表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第5話 『歌姫降臨! 響け、覚醒のロア』


【 降臨ギフト:1,000,000 Pt 到着 】

【 贈り主:Bランク歌姫『ネロ』 】

 アリーナの空中に表示された、桁外れの数字とビッグネーム。

 時が止まったかのような静寂の後、アリーナは今日一番の絶叫と混乱に包まれた。

「ええええッ!? あの『氷の歌姫』ネロ様!?」

「Bランクのトップ層が、なんでこんなFランクのゴミに100万も!?」

「誤爆か!? いや、誤爆で100万なんて投げねえだろ!」

 観客席がパニックに陥る中、レンの隣に立つリサが金切り声を上げた。

「な、なによこれ! バグじゃないの!? 私のレンのステージを邪魔しないでよ!」

 リサは既に100万ポイントを払って「降臨」している身だ。同じ額を叩きつけられたことに、プライドが許さないのだろう。レンは相変わらず、ぼんやりと宙を見つめているだけだが、その周囲の『愛の鳥籠』が、リサの動揺に合わせて不安定に明滅している。

 だが、事態は彼女の癇癪かんしゃくでは止まらない。

 この街の配信システムには、一つの仕様があった。一定額以上の「超高額ギフト」を投げた場合、その情報が全サーバーに通知されるのだ。

 ――ピロリン♪ ピロリン♪ ピロリン♪

 アリーナにいる全員の、いや、この街にいる何十万という人々のデバイスが、一斉に通知音を鳴り響かせた。

《 速報:歌姫『ネロ』様が、アンダー・アリーナ第4試合会場に【降臨ギフト(100万Pt)】を投下しました! 》

 これが、トリガーだった。

     ◇

 その瞬間、ライバーシティの巨大なネットワークの中で、一つのコミュニティが大騒ぎになった。ネロのファンクラブのオープンチャットだ。通称『ネロ親衛隊』

『おい見たか通知! ネロ様がとんでもない事してるぞ!』

『アンダー・アリーナ? あんな底辺の掃き溜めに?』

『しかも100万! これ、完全に「推し」認定だろ!』

 憶測が飛び交う中、誰かが配信のURLを貼り付けた。画面に映ったのは、ゴミをまとった男。

『え、何この配信者。ゴミ着てるんだけど』

『まさかネロ様、このゴミの方を推してるの?』

 親衛隊は困惑しかなかった。

だが、『親衛隊』の行動原理は、

恐ろしいほどシンプルだ。「ネロが絶対」である。


『……ネロ様が100万投じたんだ。このゴミは、ただのゴミじゃない。「聖なるゴミ」だ!』

『聖なるゴミWWW!』

『ネロ様が推すなら、俺たちも駆けつけよう!

それが親衛隊だろ!!』

『総員、アンダー・アリーナに突撃せよ!! 祭りじゃぁぁ!!』


     ◇

「お、おい……なんだこの音……」

 アリーナの外から、地鳴りのような音が響き始めた。それは、何万というアクセスが同時に集中したことによる、サーバーの悲鳴だった。

 僕の視界の端にある配信ステータスのカウンターが、バグったような速度で回転を始めた。

【 同時接続数:1 人 】

 ↓

【 同時接続数:5,432 人 】

 ↓

【 同時接続数:21,098 人 】

 ↓

【 同時接続数:53,400 人(上昇中)】

「ご、5万人……!?」

 たった数十秒。

瞬きする間にレンの1万2千人を遥かに追い抜き、桁が変わった。

 そして、アリーナの景色が一変した。今まで罵倒で埋め尽くされていた空中のコメント欄が、

美しい青一色に塗り替えられたのだ。

それはネロのイメージカラーだった。


『ネロ親衛隊第1師団、到着!』

『ネロ様がこのゴミスーツを推してるってマジ?』

『よくわからんが、祭りだ、青く染めろぉぉぉ!!』

 盲目的な熱狂。だが、数の暴力は、この街の正義だ。

彼らは楽しそうな出来事には敏感なのだ。


 チャリン! チャリン! チャリンチャリンチャリン!!

 5万人が一斉にギフトを投げ始めた。

少額でも、数が違う。無数の青い光が流星群のように降り注ぎ、リサの放っていたピンク色の光を完全に呑み込んでしまった。



     ▼▼

(え……!? なに、これ……)


 観客席の最上段で、ネロは眼下の光景に呆然としていた。自分の投げた100万ポイントが呼び水となり、アリーナが自分のファンで埋め尽くされていく。


(大変なことしちゃったかも……)


 だが、後悔している暇はなかった。スマホの画面に『決済完了』の文字が出た瞬間、目の前が真っ白な光に包まれたのだ。


「っ!?」


 浮遊感。そして次の瞬間、足裏に硬いコンクリートの感触があった。

 目を開けると、そこは観客席ではなかった。

 眩いスポットライト。四方八方から突き刺さる数万人の視線。そして目の前には、ボロボロのジャンクアーマーを着た、あのにゃご丸の恩人――斗真が、驚愕の表情で自分を見つめている。


「……ありゃ……?」


 ネロは状況が理解できず

フードを目深に被り直し

柱の影に隠れたいが四方八方観客に囲まれている為逃げ場はなく、

柱にぶつかっているのに尚カサカサと歩いている不思議な行動をしている。

 その時、ネロの脳内にだけ、無機質なシステム音声が響いた。


『高額ギフトによる「リスナー降臨」を確認。

アバターの実体化を完了しました』

『これよりあなたはトウマ選手のサポーターとして戦闘に参加します』


(……はい? せんとう……?)


