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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第15話 アートとロジック

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4.衝突の火花

 数日後。テラスの入り口に、生徒会の美化委員が試作した「標準規格看板」がテスト設置された。


 そこには、数百メートル先からでもはっきりと識別できる無機質なコーヒーカップのシルエットと、直角に曲がる簡素な誘導矢印。データサイエンス研究会が計算したという「最も認知負荷が低いサイズ」のフォントが、定規で測ったように規則正しく並んでいる。それは確かに「分かりやすい」が、そこには何の物語も存在しなかった。


「……冷たい。こんなの、僕たちのテラスじゃない。ただの自動販売機の横にあるゴミ箱の案内と同じだ。心がない」


 戸田が拳を白くなるまで握りしめて呟いたその時、陸が部員を引き連れて様子を見にやってきた。


「トダテツ、生徒会の新しい看板、どうだ? すっきりして、誰にでも瞬時に伝わるようになっただろ。桐生もこれを見て『ようやく星陽らしくなった。視認性の向上は利用者の満足度に直結する』と満足してたぞ」


「最悪だね、陸。お前はいつから、自分の意志を持たない桐生の代理人になったんだ! 自分の足で立って、自分の目で、このテラスを愛して毎日通ってくれる客たちの顔を見てみろよ! 彼らがここで求めているのは、効率的な案内板じゃなくて、心が動く景色と、それを作り出す人間の熱量なんだ! 記号に人は救われない!」


 戸田は背後に隠し持っていた、澪らと共に遅い時間までかかって作り上げた、極彩色の、しかしどこか包み込むような優しさを湛えた巨大な手書き看板を突き出した。それは、中庭の風景をそのまま切り取ったような温かみに溢れていた。


「これを見ろ! これが僕たちの、バリスタ部としての答えだ! この看板を見て、焼きたてのたい焼きや、淹れたてのコーヒーの香りを想像しない奴はいない! 想像力を刺激することこそ、看板の役割だろ!」


「……トダテツ、お前……! 規約を守れ、独断で和を乱すなと言ったはずだ! バリスタ部がこんな反抗的な真似をすれば、改革を始めたばかりの生徒会との関係がこじれる。他の部活への示しがつかないだろうが! 桐生との信頼関係を、お前の個人的なわがままで壊す気か!」


「示しなんて知るか! 桐生の顔色を伺って、部員を型に嵌めて、それで部が守れるのかよ! 部長なら、部員の情熱をこそ守れよ! 俺は『バリスタ部』を、この『木漏れ日テラス』の、譲れない誇りを守りたいだけだ!」


 衝突する二人の意地。熱血漢ゆえに「全体の正解」が組織を救い、結果として部を存続させると信じて疑わない陸と、表現者ゆえに「一人の心の震え」を譲ることが、表現そのものの死を意味すると考える戸田。かつてない険悪なムードがテラスを支配し、戸田はついに自作の看板をひったくるように掴んで、雨上がりのアスファルトを力強く蹴って部室を飛び出していった。


「トダテツ先輩! 待ってください!」


「追わなくていい、結。あいつは一度、一人で頭を冷やす必要がある。組織の中にいる以上、個人のわがままが全体の利益を損なうこともあるんだと、痛みを伴ってでも分かってもらわなきゃ困るんだ。……それが部長としての、俺の判断だ」


 陸の言葉は、夕暮れのテラスに冷酷な響きを持って消えていった。しかし、立ち去る彼の広すぎる背中は僅かに震えており、親友への想いと、不慣れなリーダーとしての重責の狭間で、その心は悲鳴を上げていた。

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