5.統合報告書
夏のカフェ大作戦は成功を収め、真琴の収集したデータは、テラスの「無形利益」が学校にもたらす恩恵を論理的に示していた。
理事会への最終報告を数日後に控えた夜、真琴は一人、生徒会室へ向かった。彼女の心臓は高鳴っていたが、感情を理性で抑え込んでいた。
「桐生くん。あなたの冷たい論理は、テラスを廃部から守るためのものだった。私も、大切な場所を失う悲劇を知っています。私たちは、同じ目的で戦っている」
真琴は、自分が過去の出来事を知っていることを示唆した上で、桐生の行動への共感を伝えた。
桐生は真琴の言葉に一瞬、感情の揺らぎを見せたが、すぐに冷徹な顔に戻った。
「同情は無用だ、泉さん。感情は、理事会のテーブルでは何の役にも立たない。君たちのデータは素晴らしいが、コスト削減という根本的な問題は、僕の報告書の方が数字として強固だ。論理は一つに収束しなければ、説得力を持たない」
真琴は、懐から一枚の分厚いファイル、統合報告書を取り出した。
「私は、あなたの冷徹な論理を否定しません。むしろ、あなたの論理をテラスの防衛線として使います。この報告書は、あなたのコスト効率化データと、私たちの地域特産品活用による無形価値を統合し、一つの論理モデルとして完成させたものです」
真琴の報告書は、単なる二つのデータの羅列ではなかった。
「地元産小豆への転換による年間仕入れコストの定量的削減」という桐生の求める論理と、「地域交流イベントによる学校へのポジティブ・イメージ貢献度の定量的上昇」という真琴の新しい価値が、『最小のインプットで、最大の対外アウトプットを生み出す』という整合性の取れたモデルとして組み込まれていた。
「テラスは、単なる憩いの場ではない。『最小のコストで、最大の地域・教育貢献度を生む、学校の顔』へと変貌した。あなたの論理が、私たちの情熱を、誰にも潰されない強固な盾に変えてくれたんです」
桐生は、真琴の提示した報告書を無言で受け取り、その論理的な美しさと、数字が示す未来の可能性に目を見張った。真琴の行動力と、論理を感情ではなく武器として使う冷静さに、彼は初めて心からの敬意を表した。
その後、天野も加わり、三人は一晩かけて統合報告書の最終調整を行った。夜の生徒会室の静寂の中、三人はそれぞれの役割を果たした。桐生は論理の穴がないか厳しくチェックし、真琴はデータの正確性を確認し、天野はそれを理事会でどのように発表するか、戦略を練った。天野は、「これなら理事会は論破できる」と確信する。




