちるの中で答えが変わることはないと思っていた。だけど何故かこの時、それをはっきりと言えなかった。受理してもらって問題ないと口にできなかった。
結局みちるは何も言えないまま、頭を下げた。
それから重い足取りで事務所を後にする。
「私は一体何に縛られているの……?」
アズマからの言葉が断片的に散らばる。そんな言葉をかき集め、ようやく吐き出した疑問はこれだった。
だけどその答えにはまだたどり着けそうにない。




