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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第7話 「夏のカフェ大作戦」と冷たい帳簿

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3.「夏のカフェ大作戦」

「夏のカフェ大作戦」の最初の、そして最も困難なミッションは、仕入れ値の大幅な抑制だった。


 真琴は、美咲と蓮に指示を出した。


「高品質を維持しつつ、コストを下げる唯一の方法は、仕入れ先の転換と、付加価値の創出です。高級食材に頼るのを止め、私たちの地元、桜川市の特産品に切り替えます」


 美咲は、すぐにその意図を理解した。


「高級ブランド品に頼るのではなく、地域の未利用食材や、地元の農産物を活かす。その過程で、地域との繋がりという新しい価値を生み出すということね!」


 しかし、蓮は納得がいかない様子だった。たい焼きの味は、彼にとって生命線だ。


「待ってください、真琴さん。俺は特定のブランドの小豆でしか、最高の餡子の深みを出せないと思っています。安易に地元の小豆に変えたら、品質は絶対に落ちます。ブランドの小豆には、安定した品質と、理想の粒の大きさが保証されているんです」


「蓮くん」


 真琴は一歩踏み込み、蓮の目を真っ直ぐ見た。


「あなたの技術は、ブランドに頼るほど脆いもの? あなたが地元の特産品を最高の品質で提供すれば、それはテラスの揺るぎないオリジナル価値になりうる。その挑戦なくして、テラスは守れないわ。ブランド品の仕入れ値は、私たちの運営費を圧迫し続けている。これは、あなたの腕で乗り越えるべき、技術的な試練よ」


 蓮は、真琴の厳しい言葉に反発しながらも、職人としてのプライドを刺激された。彼の挑戦は、地元の老舗和菓子屋『さくら庵』の店主、田中との連携から始まった。田中は、地元農家が作る小粒だが風味豊かな小豆を使い続けている。


「高校生がわざわざ来てくれたのか。うちの小豆はな、ブランド品と違って粒が小さいし、火を通すのに手間がかかるんだ。でも大手は使わない。うちのは手間がかかる分、土の香りと風味が閉じ込められてて、最高の餡子ができるんだよ」


 蓮は田中の店で、地元の小豆を使った餡子作りの技術を教わる。従来の小豆とは、水分の吸収率や皮の硬さが異なり、微妙な火加減と水の量の調整が必要だった。


「くそっ、何回やっても理想の粘りが出ない。すぐに風味が飛んでしまう……」


 蓮が苦悩する中、蒼太がそっと声をかけた。彼は、蓮とは違う角度から素材を見ていた。


「蓮、田中さんが言っていたんだけど、この小豆はね、火入れの最後に微かに残るミネラルの香りを閉じ込めることが重要だって。熱しすぎると、その透明感が飛んじゃう感じがするよ。水分を少し多めに残して、低温で仕上げてみたらどうかな?」


 蒼太の繊細な味覚と技術的な助言を受け、蓮は試行錯誤の末、ついにブレイクスルーを果たした。完成した餡子は、従来の濃厚な餡子よりもさっぱりとしつつ、小豆本来の風味が際立つ、新しい「桜川たい焼き餡」だった。これにより、高品質を維持したまま、仕入れコストを目標値まで抑制することが可能となった。


 一方、美咲は、地元の柑橘系農家と連携し、夏の人気メニュー『トロピカル・フルーツ・スカッシュ』を『桜川スダチの清涼スカッシュ』へとリニューアル。仕入れ値を大幅に抑えつつ、地元の新鮮さという付加価値を生み出した。


 メニューの転換に成功したバリスタ部は、真琴の戦略の核心である「地域への無形利益の証明」に乗り出した。


「桐生くんが求める『コスト削減』は達成可能になった。次に、テラスを『学校の資産』として見なさせるための無形利益の数値化が必要です。私たちは、テラスを『地域住民と生徒が交流するハブ』にします。この活動のデータを集めれば、テラスが学校にもたらす『社会的な利益』が数値化できます」


 広報・フロア担当の結が中心となり、広報戦略が展開された。


「地元紙に載せるだけでなく、SNSで『#桜川の特産品を高校生が応援』というハッシュタグで積極的に発信します! 地元愛を全面に出すことで、地域の方々を巻き込むんです」


 バリスタ部が最初に取り組んだのは、地元の高齢者施設『陽だまりの家』へのたい焼きの出張サービスだった。


「今日は、桜川の小豆を使った、新しいたい焼きを持ってきました! ぜひ、出来立てを召し上がってください」


 蓮が笑顔でたい焼きを配ると、お年寄りたちは「まぁ、高校生がねぇ」と歓声を上げ、感謝の言葉を述べた。


「これ、昔の味がするねぇ。最近のたい焼きは甘すぎるけど、これはちょうどいいよ。この小豆の香りは、うちの裏山で採れたものに似ている」


 お年寄りが口にした「懐かしさ」や「地元との繋がり」こそ、真琴が求めていたデータだった。真琴は、この交流の様子を冷静に記録した。


(高齢者の笑顔による幸福度の上昇率、地域住民の学校への関心の高まり、そして世代間の交流による地域活性化の可能性……)


 さらに、美咲と陸は、地域の小学生を対象とした『バリスタ体験教室』をテラスで開催。子供たちに、地元食材の知識を教えながら、簡単なドリンクの作り方を教えた。


「このスダチは、おじいちゃんが丹精込めて作ったんだよ。この香りを逃さないように、優しく潰してね」


 小学生の生き生きとした笑顔は、テラスに新しい活気をもたらし、保護者からも学校への感謝の声が寄せられた。


 この一連の地域交流活動は、地元紙に取り上げられ、「星陽高校の地域連携活動」として大きな実績となった。真琴は、これらの活動のデータを細かく収集し、「地域住民の学校へのポジティブな関心の上昇率」や、「生徒の地域社会に対する貢献意識の変化」といった項目で数値化していった。


 遠くからこれらの活動を観察していた桐生は、真琴たちの効率的かつ戦略的な行動に舌を巻いた。彼は、バリスタ部が単なる「憩いの場」から、「学校の広報と地域連携の最前線」へと、わずかな間に変貌していることを認めざるを得なかった。

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