6.落日の影
マーケットもいよいよ終盤。客の数も緩やかに減り始め、ツリーの光が雪の舞う夜空に、さらに鮮やかに、そして少し寂しげに映え始めた。やり切ったという大きな達成感が周囲に漂う中、凛は一人、カウンターの中で凍りついたように立ち尽くしていた。
彼女の視線の先には、蒼太と結がいる。二人は、使い終わった器具を鼻歌交じりに片付けながら、今日一日の激動を笑い合い、時に肩が触れ合うほどの近さで、視線を交わしている。その光景には、どんな完璧な接客マニュアルにも、どんなに高価なゲイシャ種の豆にも決して作り出せない、純粋で無垢な、そして圧倒的な「共有された時間」が流れていた。
「……っ」
凛は、思わず視線を強く逸らした。今日の絶望的なピンチを救ってくれたのは、間違いなく蒼太だった。そして、それを側で一番に支え、明るさで照らしたのは結だった。
自分が完璧であれば、もっとスマートに、もっと誇らしくこのイベントを終わらせられたはずだった。けれど、自分のあまりにも初歩的なミスによって生まれた「空白」を、最高な形で埋めたのは、自分が最も恐れていた、そして最も欲していた「二人の阿吽の呼吸」だった。
「……惨め、ですわね。本当に」
凛は、自分の声が冬の冷気の中で小さく震えるのを感じた。誰よりも努力し、誰よりも誇り高く、誰よりも蒼太の隣に相応しい人間であろうとした。
けれど、結局自分は蒼太にとって、救われる側の「大切な仲間」の一人でしかなかったのだ。結のように、最初から彼の隣に居場所が予約されている人間ではなかったのだという、残酷なまでの理解。
「凛さん、本当にお疲れ様! 凛さんの的確な指示、最後まですごく分かりやすくて助かっちゃった! 凛さんのおかげで大成功だよ!」
結が、悪意のない、太陽のような弾ける笑顔で声をかけてくる。その無邪気な優しさが、今の凛には鋭く磨かれたナイフのように、彼女の誇りを切り裂いていく。
「……。ありがとうございます、星野さん。……でも、私はミスをしましたわ。あなたたちの努力に泥を塗った、無能な責任者です。……少し、外の空気を吸ってきますわ。失礼します」
「え、凛さん……? まだ片付けが……」
蒼太が心配そうに引き留める間もなく、凛は頭を締め付けていたサンタ帽を脱ぎ捨て、早足でテラスの裏側、暗い校舎の影へと消えていった。
華やかなイルミネーション、吹奏楽の最後のアンコールが響く、誰もが幸せを分かち合う場所。そこから逃げるように、彼女は冷たい闇と静寂が支配する資材置き場の影へと身を隠した。
膝を抱えて座り込むと、ずっと堪えていた涙が、溢れるのを止められなかった。悔しくて、情けなくて、自分の不器用さが嫌いで……そして、どうしようもなく、寂しかった。自分が誰よりも、何よりも望んでいた「蒼太の特別な人」という座標には、最初から自分の居場所など一ミリもなかったのだという事実が、雪の重みのように彼女にのしかかる。
雪が、彼女の美しい黒髪に、まるですべてを隠すようにそっと降り積もる。凛は、誰にも聞こえないように、声を殺して泣き続けた。今日一日の完璧だった自分も、お嬢様としての高い誇りも、すべてがこのまま雪の中に溶けて、誰の記憶からも消えてしまえばいいのにと、心から願っていた。




