鈴蘭の花言葉9
突風が吹いて普段は隠れている鳳の右目が露わになり。真剣な眼差しで自分を見ている事が分かった蒼汰だったが。ブーゲンビリアで隣の席にいたハーフイケメンと女優風の美女が物陰に隠れるのも目に入った蒼汰。
(…あれは…あの店で隣に…はっ!?)
表情を顔には出さずに何かを察した蒼汰。
(…あの二人は…久瀬さんと寿だな)
今までの傾向からしてあの二人が自分の事にノータッチな訳が無い事を悟った蒼汰は全てを理解した。
「…鳳」
「…は、はいっ…」
「……何の賭けに負けたんだ?」
「…………はっ?」
蒼汰の言葉に困惑の表情を隠せない鳳。
「これって…罰ゲームだろ?」
「ば、罰ゲーム?」
「そうだ」
「…わ、私の…こ…告白が…罰ゲーム?」
フラレたのかフラれてないのか。それすらも分からない蒼汰の発言に何をどう言葉を返していいのか分からず困惑が続く鳳。
「違うのか?」
自分の見解が間違っていたのか。それとも本当に告白されたのか疑心暗鬼な表情で首を傾げる蒼汰を見て鳳は思わず口を開く。
「…そ、そうだ。こ、これは…罰ゲームだ」
「やっぱりな」
自分の見解が合っていた事に満足そうな表情を見せる蒼汰。
「お前な…何の賭けに負けたのか知らないけど…そういう事を簡単にする人間になったらダメだぞ」
蒼汰は鳳の左肩に手をポンっと置く。
「もしも俺が鳳を好きで、罰ゲームの告白と思わずに『俺も好きだ』って言ったらお前どうする気だったんだ?」
「……」
「相手の気持ちをもて遊ぶ様な事はするな。…お前らしくないぞ鳳」
「うっ…うるさいぞ!…い、犬めっ!」
蒼汰の手を振り払う鳳。
「わ、私が…お、お前なんかを…す、好きになる…か」
振り払われた手を擦る蒼汰。
「…そんなの俺が一番分かってるよ。…たくっ…何だよ何だよ…皆で俺をバカにして…」
ブツブツと文句を言う蒼汰に背を向けて鳳は思考を巡らせる。
勢いに任せて告白した事をまずは反省し、今のところ脈が無いのも分かった。アピールが足りない事も、蒼汰に対して普通のアピールでは気付いて貰えない事も分かった。
…しかし…一世一代の勇気を振り絞った告白を「罰ゲーム?」と言われた事に段々と腹がたってきた鳳は、その表情を剥き出しのまま蒼汰に振り返る。
「えっ…なっ、なんだよ?」
怒りを露わにしている鳳が、何に対して怒っているのか見当がつかない蒼汰。
「何に対して怒ってるんだ?」
「…べ、別に…お、怒ってない」
「いやいや…完全に怒ってますよね?鳳さん?」
「怒ってる」「怒ってない」の水掛け論を暫く続けた二人。
そんな状況に嫌気が差してきた蒼汰がある提案を出す。
「…あのさ。ベンチに座って話さない?立ってるの疲れた」
蒼汰が「帰る」と言い出すかと思っていた鳳は「座って話さない?」という、まだ自分とのデートを続けてくれる意識が見受けられる言葉に嬉しさを感じた。
「…べ、別にいいけど…」
二人は自動販売機で飲物を買って、近くにあるベンチへ移動して腰かける。
ベンチに座ったのはいいが。どちらも言葉を発する事なく二人して前の景色を見つめながら買ったコーラとイチゴオレを飲んでいた。
美空と寿はバレないように細心の注意をはらいながら自動販売機の後ろまで移動し、顔を出して二人の様子を伺う。
「なんとかバレずに移動できたわね」
「…何で私の様に足音を立てずに移動できませんの?」
「足音を立てないなんて無理に決まってるでしょ」
「私は出来ますわ」
「あんたはプロだからでしょ」
「プロ?何のです?」
「ストーキング」
「……何も話さないですわね二人」
(否定しないんだ)
小声で話しながら蒼汰と鳳を見守っている美空と寿。
「なぁ」
沈黙を破ったのは蒼汰だった。
「…何で…出版を断ったんだ?」
蒼汰の唐突な質問に鳳はイチゴオレを飲んでから冷静に答える。
「…き、気になるのか?」
「そりゃね」
「……そ、蒼汰の作品を、よ、読んだ時…そ、蒼汰の作品の方が…わ、私のより…い、いいと思ったから…」
「は?…俺の作品がか?…落選した作品だぞ?」
