向日葵の花言葉2
目が覚めると、自分の部屋のベッドの上だった。
浅く呼吸を繰り返しながら、昨日の自分の失態を鮮明に思い出すと寝ていられなくなり「とりあえず…起き上がるか」そう思って体を起こそうとする。が、その前に俺にはやるべき事がある。
「……見知らぬ天井だ……」
「…ふっ…」と鼻で笑って起き上がる。
時計を見てみると時刻は2:37。健全な高校生は眠りについてる時間なのだが。健全←とは言い切れない俺は躊躇なくベッドから立ち上がって本棚に向かう。
本棚にはラブコメラノベが数え切れない程に埋まっていたが、俺の目の高さの一番真ん中にHibari先生の作品は並んでいて。その中の一つをランダムで抜き出し、椅子に腰かけてページをめくる。
パラパラとめくりながら、適当なタイミングでページを止めて読み始める。読み始めると魔法がかかったかのように、Hibari先生が描く物語の中から抜け出せなくなってしまう。
『こんな私の…どこがいいの?何で…何であなたは…』
ヒロインが主人公に泣くのを堪えながらそう尋ねるシーンで魔法が解け、現実世界に俺は戻ってきた。
「ふぅー…」
さっきのシーンと、屋根の上で久瀬さんに言われた言葉がリンクし、現実世界に強制送還されてしまった。
『この作家のどこが好き?』
「…『私のどこが好き?』って聞こえなくもないなぁ…ははっ」
ポロリと口にした自分の言葉が可笑しくて少し笑えた。
「この作家のどごが好き…か…」
本に栞を挟んで閉じ。机の上に置き。机に両肘をつけて顎の前で両手をクロスさせる。
(いいのか?…俺にHibari先生を語らせて)
まず、『この作家のどこが好き?』の問にあえて抽象的に答えよう。
「全てだ」
まず、ストーリー構成や登場人物の個性を上手く使った使い方などは当たり前に好き過ぎて省く。異論は認めぬ。
全て繊細に描写されているにも関わらず、見たことのない景色や会ったことのない登場人物の表情などがすぐに頭の中に浮かんで。まるで本当にそのシーンを間近で見ているような気持ちになる。
いや、それだけじゃない。実際に登場人物と自分を重ねて、まるで自分が物語の中で実際に生きていると錯覚させる。だから、魔法にかかったように読み始めるともう抜け出せなくなる。
言葉の一つ一つに意味があり、言葉の一つ一つが生きて呼吸しているようで一文字一句見逃せない。
そして、Hibari先生の全作品のイラストを担当している『Gojira』先生の絵もHibari作品には欠かせない。
柔らかく繊細で大胆なタッチで描かれるGojira先生のイラストは本当にそのシーンを写真におさめたかのように見せてくれる。
HibariにはGojira。GojiraにはHibari。双方揃って一つの作品を作り上げているのだ。
そして、何よりGojira先生に好感を持てるところは。大人気のイラストレーターなのにHibari先生の作品しか描かないところだ。
いや、まぁ、俺もHibari愛は負けんがな。
…とまぁ、Hibari先生の好きなところをほんの一握りだけ語ったのだがまだまだ語りたりない。このまま語り続けるとまだ3月だが年が明けてしまいそうなのでこの辺にしとくか。
えー…まぁ、今までを総括すると俺は………
「…Hibari先生を愛している」
「パサンッ!」
…ん?何か今、後から本か何かが床に落ちた音がしなかったか?
(小陰か?)
「おいっ、小陰。部屋に入る時は…ノッ…」
後を振り返ると…居たのは小陰ではなく。Hibari先生でもなく。
顔を真っ赤に染めた久瀬美空だった。
「ひばっ…く、久瀬さん?何で俺の部屋に?いつから?」
「…いや…あの…本を借りにきたら…風陰が何か独り言、言ってるなって思って…」
(あれ?)
「…脅かそうと思って…そっと近づいたら…」
(あれ?あれあれ?)
「…わ、わたし…を…その…」
(…もしかして…俺…声に出してた…?)
「…ど、どこから…聞いてましたか?」
「えっ?…えっと…『全てだ』←からかな」
『全てだ』←と久瀬さんの口から出た瞬間。俺は頭を机に何度も何度も叩きつけた。
「えぇ!?ちょ、ちょっと風陰、何してるの!?」
(あぁぁー!!バカか俺は!!消えろ消えろ消えろ俺の記憶よぉー!!)
頭を机に打ちつける衝撃で、机の上にあった本が振動で徐々に机の淵に進み。とうとう机から身を乗り出して落ちていく。
それに気が付いた俺は。
(大事なHibari先生の本を落としてなるものか)
と、左手を伸ばしキャッチした。
(危なかったぁ〜)
そう安堵したのもつかの間。
本を掴んだ俺の手を久瀬さんが掴み、お互いの顔の距離はほんの数cmしかなかった。
静寂な中、俺と久瀬さんは見つめ合っていて…お互いに一言も喋ることはなかった。
夕暮れ時の一番キレイな夕日色に頬を染め。気を抜けばすぐにでも吸い込まれそうなくらい蒼い空色の目をした久瀬さんの顔は。
何もかもを全て忘れ、何もかも全て棄て去ってでも欲しいと思えるほど……素直に美しく可愛らしかった。
「…く、久瀬さん…あ、あの…」
「うるさい!おにーちゃん!!」
部屋のドアが激しく開き。小陰が目を擦りながら叫んだ。
「今、何時だと思ってるの!!…あれ?美空さん?」
「ご、ごめん小陰ちゃん。ちょっと風陰に本を借りにきて…」
「ふぁ〜…そうだったんで…す…ね…」
喋りながら眠りに入った小陰を久瀬さんは支えて部屋を出て行った。
ドアを閉める横顔はまだ夕焼け色で。久瀬さんは俺の方を見ようとは一切しなかった。
左手には久瀬さんの手の感触がまだ鮮明に残っている。
翌朝、目が覚めると久瀬さんの姿はもうなかった。
時計を見ると遅刻するギリギリの時間。
(…今日は休もうかなぁ…)
あくびをしていると、LINEの通知音が鳴る。
『おにーちゃん!早く仕度しないと遅刻するよ!』
「えっと…『今、起きた。今日は体調が悪いから、』」
返事を打っていると小陰からまたLINEがくる。
『遅刻や仮病で休んだら、夜ご飯抜きだからね!』
(……ふっ。妹よ。俺がそんな脅しに屈するとでも?ははっ)
小陰に返事を打って大きく背伸びをする蒼汰。
「そうなんだ(笑)あ、ちょっと待って。たぶんおにーちゃんからだ」
友達と談笑しながら歩く小陰が立ち止まってLINEを開く。
『すぐ仕度する』
LINEを見た小陰はLINEを閉じ、友達とまた談笑しながら歩き出す。何だかさっきより少し声色が元気になっていた。




