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プライベートゾーン(1)


「……で、なんだけど。果歩」

「……ん?」


 美桜ちゃんが、なんかもじもじと落ち着きなさそうにしてる。一体どうしたんだろう?


「えっと……いきなり、何をしてもいいって言われても、困っちゃう……よね?」

「……うん。まあ」


 美桜ちゃんには申し訳ないけれど、やっぱり、私にはまだ覚悟が持てない。たとえやる側だったとしても、キツく教えられてきた正論に抗うような真似は、そんなにすぐにできるものではない。


「けどさ……さっき、あたしに暴言を吐くっていうことは、できてたよね?」

「う、うん……もしかして、ダメだった?」


 急に不安になって、思わず訊いちゃったけど、美桜ちゃんは激しく首を振って否定した。


「ううん! そんなことない! むしろ、よく頑張ったと思う! 偉いよ、果歩!」

「う、うん……ありが、とう?」


 むしろ、力強く説得するように褒め称えてくれる。……って、そんなこと言われても、そこまで褒められるほどのことをしたとは思えない。どっちかっていうと、今は罪悪感でいっぱいなのに……。


「だからさ、果歩!」

「……なに?」


 期待するような目でこっちを見てくる美桜ちゃんに、私はたじろぐ。

 何なんだろう? 美桜ちゃん。今度は私に何をさせようとしているというの? ……まさか。


「今度は、暴力をぶつけること、してみよっか!」

「…………」


 やっぱり。

 薄々、そうくる予感はしていたものの、改めて、しかもやけにいい笑顔でイヤな提案してくるから、微妙な顔にもなってしまう。


「もちろん、DVみたいな真似まではしなくていいんだけどね? あたしとしては、果歩には特に、性暴力について慣れさせたいと思うんだよね。果歩のことだから、多分、プライベートゾーンは絶対に人に見せたり触ったりしたらいけないって思っているでしょ? だけど、まずはその認識を改めて欲しいなって思うの。恋人同士とか、本当に気を許した仲だったなら、別にプライベートゾーンを見せ合ったり触り合いっこしたりしても良いんだよ。だから……」

「うっさい!」


 妙に早口で巻くしたてながら近寄ってくる美桜ちゃんだったけど、ついに目と鼻の先まで迫ってきて 、咄嗟に身の危険を感じた私は、思いっきり両手で突き飛ばしてしまった。

 お望み通りにやっちゃったことに気づいた私は、また罪悪感に襲われる。いくら暴力と言われても、これじゃあ拒絶になってしまったんじゃないか、と。


「……ふ、ふふふ。さすがだね、果歩。覚えが早くて助かるよ……」


 バランスを崩して倒れ込んだ美桜ちゃんが、不敵な笑いをしながら起き上がる。

 ……思いのほか、全然大丈夫そうだった。この期に及んで、まだ全然懲りてない。とも言うかもしれない。


「さあ。その調子で、もっとあたしにかかって来なよ……。大丈夫。いくら果歩がイケナイコトをしても、全部あたしが受け止めてあげるから……」

「美桜ちゃん、怖いよ」


 仰向けになりながら鬼気迫る美桜ちゃんの挑発に、私のほうがたじろいでドン引きしてしまう。

 これも、美桜ちゃんなりの愛情ってやつなのかな? 私には、なんか歪んでいるように思えて仕方がないんだけど。本当に、信じていいのかなあ? 不安で仕方がないよ。


「怖くないよ〜、果歩。ほら、よく見て? あたし、従順なワンちゃんのポーズしてるよ~。ふふふっ」

「いやいや……」


 仰向けのことをよりによってそんなふうに言わないでよ。ふふふじゃないよ。スカート短いのにそんなポーズするから白いパンツ見えちゃってるよ。まったくもう……。


「ほら、早く〜」

「……ほんとに、やんなきゃダメ?」

「……ダメ。こうでもしないと、果歩、一生やんないでしょ」


 いつもの優しい美桜ちゃんだったら、そこまで嫌なら……って言ってくれたらと思っていたけど、残念な美桜ちゃんに強気に断られてしまった。期待外れだった。そして、一生やんないのも図星だった。