「そ、そうだ」
「なんだそれ。…嫌味か?」
「ちっ、違う!…わ、私の作品は…Hibari先生の…ま、真似をしただ、だけの…た、ただの盗作だ…」
鳳がそう語る言葉のどれにも、俺には理解出来なかった。一生に一度あるかないかのチャンスを、俺の作品の方が良かったからという理由で出版を断った鳳の考えが俺には理解出来ない。
「た、例えるなら…わ、私の作品は…ひ、Hibari先生の、花壇か、から…花をか、借りて…じ、自分の花壇に…う、植えただ、だけだ。…で、でも…蒼汰の作品は…じ、自分でた、種をまいて…じ、自分で水をま、まいて…一からそ、育てた作品…だ。…わ、私の作品なんかより…そ、蒼汰の作品がもっと…も、もっと評価されるべき…だ、だと思ったんだ…」
「……お前…そんなくだらない理由で出版を断ったのかよ」
「…くだらない←とお、思われたっていい。わ、私は…そ、蒼汰のつ、創った物語が…い、いいと思ったんだ。…な、なのに…あ、あの出版社のや、やつらめ…」
鳳の表情は急に怒りに変わり。両手で持っていたイチゴオレの缶を強く握る。
「出版社の人達の結論は間違ってないだろ(笑)どこに怒ってるんだよ鳳(笑)」
「う、うるさい!」
「お前まさか…腹いせの為に出版を断ったのか?」
「そ、そうだ。わ、悪いか?…あ、あの出版社は…ク、クソだ」
そう言うと鳳はイチゴオレをゴクゴクと飲む。
今日が始まってから何だか鳳という感じがしていなかった俺は。いつもの口の悪い鳳に戻ってくれたのを感じて嬉しく思った。
(……あれ?…俺…嬉しいの?…なぜ?)
「そ、蒼汰は…ま、まだ作品を描くのだろ?」
「そりゃ描くよ。…鳳は?」
「か、描くよ。…こ、今度は…じ、自分の言葉で…か、描く」
「自分の言葉←って…この前のも自分の言葉だっただろ」
「あ、アレは…ち、違う」
「…何か難しいな。鳳の考えは」
「…め、めんどくさいか?わ、私?」
「んー…いや。自分をちゃんと持ってるからいいと思うよ俺は」
蒼汰はそう言うと立ち上がった。
「…そろそろ帰るか。日も暮れてきたし」
「…わ、私はもう少しここにいる」
「送らなくていいのか?」
「…だ、大丈夫だ」
「迷子にならない?」
「な、なるかっ!バ、バカ犬っ!」
「そう!それそれ(笑)それが鳳だよ(笑)…じゃ、俺は帰るわ」
そう言うと蒼汰は鳳に背を向けて歩き出したが、少し歩くと鳳の方を振り返る。
「な、なんだ?」
「…もう一度聞くけど…あの告白は罰ゲームなんだよな?」
「そ…そうに決まってるだろっ!!」
「そんな怒鳴るなよ…まったく…久瀬さんは今度、説教だな」
ブツブツと言いながら蒼汰は去って行く。その蒼汰の背中に向かって鳳は立ち上がって声を振り絞る。
「お、お前なんかと付き合いたいなんて誰が思うか!だ、誰がお前み、みたいなダメ男を好きになるか!…お前の彼女になって手を繋ぎながら隣を歩きたいなんて…」
鳳の目からは大粒の涙が流れ。頰を伝って地面に落ちていく。
「…そ、蒼汰の彼女になって手を繋いで一緒に隣を歩きたいと思った。何気ない会話で蒼汰と笑い合いたいと思った。何か変わったら一番に気付いて「かわいいね」って蒼汰に言ってもらいたいと思った。…私の彼氏になって欲しいと思った…」
遠くなる蒼汰の背中を涙で覆われた瞳で見つめる鳳。
「…私は蒼汰が大好きだ…でも、罰ゲームだと誤魔化して今の現状を維持しようとする…卑怯な自分が…大嫌いだ…」
両手で持っているイチゴオレの缶に鳳の涙が落ちていく。
「…蒼汰…」
下を俯きながら蒼汰の名を囁くように呼ぶ鳳。
そんな鳳を自動販売機から顔を少し出して覗いている二人。
(し、知らなかった…鳳ちゃん…蒼汰が好きだったんだ…)
(思わぬライバルが出現ですわね。…まぁ負けませんけど)
友達の好きな人を思わぬ形で知ってしまって自分の行動を後悔する美空と。思わぬ形で出現したライバルに対抗心を燃やす寿。
そんな大変な事が起こっているとも知らず。蒼汰は家路へと足を急がせて歩いている。
(今日の夜飯なんだろうなぁ)




