スプレーマムの花言葉3
「ん〜…NY参上!」
「恥ずかしいから止めてよおにーちゃん」
空港を出て変なポーズをとる蒼汰に呆れた顔で小陰がツッコむ。
「いいじゃねーか小陰。どうせ俺らを知ってる人なんていねーんだから」
「…はぁ〜…」
変なポーズを繰り返す蒼汰に小陰は大きなため息をつく。
「蒼汰様。あちらに車を用意してますので」
「おう。なら行こうか」
「はいっ」
寿が蒼汰の腕に抱きつき、それを拒もうとはしない蒼汰。
蒼汰と寿は夫婦の様に歩き出し。それを見ている小陰からまた大きなため息が出る。
「…はぁぁ〜…」
寿が用意したリムジンに乗り込み蒼汰達はNYの街中を優雅に走る。
リムジンの中でもHibariのラノベが用意されていて、蒼汰は幸せそうな表情でくつろぎながらラノベを堪能している。寿もまた、そんな蒼汰に寄り添って幸せそうな表情を浮かべる。
そんな二人の姿を小陰はじっと見つめ。用意されていた高そうなグラスに入っているオレンジジュースを一口飲む。
(…柳生さん…本気でおにーちゃんを落としにきてるわね…)
妹の小陰がそんな心配をしている事などよそに、蒼汰は王様気分でHibariのラノベを堪能している。
フッと窓の外に目をやると。見慣れていないとまで言わないが、普段暮らしている街並みとは違うNYの景色を目にして。
(…ふっ…これが勝ち組ってやつか)
蒼汰は…完全に浮かれていた。
暫くすると車が止まり。どうやら目的地に着いたようだった。
「到着致しましたお嬢様」
平田がドアを開けてそう言う。
「ありがとう平田。それでは蒼汰様、行きましょうか」
「もう着いたのか?…って行き先聞いてなかったなそういや」
NYに着いてからの予定を寿は飛行機の中で話していたが。俺はHibari先生の本に夢中で話しを全く聞いていなかった。なので、今から何処に行くのか全く予想が付かないが…とりあえず飯だろうと軽い気持ちで車を降りた。
「………なにこれ?………」
車を降りて目の前に広がる光景を目にして俺は言葉を失う。
目の前にはアメリカというよりも日本と言った方が正しい景色が広がっていて。大きな立派なお城が堂々と仁王立ちしていた。
「……ここ……アメリカだよな?」
「アメリカですわよ」
「……兵庫県じゃないよなここ?」
兵庫県にある姫路城を彷彿とさせる外観をした城の門がゆっくりと独特な音をたてて開くと。門の中から甲冑を着た人達が姿を見せる。
「えっ!?な、なんだ!?なんなんだ!?」
「………戦国時代?」
俺と小陰が呆気にとられていると、門の中から誰かが叫びながら走って俺らの所へ向かってくる。
「姫様ー!!」
姫様←とは寿の事だろう。そう叫びながら向かってきた老兵は寿の前で膝まづく。
「姫様。よくご無事で」
「暫くぶりですわね蘭丸。お元気でしたか?」
((蘭丸!?))
「はっ。有り難いお言葉。息災でありました。…私は仁藤であります姫様」
「そうでしたわね」
寿達の会話を呆然と聞いていた俺と小陰に気付いた寿が俺の腕に抱きつき前を指差す。
「さぁ、蒼汰様。参りましょう」
「お…おう」
俺と寿は門に向かって歩き出すが、小陰はその場から動こうとしなかったので俺は立ち止まって小陰に声をかける。
「小陰。行くぞ」
「…私はいいわ遠慮しとく」
「え?何でだよ。一緒に行こうぜ」
「私はいい」
俺の誘いを断ってリムジンの運転手に話しをしにいく小陰。
(何だよ小陰のやつ)
小陰をチラっと見て俺は寿に抱きつかれたまま門へと向かう。
門をくぐると…甲冑を着た人達から殺意を感じて俺は全身の震えが止まらくなる。
「どうされましたか?」
「…いや…何か…殺意を感じて…」
「それは仕方ありませんわ(笑)」
(えっ!?…仕方ない←ってなに!?)
