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空木の花言葉

午前の終わりを告げるチャイムが鳴ると教室内は一気に騒がしくなり、各々、友達と集まって弁当やパンやらを食べ始める。


俺の机に集まってくる友人などいるはずもなく、今日も今日とてぼっちメシを堪能したいところだが…問題が発生していた。


俺の席は窓側の一番後というぼっちにとっては最高の席なのだが。…なぜか昼休みが始まってからすぐ、俺の机に座って友達と談笑している男子生徒がいた。


まるで、俺が椅子に座っていないかのように平然と座り、高笑いをしている…している…パリピ1号くん。


(この人の名前…なんだっけ)


何がそんなに面白いのか分からないが、パリピ1号くんは高笑いをしながら後に体を反らし、俺の頭とぶつかった。


「ウケる(笑)…あ?」


振り返ったパリピ1号くんと目が合った。


「…あ、あのぉー…」


「…んでさっ!昨日の」


目が合ったはずなのにパリピ1号くんは、俺を机の一部だと勘違いしたようで見なかった事にした。


(…クソッ…何なんだコイツは。完全に目が合っただろが!だいたい何でコイツ鼻にピアスしてるんだ?牛?牛なのか?)


「はぁぁー…」


大きなため息をついて席を立つ蒼汰は、パリピ1号の背中に向かって構えた。


(俺に背中を向けるとはイイ度胸してるな牛くん。俺のぼっち神拳で最低ランクの牛肉に…)


「風陰、ちょっといい?」


俺を呼ぶ声に騒がしかった教室が一瞬で静かになった。


「…何してるの?」


ぼっち神拳究極奥義を繰り出そうとしていた俺を見て、久瀬さんは不思議そうに聞いた。


「あっ…いや…これはその…」


「…まぁいいや。お昼一緒に食べない?」


久瀬さんの言葉に教室内の全ての生徒の頭に「!」が付いた。


「えっ…俺と?」

「久瀬さん!」


俺と久瀬さんの会話にパリピ牛が割り込んできた。


「こんな奴とメシ食うより、俺達と食べない?」


「…あんた…誰?」


その言葉を聞いたパリピ牛くんは顔を蒼白にし、消沈していた。


(可愛そうなパリピ牛くん…君のランクを一つ上げてあげよう)


「早く!昼休み終わっちゃう!」


そう言うと俺の左手を掴み引っ張って、俺と久瀬さんは教室を出て行った。


孤高の女王が廊下を歩くと皆、道を開ける。


そして、女王様に引っ張られる俺を見て、皆は「誰?」という顔をしている。


俺の左手を引っ張る久瀬さんの左手を見て昨日の夜の事を思い出しそうになったが…思い出すのをやめた。


久瀬さんが向かった先は、元弓道部の部室だった。


部室に着き、部室の前で手を離す久瀬さんだったが、振り返ろうとはしなかった。


「…久瀬さん?どうしたの?」


そう俺が問いかけると久瀬さんは振り返り、俺との距離を詰めてきた。


「…えっ…」

「風陰…あんた、昨日の夜の言葉…嘘じゃないわよね?」


真剣な面持ちでそう問う久瀬さん。


「あんた…私を愛してるのよね?」


(…なっ!?…あ、愛してる!?)


「その言葉に嘘はないのね?」


少し怒った表情で恥ずかしそうに久瀬さんは俺を真っ直ぐ見つめている。


(…ま、ま、ま、まさか…こ、こ、この展開は…)


風が一瞬強まって吹いたがすぐにおさまり。風が止むと、久瀬さんは口を開いた。


「私を助けて!!!」

「ま、待って久瀬さん!こ、心の準備が俺にはま………ん?……『助けて?』……」


慌てふためくのを止めて久瀬さんを見て見ると深々と頭を下げていた。


そして、頭を上げると俺の両肩を両手で掴んで揺らしてきた。


「お願い!風陰!私を助けて!」


想像以上に力の強い久瀬さんの揺らしは強烈で。三半規管の弱い俺は…気持ちが悪くなってきた…


「あんただけが頼りなの!お願い風陰!」

「ちょ…ま、まっ…て…く…久瀬さん!」


そう叫ぶと俺は久瀬さんの両肩を両手で掴んだ。


「話し聞くから。まずは落ち着いてしゅ…ご…」

「…風陰?」


いきなり揺れが収まった余韻と反動で限界の限界を超えた蒼汰は、久瀬美空の前で…吐いた。


「お、お…オぇぇぇ」

「い、いやぁぁぁぁぁぁー!!」


久瀬さんの叫び声は、隣町の学校まで聞こえてきたとか聞こえてこなかったとか……


木の陰で木にもたれかかりながらボーっとしていると、久瀬さんがスポーツドリンクを買ってきてくれた。


「ありがとう。久瀬さん」


「いいよいいよ。てか、こっちこそごめんね。急に取り乱して」


「いや、大丈夫だよ。ぜんぜん気にしないで」


俺がスポーツドリンクを飲み始めると、久瀬さんは少し笑って隣に座った。


一気に緊張してきて…いつ飲むのを止めればいいのか分からなくなり、つい…一気飲みしてしまった。


「そんなに喉、渇いてたの?」


「あ、いや、…別にそういう訳じゃ…」


沈黙の二人の間を風が通り抜ける。


「…さっきの話しの続きなんだけど…」


金髪の毛先をイジりながら口を開いた久瀬さん。


「…う、にゅん。ど、どちたの?」


「うん。どうしたの?」とスマートに言うはずだったのに、緊張してたった七文字でさえまともに喋る事をさせてくれない久瀬美空。


「……あのね……私、今…スランプ中なの…」


(…ん?スランプ?)


「…Dr.?」


「は?何言ってるの?」


「あぁ…ごめんなさい。えっと…スランプって?」


「そのまんまの意味。……今、ぜんぜん描けないんだよねぇ…」


(えっと…)


整理しよう。

久瀬美空さんがスランプ→Dr.じゃない→Hibari先生がスランプ→それもDr.ではない→ラノベが描けない→Hibari先生の作品が読めない→Hibari先生の作品が……読めない?



「………読めない!?」


「うわっ、ビックリしたぁー」


えっ?嘘?えっ…待ってくれ。Hibari先生の作品が読めないの!?


そんなの…そんなの…


「………ムリだろ。嫌すぎて死ぬわ」


「ねぇ…さっきから誰と話してるの?」


毛先をイジり続ける久瀬さん。そういえば今日は、なんか、少し元気がない気がするな。


「お願い風陰!私の大ファンのあんただけが頼りなの!」


そう言って手を合わせて懇願する久瀬さん。


「…助けるって…俺は何をすればいいの?」


「私が描くのを読んで感想聞かせて!」


「Hibari先生の新作を俺が!?」


「うん、そう!…ダメかな…?」


少し間を空けて俺はHibari先生の両肩を両手で掴んで顔を近づけた。


「ちょっと…近いって…」

「今すぐ描きましょう!先生!」

「えっ?はっ?い、今から!?学校は!?」

「学校なんていつでも行けますよ!!さぁ!立って下さい!」


そう言って蒼汰は無遠慮に久瀬美空の手を掴んで立ち上がらせた。さっきまで緊張して、たった七文字でさえまともに喋れなかった男が、久瀬美空の手を引いて前へ進んで行く。


戸惑った顔をしていた久瀬美空だったが。


少年のようにワクワクした顔で目を輝かせている、自分の手を無遠慮に引く前を歩く少年の顔を見て。


「ホント…Hibariの事になるとあんたは…」


そう言って笑った。

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