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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第9話 星空の特別授業

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9.再生のブレンド

 4日目、合宿最後の朝。軽井沢の森の朝日は、清々しく、部員たちの目に迷いは一切なかった。疲労は残っているが、彼らの顔つきは、昨日までの高校生のそれとは違い、真剣なプロの顔つきに変わっていた。研修室の空気は、前日までの重苦しさから一転し、心地よい緊張感と、技術への飽くなき探求心に満ちていた。


 香月は、最後の課題として、全員に「あなたが今、一番大切にしたい人に淹れる、完璧な一杯」を抽出するよう指示した。この課題は、技術の集大成であると同時に、彼らが獲得した「プロの倫理」を試すものだった。


 蓮は、自分の技術的なブレを克服するため、雑念を払い、無心でタンピングを行った。彼の腕には、30ポンドという圧力が、もはや機械的な記憶として刻み込まれていた。彼は、完璧な圧力を連続して再現し、見事に均一なタンピングを実現した。彼が淹れたエスプレッソは、豊かなクレマと、調和の取れた苦味と酸味を兼ね備え、TDS計の数値も完璧に安定していた。


「この一杯は、テラスの仲間、そして俺たちの餡子を愛してくれたお客様に捧げる。もう、二度と品質はブレさせない。俺は、プロとして、俺のたい焼きとコーヒーの品質を保証する」


 蓮は、職人としての覚悟を言葉にした。


 結は、ラテアートの美しさではなく、フォームミルクの完璧なキメと、コーヒーとの均一なブレンドに集中した。彼女は、派手な言葉よりも、目の前の一杯の誠実さが、最も強いメッセージであることを知っていた。彼女のラテは、見た目の華やかさよりも、口に入れた時のなめらかさと、エスプレッソとの完璧な融合を優先した。


 そして蒼太。彼は、コーヒーを淹れる前に、目を閉じ、心の中で誰か(それは結であり、テラスの仲間であり、そして香月であった)に語りかけた。彼は、もはや他者への恐怖に震えることはなかった。


(僕は、言葉が苦手です。でも、この一杯は、あなたへの誠実さです。この技術は、あなたを裏切らないための、僕の誓いです。この安定こそが、僕の最大限の愛情表現です)


 彼は、技術の精度だけでなく、「飲む相手への心遣い」という感情を込めて、極度の緊張下でも寸分のブレもない、完璧な一杯を淹れた。注湯は、まるで機械が制御したかのように均一で、TDSの数値は、香月の指導する理想値に限りなく近かった。


 香月は、全員のコーヒーを一口ずつテイスティングし、静かに頷いた。


「この一杯は、完璧な技術と、誰かを想う心が、初めて融合したものだ。君たちは、単なる技術者ではなく、テラスという場所を守り抜くための、プロの倫理を獲得した。これこそが、私が教えたかったすべてだ」


 部員たちは、技術指導で得た論理と、香月の過去から学んだ倫理を融合させ、テラス史上最高の品質と誠実さを兼ね備えた「再生のブレンド」を完成させた。彼らの成長は、単なる技術の向上を超え、テラスの未来を担う、揺るぎない精神の柱となった。

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