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スプレーマムの花言葉7

「…私は…蒼汰様を愛しています」


寿の表情はいつになく真剣だった。


寿の唐突な告白に動揺した一刀だったが、さすがは百戦錬磨の柳生家現当主。すぐに威厳を取り戻し、最愛の人との間に生まれた愛娘の事の顛末を厳しい眼で見守る。


少し間を置いて蒼汰は優しく寿に微笑みかける。


「寿…」


一刀は蒼汰が出す答えを知っていた。いや、知っていたというより分かっていたと言った方が正しい。


「蒼汰様…」


微笑みながら蒼汰は口を開く。


「…答えは『NO』だ寿。お前の気持ちに俺は応えられない」


思っていた通りの蒼汰の言葉に満足気な表情を見せる一刀。そして、蒼汰の言葉を意外にも静かに受け止めようとする寿。


「…やはりそうですわよね…」


私は蒼汰様の答えを分かっていた気がしていた。


これまでの蒼汰様が私に向ける態度などを思い返してみれば、私の一方通行でしかなかった。


そうだと分かっていても…私はこの世界中の誰よりも蒼汰様を愛している。


蒼汰様より愛せる人がこの世にいるとは思えない。


想いが届かなくとも、願いが叶わなくとも、これからもお慕いしていきたい。


けど…そういう訳にはいきませんわね…


だってそうでしょ蒼汰様?


これで終わりにしようと思っているからそんな優しい微笑みを見せてくれているのでしょ?


そんなお顔を最後に見せるなんて…何て意地悪でお優しいお方なんでしょうあなたは…


寿は表情を変えずに自分を殺して蒼汰を見つめながら言葉を吐き出した。


「…分かりましたわ。…もう…これで…」


蒼汰は寿が言葉を言い切る前に寿の両手を掴む。


「…風陰さん?」


「寿。お前の気持ちに俺は応えてやれないが…俺を想う事は止めないでくれ」


蒼汰の突拍子のない言葉に驚きを隠せない寿と一刀。


「…な、なにを言い出すのですか風陰さん。そんな事…」

「俺は…俺を想っているお前が好きなんだ寿」

「意味が分かりませんわ…アナタは私の気持ちに応えられないと仰ったではありませんか」


続けざまな突拍子のない蒼汰の言葉に寿は手を放そうとしたが強く握り締められた手から逃れられなかった。


「ああそうだ。応えられない」


「自分が何を言っているのかお分かりなのですか?私の気持ちには応えられない。けど、私にはアナタを想い続けろと。そんな事が出来るわけありませんわっ!私の心をもて遊ぶのは止めて下さいっ!」


怒りの表情を見せながら蒼汰の手を振り払った寿だったが、蒼汰は直ぐに寿の両手を掴み直して距離を縮める。


「勝手な事を言っているのも、我儘な事を言っているのも自分でも分かってる。けど…俺は…俺の為にめちゃくちゃする寿の事が大好きなんだよ!」


想っていた人から初めて『好き』と言われた寿の完全に停止していた心が僅かに動く。


「…正直…寿の気持ちに応えられないというより…俺にはよく分からないんだ。…寿の事は好きだけど…その先が俺には分からない。俺の『好き』と寿の『好き』が同じなのかも分からないんだ。…でも、これだけはハッキリ分かる!俺の為にめちゃくちゃする柳生寿が俺は大好きだ!…本当にお前はめちゃくちゃするよな」


最後の言葉を言い終えると蒼汰は笑顔を見せる。


寿はその笑顔を見て、これまで自分が蒼汰に対して行ってきた行為を一瞬で思い返し、そのどの場面にも今自分の目の前で見せている笑顔と同じ笑顔の蒼汰が居た。


(そうでしたわ…私は…蒼汰様のそんなところに…)


