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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第4話 助っ人エースとラテアート

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4.蒼太の進言と戸田のインスピレーション

 雫が抽出を終え、いよいよ戸田哲也がラテアートに取り掛かる番だった。戸田は、陸が泥まみれで座り込んでいる姿をじっと見つめていた。スチームミルクの音が、テラスに静かに響く。


 戸田のラテアートは、単なる美しさではなく、飲む人の感情に語りかける芸術だ。彼は、陸の状況を芸術でどう表現し、どう救うか、深く悩んでいた。陸の自己否定感を打ち消し、彼がテラスで愛されている存在であることを伝えなければならない。


「どうすれば、陸に『お前は必要だ』と伝えられる?言葉ではなく、この白いキャンバスで…野球の栄光ではなく、テラスでの彼の真の価値を表現しなければ…」


 戸田はスチームミルクを扱いながら自問する。


 その時、蒼太が彼の隣に静かに歩み寄った。蒼太は、自分の嗅覚を言葉にすることに、まだ慣れていない。しかし、陸の心身の危機を目の前にして、勇気を振り絞った。


「戸田先輩。陸先輩から、『テラスの光の匂い』が消えています。あの悔恨の匂いは、野球の試合に負けた匂いじゃなくて、『テラスにいる、いつもの自分を失った』匂いです。彼は、完璧な助っ人になれなかった自分を、テラスに持ち帰ることを恐れている。先輩のラテアートで、陸先輩のホームグラウンドはここだと、彼の存在自体がテラスの価値だと、伝えてあげてください」


 蒼太の、嗅覚を通した鋭い言語化は、戸田の心に強いインスピレーションの光を宿した。蒼太の言葉は、彼の芸術の方向性を決定づけた。


「そうだ。ホームグラウンドだ!陸がいつもカウンターで笑っている、あの場所の光を、この白いキャンバスに描くんだ!光を浴びて、再びテラスに根付く…彼は、テラスという大地にしっかりと根を張っているんだ」


 戸田は、スチームミルクのきめ細かさを確認し、エスプレッソを注ぐ。そして、揺るぎない集中力で、フリーポアでデザインを描き始めた。彼の動作には、迷いがなかった。それは、芸術家が真実を掴んだ瞬間の、淀みのない動きだった。


 ミルクフォームの白いキャンバスに、エスプレッソの濃い茶色で、一本の力強く、しかししなやかな「蔦」の模様が描かれていく。蔦は、陸がグラウンドで泥まみれで頑張ってきた粘り強さと、テラスへの変わらぬ思い、そして生命力を象徴していた。そして、蔦が辿り着く終点、ラテの中心には、白いミルクフォームのコントラストを活かして、テラスのロゴである「木々の葉のシルエット」が浮き彫りになった。この葉は、テラスが彼に与える栄養と光を意味していた。


 それは、「外でどれほど消耗しても、お前の根(蔦)はテラス(葉)にある。光の下に戻って、栄養を摂れ」という、戸田なりの静かな対話であり、陸の自己否定を完全に打ち消す「芸術の言葉」だった。この芸術は、陸が求めている「テラスでの役割」の再確認を促すものだった。蒼太は、完成したラテアートから、陸への「熱い友情と、芸術家の魂の匂い、そして確固たる安心感の匂い」を嗅ぎ分けた。

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