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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第6話 消えゆくラテと不朽のキャンバス

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5.温かい線への共鳴

 神崎は、戸田の言葉に心を動かされ、彼への評価を改めた。彼女は、戸田の「一瞬の美学」が、自分たちの「永遠の美学」に欠けていた「人間的な温度」を持っていることを悟った。


 数日後、神崎は部員を連れてテラスに来店した。美術部員たちは、戸田のラテアート制作を目の前で観察することになった。神崎の依頼は、「彼らの作品に欠けている『技術の正確さ』と『感情の熱』を、戸田くんの制作から直接学んでほしい」というものだった。


 戸田は、技術の粋と、目の前の神崎たちへの「優しさ」を込めたラテアートを披露した。それは、スランプを脱却した彼が編み出した、流れるような曲線と、中心に強い熱量を帯びたハートを組み合わせた、「消えることで生まれる余韻」を表現する新しいデザインだった。


 その瞬間、客が思わず「わあ、天使の羽みたい!」と感嘆の声を漏らし、自然と笑顔になる。戸田のラテアートは、技術だけでなく、確実に客の感情を動かしていた。


 その様子を、美術部員たちは息を呑んで見つめた。


「すごい……この線。まるで生きているようだ」


 遠野は、無意識にポケットから取り出したスケッチブックに、戸田がミルクを注ぐ軌跡をデッサンし始めた。彼は、戸田の手の動きに「完璧な螺旋の曲線」、そして「一切の迷いのない、一本の生きた線」が宿っていることを発見する。遠野は、自分の描く線が、あまりにも理屈に囚われ、冷たいものだったと痛感した。「正確さ」と「生命力」が、戸田の技術の中で両立していることに、彼は深く感動した。


 萩原は、戸田のラテアートが、瞬時に人々の緊張と疲労を解きほぐす様子を見て、衝撃を受けた。


「私たちの絵は、いくら時間をかけても、こんな風にすぐに人の心を動かせない……。あの温かさは、どこから来るの? 私たちは、鑑賞者の表情を見て作品を描いていたかしら」


 萩原は、テラスの風景と、戸田のラテアートの「温かさ」をそのまま写し取ったような、感情豊かなスケッチを描き始めた。それは、彼の芸術が、理屈を超えた「即効性のある優しさ」を持っていることの証明だった。


 萩原は戸田に近づき、率直に尋ねた。


「戸田先輩。あなたのラテアートの線には、私たちが求める『温かい線』がある。どうして、たった数分で消えるものに、そこまで全霊の情熱を込められるんですか?」


 戸田は、真剣な眼差しで答えた。


「消える運命があるからこそ、人はその一瞬を大切に、五感で味わおうとするのさ。僕たちバリスタは、その『最高の瞬間』を提供している。そして、その一瞬の温かさが、明日を生きるための力になる。だから、一切妥協はできない。僕たちの『一瞬』は、客の心の中で『永遠』になるんだ」


 その言葉は、美術部員たちの心に深く刺さった。彼らは、永遠に残すことばかりに固執し、最も大切な「誰かの心に届ける熱量」と「温かい記憶」を忘れていたのだ。


 神崎は、戸田のラテアートが、自分の求める「不朽の芸術」に欠けていた「人間的な温かい記憶」そのものだと悟った。彼女は、戸田の芸術が、美術とは異なる、真の芸術の力を持っていることを認めた。

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