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プライベートゾーン(3)


「……ん? どうかした? 果歩」

「いや、“どうかした?”じゃないよ。イヤだよ。よりにもよってそんな……」


 なんで。どうして。何がどうなってそうなったの? 私には理解できない。大体、人様の体を舐め回しても良いことなんか何一つないじゃない!


「……なに? あたしのおっぱいの何が不満なわけ?」

「いや、不満とかそういうのじゃなくて……」


 そう思っているけれど、どうやら美桜ちゃんは違うみたい。


「……もしかして、赤ちゃんみたいで恥ずかしいって、思ってる?」

「……うん」


 正確にはちょっと違うけど、だからって本当のことを言う羽目になるのも嫌だったから、ここは頷いておく。


「……あのね、果歩。いいことを教えてあげる」

「……?」


 それって、本当に“いいこと”なんだろうか? 何だか、また言いくるめられそうな、嫌な予感しかしないんだけど。


「確かに、あたし達は、赤ちゃんだった頃から成長したのかもしれない。色んなことを知って、色んなことが一人でできるようになって、身体が大きくなって、恋愛感情も芽生えて、子どもだった頃から進んで、今まさに少しずつオトナになりつつある」

「……うん」

「でもね? たとえオトナになったとしても、時には赤ちゃん返りだってすることはあるの。特に、恋人とか好きな人の前だとね!」

「……え?」


 衝撃的な証言だった。びっくり通り越してショッキングな真実だった。そんなきっs……馬鹿なことが、本当にあるというのか?

 

「いい年した大人だって、たまには母性溢れるお姉さんやママ的存在に甘えたくなる時もあるの。それに、お姉さんの方だって、疲れて辛くなってしまった人を精一杯甘やかして癒してあげたいって思うこともあるの。だから好きな人同士で身体を触れ合わせたり、時にはおっぱいを舐めたり咥えたり、つい夢中になってお漏らししちゃうことだってあるの!」

「…………」


 なに、言っているんだろう?

 美桜ちゃんの話は、時々理解できないことがあったけど、その中でも今回のは、とびっきりに意味不明だった。あまりにも信じられなさすぎて、非常識で、どうかしちゃったんじゃないかとすら思う。


「もちろん、人前でやったら恥ずかしいし迷惑をかけるから、皆やってないように見えるけどね。でも、好きで好きで、心を許しあった間柄しかいない時には、そういうこともあり得るわけよ。だから、変に情けないって責めたり屈辱的に思う必要は全然ないの! ……って、聞いてる? 果歩〜?」

「……はっ!」


 あれ? 私、いつの間にか頭が真っ白になってしまった。確か、美桜ちゃんが何か言っていた気がするけど、何だったっけ?


「えっと……美桜ちゃん?」

「? どうかした?」


 私の下で、上半身まっ裸になっている美桜ちゃんが、心配そうに私を覗き込む。……やっぱり、気のせいだったのかな?


「……で、つまり、何だっけ?」

「……だから、ね? …………。もう、いいや」

「え?」


 美桜ちゃんが、呆れた顔をして何かを諦めた。


「そろそろ、退()いてくれない? 何か寒くなってきたし」

「あ、ご、ごめん!」


 私は慌てて、足に思いっきり力を込めて体を起こして、美桜ちゃんの上から離れる。すると美桜ちゃんも起き上がって、ブラの位置を直したり服を着直したりした。……とても、不機嫌な顔で。


「……美桜、ちゃん?」

「なに?」


 声のトーンも低くて冷めきっている。どうやら本気で怒っているらしい。

 これはマズイと、直感的に思いまずは謝ることにする。


「……ごめん。私、何かしちゃった?」

「……何もしてないよ。果歩は、何もしてない」

「…………」

「……そんな顔をするなら、一つ、お願いがあるんだけど」


 着替え終わった美桜ちゃんが、押し黙ってしまった私の方を振り向いた。納得いかなそうな顔をしていたであろう私に、今日何度目かも分からない頼みごとしようとしてくる。


「……なに?」

「……あのね?」


 それでも、私は仲直りするためならば、何でもやろうと思った。一方で、美桜ちゃんは()つん()いになりながらハイハイと赤ちゃんみたいに近づいてくる。……相変わらず表情が怖いけど。

 そして、ついに私のおでこと美桜ちゃんのおでこがくっつくぐらいまでに、美桜ちゃんの顔が文字通り目と鼻の先に近寄ってきた。


「……な、なに? 美桜……ちゃ」

「舌、出して」

「……?」


 よく分からないまま、私は、べぇ……と口から舌を出す。


「ん……もうちょっと、思いっきり舌を伸ばしてくれる?」

「???」


 まだよく分からなかってないけど、美桜ちゃんの言う通り今度は限界まで舌をさらけ出す。


「そう、その調子。……そのまま、じっとしててくれる?」

「? ん……」


 すると、美桜ちゃんもはっきりと舌を伸ばして……そのまま私の方へ、ゆっくりと迫ってきた。

 こ、これって……!

