自慰と葛藤
みちるはどうしていいかわからず、あたふたしているとレッスンルームの扉が開いた。
中から出てきたのは、とーまだった。
ほんのり頬が紅潮しており、若干息が荒い。
「みちるさん?」
とーまがみちるを見て目を丸くする。
「こんな時間にどうしたんだ?」
「え、あー……うん、ちょっと仕事が残ってまして……」
「そうか。こんな遅くまでお疲れ様です」
「いえ、とーまさんの方こそこんな時間にどうされたんですか……?」
みちるは気まずさを感じつつも、何も聞いていなかったかのように極めて明るく振舞った。
とーまはちらりとレッスンルームの方に目をやり、苦笑した。
「……一人でダンス練習をしてた」
「そう、でしたか。練習熱心なんですね」
「あー……ああ」
気まずそうにとーまが視線を逸らす。それから言いにくそうに続けた。
「このことはみんなには黙っておいてくれ」
「え?」
「俺は特段ダンスが上手いわけでもない。らきたちの足を引っ張っている自覚はある。だから個人練習をしていたんだ。それを皆には知られたくない」
「……分かりました。誰にも言いません。では私は邪魔しては悪いので先に帰りますね」
何となく重たい空気に耐えられなかったみちるはそそくさと扉に向かう。だがその時、ふと視界に入った衣装に違和感を覚えた。
数少ない彼らの衣装は普段ハンガーにかけられ、ラックに整列している。
その衣装がただでさえ少ないのに、更に少なく見えた。
思わずみちるはラックに歩み寄り、衣装を確認する。
「……あれ? らきさんのが、ない……?」
そう呟きながら当たりを見まわすが、落ちているなどもない。忽然とらきの衣装だけがなくなっていた。
「とーまさん、知りませんか?」
みちるが振り返ると、とーまは動揺しているかのように目を泳がせた。
「とーまさん?」
とーまは観念したように息を吐く。
「らきの衣装ならこっちにある」
そういってとーまはレッスンルームへと入っていった。みちるも小走りでレッスンルームへ向かう。
ふとこの扉をくぐってはいけない、そんな気がした。
だがもうそう思ったころには遅かった。
レッスンルームでとーまがらきの衣装を拾い、伸ばしているところだった。その足元には丸まったティッシュが転がっている。
「これは俺が責任をもってクリーニングに持っていく」
「えっと……どういう……」
「個人練習は嘘だ。自慰をしていた」
「……はい?」
確かに甘い声がしていたような気はした。だが一人だと聞いた時点でみちるのなかで予想していたものは違ったのだと自己完結していた。
ところがここにきて思いもよらないセリフにみちるは気の抜けた声を出す。
一方とーまはいたって真剣に次の言葉を紡いだ。
「俺はらきが好きなんだ」




