表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星陽高校バリスタ部  作者: やた
第15話 アートとロジック

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/132

1.新しい風

 11月。星陽高校の象徴であるイチョウ並木が、まるで冬の到来を前に最後の生命力を燃やし尽くすかのように、鮮烈な黄金色に染まりゆく。乾いた秋風が校舎の隙間を吹き抜け、カサカサと乾いた音を立てて舞い落ちる葉を、生徒たちが集う中庭へと運び込む季節だ。


 先日の生徒会役員選挙を経て、星陽高校は転換点を迎えていた。旧体制から正式にバトンを受け継いだ桐生啓(きりゅうけい)が生徒会長へと就任し、校内の空気は彼の持ち味である「効率」と「近代化」、それから何よりも「厳格な秩序」に向けて、僅かに、しかし確実に引き締まったように見える。


「……よし、これで不備はない。桐生、この来月分の予算申請書で問題ないか?」


 放課後の生徒会室。バリスタ部部長・沢村陸が、慣れない手つきでタブレットを操作し、PDF化された書類を送信した。桐生は眼鏡を指先でクイと押し上げ、無機質なデスクに向かったまま、モニターに映し出された数字の羅列を一瞥する。


「ああ。計算にミスはない。沢村、部長になってから事務処理能力が格段に上がったな。……いや、副部長の泉君による、深夜に及ぶ熱心なリモートサポートのおかげか?」


「へへっ、手厳しいな。でも、お前が会長になったんだ。俺たちも、生徒会から『管理の行き届かないだらしない部活』だなんて思われないように、背筋を伸ばさなきゃなと思ってさ」


 陸は快活に笑い、親友の肩を親しげに叩いた。体育祭という激動の日、共に崩れたスケジュールを土壇場で立て直し、成功へと導いたあの日以来、二人の間には立場を超えた強固な信頼関係が築かれていた。陸は桐生の持つ、全体を冷静に俯瞰し、複雑な事象から最短距離で最適解を導き出すクールなリーダーシップを、自分にはない天賦の才能として心からリスペクトしていたのだ。


 一方、中庭の「木漏れ日テラス」では、美術・ラテアート担当の戸田哲也が、美術部1年の萩原澪(はぎわらみお)と共に、冬に向けたテラス装飾についての熱い議論を戦わせていた。


「トダテツ先輩、こっちのコーナーはもう少し『くすんだオレンジ』や『深みのあるテラコッタ』を重ねたほうが、夕暮れのテラスに映えると思いませんか? 秋の終わりを惜しむような、ノスタルジックで、けれど体温を感じるような色使いにしたいんです」


「なるほどな……澪、お前の色彩感覚は相変わらず鋭い。遠野が追求するような、写真と見紛うばかりの緻密な写実とはまた違う、観る者の感情の回路をダイレクトに揺さぶるエモーショナルな筆致だ。僕のラテアートのミルクの曲線にも、その躍動感を取り入れたいよ」


 澪は、明るい原色と繊細な中間色を自在に操り、感情豊かな作風を好む美術部の期待の新星だ。戸田は彼女や、同じ美術部で「写実の鬼」と呼ばれる2年生の遠野聡(とおのさとし)らと以前から面識があったが、特に最近は、澪の持つ自由で固定概念に囚われない芸術性に、強いインスピレーションを受けていた。


「ここは僕たちの聖域だ。学校という規律に縛られた場所の中で、唯一、心が自由に呼吸できる場所。誰にも邪魔させない、世界で一番温かい場所にしてみせるよ、澪。アートの力でね」


 戸田は満足げに、自ら山から切り出し、表面を丁寧に磨き上げた木製の看板に筆を走らせた。その隣で、澪が楽しげに特大のキャンバスを広げている。しかし、その背後から静かに忍び寄る「合理の足音」が、自分たちの聖域を根本から揺るがそうとしていることに、彼らはまだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