「うぅ……」


 とはいえ、触らなきゃいけないのはプライベートゾーンだ。プライベートゾーンって、どこのことを言ってたんだっけ? 確か、水着で隠れているようなところだったような……。つまり、股とか、お尻とか、あとは……。


「じゃあ……。…………触るよ?」

「いいよ。おいで、果歩」


 私は、なんとか覚悟を決めて、美桜ちゃんの足の間から(おお)(かぶ)さるような体勢をとる。

 仕方なくだけど、改めて許可を求めたら、美桜ちゃんはこんな時に限っていつもの優しい声で応えてくる。余計に恥ずかしくなりながらも、バランスを支えるために美桜ちゃんの両脇の床に手のひらを押し付ける。

 まるで、壁ドンならぬ床ドンみたいになって、見事に美桜ちゃんを私が押し倒したみたいな格好になっちゃう。

 でも、美桜ちゃんがわるいんだよ? 私の理性を否定して、その情けない格好で私を犯罪者にしようとしたんでしょ。

 緊張のあまりに顔を熱くさせて息を荒げながら、内心で愚痴る。でも、このままじゃ実は両手を動かせないと気づいた私は、肘まで床に下ろした。そうしてようやく自由になった手で、そのまま美桜ちゃんの両腋へと手を少しずつ近づけていく。


「……やっぱり、上から来たか」

「……なに?」

「ううん、何でもない。そのまま続けて?」


 美桜ちゃんの言いたいことは、なんとなくわかる。だけど、私にはまだ、そこまでの勇気も覚悟もできなかった。だって、そんな汚いところ、いくら頼まれても触れないよ……!

 美桜ちゃんから続けてと言われたから、恐る恐る、そっと両腋に触れていく。


「……っ!」


 セーラー服の柔らかい生地越しに、美桜ちゃんの身体の感触が伝わってきて、ドキッとする。でも、一方の美桜ちゃんの方は、全然平気そうだった。むしろ、おっかなびっくりになっている私の反応を楽しむように、ニヤニヤと下から覗き込んでいる。

 相変わらず気持ち悪いくらい随分と余裕そうな態度に、なんだかムカついてきた。こっちは嫌われないかとかイケないことしちゃってるとか、色々我慢して必死にやっているのに!

 そっちがその気ならと、私はもう遠慮なく美桜ちゃんの胸に触れてみせる。


「……んっ」


 ふにっ……と心地のいい柔らかさが指から伝わってくる。

 質の良い絹の枕みたいだった他の身体とは違って、豊かに女性らしく成長している美桜ちゃんの胸は、心地の良い弾力さがあった。

 同時に、そこに触れた途端、美桜ちゃんがちょっと声を漏らした。


「美桜ちゃん?」

「いや、大丈夫……。そのまま続けて」


 やっぱり不快だったんじゃないかと心配になったけれど、私が問いかける前に美桜ちゃんの方から否定された。

 本人がそう言っている以上、ここで変に気遣って辞めたら、それこそ失礼に当たる気がする。だから、あえて何事もなかったかのように、美桜ちゃんの胸を触り続ける。

 ぷにっ……ぷにっ……。と、仰向けなのに小さな山みたいに盛り上がっているそれは、横からそっと滑らせてみても、上から軽く押し付けても、吸い込まれるように優しく包みこんでくれる。半分はブラの硬さを感じるけれども、もう半分はプリンよりも確かな質感で、モチモチとした感触があった。ちょっと摘んで見たら、その分盛り上がって、よりぷにぷに感が増してくる。


「プッ、ふふふっ。果歩、触りかた、イヤらしいよ?」

「うっ……うっさい。仕方ないでしょ。女の子の胸触るの、初めてなんだから……」

「そっかぁ。うん、そうだよねぇ……」


 堪えきれなくなったように、また美桜ちゃんが笑い声をあげる。そしてまた、ニヤニヤと私をからかってくる。

 そんなこと言ったって、お母さんの言いつけを守って、本当に誰のにも触ったことないし、触られたことすらもないんだから、しょうがないじゃない!

