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鈴蘭の花言葉11

暖かい春の季節だというのに蒼汰は全身を悪寒で包まれていた。


「…く、久瀬さん?」


「離して」


掴んでる蒼汰の手を振り払った美空は歩き出す。蒼汰はもう一度、美空の腕を掴もうとしたが足が一歩も前に出なくて、掴もうとした手は空振りに終わる。


(なっ…なんだ?…どうして足が動かないんだ?)


美空の歩く歩幅はそれ程大きくないのに自分との距離が大きくなってどんどんと離されていく感覚に襲われた蒼汰。


「まっ、待って久瀬さん!…クソッ!何で足が動かないんだっ!」


両ももを両手で強く叩いても、叩いている感覚も叩かれている感覚もしてこない自分の両足に苛立ちを露わにする蒼汰。


「クソッ!クソッ!…久瀬さん!」


遠のく美空の背中を見つめながら両ももを叩き続ける蒼汰。


(このままじゃ…何とかしないと…)


どうやっても動かない足を動かして美空を追う事を諦めた蒼汰は、自分ではなく美空に来てもらうようにシフトチェンジする。


「…く、久瀬さん!いいんですか!?寿に久瀬さんがHibari先生だってバラしますよ!?」


(…クソッ…反応ない)


「ひ、Hibariって人の作品って、クソつまんねーよなっ!!」


(クソッ…これもダメか…)


俺はどうやっても動かない足を動かすのを諦め。久瀬さんを怒らせてこっちに来てもらおうと心にもない言葉を吐き続けた。


しかし、久瀬さんの怒りに触れる事はなく無反応で。もしかしたら…もう既に怒りの限界を越えているのかもしれない。


(クソッ…クソッ…)


もう何を言えばいいのか分からなくなった俺は自暴自棄になって何も考えずに叫んだ。


「…に、逃げるなっ!!!」


その言葉に久瀬さんは足をピタッと止めた。


(…と…止まったぞ)


クルッと振り返って早足で向かってくる久瀬さんに俺は言葉を続ける。


「…ま、まさかあの久瀬美空が俺から逃げるとはね!このモブぼっちの俺から!俺なんかから逃げるって事は…そ、その…えっと…」


威勢よく言葉を発していたのは最初だけで。迫ってくる美空の迫力とオーラに圧倒された蒼汰は言葉が出てこなくなった。


「だから…その…」


(ヤバいヤバいヤバい!…俺…死んだわ…)


蒼汰の目の前に立つと美空は右手を振り上げたので、蒼汰は目を瞑った。…しかしいつまで経っても左頬に衝撃がこない事に違和感を感じた蒼汰は目をゆっくり開ける。目を開けると右手を振り上げたまま涙を流している美空の姿が飛びこんできた。


「…あんただけは…あんただけは…私が嫌いな言葉を…私が悲しむような言葉を言わないと…思ってたのに…」


美空は泣き声を混じらせながらそう言うと振り上げていた右手を下ろして両手で顔を覆う。


「違いますよ…今の言葉は久瀬さんを引き止めようと必死で」

「私は!」


美空は両手で顔を覆うのを解くと蒼汰の言葉を遮って叫んだ。


「…私は『逃げる』という言葉と行動が大っきらいっ!…でも私は逃げた…自分が一番嫌いな行動をとってしまった…でもそれは!大切な友達の為であって!…それはただの言い訳か…ははっ…」


美空はその場に座りこんでまた両手で顔を覆う。


「…あいつの言う通り…私には覚悟がなかった…ただの正義感で決めた浅はかな行動だった…自分には可能だと…出来ると…ただ過信してただけだった…」


そう言うと久瀬さんは静かに泣き出す。そんな久瀬さんが誰に向かって吐いてるのか分からない言葉を俺は三分の一も理解する事が出来なかった。


久瀬さんが何に苦しんでいるのか。何に悩んでいるのか。何で自分を責めているのか分からなかったが一つだけハッキリしている事がある。


俺は片膝立ちをして久瀬さんの左肩にポンっと手を置く。


「久瀬さんの言う『大切な友達』って鳳の事ですよね?」


「……」


「鳳が関係してるんですか?」


「……」


「教えて下さい久瀬さん。何で久瀬さんが鳳の事で苦しんでいるのか。悩んでいるのか。自分を責めないといけないのか…俺に話して下さい」


蒼汰の優しい声に美空は覆っていた両手を解いて蒼汰を見ると蒼汰は優しく微笑んで美空の涙を指で拭った。


「俺はまだ鳳とは友達ではありませんが…大切な仲間だと思っています。そして…その仲間の事で何かあった大切な友達…そう俺のたった一人の友達の久瀬さんの助けに俺はなりたい」


「蒼汰…」


「友達の為にどうにかしてあげたい気持ち凄く分かります。…でも、全てを一人で背負う必要はないんじゃないですか?頼りないかもしれませんが…俺にだって一緒に背負う事くらい出来ますよ」


美空の目に残っていた涙をもう一度拭う蒼汰。


蒼汰の言葉は美空の肩に重くのしかかっていた何かを吹き飛ばしてくれた。


そして、美空は蒼汰に今まで時々感じていた何かが何だったのか今ハッキリと分かった。


「く、久瀬さん!」


蒼汰と美空の前に息を切らした鳳が姿を現した。


「鳳ちゃん」

「鳳?」


「く、久瀬さん…や、柳生からす、全て…き、聞きました…」


美空と鳳の間にいる蒼汰を寿が引っ張って外野に出そうとする。


「えっ、ちょ、寿?」

「そこにいてはお二人の邪魔になりますわ」

「じゃ、邪魔ってなに?」


引っ張って外野まで連れて行こうとする寿の手を掴んで振り払おうとする蒼汰。


「…申し訳ありません蒼汰様。お許しを」

「ふげっ…」


寿が蒼汰の後頭部を軽く叩くと蒼汰は意識を失う。


意識を失った蒼汰は地面にうつ伏せで倒れ込むと、どこからともなく黒服にサングラスの大男が二人現れ、そのうちの一人が蒼汰をうつ伏せのまま肩に抱えて持ち上げた。


「私と蒼汰様はこれで失礼致しますわ。…あとはお二人でゆっくり話しをして下さいませ」


寿と大男二人は歩き出したが、何かを思い出した様に寿は立ち止まって美空と鳳を振り返る。


「そうそう。…私の貸しは大きいですからね。いつかちゃんと返して下さいね」


そう言うと寿は再び歩き出した。


寿と大男の姿が見えなくなると、美空と鳳は顔を合わせた。


春の風が二人の髪を揺らす。



寿は大男の肩にぶら下がっている白目を向いている蒼汰の顔を見つめ。


「久瀬さんを引き止めてくれてありがとうございます蒼汰様」


そう言うと蒼汰の頬に寿はキスをした。


(…お膳立ては済みましたわよ。久瀬さん石川さん)


車に乗り込んだ寿は白目を向いている蒼汰を隣に座らせる。


「蒼汰様の家までお願い平田」


「かしこまりました」


寿と意識の無い蒼汰を乗せた車が走り出す。

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