やっぱり小陰にも来てもらいたいと切に願う俺は小陰の方を見るが。小陰はリムジンに乗り込んで何処かへ行き。そして激しい音と共に門が閉まった。
今にも腰に差している刀を抜いて飛びかかってきそうな集団の中を怯えながら寿と進む蒼汰。中に入れば入る程、殺気は強まるばかりだ。
(何なんだよいったい…)
さっき寿を「姫様」と呼んでいた老兵がある部屋の前に着くと膝まついて叫んだ。
「お館様!寿姫とクソっ…風陰殿がご到着致しました!」
(今…『クソ〜』って言いかけなかったか?)
「……入れ」
部屋の中から低く渋い声でそう返事があると障子が開いて、部屋の真ん中の一番奥にいかにも「殿っ!」という風貌の人が肘当てに肘を当ててあぐらをかいて座っていた。
「さぁ、蒼汰様」
寿に引っ張られながらその人の前に進んで行く。深く頭を下げている周りの人達は少し顔を上げて俺を眼球が飛び出る程の目つきで睨みつける。
寿は殿様らしき人(いや、殿様以外の何物でもない)の前にくると抱きついていた腕をほどいて頭を軽く下げた。
「お久しぶりですお父様」
「…久しぶりやのぉ寿よ」
「お元気そうで何よりですお父様」
「寿もな。……それで…隣にいるのが…」
ギョロッとした目つきで俺を見てきた寿の父親の目に俺はビクッとし、体が勝手に反応して頭を下げる。
(こっ…こぇ〜…)
「はいっ。コチラがあの例の風陰蒼汰様ですお父様」
「……そうか…やっと会えたなクソっ…風陰くんよ」
(…ま、また「クソ〜」って言いかけたよね)
「ワシが寿の父。柳生一刀だ。……久しぶりの娘との再会を楽しみたいのだが…ワシにはまずやらねばならない事があるので少し席を外させてもらう。蘭丸」
「はっ!…私は仁藤ですお館様」
一刀は立ち上がり後を振り向くと仁藤が襖を開けて中に入って行く。
「蒼汰様。お耳をお塞ぎ下さい」
「えっ?耳?」
周りを見てみると皆、両耳を手で塞いでいる。
「な、なんなの?」
「お父様が襖の奥に入ると耳を塞ぐ決まりになっていますの」
よく分からなかったがとりあえず言われた通りに両耳を塞いだが、アホらしくなってきてバレないように俺は耳を塞ぐのを解く。すると、襖の奥から寿の父親の声が耳に入ってきた。
「かぁわぁいいなー寿はっ!!!何であんなにかわぁいいーんだー!!!あぁー!今すぐにでも抱きしめたいぃー!!!…そんなワシの大事な大事な娘に手を出したあのクソ野郎はどうしてやろうか…ワシの愛刀で切り刻むのもいいな。…いやっ…ゆっくりじっくり痛み付ける方がいいか…まぁ、どちらにせよ…生きては帰さないがな…」
一刀が襖を開けて戻ってくると皆は耳を塞ぐのを解く。
「…蒼汰様?どうされたのですか?」
顔面蒼白でガタガタと震えている俺に寿が声をかける。
寿の父親はまたあぐらをかいて座り肘当てに肘を置く。そして、後で寿の父親の愛刀であろう刀を持っている側近の刀がキラッと光る。
(ヤっ…ヤバい場所に来てしまったぁ…助けて…小陰…)
一方の小陰はリムジンである場所に向かっていた。
(…おにーちゃん大丈夫かな?)
窓の外の景色を見ながら蒼汰を心配している優しい小陰。
「お嬢さん。着きましたよ」
「ありがとうございます」
車から降りて再度、運転手にお礼を言った小陰はある場所へと向かい家の呼び鈴を鳴らす。
「はーい。…えっ…小陰か?」
「パパっー!会いたかったよー!」
蒼汰にうり二つのその人に小陰は叫びながら抱きついた。
「ビックリしたなぁー…大きくなったな小陰」
そう言いながら優しい笑顔で小陰の頭を撫でると、小陰はアメリカに着いてから初めて笑顔を見せた。