 しかも、そう言ったら美桜ちゃんの視線が、私の胸に移りだして来る。色々と無性にムカついたので、美桜ちゃんのおでこを()(ぱた)いてやった。


「あう!」

「少し大人しくしてて、美桜ちゃん!」


 こっちは今、美桜ちゃんに言われた通りに、美桜ちゃんの胸を触るので忙しいのに! 意識しちゃったら急に気恥ずかくなっちゃったじゃん! ほんとにもう……。

 と、内心でぶつくさ文句言って、でも言わないようにほっぺを膨らませていたら、美桜ちゃんが、笑って続けてきた。


「いやいや。本当に嬉しかったんだって、あたしは。思ったよりも果歩が乗り気でいてくれて」

「……それって、褒めているつもり? それとも貶してんの?」

「もちろん、褒めてるつもりだよ。っていうか、どっちかって言うと安心したんだけど」

「安心?」

「うん。思ってたよりも、果歩が自分の気持ちに正直になれているようでいて」

「ん〜?」

「あれ、ひょっとして無自覚だった? まあ、いいや。じゃあ、そんな果歩に、もっと良いものをあげちゃおう!」

「いいもの?」

「そう、出血大サービス!」

「……え、出血しちゃうの?」

「……まあ、場合によっては。あたしの鼻からかもしれないし、あんたの鼻からかもしれないけれど」

「???」


 よく分かんないけれど、無理したり、怖いことには、なって欲しくないなぁ。

 と思っていたら、美桜ちゃんがなんと、セーラー服を上まで捲り上げてきた。

 ついに上半身を覆っていた純白のベールすらも()がされ、白い肌と水色のブラが無防備に晒される。大胆な行動に思わず私が目を()いて、だけど目のやり場に困っていると、美桜ちゃんはさらに、ブラすらも下に下げてくる。程なくして、双丘を成す肌の盛り上がりが、その頂点とともにその姿を露わになされた。

 秘匿されるべき存在が、あろうことが目の当たりとなった。私はといえば、その珍事に対し、素直に気分を盛り上げることはできなかった。


「み、美桜……ちゃん?」

「さあ、果歩。遠慮はいらないよ。果歩の好きなように(もてあそ)んでおくれ……」


 ついに自ら上半身を裸にした美桜ちゃんが、慈悲に満ちた微笑みで私を誘ってくる。

 そんなこと、言われても。私には、恐れ多くて、とても(うけたまわ)ることなんか、できない。


「いや……いいよ、美桜ちゃん。……何も、そこまでしなくたって!」

「大丈夫だって。他でもない、あたし自身が、触って欲しいって望んでいるんだから」


 それはそうかも知れないけれど! でも、やっぱり私には、どうしても、その覚悟が、好意が、重すぎて受け取れない。

 

「でも! や、やっぱり美桜ちゃん、もっと自分を大事にしたほうがいいよ……」

「もちろん、大事だよ。だけど、自分の身の可愛さばかりを優先して、他の何もかもを犠牲にして、否定して、欲求を抑え込むことが、本当に(・・・)自分を大事にしていることだとは、あたしには思えないんだ」

「……美桜ちゃん」

「それにね、果歩には、理解(わか)っておいてほしいんだ。プライベートゾーンは、確かに無闇に晒したり触っていい場所じゃないけれど、でも、決して、絶対に誰にも隠して守らなきゃいけない(みにく)い場所でもないっていうこと。確かに、汚く思うことはあるかもしれないけれど、それでも、触られたいと(・・・・・・)望んでいる時に(・・・・・・・)優しくしてあげたら、気持ち良かったりするものだし、恋人同士ならそれで愛を確かめ合ったりもするの。単純に判断できるものじゃないけれど、そういうものなんだって、実感していてほしいの」

「…………」


 美桜ちゃんの話は、難しくて、今の私には多分半分も理解できてないと思う。

 でも、美桜ちゃんがそういうなら、そうなんだろう。と、親友として一緒に過ごしてきた信頼が、何も分からない私の背中を押す。

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