商業と恋
みちるはとーまの言葉が瞬時に理解ができなかった。しばらく何を言われたのかわからないまま、ぼーっと突っ立っていることしかできない。
そんなみちるを見かね、先に口を開いたのはとーまだった。
「知られてしまった以上、俺をどうするかはマネージャーに任せる。だができることなら皆には言わないでほしい」
「……えっと、まずは話をしましょう。あの、ちょっとまだ私も混乱していて」
「……それもそうか」
その場に座り込んだ。その手には大事そうにらきの衣装が握られている。
「さっきも言ったが、俺はらきが好きなんだ。ブランディングとか、商業とか関係なく、心の底からあいつのことを想ってる」
「……それは、いつから……?」
みちるもゆっくりとその場に腰を下ろし尋ねる。
「正確には覚えていない。気がついたら好きになっていた。だがめろらぶを結成して間もなくだったと思う。最初はただの二面性男だと思っていた」
その感想にみちるは心の中で激しく同意した。何だったら今でもそう思っている。
「だけど練習やライブを重ねていくうちにわかったのは、実は誰よりも真っすぐで誰よりも熱い男ということだ。自分が、めろらぶが売れるためにはどうしたらいいか、一番誰よりも考えている」
とーまは手元の衣装を優しく撫でた。
確かにらきはずっと武道館に行くと言い続けている。何故そんなに武道館に拘り続けるのか、何がそんなにらきを突き動かしているのか、みちるには分からない。
それでもらきの思いは確かで真っすぐであることは伝わってくる。
「練習が終わった後も一人で残って練習していることもあるし、よくカラオケに行ってボイトレしているのも知ってる。いつも自分がどう見えているのか見るために、動画を欠かさず撮っていることも。人一倍努力している。俺はそんな一生懸命ならきに惹かれていった」
とーまの手が止まった。
わずかに肩が震えている。
「俺とは違う、アイドルというものに真剣に向き合ってる。俺はアイドルになりたかったわけじゃない。ただ居場所が欲しかったんだ」
「居場所……?」
「ああ。それをらきが作ってくれたんだ」
とーまが顔を上げた。鏡越しにとーまの顔を覗く。
どこか遠い目をしていた。
みちるは次の言葉を黙って待つ。
「……前のマネージャーがブランディングでBLにしようと言った時、俺は最初断ったんだ。BLなんてキモいだろ、らきだって嫌に決まってるって。だけどその時らきは言ったんだ」
とーまは衣装を持ち上げ、そこに顔を埋めた。
「『売れるためなら何でもする。俺は構わない』と。そして俺を睨みつけて『誰かの好きをお前の価値観だけで簡単に否定すんな。BL好きな人だって、本当に同性同士好きな人だってキモくねぇだろ』って。最後に極めつけは――」
衣装をぎゅっと抱きしめる。
「『俺の感情を勝手に決めんな』だって」
ずっととーまの肩が震えている。その震えをみちるは止める術を知らない。
「痺れたよ。否定され続けてきた俺が、初めて受け入れてもらえたと思った。だから俺はらきについていくって決めた……のに……」
鏡越しのとーまは強く歯を食いしばって、今にも零れ落ちる涙をこらえようとしていた。
「否定され続けたって言うのは……?」
みちるの問いにとーまは少しの間沈黙を返した。
話したくないのだろうかとみちるは切り上げるタイミングを伺う。だが少ししてとーまはゆっくりと口を開いた。
「……ここまで話せばわかると思うが、俺はゲイなんだ。男を好きになったのはらきが初めてじゃない」
そう切り出したとーまの表情は薄暗く、曇っていた。




