第9話「暴かれる正体」
──リュア村。
王都からの“招待状”が届いたのは、突然だった。
「神の使いと噂される貴殿を、王都カリステアへお迎えしたく存じます。
ついては、王家主催の“豊穣の祭典”にて、作物の奇跡をご披露いただきたく──」
「……これは罠だね」
アルレンは招待状をひらひら振って、軽く言った。
「どこからどう見ても罠だね。うん」
けれど、その顔に焦りはなかった。
むしろ、にこにことスープを混ぜていた。
「行くの!?」「やっぱ行くの!?」
フィオナとナジアが声を重ねる。
「行くよ。敵だろうが味方だろうが、
僕は“祝福”を広げに行くために地上に来たんだから」
そして──祭典の日。
王都・カリステアは賑わっていた。
会場となった広場では、各地から集められた品々と人々で埋め尽くされる。
中央に設けられた“奇跡の畑”。
アルレンはその場に立ち、静かに土に触れた。
「芽吹いて」
それだけで、会場全体が息を呑む。
数秒のうちに、大地から麦、果実、香草が一斉に芽吹き、
まるで楽園の断片が降り立ったかのような風景が広がった。
人々が拍手し、歓声が上がる。
だがその中に──一人、明らかに異質な気配があった。
「貴様……何者だ」
鋼の鎧に身を包んだ“神聖騎士団”の一人が、剣を抜く。
「その力、魔術師の領域ではない。
神の領域を侵す存在──貴様、何を隠している」
空気が一気に緊張する。
フィオナが動こうとした、その瞬間──
──騎士の剣がアルレンへ向けて振り下ろされた。
が、届かなかった。
騎士の身体が吹き飛ばされる。
風も、衝撃も、なかった。ただ、“地面ごと押し返された”かのように。
「……フィオナ」
アルレンの隣で、白銀の光をまとう少女が、静かに立っていた。
「アルレンさまを、傷つけるなんて……許さないよ♡」
彼女の背から“森羅万象モード”の光翼が広がり、
あたりの植物が一斉に成長し、騎士団を包囲していく。
「やめなさい、フィオナ!」
アルレンが静かに叱責するその声で、植物たちは一瞬でしおれた。
騎士団も、声を失っていた。
「これは……精霊神の眷属……?」
「いや、それ以上だ……!」
その場の空気が、まるで“神殿”のように張り詰めていた。
アルレンは、そっとフィオナの頭を撫でてから、皆の前に立つ。
「僕は、敵じゃない。
誰かを傷つけるために力を使ったことは、一度もない」
沈黙。
「それでも……僕が何者かを問いたいなら──
そうだな、“ただの旅の農民”でいいよ」
その言葉に、誰も反論できなかった。
夜、王都の裏通り。
一部の貴族たちと宗教者が密かにささやき合っていた。
「アレは神か? 魔か? どちらにせよ……危険だ」
「正体を暴く必要がある。いや、排除するか……?」
──アルレンの存在が、「ただの噂」から「国家の脅威」へと変わった瞬間だった。