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鈴蘭の花言葉12

意識の無い蒼汰の手を握りながら窓の外の景色を見ている寿。


「お嬢様」


「何かしら?」


「失礼な事を聞きますが…その男のどこが良いのですか?」


バックミラーから白目を向いている蒼汰をチラっと見て平田が寿に問いかける。


「…そのうちアナタにも分かりますわセバス」


「…そうですか。…私は平田ですお嬢様」


「…そろそろ改名したらどうかしら?」


車の窓から見上げる空は雲一つない晴天だった。


(良い天気ですわね)


平田が運転する車は順調に蒼汰の家に向かう。一方で美空と鳳は春風が吹き荒れる中で互いを見つめたままだった。


残った涙を拭う美空に鳳は両手でスカートを握り締めながら近づく。


「…く、久瀬さん」


口火を切ったのは鳳だった。


「…ご、ごめんなさい…わ、私なんかのた、為に…」


「…鳳ちゃんが謝る事じゃないわ。…私が勝手にやった事だから」


「く、久瀬さんの…や、優しさに…わ、私はあ、甘えていました」


「違うわ…優しさなんかじゃない…ただの間違った正義感よ…」


「そ、そうだとしても…わ、私は…う、嬉しかった」


「…嬉しかった?」


「…わ、私は…」


鳳は唇をギュッと噛み締め後、言葉を続ける。


「わ、私は…く、久瀬さんが…大好きです。…い、一生友達がで、出来ないとお、思っていた私と…と、友達になってくれて…い、何時もわ、私を助けてくれて…い、何時も私を信頼してくれて…い、何時も傍に居てくれて…い、何時も私なんかに話しかけてくれて…は、話しがむ、むちゃくちゃですが…こ、今回の件もく、久瀬さんのや、優しさにふ、触れられて…わ、私は嬉しかった」


美空と鳳は互いに出会ってからこれまでの日々を思い出す。出会ってから今に至る時間は短いが。大事なのは時間じゃない事を二人は分かっていた。


そして、その二人の時間の間には必ず蒼汰の姿がある事も二人は分かっている。


美空からの目線の蒼汰。鳳からの目線の蒼汰。


互いの目線から見る蒼汰の姿や印象は違えど。互いに共通して確実な事実が一つある。


それは、蒼汰が二人の間にいるという事だ。


「…鳳ちゃん…私は鳳ちゃんが思い描いているような立派な人間じゃないわ…」


「そんな事ないっ!く、久瀬さんは素敵な人ですっ!」


「…大切な友達の為についた嘘を貫けず、その嘘に押し潰されて自分を見失う様な人間よ?」


「それは…嘘を付かせた私が悪いっ!」


「私が勝手に付いた嘘よそれは。鳳ちゃんのせいじゃない。…それに…私は逃げた…自分が一番嫌っている行動を自分の意識でとった…私はもう…私ではいられない…」


落胆の表情を見せる美空を見て鳳に怒りの感情が芽生える。


「…『時には立ち向かうより、逃げる時の方が勇気がいる』」


「…それって…」


「久瀬さんが…いや、もう一人の久瀬さんが言っていた言葉です」


鳳が口にした言葉は、新作の中でHibariが使った言葉だった。


「私はこの言葉が大好きです。…勝手にですが…わ、私に言ってくれている言葉のような気がして…」


鳳の言う通りだった。その言葉はHibariが作中で鳳と重なって見えてきたキャラにメッセージを込めて送った言葉だった。


まさか、その言葉を鳳から自分自身に送られるとは思ってもいなかった美空は青天の霹靂を受ける。


「…う…上手く言えませんが…こ、今回の久瀬さんの行動…わ、私は間違ってないと思います」


「…鳳ちゃん…」


鳳の言葉の一つ一つが美空の胸を、肩を、心を軽くしていく。


「わ、私の…私の告白を勝手に覗いていた事は…す、素直に許せるとは言えませんが……私は…久瀬さんが決断した選択は間違ってないと思います。…も、もし。わ、私が久瀬さんの立場にいたら…私も同じ選択をしたと思います」


美空は「間違ってない」と鳳から肯定された事が嬉しかった。そしてなにより、立場が逆だったら鳳も同じ選択をした事が嬉しくて仕方なかった。


なぜなら…自分が鳳を大切に想ってるくらい鳳も自分を大切に想ってくれているという事になるからだ。


どこかに消えていた涙が美空の蒼い目に再び溜まり始め。空から雨が降る様に地面へと落ちていく。


「本当に…本当にごめんなさい鳳ちゃん…そして…ありがとう鳳ちゃん…鳳ちゃんと友達になれて…本当に良かった…」


「そ、それは…私のセリフです久瀬さん。私の為に嘘を付いてくれてありがとうございます。そして…その嘘で苦しめてしまって…ごめんなさい久瀬さん」


大粒の涙を流す美空に鳳は子供っぽい柄の入ったハンカチを差し出す。


それを受け取った美空はハンカチを握り締めながら声を大にして泣き叫ぶ。


そんな美空を鳳は小さな手と小さな体で、大きく包み込む。


暫くすると美空の目から雨は止み。互いに顔を合わせて笑い合う二人。


そんな二人を祝福するかのように春の光が二人を包み。美空は立ち上がって足に着いた土を払って鳳と向き合う。


「鳳ちゃん」


「な、なんですか?」


「改めて…色々とありがとう。そして、ごめんね」


「……久瀬さん」


そう鳳が口にした刹那。風が舞って隠れていた右目が露わになり二人は互いの姿を両眼に映し出す。


美空は鳳が次に何を口にするか分かっているようで、返事はしなかった。


「…私は蒼汰が好きです」


「…私もよ。私も蒼汰が好き」


「…そ、そんな気はしてました」


「そうなの?なら…譲ってくれない?」


「そ、それは出来ません」


「冗談よ。…私達って友達よね?」 


「そ、そうですね。と、友達ですね」


「…でも」

「こ、これからは」


暫くの沈黙の後、二人は同時に笑った。


「「友達(ライバル)でもあ(るわね)(ります)」」


美空も鳳も。清々しい顔をして互いを見ている。


「負けないわよ」


「わ、私も…ま、負けません」 


「…こんな子供っぽいハンカチを使う子に負けたら…ショックかも」


美空は鳳のハンカチをヒラヒラとさせながらそう口にした。


「なっ!?…ひ、酷い…」


「ふふっ。冗談よ冗談。…ねぇ今から一緒にハンカチ買いに行かない?」


「い、今からですか?」


「今日のお詫びに私にプレゼントさせて?」


「そ、そんな…わ、悪いですよ」


「いいからっ!行こっ!」

「あっ、く、久瀬さん!?」


鳳の手を強引に引いて部室まで荷物を取りに向かう美空。そんな美空の後ろ姿を見ながら鳳は「…さっきまで泣いてたのが嘘みたい」と呟いて微笑む。



そんな二人から想いを寄せられているなんて思ってもいない当人の蒼汰を乗せた車が風陰家の玄関に止まった。


ちょうど買い物から帰ってきて家の中に入ろうとしていた小陰が車が玄関に止まった事に気付いて振り返ると。後ろに止まっている車から黒服のグラサンをかけた大男が二人降りてきて。一人が後ろのドアを開けて蒼汰をお姫様抱っこしながら向かってきた。


白目を向いて意識の無い蒼汰の姿を見て、小陰の手から買い物袋がズレ落ちた。


「おっ…おっ…おにーちゃーんっ!!!???」


小陰の叫び声が住宅街に響き渡る。

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