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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第3話 超えるべき一歩、本入部テスト

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8.連鎖する変化

 外部カフェでの刺激は、蒼太の日常にも連鎖反応をもたらした。彼の中で、「言葉の壁」と「プロ意識」が、初めて結びつき始めたのだ。


 翌週、通常の授業が再開し、中休み。蒼太は、いつものように教科書で壁を作ろうとしたが、結から教わった「笑顔とアイコンタクト」が、無意識のうちに彼の行動を抑制した。彼は、自分の世界に閉じこもるのではなく、外界とわずかでも繋がろうとする意識を持ち始めた。


 隣の席の山崎が、また話しかけてくる。山崎は野球部の生徒で、いつも明るく、蒼太を気にしている生徒の一人だった。


「よう、日向。GWどうだった?なんか、お前の顔つき、ちょっと変わった気がするぜ。前の遠慮の感じが薄れたっていうか…」


 山崎は冗談めかして言ったが、蒼太にはその言葉が突き刺さった。


 蒼太の心臓は、いつも通り激しく鼓動するが、彼は咄嗟に目を逸らさなかった。結の笑顔を思い浮かべ、口角を少し上げる。その笑顔は、まだ少しぎこちない。


「あ、うん。その…部活で、都内のカフェに行ったんだ。すごい、プロの現場を見てきたから…ちょっと、刺激を受けた」


 蒼太の言葉は、普段より少しどもりながらも、途切れることなく、内容を伝えることができた。彼は、自分の熱意という真実を話しているため、言葉に詰まっても、内容が伝わることを学んだのだ。


 山崎は、興味津々で身を乗り出す。


「へぇ!バリスタ部って、そんな本格的な活動してんだ!すごいな!で、プロって、何がすごかったんだよ?やっぱ、エスプレッソマシンのテクニックとか?」


「その…コーヒーの、匂いの引き出し方。豆が持つポテンシャルを最大限に引き出す抽出の技術、そして、客のわずかな仕草から、その人が何を求めているか察する接客の技術。あとは、たい焼きを焼く時の餡の、正確な温度管理。僕たちのテラスも、もっと、プロの品質に近づきたいと思ってる。僕の嗅覚を、テラスの品質保証に活かしたい」


 蒼太は、初めて、自分の好きなこと、熱中していることを、クラスメイトに、臆することなく話すことができた。それは、彼が話す内容が、自分の「感覚と目標」という真実に基づいていたからだ。この会話は、彼にとっての小さな成功体験となり、会話への抵抗感が少しずつ薄れていった。


 蓮もまた、蒼太の変化に気づいていた。


「蒼太。お前の接客の笑顔、今日、少しだけ不器用だけど、正直な匂いがしたぞ。結の言う通り、お前の武器は言葉じゃないな。ところで、抽出練習に戻るぞ」


 蓮は、コーヒーの抽出練習にも、蒼太の「感覚」を最大限に活用した。蓮は、一つの豆に対し、湯温を1℃ずつ変えて抽出を繰り返し、蒼太にテイスティングさせる。


「蒼太、この豆は、酸味が強い。どんな温度で淹れたら、客が求める『まろやかさ』が出る?92℃では鋭すぎる。90℃では、香りが閉じる」


 蒼太は、慎重にテイスティングを繰り返す。彼の鼻と舌が、微妙な温度差による酸味の「鋭さ」と「丸さ」を嗅ぎ分けた。


「…91℃がいい。92℃だと、酸味がナイフのように鋭くなりすぎて、たい焼きの甘さを邪魔しちゃう。でも、91℃にすると、酸味は真珠のように丸くなり、香りの華やかさを保ちつつ、後に残るコクが強調されそうだよ」


 蓮は、その数字を、迷いなく雫に報告し、雫は理論的にその根拠を分析する。


「酸味成分の溶解度が、その温度で最適化されている可能性が高い。その感覚は、科学的に正しい」


 3人の相互学習は、「感覚(蒼太)→ 理論(蓮)→ 実践(結)」という理想的な循環を生み出し、彼らのスキルは、テスト本番に向けて急速に向上していった。彼らは、もはや一人の弱点ではなく、テラスの未来を担う強力なチームへと変貌していた。

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