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星陽高校バリスタ部  作者: やた
第19話 緋色と煤色

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1.賑わいの桜川神社

 正月、冬休みの真っ只中にある桜川市は、底冷えのする厳しい寒さに包まれていた。吐き出す息は白く濁り、空は雲一つない群青色に澄み渡っている。そんな静謐な冬の朝を切り裂くように、市内随一の古社「桜川神社」は、新年の高揚感に包まれていた。


「……うわあ、すごい人だね、蒼太くん! 見て見て、あそこまで行列が続いてるよ!」


 星野結が、寒さで林檎のように赤くなった鼻をマフラーに埋めながら、弾んだ声を出した。彼女の隣で、日向蒼太は押し寄せる人の波に圧倒され、肩をすぼめて周囲を見渡している。


「そうだね。桜川市にこんなに人がいたんだ……って思うくらい。普段の駅前よりずっと賑やかだよ」


 蒼太は少しだけ気後れして、ダウンジャケットの襟をさらに高く立てた。内気で静かな場所を好む彼にとって、これほどまでの人混みは本来避けるべき対象だ。だが、隣を歩く結の明るい桃色の私服と、彼女が放つ太陽のようなエネルギーが、彼を外の世界へと繋ぎ止める錨となっていた。彼女の明るさがなければ、彼はきっとこたつの中から一歩も出なかっただろう。


 境内へと続く石畳は、数え切れないほどの参拝客の足音で絶え間なく鳴り響いている。玉砂利を踏みしめる「ジャッ、ジャッ」という乾いた音は、まるで古い蓄音機がノイズを奏でているかのようだ。巨大な常香炉からは、鼻を突く線香の香りと、天へと昇る白煙が立ち上り、参拝客の煩悩を焼き払うかのように空に溶けていく。参道の両脇に並ぶ屋台からは、甘酒の麹の濃厚な匂いや、醤油が鉄板の上で焦げる香ばしい匂いが漂い、冬の冷たく乾いた空気と混ざり合って、正月独特の活気と混沌を作り出していた。


「ほら、蒼太くん、遅れないで! はぐれたら迷子になっちゃうよ?」


 結が蒼太の手首を迷いなく掴み、人混みのわずかな隙間を縫うように進んでいく。繋がれた場所から伝わる柔らかな体温と、厚手の手袋越しでもわかる確かな力強さに、蒼太の心臓が不規則なビートを刻み始めた。


「あ、うん。結さんは本当に元気だね……。この間までクリスマスマーケットで忙しかったのに」


「だってお正月だよ? 新しい年が始まったんだもん、楽しまなきゃ損だよ! 去年の悩みは全部置いてきて、真っ白な気持ちでスタートしなきゃ!」


 二人は手水舎で冷たい水に手を浸し、身を清める。氷のような水の冷たさが、眠っていた感覚を鋭く呼び覚ました。賽銭箱の前までたどり着くと、五円玉を一枚ずつ投げ入れた。「チャリン」という硬貨の重なり合う音が、拝殿の奥から響く深い鈴の音に吸い込まれていく。蒼太は目を閉じ、手を合わせた。


(今年も「木漏れ日テラス」で、大切な仲間たちと最高の一杯を追求できますように。そして、みんなが笑っていられますように……)


 それは、一年前の自分なら決して抱かなかった、けれど今の彼にとってはかけがえのない、切実な願いだった。


「蒼太くんは何を神様にお願いしたの?」


「えっと、みんながテラスで笑えるように、かな」


「優しいねぇ」


「結さんは?」


「秘密〜。だけど蒼太くんと似たようなことかな」


 そう言った結は、少し頬を赤らめた。


 参拝を終え、ふと顔を上げた時、どこからか雅楽の調べが聞こえてきた。篳篥(ひちりき)の鋭くもどこか哀愁を帯びた音色と、龍笛(りゅうてき)の天を突くような澄んだ音が、喧騒を押し広げるように響き渡る。


「あ、神楽殿の方だ。舞が始まるのかも! 行ってみようよ、蒼太くん!」


 結の言葉に促され、二人は境内の中心に位置する神楽殿へと、吸い寄せられるように足を向けた。

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