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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第4話 助っ人エースとラテアート

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3.消耗と自己反省のラテ

 陸の試合当日、バリスタ部の部員たちは朝からそわそわしていた。楓は、いつもよりも丁寧に豆を挽き、真琴は何度も客席の消毒をチェックした。皆、陸の勝利を信じつつも、緊張していた。


 昼過ぎ、試合は延長戦までもつれ込む大激戦となった。テラスのメンバーは、スマホで速報をチェックしていた。楓のもとに、野球部マネージャーから「陸のファインプレーと、驚異的な走塁でサヨナラのランナーを生み出し、辛くも勝利した」という詳細な速報が入る。テラスのメンバーは、歓喜の声を上げ、勝利を祝った。しかし、皆の心には、陸が疲弊しきって帰ってくるだろうという予感があった。


 夕方。人工芝を踏みしめる重い足音とともに、陸がテラスの扉を開けた。彼のユニフォームは泥にまみれ、顔は青ざめ、その表情には勝利の英雄としての輝きは一切なかった。彼は、一言も発さず、ただ立ち尽くしていた。


「…楓さん。水、ください」


 陸は、力ない声でそれだけ言うと、テラスの隅の椅子に崩れ落ちた。勝利の報告をする力さえ残っていない姿だった。


 蒼太は、陸から漂う匂いに愕然とする。強烈な乳酸の酸味、アスファルトの熱気、そして疲労による体の軋みの匂い。それは極度の肉体消耗を示していた。しかし、そのすべてを覆い隠すように、蒼太の鼻孔を強く刺激したのは、「仲間への貢献不足を悔いる、明確な『悔恨(くいのこん)』の匂い」だった。


 陸は心の中で、試合の映像をリプレイしていた。延長の末の勝利。守備では難しいバント処理を幾度も成功させ、走塁ではサヨナラのホームを踏んだ。だが、九回裏のチャンス、そして延長戦での重要な打席。彼は一本の決定打も打てず、三振と内野ゴロに終わった。「助っ人として完璧なパフォーマンスを期待されていたのに、打撃という最も目立つ部分で期待に応えられなかった」という自己批判の念が、彼の心を支配していた。肉体的な疲労以上に、精神的なダメージが深かった。彼は勝利したにも関わらず、自分自身に敗北していたのだ。


 楓は、陸の様子を見て、ただの疲労ではないことを察し、城戸の言葉を思い出した。そして、部員たちに鋭く指示を出す。


「雫、トダテツ。陸に、最高の癒しを。心と体の両方を満たす一杯を、今すぐに。単なる回復ではなく、彼自身を取り戻し、彼の自己肯定感を満たすための一杯よ。美咲と蓮は、静かに見守って」


 楓が指示を出す。


 雫は、すぐにリカバリーブレンドの抽出に取り掛かった。彼女の動作は、冷静かつ正確だった。


「リカバリーのためには、血流を促し、筋肉の緊張を解くことが最優先ね。カフェインは抑えたデカフェを中心に、リラックス効果の高いオーガニックのカモミールを微量混ぜる。カモミールのアロマ効果は脳の疲労回復を促し、興奮状態を鎮静させるわ。そして、陸がテラスの『太陽』であることを思い出させるために、柑橘系の香りのする浅煎り豆を極少量ブレンドする。この香りが、彼の心をポジティブな方向へ誘導し、自己批判のループを断ち切るはず。抽出温度は、絶対に90℃を超えないよう、細心の注意を払って、酸味を抑える。これは、疲労で敏感になっている胃腸にも優しい、科学的根拠に基づいた、完璧なコンディショニングドリンクよ」


 蓮は、陸のために、特別な「回復たい焼き」を焼き始めた。餡の甘さを通常よりも優しくし、消化に良いように、皮を薄くパリッとさせる。このたい焼きは、高効率のエネルギー源であると同時に、体だけでなく、心に染み渡るように作られていた。

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