2.親友の冷たい言葉
真琴から桐生の通達を聞いたバリスタ部の部員たちは、一瞬にして活気を失い、騒然となった。
「20%削減って、どういうことですか! これ以上どうやって無駄を省けばいいんですか!」
蓮が怒りを露わにし、拳を握る。彼にとって、コスト削減は即ち「品質の低下」を意味していた。
美咲は不安そうに、蒼太は戸惑いながら、陸は苛立ちながら、真琴と楓を見つめた。
「楓さん、こんな一方的な通達、生徒会として許されるんですか?」と陸が問う。
部長の橘楓は、部員を落ち着かせた。楓の頭には、真っ先に親友である生徒会長の天野 紗希の顔が浮かんだ。楓は、すぐに生徒会室へ向かった。天野なら、桐生の暴走を止められるはずだと信じて。
生徒会室は静まり返り、天野は分厚い書類を前に、厳しい表情で座っていた。机上には、生徒会予算の配分に関する資料や、各部活動の活動実績報告書が散乱していた。
「紗希、桐生くんの指示はあまりに無茶よ。テラスは生徒たちにとって必要な、心のよりどころなのに、どうして彼を止めないの?」
楓の問いに対し、天野は表情一つ変えずに答えた。彼女の声音は、友情の情を一切排した、まるで法律の条文を読み上げるような生徒会長としてのトーンだった。
「楓。桐生くんの指摘は、生徒会として最も合理的な判断に基づいているわ。テラスのコスト構造は、学校予算の観点から見て、もはや許容範囲を超えている。彼の通達は、あなたたちを、そしてこの場所を守るための、最後のチャンスだと思って」
「でも、私たちの活動の『価値』を理解してよ!」
「活動の『感情的な価値』では、理事会は説得できない。私たちは、大切な場所を守るために、感情ではなく、論理でテラスの価値を証明しなければならないの。それができなければ、生徒会には、学校全体の予算を守る義務がある」
天野の言葉は冷たく、そして明確に突き放すものだった。楓は、親友の冷徹な態度と、その言葉の裏に隠された真意を感じ取りながらも、反論の言葉を見つけられずに生徒会室を後にした。
部に戻った楓は、真琴と向かい合った。
「真琴、ごめん。紗希は……私たちを突き放した。誰も私たちを助けてくれない」
真琴は、静かに頷き、その目を冷たく光らせた。
「わかりました。ならば、彼らが何を望んでいるか、こちらから論理で先回りします。桐生くんは、私たちがテラスの無形の価値を論理的に証明することを望んでいる。そして、彼らが示す『無駄』という論理の穴を、私たちが『貢献』という論理で埋める。テラスを守るためには、彼の冷徹さを超える、完全なる合理性が必要です」
真琴は部員たちを集め、「夏のカフェ大作戦」の開始を宣言した。それは、ただコストを削るのではなく、新しい価値を生み出すための挑戦だった。
「目標は二つ。(1)運営の無駄の徹底排除。(2)テラスが学校にもたらす『無形の利益』、特に『地域社会への貢献』を数値化し、桐生くんのデータが間違っていることを証明する」
部員たちは、廃部の危機という現実を知らないまま、真琴の強い意志と、大切な場所を守るという共通の願いに惹かれ、戦いに立ち上がった。




