表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星陽高校バリスタ部  作者: やた
第4話 助っ人エースとラテアート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/131

2.プロ意識の口コミ効果

 陸の特訓が始まると、テラスの客層は劇的に変化した。放課後の時間帯には、運動部の生徒たちが目に見えて増加したのだ。おそらくは、陸がテラスに出れない分、周りの生徒たちに宣伝しているのであろう。しかも、陸の所属する野球部員だけでなく、口コミが広がり、他の部活からも客が押し寄せていた。


「おい、沢村は?」


「あいつは野球部だろ。仕方ねぇよ。だがな、ここのコーヒーは本当にヤバいぞ。特に、あの部長が淹れる深煎りは、疲労が抜ける」


 テラスには、長距離の練習を終えた陸上部の女子生徒や、激しい接触を伴う練習後のバスケ部の男子生徒、高い集中力を要するチアリーディング部の女子生徒など、多様な運動部員が日常的に訪れるようになった。さらに、文化部にも評判が広がり始めていた。


 真琴と仲の良いテニス部の女子生徒が、彼女に話しかけてきた。


「真琴、聞いて!うちの部の部長が、最近ここのテラスのコーヒーを推しまくってて。特に、楓さんや翔さんが淹れる格安なのにハイレベルな深煎りブレンドは、練習後の疲れに絶品だって。あれ、飲むと、午後の自主練の集中力が全然違うんだって!カフェイン飲料とは比べ物にならない、体の内側からエネルギーが湧く感じがするの。もうスポーツドリンクじゃ物足りないわ」


「うちのダンス部でも噂になってるわ。冷たいドリンクじゃなくて、温かいコーヒーでリセットする方が、体が楽になるし、代謝が上がって冷え対策にもなるって聞いたわ。特に、雫さんのブレンドは、レッスン後の筋肉のハリが違うって。」


 テラスの品質が、「格安なのに、特に上級生の淹れるコーヒーは絶品」という具体的な評価とともに、男女問わず部活の垣根を超えて広がり、既に「プロのコンディショニング・スポット」としてブランド化していることが分かった。生徒たちは、テラスのコーヒーを「リカバリーとコンディショニングのためのツール」として認識し始めていた。


 この客層の変化に対応したのは、理論派の雫、職人の蓮、そしてフロアの結だった。


 雫は、運動部員の男女のニーズを詳細に分析した。彼女の分析は、栄養学と食品科学に基づいていた。


「運動部員は、練習後に即効性のエネルギーと、筋肉のリカバリーを求めているわ。特に女子生徒は、低カロリーと冷えを気にする傾向が強く、貧血予防の鉄分やビタミンB群の補給も重要になる。水分補給だけでなく、汗で失われたミネラルバランスの回復を促す必要もある。蓮、たい焼きの配合を見直すべきよ。あんこの配合に、鉄分を多く含む黒糖を微量加えることを提案するわ」


 蓮は、雫の分析を受け、たい焼きの配合に微調整を加えた。餡の糖度を抑えすぎず、しかし消化の負担を減らすため、もち粉の割合を増やし、外はサクッと、中はもちっとした食感を実現した。この食感の変化は、疲れた生徒たちに心地よいリズム回復の効果を与えた。さらに、女性部員向けに「あんこに刻んだドライフルーツ(レーズンなど)と、体を温める生姜を少量混ぜる」という新商品を試作し、これが冷え対策を気にするチアリーディング部やダンス部の女子生徒たちに大当たりした。


「このたい焼き、甘さがちょうど良くて、練習後の罪悪感が少ないのに、すごいパワーが出る!疲れたときでも胃もたれしないのが最高!」


 結は、陸がいない間の接客統括を完璧にこなした。彼女は、客一人一人のユニフォームや、持ち物、表情から部活や疲労度を推測し、ホスピタリティあふれる声をかける。彼女の接客は、「客の存在と努力を肯定する」ことに主眼が置かれていた。


「いらっしゃいませ!吹奏楽部の方ですね?長時間の練習で、きっと喉と集中力が乾燥しているでしょう。美咲さんがブレンドした、鎮静効果の高いカカオニブ入りのリラックス効果のあるハーブティーはいかがですか?次の合奏に、繊細な感覚で集中できますよ!繊細な音色を損なわないよう、カフェインは入っていません」


 結の接客は、運動部員だけでなく、高い集中力と繊細な感覚を必要とする文化部の生徒たちにも好評だった。たとえば、将棋部の生徒には「脳の回転を邪魔しない、酸味の少ないコロンビア産豆」を、美術部の生徒には「ひらめきを誘う、華やかな香りのエチオピア産浅煎り」を提案し、その的確さが評判を呼んだ。演劇部の生徒には、喉に優しい自家製ジンジャーシロップ入りのホットレモネードを勧め、客の職業病に寄り添う姿勢を見せた。


 そして、蒼太の繊細な嗅覚も、テラスの品質維持に大きく貢献した。彼は、接客だけでなく、客の滞在中のコンディションを把握する「嗅覚モニター」として機能した。


「結さん。テニス部の彼女、疲労の匂いの中に、わずかな冷えの匂いが混じっています。アイスじゃなくて、温かいドリンクを勧めてあげてください。体の芯から温まるココアがいいかもしれません。彼女が座っている席も、窓からの隙間風があるので変えてあげましょう」


「バスケ部の彼。練習後の興奮の匂いが強いです。カフェインは避けて、戸田先輩が淹れた、ミルク多めの優しいココアを提案してください。熱くなりすぎた精神を落ち着かせる必要があります。彼には、少し静かな奥の席を案内して、クールダウンを促しましょう」


 蒼太の感覚に基づいた提案は、客のコンディションに完璧にマッチし、テラスが「部活のセーフティネット」としての役割を担い始めていることを証明していた。陸の不在は、テラスのメンバー全員のプロ意識の向上と、客層の拡大という形で、結果的に大きな成長を加速させたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