第3話「神の使いと呼ばれて」
翌朝──。
リュア村は、かつてないほどの活気に包まれていた。
神樹の果実を食べた者たちは、病を癒され、体に力が戻っていた。
「これは……夢じゃなかったのか」
「子どもの咳が止まったぞ!」
「畑が……水もないのに芽が出てる……っ!」
村人たちはこぞって、昨日“畑に触れただけ”で神樹を育てた青年に注目する。
そして──誰ともなく、ぽつりと呟いた。
「……あの方、神の使いじゃ……?」
一方その頃、村の小屋。
フィオナは、アルレンの布団の端でくるまっていた。
「アルレンさま〜、起きて〜♡」
「……もう少しだけ……」
寝ぼけて伸ばした手が、フィオナの耳をもふっと触れた瞬間──
「きゃうんっ!? な、撫でた!? え、今の、反則!!」
朝から騒がしい眷属に、アルレンは微笑む。
だがその笑顔の奥では、村の“空気の変化”を敏感に察知していた。
──昨日から、村人の目が変わっている。
疑念でも敵意でもない。
「信仰」という名の、敬意と畏怖が混じった視線。
(これは……少し、早すぎるな)
アルレンは静かに立ち上がる。
その背中に、神であった時の“威厳”がうっすらとにじむ。
その日、アルレンは村の子どもたちと畑を耕し、老人の手を癒し、井戸の底から水脈を呼び出した。
そして日が暮れる頃──
「“神の使い様”、今日もありがとうございます」
と、村長が頭を下げた。
アルレンは、少し困ったように笑った。
「私はただの旅の農民ですよ。名もない者です」
けれど、その否定はもう誰にも届かない。
人々の中で、すでに彼は“信仰”となり始めていた。
その夜、フィオナがぽつりと呟いた。
「ねぇ、アルレンさま。
もしかして……このまま、村を守り続けるつもりですか?」
「そうだね。けれど、“守る”だけじゃ足りない」
アルレンは、夜空を見上げて静かに言った。
「この村が……この世界が、また実りで満たされるように。
それが、僕の巡礼のはじまりなんだ」
──そして。
その“神の使い”の噂は、隣国に届くのに、そう時間はかからなかった。