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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第3話 超えるべき一歩、本入部テスト

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7.舞台の外側

 GW期間中の休業日、部長の橘楓の計らいで、蒼太、結、蓮の3人は、都心にある有名なスペシャルティコーヒーのカフェを訪問することになった。


「テラスという閉鎖的な空間だけではなく、プロの『舞台』を、あなたたちの目と鼻で感じてほしいの。テラスの外には、厳しいプロの世界が広がっている。それを知ることで、あなたたちの目標も明確になるはずよ」と、楓は、その目的を語った。


 店内に足を踏み入れた瞬間、蒼太の嗅覚は、一気に覚醒した。テラスとは異なる、洗練された、しかし熱いコーヒー豆の香りが空間を満たしている。テラスの香りが「家族の食卓」だとすれば、この店の香りは「美術館の静謐さ」のようだった。豆の持つ個性が、最大限に引き出されている匂いだ。


 蒼太は、客としてプロのバリスタの動きを観察した。彼らは、一切の無駄がなく、流れるような動作でコーヒーを淹れている。グラインダーから豆が挽かれ、タンピングされ、エスプレッソが抽出されるまでの時間が、秒単位で管理されていることが、蒼太には匂いの変化で分かった。そして、客との会話は、非常に自然で、客の好みを瞬時に察知しているようだった。


「あの…蓮くん。このお店のコーヒーの匂い…テラスより、ずっと明るくて、強い気がする。なんでだろう…。僕たちの豆は、こんなに香りが立たない」


 蓮は、蒼太の言葉に深く頷く。


「あれは、焙煎の違いだろう。豆の鮮度も最高だ。だが、それだけじゃない。この空間の『空気』が、匂いを引き立てている。テラスは中庭だが、ここは、空間全てが、コーヒーを美味しくするための設計になっている。カウンターの高さ、照明の色、流れる音楽のテンポ…全てが、コーヒーを楽しむための演出だ」


 蓮の視点は、すぐに設備に向いた。彼は、カウンターの奥に置かれた、最新のエスプレッソマシンと、精密なデジタルスケールに注目する。


「彼らのエスプレッソマシンは、テラスのものよりも最新式で高価だ。しかし、彼らの動作は、俺たちが学んでいる基本と寸分違わない。重さを計り、湯温をチェックし、抽出量を管理する。プロの舞台とは、道具に頼るのではなく、基本を徹底し、それを寸分の狂いもなく再現することだと理解した。俺たちのテラスにも、この再現性が必要だ」


 結は、客への対応と、メニューデザインに注目していた。彼女の接客への探究心は、誰よりも強い。


「見て、蒼太くん。あのバリスタさん、お客さんの服の色や、持っている本を見て、『今日は少し深めの味がお好みですか?』って声をかけている。すごすぎるよ!言葉は少ないのに、お客さんが本当に嬉しそう!あの人、お客さんの『心の中の匂い』まで嗅ぎ分けてるみたい!」


 結は、自分が蒼太に教えた「気遣いの力」が、プロの現場でこそ最大限に発揮されているのを見て、接客の本質を理解した。それは、単なるマニュアル通りの挨拶ではなく、客の状況と気分を察知し、最適なおもてなしを瞬時に提供する技術だった。


 蒼太は、プロのバリスタが、注文を受ける際、一瞬だけ笑顔になり、客の目を見て、すぐに抽出の作業に戻るという一連の動作に注目した。その一瞬の笑顔は、完璧な「おもてなし」を表現していた。彼らは無駄話をしない。彼らの時間は、最高のコーヒーを作るために使われている。


(僕に必要なのは、完璧な会話じゃない。一瞬の、真摯なアイコンタクトと、自分の正直な感覚を伝える一言だ。その一言は、コーヒーの『匂い』や『味』に基づいた、僕だけの、客への配慮でなければならない。それが、僕のプロ意識になる)


 3人は、外部のカフェ体験を通じて、自分たちのテラスを「遊びの部活」ではなく、「プロの品質を提供する舞台」として捉え直す視点を獲得した。テラスの鉄の扉を叩いた時の「覚悟」が、この体験を通じて、より具体的で、確固たるものに変わった。彼らは、テラスに戻り、早速プロの技術を自分たちの訓練に取り入れ始めた。

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