『あなたの個性データを解析……。

固有スキル【ディーヴァズ・ロア(歌姫の咆哮)】を付与します』


(でぃーばぁ……? なにそれ……)


 ネロが考えこんでいると

グハッ!と血を吐く音がきこえた。

音のする方へ振り返ると

斗真はネロを庇うように前にたっている。

「……なんで俺にあんな高額なギフトをおくってくれたのかわからないけど、危ないじゃないか!」

「だけど、君のお陰でレンのリスナーからのコメント攻撃が止んだ」「ありがとう!」


「調子に乗るんじゃないわよ、クソガキがぁぁッ!!」

「なぜ攻撃を止めてるのかしら?レンのピンチよ!コメントしてあのゴミ共を蹴散らすわよ!!」

 激昂したリサが指を鳴らす。


 空中のコメント弾幕が、さっきの倍以上の密度で鋭利な礫となり、トウマとネロの二人に襲いかかった。


「ぐぅっ……!」

 トウマが身を呈してネロを守る。彼のジャンクアーマーから激しい火花が散り、新たな傷が増える。



 ――その光景を見た瞬間。

 ネロの中で、何かがプツンとキレた。

(……こんな攻撃受け続けたら死んじゃう……)


 恩人を守りたい。その一心だけが、

ネロの恐怖を上書きしていく。

 ネロはなにかを決意したかのように、口にくわえていたチュッパチャプスを抜き取った。


チュポンッッ!!


 そして、いつも首から下げている、羽の生えたキャンディケースにそれを押し込み、

乱暴に蓋を閉じた。


 パチンッ!


 その乾いた音が、スイッチだった。

 普段はコミュ障の少女が、

最強の歌姫へと切り替わる、覚醒のトリガー。

 一瞬、ケースが眩い青色の光を放つ。

 光が収まった時、彼女の手にはおもちゃのケースではなく、青い薔薇の装飾が施されたプロ仕様のボーカルマイクが握られていた。

 スキルによる、固有武装の具現化だ。


 ネロの呼吸が変わった。深く、力強く、アリーナの熱気を肺に取り込む。


 彼女はゆっくりと顔を上げ、フードを取った。

 そこにいたのは、数万人の観客を熱狂させる、Bランク最強の「歌姫」の顔だった。

そして、ネロを必死に守っていた斗真をドンっとどかし、堂々とした足取りで前に出る。


ネロに弾幕コメント攻撃が容赦なく降りかかるが、それでも彼女は怯まない。


(システム音声さんが言ってた……

私のスキルは、「歌」だって)


 ネロは具現化したマイクを強く握りしめ口元に寄せた。


ピタリと足を止めるとアリーナ全体を見渡し、

深く息を吸う。


スゥーー……


「……いまからぁーーー!!」

突然の大声。

声量が大きすぎてキーーーンとマイクが反響する。


「……いまから、私のありがたい歌を歌ってやる!耳の穴かっぽじって一言一句聞き逃すんじゃねぇぞ!」


 マイクを通して響いた声は、普段の小声からは想像もできない、腹の底から響くドスの効いたものだった。


 次の瞬間、彼女は大きく口を開き――歌った。

「あぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」


 それは歌というよりは、魂の叫び。

 ネロの口から放たれた歌声が可視化された青い音響衝撃波となってアリーナを揺るがした。


 ドォォォォォォンッ!!!


 襲いかかっていた無数のコメントの礫が衝撃波に触れた瞬間にガラス細工のように粉々に砕け散った。


『ネロ様ーーーー!』『かっこよすきるんだが』

親衛隊が湧き上がる!

ネロの歌声に反響して、コメント欄もおぞましいスピードで盛り上がる。


「なっ……!?」

 リサが目を見開く。衝撃波の余波はそのままレンとリサを襲い、彼らを守っていた絶対防御の『愛の鳥籠』に直撃した。


 バキィィィンッ!!


 甲高い音を立ててピンク色の檻に巨大な亀裂が入った。

「うそ……私の、愛が……」


5万人のネロ視聴者はお祭り騒ぎだった。


 ボロボロのトウマの隣で青いオーラを纏った小柄な少女が仁王立ちで敵を見据えていた。


 ネロが不敵に笑う。

その姿はまごうことなき

歌姫ディーヴァ」だった。

「……すごい」

 僕は呆然と呟いた

足元の『嫉妬の鎖』も衝撃波の余波で砕け散っている。

 体が軽くなった。カズのジャンクアーマーが、アリーナに満ちたネロの青いエネルギーを吸収して、赤熱していた鉄屑が眩い青白色へと変化していく。

 なぜネロが助けてくれたのかは分からない。

 この5万人が、僕に興味なんてないことも分かってる。

彼らはただ、ネロの影を追っているだけだ。

 だが、今はそれが「力」になる。

 僕は、青白い炎を噴き上げる右拳を握りしめ、呆然としているレンと、リサを見据え


ネロに負けじと叫んだ!

「くらいやがれぇええええ!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