寿の目から一雫の涙が零れ落ちた。


「…どっちの方がめちゃくちゃなんでしょうかね」


「あ、やっぱりそう思う?」


「私の気持ちには応えられないのに想い続けろなんて…」


「やっぱり…ダメか?」


「…私以外に蒼汰様のめちゃくちゃなお願いを受け入れる人なんておりませんわ」


「それって…」


寿は蒼汰の手を解いて蒼汰の胸に飛び込んだ。そして、蒼汰を強く抱きしめる。


「これからもっとめちゃくちゃするかもしれませんけど…覚悟はよろしいですか?」


「おっ…お手柔らかにお願いします」


「ふふっ。はいっ」


蒼汰の胸の中で幸せそうに微笑む寿。


「…貴様…」


一刀の声に蒼汰と寿は反応する。


「気持ちに応えられないのに自分を想い続けろだと?…ワシの大事な娘を何だと思っているんだ貴様は…」


一刀は立ち上がって刀を抜き、蒼汰に向けられた刃がキラッと光る。


「あのまま終わっていれば生きて帰れたというのに。…貴様には消えてもらうぞ!風陰蒼汰!」


そう叫ぶと一刀は刀を構えて蒼汰へと全力で向かって行く。


一瞬で間合いを詰めて刀を振り下ろした一刀だったが、蒼汰の前に寿が現れて振り下ろした刀を止める。


「邪魔をするな寿!」


「おやめくださいお父様」


「黙れっ!そこを退け寿!」


「…お父様の刀は人を傷つける為にあるのですか?…お父様の刀は人を守る為にあるのではありませんか?…人を傷つける為にあるのであれば…そんな刀はすぐに手放すべきですわ」


寿の言葉を聞いて一刀は目と耳を疑った。


寿が口にした言葉は叶と初めて出会った時に言われた言葉と同じで、寿と叶が重なって一刀には見えた。


「…叶」


刀を下ろして寿を見つめる一刀。


「傷つける為に刀を振るお父様なんて…私は大嫌いですわ!」


寿から初めて「大嫌い」と言われた事に雷に打たれたのと同等の衝撃が一刀を貫き、ショックの余りにその場に膝を着く。


(たっ…助かったぁ〜)


一刀から斬られずに済んだ事に安堵している蒼汰。そして、フラフラと立ち上がって元の場所に戻る一刀は力なく座る。


「寿…本当にいいのか?」


「はい」


「そうか。…風陰蒼汰」


「は、はいっ」


「…娘を頼むぞ。一生守ってやってくれ」


「はいっ!…ん?」


(頼む?一生?…あれ?…なんか違うような…)


「お父様からの許しが出ましたね蒼汰様」


「え?あ、うん」


「後は…蒼汰様次第ですわね。…私達の未来は」


そう言うと寿は蒼汰の頬にキスをした。


「ちょっ、お前!」


「ふふっ。お顔を真っ赤にしてお可愛らしいですわね蒼汰様」


その光景を見ていた一刀は怒りを隠しながら口を開く。


「そうそう風陰くん。君には強くなって寿を守ってもらわねばならん。…手始めにこの城から寿を連れて無事脱出してもらおうとしよう」


「えっ…それは…どういう…」


一刀が手を「パンっ」と叩くと周りの襖が一斉に開いて中から甲冑を着た軍団が声を上げながら一斉に襲いかかってきた。


「嘘だろっ!?逃げるぞ寿!!」


寿はその場にうなだれる様に座り込んで右足を擦っていた。


「私、足を挫いてしまって歩けませんわ」


「…は?…さっきまで普通に立ってたし歩いてただろ?」


俺の言葉に微笑みで答える寿と迫りくる軍団。


迷ってる暇など俺にはなく、寿をお姫様抱っこして全力で走り出す。


「あぁー!!何でこうなるだよっ!チクショー!!」


寿をお姫様抱っこしながら必死に軍団から逃げる蒼汰の顔を少し茜色に頬を染めながら寿は見上げていた。


「蒼汰様」


「ん?なんだ?」


「…そちらは出口とは逆方向ですわよ」


急ブレーキをかけて蒼汰は方向転換をする。


「蒼汰様」


「ん?なんだ?また逆方向か?」


「…愛してますわよ」


そう言うと寿は今までで一番の表情を見せ。蒼汰の頬が少し赤くなった。

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