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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第8話 SNS炎上?広報担当の涙

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6.新たな旗

 結は、美咲と、桐生とのチャットを通じたリモート指導(真琴が中継役として、炎上コメントとログをリアルタイムで提供)のもと、炎上対応にあたった。この対応プロセス自体が、結にとっての広報危機管理の訓練となった。


 桐生からは冷淡ながらも、信頼性の高いアドバイスが送られてきた。


「謝罪文には、感情的な言葉を一切入れるな。『悲しい』『悔しい』は不要だ。必要なのは、『事実の確認』と『対応策』という論理だ。謝罪の姿勢は、事実をもって示せ」


「でも、謝罪だけじゃダメよ。農家さんへのリスペクトは伝えないと。それが私たちのローカルな価値観を証明する鍵になる。結の熱意を、論理の枠に収めて伝えるのよ」


 美咲はそんな桐生の言葉に加えて、バリスタ部の想いを伝えるようアドバイスした。


 結は、二人の指導を統合し、感情的な言い訳を一切排しつつ、深い誠意を込めた謝罪と訂正文を作成し、SNSに投稿した。彼女は、一言一句、言葉の持つ重みと、受け手がどう解釈するかを、徹底的に考え抜いた。


ーーーーー


【お詫びと訂正】「最高級」の表現と、今後の情報発信について


弊部の投稿における「最高級の地元の果実」という表現が、市場価値を指すものと誤解を招いた点を、深くお詫び申し上げます。


(1)言葉の定義の誤り(論理的訂正):「最高級」は、高価なブランド品ではなく、地元の農家の方々が丹精込めた愛情と、その手間暇から生まれる品質の高さを指しておりました。しかし、これは広報として、明確な根拠を示さない不適切な表現でした。この点について、深く反省し、訂正いたします。


(2)今後の対応(誠実性の証明):私たちは、地元産品を使うことで、地域貢献と、より新鮮で誠実な品質を追求しております。今回の限定メニューでは、この誠実な品質を、農家さんとの協力ブースで、直接お客様に証明いたします。当日は、農家さんにもお越しいただき、品質へのこだわりを直接お伝えいただく予定です。


今後、すべての情報発信において、言葉の定義と透明性を徹底いたします。二度とこのような誤解を招かぬよう、責任をもって広報活動を続けます。


ーーーーー


 この真摯で、隠し立てのない対応は、SNS上で徐々に評価され始めた。特に、地元のユーザーや、SNSでの正義感から批判していた層も、「高校生にしては誠実な対応だ」「きちんと分析し、対応策まで示している。応援したい」と共感に回り、批判は急速に鎮静化に向かう。炎上は、テラスの真の目的と誠実さを広く知らしめるという、逆説的な結果を生んだ。


 そして迎えたイベント当日、テラスは大盛況となった。 早朝から照りつける真夏の太陽にも負けず、会場全体には、SNSでの緊張とは真逆の、老若男女が溢れかえり、活気あふれる喧騒が満ちていた。


 限定メニューの「桜川トロピカルサンデー」は、真琴の指示により、通常の商品とは異なる、地元の農家との「協力ブース」で販売された。これは、謝罪文で約束した通り、品質の誠実性をお客様の目の前で可視化するための、桐生の論理と真琴の緻密な計画の結晶だった。


 ブースには、鮮やかなマンゴーやベリーを栽培した農家本人が立ち、来店客一人ひとりに、今年の気候変動や収穫の苦労、そして品種改良へのこだわりを直接説明していた。結は、広報担当として、メニューを配膳しながら、農家とお客様の会話を橋渡しする役目を担っていた。彼女の顔には、緊張感が残るものの、嘘偽りなく情報を伝えることに全力を注ぐ、強い責任感が窺えた。


 客は、提供されたサンデーの見た目の美しさだけでなく、地元の農家が語る情熱と手間暇を聞き、さらにそれをテラスの部員たちが真摯に調理・提供する様子を目の当たりにした。これが、結が「最高級」という言葉で表現しようとして失敗した、価格では測れない、無形の価値を明確に伝えたのだ。


 フルーツの豊かな風味、蓮の作った餡子の優しい甘さ、そしてその背景にあるストーリーを知った客たちは、テラスの姿勢を単なる「高校生の部活動」ではなく、「地域に根差した真剣なプロフェッショナル集団」として再評価し、長蛇の列を作った。


 来場客のうち、何人かは「炎上は知っているが、この誠実さを見て信頼した」と話し、またそれ以外にも多くの人が「これからも地元の活動を応援する」と、結に直接声をかけてくれた。炎上は、テラスが本当に伝えたかった「誠実さの定義」を世間に問う形となり、結果として、その真の価値を証明する機会となったのだ。この経験は、テラスのメンバー全員にとって、デジタル時代における広報活動の複雑さと、それに伴う倫理と責任の重さを痛感させる、貴重な教訓となった。


 結は、広報として、派手な言葉ではなく、「誠実な情報発信」と「危機に際しての責任ある対応」こそが、最も強い武器であることを身をもって理解し、その職務に対する誇りと、以前よりもはるかに強い責任感を獲得した。


 イベントの喧騒が引いた夕方、蒼太は、いつものようにコーヒーを淹れながら、隣に立つ結にそっと話しかけた。


「よかったね、結さん。テラスは、嘘じゃないって、証明できた」


「うん。蒼太くんが、私を信じて、声をかけてくれたからよ。ありがとう。蒼太くんのコーヒーの味が、私を立ち直らせてくれたの」


 蒼太は、技術だけでなく、心で誰かを支えることができることを知り、大きな内的な成長を遂げた。彼は、部員たちとの間で、一歩踏み込んだコミュニケーションの扉を、静かに開いたのだった。テラスは、SNSという現代的な試練を乗り越え、単なるカフェではなく「誠実な情報と地域愛を発信する場所」として、その存在価値をさらに高めた。結は、広報の旗を、誇りと責任を持って掲げ直すのだった。

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