 数時間ぶりの光景が既視感(デジャヴ)となって蘇る。あの時は唇同士のキスだったけど、今度はなんと舌同士でやろうとしていた。

 唇同士の時の感触も、どんなだったか正直今は思い出せない! なのに、今度は舌同士だなんて! ……どんなふうになるんだろうと、こうなった以上ちょっと気になってくる。

 ものすごい緊張とちょっぴりの好奇心で心臓がドキドキになりながら、親友のソレを今か今かと待ちわびながら堪える。


「……っ!」


 次の瞬間、ぴとっ、ヌルっ……としたものが私の舌を伝った。柔らかくて生温かく湿った感触に、私は思わず目を瞑る。

 美桜ちゃんの舌先が、私の舌の上をゆっくり滑らせてくる。今に至るまで散々緊張してきたせいで乾いていた私の舌を、美桜ちゃんの涎が染みた舌で濡らされて、ついには絡ませ合ってくる。

 決して激しい動きはしてこなくて、むしろそっと、傷つきやすいものを扱うかのように緩やかで慎重な動きだった。でも、こんな、自分の舌と他の子の舌を触れ合わせるなんて初めての感覚に、心臓はバクバクと激しく喚きっぱなしでとても落ち着いてなんか居られなかった。

 そのまま、数秒間か、数十秒間か。美桜ちゃんはずっと、私の舌を絡ませ合ったまま動かなかった。


「……?」


 どれくらい時が経ったのかも分からないけれど、ようやく自分にされ続けている刺激を受け止められ、なのにそれ以上何もされないことに違和感を覚える事ができた私は、そっと目を開ける。

 するとそこには、私の目をじっと見つめる美桜ちゃんの眼差しがあった。


「……へ?」


 美桜ちゃんの名前を呼ぼうとしたけれど、舌が伸ばしっぱなしでうまく喋れない。

 でも、美桜ちゃんは私の疑問を察してくれて、やっと舌を(ほど)いて口の中にしまった。


「もういいよ、果歩」


 美桜ちゃんから許しが出て、私も自分の口の中に舌を落ち着ける事ができた。


「……で、あのさ。訊きたいことがあるんだけど……」

「なに?」

「……今の。正直、汚い(・・)って、思った?」

「え?」


 どういうことだろう? ちょっと意味がよく分からない。


「あたしは今、自分の(つば)を含んだ舌で、果歩の舌を舐め回したわけだけども。……どう、思ったか。正直に教えてほしい」

「…………」


 どうしよう? どう答えたらいいんだろう?

 正直に言えば、不思議とそんなに嫌じゃなかった。

 これがもし、他の子だったり男の人だったりしたら、やっぱり気持ち悪いって思っていただろう。

 だけど、私のことを好きでいてくれて、私も一緒にいて安心できて、私のことを気遣ってくれて、女の子らしい良い匂いをすることもあって……。どれが、他の人と決定的に違う差を生んだのかは分からないけれど、少なくとも、そこまで不快じゃ無かったのは確かだった。


「……嫌じゃ、なかったよ」

「……そう」


 結局、自分の気持ちをうまく説明できないまま素直に答えちゃった。でも、美桜ちゃんはそれだけで納得してくれた。


「じゃあ、まあ、とりあえずは良かったってところかな?」

「そうなの?」


 さっきまでは不安げだったり不機嫌だったりした彼女だったけれど、今は憑き物が落ちたかのようにスッキリとした顔をしていた。


「少なくとも、今のあたしの行為に傷つかなかったのなら、果歩にとっては十分な成長だったと思う。……恋人同士の戯れには、今みたいな汚いと言われそうなものは結構あるわけだし。それに拒絶反応を示さなかっただけでも、あたしはすごく安心したよ」

「そ、そう……なら、良かった、のかな?」

「うん。……まあ、この調子でこの先もっと、汚いことはしていくつもりだけど」

「え……」

「まあそれは追々(おいおい)体験していけばいいか。……大丈夫。きっと果歩にもそのうち分かるよ。本来の不快感を乗り越え、触れ合った先にある、極上の気持ち良さが」

「……そ、そうかな?」


 途中の不穏な言葉に、思わず固まってしまったけれど、美桜ちゃんはそれでも無邪気に笑って意味深に告げてくる。

 果たして、そういうものなんだろうか。とはいえ、今まで汚いことを避けるように言われ続けてきた私には、まだ実感できない。

 そう言えば、美桜ちゃんの持っている漫画にも、キスとかそういうことをされて恥ずかしそうにドキドキして、ときめいていた描写もあった気がする。あれも、言ってしまえば他人の身体に(つば)をつけたのと同じようなものと言えるかもしれない。ということは、つまりは、そういうことなのかな?


「さ、もう日も落ちてきたし、今日は色々あって疲れたでしょ。早く(うち)帰って休みな」

「え、あっ、うん。分かった」


 気づけば、もう外はわずかな夕日で空を照らすだけになっていた。青紫に染まった空は、もうすぐ真っ暗な夜へと変わりつつあることを告げていた。

 私は美桜ちゃんの言う通りに、自分の鞄を取り外へと出る。


「じゃ、またね」

「うん、また明日!」


 これからのお互いの人生を左右するような、色々大変な出来事が起こっても、結局最後には、いつも通りの挨拶を交わしながら。

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