表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星陽高校バリスタ部  作者: やた
第14話 走れ!バリスタ部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/134

2.正反対な二人

 体育祭前日の放課後。グラウンドでは、陸の独断と「お祭り精神」によって、予定にはなかった「サプライズ全校応援合戦」のリハーサルが強行されていた。整列した生徒たちが一斉に足を鳴らし、声を揃える。その音圧は校舎の窓ガラスを震わせるほどだ。


「これだ! この地響きのような一体感! 全校生徒が所属の枠を越えて肩を組む……これこそが、俺が思い描いた星陽の姿だ!」


 夕日に照らされながら陸が満足げに汗を拭う中、桐生がタブレットの画面をこれ見よがしに指し示しながら歩み寄ってきた。彼の顔色は、陸が企画を思いつくたびに増え、溜まり続ける「進行遅延フラグ」のせいで、かつてないほど青白い。


「沢村君。今の『感動的な』即興演出のおかげで、明日の第一競技に出場する生徒たちの召集時間は、当初の予定よりさらに15分も前倒しになった。……君の言う『楽しい』の裏側で、どれだけの人間が頭を下げて調整に奔走し、現場の秩序が削り取られているか、想像したことはあるかい? それを無責任だとは思わないのか?」


「無責任? 違うな、桐生。俺は『人間の心の熱量』という、お前の計算式には入らない変数を信じてるんだ。型に嵌まった進行表通りに動くだけのロボットに、祭りの本当の価値は作れないぜ。誤差があるからこそ、人はそこに命を感じるんだ。お前の計画が『完璧な箱』なら、俺がそこに『魂』を吹き込んでやってるんだよ」


「……魂だと? 根拠のない精神論は、大規模なイベント運営において最も危険な不純物でしかない。僕は運営のトップとして、明日が事故なく、平穏に、そして一秒の狂いもなく定刻通りに終わることだけを願っている。それが最も多くの生徒の利益を守り、公平を期す唯一の道だからだ」


 桐生は感情を押し殺した声で冷たく言い捨てると、混乱する召集リストを修正するために本部テントの資料整理へと去っていった。その背中には、一切の妥協を許さない組織人の矜持が漂っていた。そんな2人を、校舎の渡り廊下から眺めている2人の影があった。3年生の橘楓と、生徒会長の天野 紗希(あまの さき)だ。


「……あの子たち、相変わらずね。水と油というか、熱血と氷結というか」


 楓がクスクスと笑いながら、テラスで試作された冷たいレモネードを啜る。氷の音が心地よく響く。


「ええ。でも、なんだか去年の私たちを見てるみたい。……少しだけ、寂しいわね。こうして後輩たちが中心になって、自分たちの学校を塗り替えていくのを見ると。私たちはもう、本当に『卒業する側』なんだって、実感が湧いてくる」


 紗希が少しだけ目を細め、陸が熱く語り、桐生が緻密に整えたグラウンドの景色を慈しむように見つめる。バリスタ部以外の多くの部活にとって、この体育祭は3年生がユニフォームを着て戦う最後の舞台でもあった。世代交代の寂しさと、託せる後輩がいることへの頼もしさ。秋の夕日は、そんな複雑な感情を優しく包み込み、全てを深いオレンジ色に染め上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